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アルスフォード編
第五十九話 幼いきず
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「あなた! 厳しすぎるわ!」
母の悲痛な叫び声が、ユリーカの耳を叩いた。
とうとう父がしてきたユリーカへの仕打ちが露呈したのだ。
特に暴力を振るわれているわけではなかったが、一定のラインまで魔法が使えるまで家に上げなかったり、何度も叱りつけられたりとユリーカはされてきた。
母は悲しいような、怒っているような顔をする。
すかさず父が反論した。
「厳しすぎるだと? 私はユリーカの将来を願ってこうしているんだ!」
「将来? 冗談もいい加減にしてちょうだい! ユリーカは十分優秀だし、これ以上する必要ないでしょう! それに、全てユリーカのためなんかじゃなくて、あなたのためじゃない!」
父と母の言い合いは朝まで続いた。
ユリーカは姉と共に姉の部屋に逃げるように閉じこもり、ただ朝が来るのを待っていた。
朝日が登り、恐る恐る顔を出すと、疲れ切った表情の母がテーブルに座っていた。
「お母さん?」
「ノエラ、ユリーカ……ごめんね、騒がしくて」
「いや、その……」
「お父さんは?」
母は何かを決心したような顔をすると、二人の姉妹を強く抱きしめた。
「これからはお母さん、もっと家に帰ってくるわね。あんなことしないよう、お父さんにしっかり言っておいたから」
「お母さん……」
「だから、安心してね」
この時ばかりは母に縋って泣いてしまった。
ユリーカだって、辛くないわけがなかったのだ。
母の言葉通り、父の教育は軟化したーーそれどころか、干渉してくることがなくなった。
当初のユリーカはそれを不思議に思いながらも、寧ろ解放された喜びのほうが強かったため、特に言及することはなかった。
(お父さんがあんなことしてるなんて、思わなかったからな……)
『それ』が明らかになったのは、一年後のことだった。
父が不倫をしたのだ。
相手は貴族の娘であり、ユリーカ達ムルティ家よりも地位の高い者であった。
母が泣きながら父を怒鳴りつける。
「なんてことをしたの! こんな、裏切るような真似をっ……」
「裏切る? 私はただ、出世したかっただけだ! それをお前が邪魔をした! それに○○は可愛かったーー」
「っ、最低! 子供を道具みたいに扱って、私のことも顧みないで……親族からの紹介だったから、色々許容していたものを! 離婚してちょうだい!」
父と母は離婚。
貴族としては痛すぎる汚名を、ムルティ家は背負うこととなった。
そこから社交場に出れば、口々にムルティ家は家族関係のことを噂されるようになる。
(そうだ、それから私は、お姉ちゃんとお母さんのために頑張ったんだ)
ユリーカは努力した。
元々才能はあった。
そんな噂を凌駕するほどの実力を、ユリーカは身につけた。
全ては母と姉のためだった。
そこから英雄学園に入り、友達ができてからも、ユリーカは常に頑張り続けてきたはずだ。
一体、ポルカは何が気に食わなかったのだろうか。
「………」
一方、ポルカは眠りに落ちたユリーカのことを見下ろしていた。
ポルカの元へ、一匹の妖精がやって来る。
『この子は?』
「天使の友人じゃよ」
『天使の? 何をしてるの?』
「試しておるところじゃ」
『ふぅん……何を?』
「己に何が足りないのか、自覚してもらわないとな」
『そうしなきゃどうなるの?』
「いつか必ず後悔する。天使に……アレクについていったことを」
『……大変だね』
「そうじゃの」
妖精はポルカの周りを飛び回ると、お得意の噂話を持ちかける。
『あのねあのね、森の奥で、銀髪の人間二人が何かを追ってるよ』
「ほう。随分と見つけるのが早かったの」
『でも、ずーっと追いかけてるよ』
「そりゃあそうじゃ。そう簡単に捕まってはつまらん」
ポルカは愉快げに喉を鳴らしてみせると、妖精は『いじわる~』と楽しそうに言って見せた。
◆ ◆ ◆
妖精の言った森の奥、泉が満たす地帯。
ガディとエルルは、目標の魔物を必死になって追いかけていた。
「くっそ……エルル!」
「ええ!」
二人で挟み込んで捕まえようとするも、凄まじい跳躍力で魔物は上へと飛び跳ねる。
二人は数十分は同じ動きを繰り返しており、その歯痒さで顔を歪めた。
「チッ……すばしっこい!」
「ガディ! 前見て!」
「わかってる!」
魔物が嘲笑うように「キキッ」と鳴いた。
それを見た二人は声を揃える。
「ぜってぇ捕まえてやる!」
「絶対逃がさない……!」
母の悲痛な叫び声が、ユリーカの耳を叩いた。
とうとう父がしてきたユリーカへの仕打ちが露呈したのだ。
特に暴力を振るわれているわけではなかったが、一定のラインまで魔法が使えるまで家に上げなかったり、何度も叱りつけられたりとユリーカはされてきた。
母は悲しいような、怒っているような顔をする。
すかさず父が反論した。
「厳しすぎるだと? 私はユリーカの将来を願ってこうしているんだ!」
「将来? 冗談もいい加減にしてちょうだい! ユリーカは十分優秀だし、これ以上する必要ないでしょう! それに、全てユリーカのためなんかじゃなくて、あなたのためじゃない!」
父と母の言い合いは朝まで続いた。
ユリーカは姉と共に姉の部屋に逃げるように閉じこもり、ただ朝が来るのを待っていた。
朝日が登り、恐る恐る顔を出すと、疲れ切った表情の母がテーブルに座っていた。
「お母さん?」
「ノエラ、ユリーカ……ごめんね、騒がしくて」
「いや、その……」
「お父さんは?」
母は何かを決心したような顔をすると、二人の姉妹を強く抱きしめた。
「これからはお母さん、もっと家に帰ってくるわね。あんなことしないよう、お父さんにしっかり言っておいたから」
「お母さん……」
「だから、安心してね」
この時ばかりは母に縋って泣いてしまった。
ユリーカだって、辛くないわけがなかったのだ。
母の言葉通り、父の教育は軟化したーーそれどころか、干渉してくることがなくなった。
当初のユリーカはそれを不思議に思いながらも、寧ろ解放された喜びのほうが強かったため、特に言及することはなかった。
(お父さんがあんなことしてるなんて、思わなかったからな……)
『それ』が明らかになったのは、一年後のことだった。
父が不倫をしたのだ。
相手は貴族の娘であり、ユリーカ達ムルティ家よりも地位の高い者であった。
母が泣きながら父を怒鳴りつける。
「なんてことをしたの! こんな、裏切るような真似をっ……」
「裏切る? 私はただ、出世したかっただけだ! それをお前が邪魔をした! それに○○は可愛かったーー」
「っ、最低! 子供を道具みたいに扱って、私のことも顧みないで……親族からの紹介だったから、色々許容していたものを! 離婚してちょうだい!」
父と母は離婚。
貴族としては痛すぎる汚名を、ムルティ家は背負うこととなった。
そこから社交場に出れば、口々にムルティ家は家族関係のことを噂されるようになる。
(そうだ、それから私は、お姉ちゃんとお母さんのために頑張ったんだ)
ユリーカは努力した。
元々才能はあった。
そんな噂を凌駕するほどの実力を、ユリーカは身につけた。
全ては母と姉のためだった。
そこから英雄学園に入り、友達ができてからも、ユリーカは常に頑張り続けてきたはずだ。
一体、ポルカは何が気に食わなかったのだろうか。
「………」
一方、ポルカは眠りに落ちたユリーカのことを見下ろしていた。
ポルカの元へ、一匹の妖精がやって来る。
『この子は?』
「天使の友人じゃよ」
『天使の? 何をしてるの?』
「試しておるところじゃ」
『ふぅん……何を?』
「己に何が足りないのか、自覚してもらわないとな」
『そうしなきゃどうなるの?』
「いつか必ず後悔する。天使に……アレクについていったことを」
『……大変だね』
「そうじゃの」
妖精はポルカの周りを飛び回ると、お得意の噂話を持ちかける。
『あのねあのね、森の奥で、銀髪の人間二人が何かを追ってるよ』
「ほう。随分と見つけるのが早かったの」
『でも、ずーっと追いかけてるよ』
「そりゃあそうじゃ。そう簡単に捕まってはつまらん」
ポルカは愉快げに喉を鳴らしてみせると、妖精は『いじわる~』と楽しそうに言って見せた。
◆ ◆ ◆
妖精の言った森の奥、泉が満たす地帯。
ガディとエルルは、目標の魔物を必死になって追いかけていた。
「くっそ……エルル!」
「ええ!」
二人で挟み込んで捕まえようとするも、凄まじい跳躍力で魔物は上へと飛び跳ねる。
二人は数十分は同じ動きを繰り返しており、その歯痒さで顔を歪めた。
「チッ……すばしっこい!」
「ガディ! 前見て!」
「わかってる!」
魔物が嘲笑うように「キキッ」と鳴いた。
それを見た二人は声を揃える。
「ぜってぇ捕まえてやる!」
「絶対逃がさない……!」
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