追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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ユニコーン編

第百十九話 頭の軽い天使

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「わっ、こんなところにユニコーン」

一人の天使が、口を開けて大袈裟に驚いて見せる。
ユニコーンは億劫げに顔を上げた。

『天族か……』
「どうしたの? そんな怪我して」
『縄張り争いに負けた』

ユニコーンの腹部から、だらだらと生々しい血が流れている。
真っ赤なそれは地面を染め上げ、天使の足元まで広がっていた。

「治してあげよっか」
『よさぬか。私は今から神に召されるのだ。同じ神に使える身として、ここは放っておいてくれ』
「そっか。そうだよね」

ユニコーンはぐぐ、と自身の瞼を下げると、天使に向かって呟いた。

『気掛かりなのは我が子だ。私が死ねば、卵がいつ還るやもわからぬ』
「卵?」

ユニコーンの足元に、虹色の卵が転がっている。
興味深そうに天使が卵を抱き上げると、にこりと笑ってみせた。

「だぁいじょうぶ。今未来を覗いてみたけど、この子はちゃんと拾われるよ。可愛い男の子に」
『……人間か?』
「天使にだよ」
『そうか。それならば安心だ……』

ユニコーンは地べたに寝そべる。
どうやらこのまま、命を終えるらしい。

『私が救った人間達は、どうやら私を信仰しているらしい。私の遺骸は、人間達に渡してくれ。適当に処理してくれるだろう』
「わかった。おやすみ」

ユニコーンは目を閉じた。
天使はユニコーンを魔法で持ち上げると、人間達の前まで持って行った。

「君達の信じるユニコーンの死体だよ。さっき死んだ。ユニコーンの死体を加工して、何か道具でも作るといい。それが彼女の望みだ」
「ああ……天使様。ありがとうございます」

涙を流し、人間達は天使を仰ぎ見る。
天使はそのまま姿を消すと、先ほどの場所へと戻ってきた。
そして卵を抱えると、そこから離れた洞穴へと卵を置く。

「……ねえ君。この先の未来で、この卵を拾う子でしょ」
「!」

ここでようやく、アレクは自身の意識を自覚した。
どうやら天使は、アレクに話しかけているらしい。

「僕のこと、見えるの?」
「うん。天族同士の惹き合いかな? まあどうでもいいけど」

天使は笑って、アレクに手を差し出す。

「どうか大事に育ててあげてね。それが彼女の願いだから」
「……大切にするよ。名前だってもう付けてるんだ。今は訳あって離れてるけど」
「ふぅん。未来は思っているより複雑みたいだね。君も羽を持っていないし」

アレクの背中に羽は存在しない。
魂は天族といえど、体は人間なのだ。
天使は目を細めると、ふとこんなことを聞いてきた。

「人間はさ、私達を崇めているけど……時々羨ましそうにこっちを見てくる。神様に私達が愛されているからかな? そこで君に質問。人間を排除すべきだと思う?」

極論であった。
アレクは即座に首を横に振る。

「だ、ダメだよ! 人間をその……排除するなんて」

そこでアレクは思い出す。
天族は人間に滅ぼされたことを。
ここで感じた違和感。

「……君達の未来視は、自分達の結末はわからないの?」

アレクの質問に、天使はサラリと答えた。

「わかるよ。見ようと思えばね。でも、それをするのはつまらない」

天使はアレクの前まで飛んでくると、アレクの目を見ながら言う。

「神様は、私達が積極的に未来を視ることを好いていないからね。それに、何もかもわかってしまえばつまらない。もし私達が、今後人間になにかされるとしても、それが運命ってだけ」
「死ぬのが怖くないの?」
「当たり前。死んだら神様が迎えにきてくれるもの。君、変わってるね。天族は生に頓着のない者ばかりなのに」

天使はアレクの後ろに視線をやると、少し驚いた顔をする。

「今日は来客が多いなぁ」
「え?」

振り返れば、布で顔を覆った少年がそこにいた。

「迎えに来たよ。そろそろ帰りな」
「だ、誰?」
「僕はアレクの味方」

少年はアレクの手を取ると、天使に向かって頭を下げた。
天使はにこやかに送り出してくれる。

「じゃあね、未来の子供達よ」

少年に連れられ、アレクは『過去視』の能力から現代へと巻き戻る。
少年のことが気になり、アレクは尋ねた。

「あの、前もこうやって助けてくれた? 僕が『過去視』で迷子になってる時」
「ああ。アレクはひよっこだな。力の使い方がなってない」
「ひよっこ……」
「アレクが慣れるまで、僕が案内してあげる」

頼もしい物言いに、アレクはクスクスと笑って見せた。

「なんか兄様みたい」
「……兄様?」
「うん。僕の兄様。ガディっていうんだけど、凄く頼りになるんだ。あっ、僕には姉様もいてーー」

アレクが双子のことを語る時、少年はどこか複雑そうな表情をしていた。

「そう。今の君には、兄と姉がいるんだ」
「? うん」
「……喧嘩でもした?」
「なっ」

少年の質問に、アレクはギョッとする。
喧嘩、とでもいうのだろうか。
少なくとも、二人を置いてきたことは事実である。

「うん……」
「そう。ちゃんと、謝りなよ」
「わかってるよ……」

元気のない返事に、少年は肩を竦めた。

「君はさ、ティファンの弟でもあるんだ。君にはもう一人の、頼りになる兄がいることを忘れないでおくれ」
「ティファンは……僕の敵か、味方なのか、わかんないよ」
「味方さ。ティファンはアレクを大事にしてる」

トン、と少年がアレクの背を押す。

「あんまり素っ気なくしないであげてね。あの人は、少し嫉妬してしまってるだけなんだ」






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