騎士様も異世界人

キマイラ

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 家を借りた。なんと一戸建てである。家賃払えるかなって不安になったのは仕方がないことだろう。今は手元に百万ゴールドあるけれど収入の当てはないのだから。と思っていたらパーシヴァルさんが冒険者なんていうファンタジーな職に就いていた。私も仕事探さないと……。パーシヴァルさんは「マスターは働かなくていいんですよ」なんて言ってるけどそれは人としてどうかと思う。思うんだけど、この世界、職安がないどころか働くためには紹介状がいるらしい。紹介状が要らない仕事は娼婦か冒険者くらい。私のような特に美しいわけでもなく戦えるわけでもない身元不明の人間にできる仕事はなかった。パーシヴァルさんも異世界人だけど彼には私と違って戦闘力があるから……。なんでも彼は世界が闇に包まれて魔物がいるような世界から私に召喚されて来たらしい。もともとその世界でも召喚される側だったそうだ。なんかよくあるファンタジーなゲームっぽいと思ったのは内緒である。絶対ガチャゲーだろうな。パーシヴァルさんのいた世界。

 そんなわけでパーシヴァルさんに養われている。申し訳ないので一生懸命家事をしている次第である。今までの人生で一番頑張って料理をしている。ちゃんとお弁当も作ってますよ! 冷凍食品がないのでちょっと大変だけど養ってもらっている以上頑張らなくては。

 パーシヴァルさんには私のことは住み込みの家政婦かなんかだと思ってもらえれば万々歳だ。だってパーシヴァルさん、生活能力がないからね。家事の類は一切できない人なのだ。特に料理はひどかった。火は通ってるから大丈夫だと言う彼は消し炭を生成していた。ダークマターってああやってできるんだなと納得する気持ちが生まれてしまうくらいだ。一緒に暮らし始めた当初はパーシヴァルさんも家のことをしようとしてくれていたから本当に大変だった。家事を全て任せてもらえるようになって本当によかった。

 とりあえず今の目標はこの町の住人として馴染むこと。馴染めば知り合いのところで働くなどの道が開ける可能性もゼロじゃない。頑張りたい。

 あ、パーシヴァルさんそろそろ帰って来るわ。

 どういうわけか、私にはパーシヴァルさんの居場所が分かった。パーシヴァルさんも私がどこにいるか分かるらしい。マスターと騎士ナイトだからなのか私が生贄だからなのかは不明である。

「おかえりなさい、パーシヴァルさん」

「ああマスター、今帰りました」

「今夜はハンバーグですよ」

「それは楽しみです」

 パーシヴァルさんは知っている料理ならいつも楽しみだと言ってくれる。彼にとって未知の料理でも二回目からは必ず楽しみだと言ってくれるのだ。それに必ず美味しいとも言ってくれる。彼が美味しい以外の感想を口にしたことはないからお世辞かもしれないが、それでも嬉しいものは嬉しいのだ。

 今日の献立はハンバーグとミネストローネ。野菜と豆をたっぷり入れたミネストローネはそこそこボリュームがある。主食はパン。お米が食べたいけど売ってないので食べられない。そんなわけでパンとパスタで生きている。この世界に来てから一カ月くらい経ったけどだいぶ辛い。調理器具はコンロもあるしなんとかなっている。ご家庭によってはかまどで薪らしい。確かご近所のリンジーさんの家はかまどだと言っていた。よかった、コンロのある家で。動力はガスでも電気でもなく魔石だ。この世界ではポピュラーな資源らしい。入手方法はモンスターを倒すか採掘だそうだ。トイレも水洗だし今のところこの世界の文明レベルに不満はない。

 一つだけ困っていることは私達の関係をご近所さんにどう説明するかだ。パーシヴァルさんは自分は私の騎士ナイトだと言っていたが私はパーシヴァルさんに捧げられた生贄でもあるのだ。彼は私をマスターと呼ぶけれど実際どっちが主人なんだか定かじゃない。それに主従関係とは言いにくい。いっそ家主と住み込みの家政婦だと言ってしまいたい。定住している冒険者なんて一行で矛盾した文章みたいな生活のパーシヴァルさんはレアな存在みたいだし一人暮らしの男が家政婦を雇うのも不自然ではあるけれど。そりゃあ、ある程度の年齢の男女が一緒に暮らしているのだから恋人か夫婦が一番自然なんだろうけどそう言うわけにもいかないし。だいたい私とパーシヴァルさんが恋人というのも無理がある。私はどこにでもいるようなパッとしない普通の女で、片やパーシヴァルさんは精悍なイケメンで背も高い。私達が恋人になることなんて天地がひっくり返ってもないだろう。結果、関係を聞かれたら笑って誤魔化している。おかげでなにやらわけありだと思われてるようだ。なんか、駆け落ちだと思われてるっぽいのよね。上手く説明できないから私もその勘違いを訂正してないんだけど。たぶん、私にこの世界の常識がないのもその勘違いに拍車をかけているんだと思う。

「マスター、難しい顔をして。考えごとですか?」

「はい、まあ、ちょっと」

「俺でよければ話を聞きますよ」

「いや、全然大したことじゃないんで」

 取るに足らない内容なので申し出を断るとパーシヴァルさんは器用に眉尻を下げて口を開いた。

「俺では頼りになりませんか」

「いえ、そうじゃなくて、パーシヴァルさんの手を煩わせるような内容じゃないっていいますか」

 だってご近所さんに私達の関係をどう説明するか悩んでるなんてくだらなすぎて言えない。そう思ったけど言わないとこの人は気にするかもしれないと思い至って言うことにする。

「本当に取るに足らないことなんですよ。ご近所さんに私達の関係をどう説明すべきか悩んでいるだけなので」

「いかようにもマスターのいいように説明なさってください」

「いや、それがどれも不自然っていうか。いい説明が思い浮かばないんですよね。そのせいで駆け落ちかなにかだと思われてるみたいです」

「駆け落ちですか。マスターに不都合がなければ俺はそう思われていてもかまいませんよ」

「いや、私達が駆け落ちっていうのも中々無理があると思いますよ」

「そうですか?」

「パーシヴァルさん、ご飯冷めちゃいますよ」

 この話はこれでお終いにした。

「今日も美味しいです、マスター」

「それはよかったです」
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