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アルスフォード編
第六十一話 アレクの記憶講座
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「うぎゃああああっ!?」
「キャーッ!」
「頑張ってー、ガツガツさん、フワフワさーん」
シオンとライアンがアリスの生み出した魔物に追いかけ回される中、アリスがアレクに話しかけてくる。
「お兄さん。ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「うん? なに、アリス」
シオンとライアンの心配をしているせいで反応が遅れ、鈍いながらにもアレクはアリスに顔を向ける。
「お兄さんさ、『過去視』って使えるんだよね」
「うーん、でも自由には使えないんだ」
「誰か知り合いに、制御を手伝ってくれる人いないの?」
「手伝ってくれる人かあ……」
思い起こしてみると、クリアのことが頭に浮かんだ。
エルミアの修行相手も彼女であった。
「いた! いたよ、アリス」
「そっか。その人に手伝ってもらって、お兄さんも力を使いこなせるようになったほうがいいよ」
アリスはシオンとライアンのほうへ振り向くと、面白げに笑って見せる。
「あの二人、化けるよ」
「………」
未だに悲鳴を上げて逃げる二人。
アレクは二人が実は凄いことなど、とうの昔に知っている。
「そうだね。置いていかれないようにしなくっちゃ」
念を込めて「クリア!」と名前を呼ぶと、クリアが氷を靡かせて降りてくる。
時期外れの冷風が肌を撫でる中、クリアの目線はアリスに集中している。
「まだ紹介してなかったね。アリスだよ」
「……なぜ悪魔がここに」
戸惑い半分、怒り半分といった感情。
クリアは警戒するようにアレクの前に立つ。
すると、アリスは綺麗にお辞儀をしてみせた。
「こんにちは、聖霊さん。私はアリス・インティベーゼ。魔王の娘です」
「っーー! 魔王の娘なら、尚更なぜ?」
「事情を話すと長くなるのですが……」
アリスの語ったことに、クリアは俄かに信じがたい思いで一杯になった。
ティファンが悪魔のいる世界に穴を開け、世界同士を繋げてしまったなど。
ティファンは優しい子だ。
それはクリアがよく理解している。
「クリア、本当なんだ」
「アレク……」
「あの人、僕のことを優しい目で見てくる」
「……そう。それが真実なら、手を貸さないわけにはいかないわね」
クリアはどうやら割り切ったようで、その厳しげな表情を些か和らげる。
「アレク。今から私は、あなたに『過去視』の制御方法を教えるわ」
「うん!」
「方法は至ってシンプル。使いまくること」
「……うん?」
「以上」
「それだけ?」
「それだけ」
ポカンと口を開けるアレクに、クリアはそのまま続けた。
「エルミアだって、何度も使うことで慣れた力よ。やっぱり慣れって大事なのよ」
「そうなんだ……」
「ほら、使ってみて」
「使ってみてって言われても、感覚がわからないっていうか」
「そういえば、精霊王がもういなかったわね。それじゃ補助もできないか」
クリアは飛んでアレクの後ろへ回り込むと、しっかりとした声で言う。
「今から私が、精霊王の代わりになる。私に精霊王ほどの力はないから、感覚は一発で掴みなさい? いいわね?」
「は、はいっ!」
「よし。じゃあ……行くわよ」
ブワッと冷たい何かが入り込んでくる気配がした。
クリアだ。
クリアがアレクに乗り移って、過去視を使用している。
眠っていた神経が無理やり叩き起こされるような、そんな感覚だった。
バチバチと目の前に光が散って、とある光景が見えてくる。
「エルミア。私が大切に取っておいたクッキー食べたでしょ」
「……そんなことないわよ?」
「嘘ついてもわかるんだから」
後退りするエルミアに、鬼の形相でクリアが迫る。
「う……だって! 美味しかったんだもん!」
「だってじゃないわよ! あれは町の商店街の行列に並んで、ようやく手に入るシロモノなのよ!?」
「バターが効いてました!」
「効いてましたじゃない。殴るわよ?」
「もう殴ってる!」
ハッと気がつけば、目の前にクリアがいた。
どうやら戻ってきたらしい。
「何が見えた?」
「えーっと……エルミア様とクリアが、クッキー取り合ってた」
その一言で場が文字通り凍る。
どうやらあちら側にも被害が出たようで、「さっぶいんだけどぉ!?」というライアンの苦情が飛んでくる。
「…………忘れて」
顔を真っ赤にしたクリアが、小さな声でそれだけ搾り出した。
「キャーッ!」
「頑張ってー、ガツガツさん、フワフワさーん」
シオンとライアンがアリスの生み出した魔物に追いかけ回される中、アリスがアレクに話しかけてくる。
「お兄さん。ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「うん? なに、アリス」
シオンとライアンの心配をしているせいで反応が遅れ、鈍いながらにもアレクはアリスに顔を向ける。
「お兄さんさ、『過去視』って使えるんだよね」
「うーん、でも自由には使えないんだ」
「誰か知り合いに、制御を手伝ってくれる人いないの?」
「手伝ってくれる人かあ……」
思い起こしてみると、クリアのことが頭に浮かんだ。
エルミアの修行相手も彼女であった。
「いた! いたよ、アリス」
「そっか。その人に手伝ってもらって、お兄さんも力を使いこなせるようになったほうがいいよ」
アリスはシオンとライアンのほうへ振り向くと、面白げに笑って見せる。
「あの二人、化けるよ」
「………」
未だに悲鳴を上げて逃げる二人。
アレクは二人が実は凄いことなど、とうの昔に知っている。
「そうだね。置いていかれないようにしなくっちゃ」
念を込めて「クリア!」と名前を呼ぶと、クリアが氷を靡かせて降りてくる。
時期外れの冷風が肌を撫でる中、クリアの目線はアリスに集中している。
「まだ紹介してなかったね。アリスだよ」
「……なぜ悪魔がここに」
戸惑い半分、怒り半分といった感情。
クリアは警戒するようにアレクの前に立つ。
すると、アリスは綺麗にお辞儀をしてみせた。
「こんにちは、聖霊さん。私はアリス・インティベーゼ。魔王の娘です」
「っーー! 魔王の娘なら、尚更なぜ?」
「事情を話すと長くなるのですが……」
アリスの語ったことに、クリアは俄かに信じがたい思いで一杯になった。
ティファンが悪魔のいる世界に穴を開け、世界同士を繋げてしまったなど。
ティファンは優しい子だ。
それはクリアがよく理解している。
「クリア、本当なんだ」
「アレク……」
「あの人、僕のことを優しい目で見てくる」
「……そう。それが真実なら、手を貸さないわけにはいかないわね」
クリアはどうやら割り切ったようで、その厳しげな表情を些か和らげる。
「アレク。今から私は、あなたに『過去視』の制御方法を教えるわ」
「うん!」
「方法は至ってシンプル。使いまくること」
「……うん?」
「以上」
「それだけ?」
「それだけ」
ポカンと口を開けるアレクに、クリアはそのまま続けた。
「エルミアだって、何度も使うことで慣れた力よ。やっぱり慣れって大事なのよ」
「そうなんだ……」
「ほら、使ってみて」
「使ってみてって言われても、感覚がわからないっていうか」
「そういえば、精霊王がもういなかったわね。それじゃ補助もできないか」
クリアは飛んでアレクの後ろへ回り込むと、しっかりとした声で言う。
「今から私が、精霊王の代わりになる。私に精霊王ほどの力はないから、感覚は一発で掴みなさい? いいわね?」
「は、はいっ!」
「よし。じゃあ……行くわよ」
ブワッと冷たい何かが入り込んでくる気配がした。
クリアだ。
クリアがアレクに乗り移って、過去視を使用している。
眠っていた神経が無理やり叩き起こされるような、そんな感覚だった。
バチバチと目の前に光が散って、とある光景が見えてくる。
「エルミア。私が大切に取っておいたクッキー食べたでしょ」
「……そんなことないわよ?」
「嘘ついてもわかるんだから」
後退りするエルミアに、鬼の形相でクリアが迫る。
「う……だって! 美味しかったんだもん!」
「だってじゃないわよ! あれは町の商店街の行列に並んで、ようやく手に入るシロモノなのよ!?」
「バターが効いてました!」
「効いてましたじゃない。殴るわよ?」
「もう殴ってる!」
ハッと気がつけば、目の前にクリアがいた。
どうやら戻ってきたらしい。
「何が見えた?」
「えーっと……エルミア様とクリアが、クッキー取り合ってた」
その一言で場が文字通り凍る。
どうやらあちら側にも被害が出たようで、「さっぶいんだけどぉ!?」というライアンの苦情が飛んでくる。
「…………忘れて」
顔を真っ赤にしたクリアが、小さな声でそれだけ搾り出した。
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