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January
プロポーズとは…… Side 翠葉 03話
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「まず確認なんだけど……俺、付き合う際に付き合う限りは結婚まで考えてるって話したと思う。それについてはどう思ってるの?」
真剣すぎる目にじっと見つめられ、思わずたじろいでしまう。
あの日のことは今でもよく覚えている。どんな言葉を交わして、どんな思いで話していたのかも。でも、ツカサが言ってくれたことを半分も理解できていなかったのだ。
「あのときの会話はちゃんと覚えているのよ……? 結婚前提で、って言われたのも、肯定の意味での返事なのかって確認されたことも全部……。ただ、本当にあのときはお付き合いするしないが一大事で、それ以上のことまで深くは考えられなくて――」
申し訳なくて申し訳なくて顔が上げられない。
けれど、はっとした。今の返事では誤解されてしまうのではないだろうか、と。
だから、慌てて言葉を継ぎ足した。
「でも、だからといって、結婚前提のお付き合いに反対なわけではないのっ。ちょっと思考が追いつかなかっただけで、結婚前提のお付き合いは……嬉しい……」
言葉にすると途端に恥ずかしくなって顔に熱を持つ。
けど、確かに「嬉しい」という気持ちは胸にある。
好きな人が将来のことまで考えていてくれることは、とても幸せなことだと思うから。
「じゃ、次。それはつまり口約束の婚約ってことになるわけだけど、それについては?」
ツカサは確実に話を詰めてくる。でも、今回はさっきと違い、一方的に畳み掛けられるような話し方ではないし、ひとつひとつ確認しながら話を進めてくれるので、思っていること、感じていることをきちんと捕まえて答えられる気がした。
「……そこには頭も気持ちも追いついてなくて、でも、さっき言われて頭では理解していて――」
言葉に詰まっていたら、
「婚約には反対?」
その言葉に顔を上げる。
「違うよっ? そういうことじゃないのっ。……えぇと、結婚前提のお付き合いっていう関係性を言葉にすると、『口約束の婚約』になることを理解したばかりで、心が追いつかないっていうか……」
そう、ようやく色々理解したところで、まだ心がそこまで追いつかない。ただそれだけ。
どうしたら心が追いつくんだろう。実感できるんだろう……。
悩んでいるとトン、と膝にツカサの膝が当たり、不思議に思って顔を上げると、膝の上で組んでいた手をツカサの手に包まれた。
「翠、俺が高校を卒業したら正式に婚約しよう」
真摯な目で見つめられ、心臓が止まりそうになる。
「大学を卒業するまで六年かかるけど、卒業と同時に入籍しよう」
すっかり冷たくなった私の手に、ツカサの熱がジンジンと伝ってきて、手から身体に一気に熱が回る。
さっきの比じゃないくらい顔が熱い。顔が、というよりは身体ごと、熱い。それに、嬉しいという気持ちも沸々と湧いてくる。
さっき外で同じようなことを言われたときには呆然としてしまったけれど、今はしっかり心が反応しているのを感じる。
「翠……?」
顔を覗き込まれたものの、なんて答えたらいいのかがわからなかった。
そもそも、婚約とか結婚って、お父さんやお母さんに相談なくお返事していいの……?
そんなことをぐるぐる考えていると、もう一度名前を呼ばれた。
「ツカサ、あの――婚約って、結婚って――」
「……?」
「お父さんやお母さんに相談せずにお返事してもいいものなのかなっ?」
ツカサは小さくため息をつき、
「婚約するのも結婚するのも翠本人なわけだけど、この際誰に相談してもらってもかまわない。電話、したければすれば?」
そう言うと、ツカサは私の手を離した。
私はお布団の上に置かれたままの携帯を凝視する。
この場合、相談するならやっぱりお父さんとお母さんだろうか。それともワンクッション置いて蒼兄や唯兄?
考えているところに携帯が鳴り出してびっくりする。
ディスプレイには「藤宮秋斗」と表示されていた。
人が人なだけに、ツカサの顔色をうかがってしまう。すると、
「出れば? たぶん新年の挨拶だろ」
言われて、そろそろと携帯を手に取った。
「……秋斗さん?」
『翠葉ちゃん、明けましておめでとう!』
こんな挨拶であっても秋斗さんの口調は甘く、単なる挨拶なのに甘やかされている気分になるから不思議だ。いったいどんな話術を身につけているのだろう。
不思議に思いながら、ツカサの正面というちょっと特殊な環境下で挨拶を返す。
「明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします」
『こちらこそよろしく。……翠葉ちゃん、なんか元気ない? 学校のみんなと過ごしてるんでしょう? その割には静かだし……』
「あ……えと、ちょっと前に少し具合が悪くなってしまって、佐野くんの自室で休ませてもらってたんです」
『そういえば、少し血圧下がってたもんね。もう大丈夫?』
「はい。ツカサが適切な処置をしてくれたので、もう大丈夫です」
『……ってことは、今は司と一緒?』
「え? あ、はい……」
『……なんかあった? 司にこっぴどく怒られたとか』
秋斗さんはなんて鋭いんだろう。
具合が悪くなって怒られはした。でもそれは想定内だったし、今気まずいのは、プロポーズ直後にツカサの正面で秋斗さんと電話をしているという環境のせいだと思う。
「あっ――」
『ん?』
「秋斗さん、婚約とか結婚って、お父さんやお母さんに相談しなくてもいいものなんですかっ?」
『は……?』
「あ、突然ごめんなさいっ」
『いや、いいんだけど……何? 司にプロポーズでもされた?』
「…………」
『沈黙は肯定ね』
秋斗さんはクスクスと笑う。
『まずは質問の答えだけど、婚約するのも結婚するのも翠葉ちゃんだからね。返事をするのにとくにご両親の承諾を得る必要はないと思うよ』
ツカサと同じ意見……。
『でも、いいの?』
「え……?」
『司も翠葉ちゃんも、進学すれば新しい人間関係ができるでしょ?』
「はい……」
『そしたら、司以上に性格の合う人が現れるかもしれないよ?』
ツカサ以上に性格の合う、人……?
『司以上に好きになれる人が現れるかもしれないよ?』
ツカサ以上に好きになれる、人……?
『それは司にも同じことが言える。同じ学部で話の合う人間が現れたら――』
「っ――そんなのやだっ」
それ以上聞きたくなくて、思わず携帯を手放し耳を塞ぐ。
ツカサが自分以外の誰かを好きになるなんて、考えたくない。そんなの、やだ――
ただでさえ卒業して会う機会が減ることに不安があるのに、ツカサが大学生になることが途端に怖く思えてきた。
ずっと側にいてほしい。ずっと自分だけを見ていてほしい……。
どうしよう……。まだ現れてもいない人に嫉妬するなんて――
私、こんなに独占欲が強かったのね……。
様々な感情を感じつつも、一番際立っているのは恐怖で、怖くて怖くて涙が溢れてくる。
過去に私が心変わりしたように、ツカサがほかの誰かを好きになったら、と思うと、身を切り刻まれる思いだ。
恐怖に身を震わせていると、唇に柔らかな感触を得た。
びっくりして目を開けると、ツカサの顔がすぐ近くにあって、耳に当てていた手を引き剥がされる。
「秋兄の言うことなんて気にしなくていい」
「でも――」
ツカサはもう一度キスをしてくれた。
「大丈夫だから」――そんな想いがこもったキスを。
「不安に思わなくていいし泣かなくていい」
ツカサは真っ直ぐに私の目を見て口にする。
「俺はこの先どんな人間と会っても翠以外の女を好きになるつもりはない。なんなら一筆書こうか? もしくは、婚約なんて手ぬるいことを言わずに、俺が高校を卒業したら入籍する? すでに貯金はそれなりにあるし、ふたりで生活するのに困らない程度の収入はある」
またしても、何を言われているのかがわからなくなりそうだ。
ツカサは私の顔を覗き込んだまま、「どうする?」と尋ねてくる。
えぇと……ツカサが高校を卒業して入籍ということは、私はまだ高校三年生なわけで――
「まだ高校生なのに、苗字が変わるのはちょっと……」
ツカサは目に見えて脱力する。そして、足を崩し肩を震わせて笑い始めた。
こんなふうに笑うツカサは珍しくてまじまじと見ていると、再び視線を合わせ、
「本当に、秋兄に言われたことなんか気にしなくていい。たとえ話の合う女子が現れたとしても、それが何? 話が合うくらいで好きになったりしない。だって、俺と翠は話が合うから、性格が合うから付き合ってるわけじゃないだろ?」
……そう言われてみれば、「話が合う」ということはない気がする……。私が興味のあるものとツカサが興味のあるものはまったくかぶらないし、性格が似ているということもない。
それでも、惹かれて止まない……。
大好きで、側にいたくて、側にいてもらいたくて、ツカサのいない未来なんて考えたくない――
再度手を取られ、
「翠……愛している。婚約しよう」
「っ……」
ツカサの低く静かな声がこだまする。心の奥に染み渡るように。まるで栄養を得たみたいに心が潤う。
「嬉しい」という気持ちを確かに感じるのに、私は戸惑う。
「まだ何かあるなら全部聞く」
優しい声音に、私はどうしようもなく泣きたくなる。
「私、こんな身体だし、迷惑たくさんかけちゃうだろうし、赤ちゃんだって産めるかわからない……」
去年よりは安定したとはいえ、体調の不安は尽きることがないのだ。
こんな自分を背負わせるのは気が引けて仕方がない。
けれど、ツカサはなんでもないことのように即答した。「それが何?」と。
「俺にとってはなんの問題もないんだけど」
どうして――
「翠、よく聞いて。俺はあまり子どもは得意じゃない。むしろ苦手だと思う。それでも、翠との子どもなら欲しいとも思う。でも、俺が一番大切なのは翠で、翠の身体に負担をかけるようなことは望まない。だから、子どもができなくてもなんの問題もないし、生涯ふたりでも俺は幸せに暮らせると言い切れる。……それでも不安?」
私は涙の止まらない顔で左右に首を振った。
どうしよう、すごく嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。
「翠、もう一度言う。婚約しよう」
私はやっと頷くことができた。
「今度は心、追いついてる?」
「うん……追いついてる」
「じゃ、誓いのキス」
「え……?」
顔を上げた瞬間に顎を取られ、今度はゆっくりと口付けられた。
真剣すぎる目にじっと見つめられ、思わずたじろいでしまう。
あの日のことは今でもよく覚えている。どんな言葉を交わして、どんな思いで話していたのかも。でも、ツカサが言ってくれたことを半分も理解できていなかったのだ。
「あのときの会話はちゃんと覚えているのよ……? 結婚前提で、って言われたのも、肯定の意味での返事なのかって確認されたことも全部……。ただ、本当にあのときはお付き合いするしないが一大事で、それ以上のことまで深くは考えられなくて――」
申し訳なくて申し訳なくて顔が上げられない。
けれど、はっとした。今の返事では誤解されてしまうのではないだろうか、と。
だから、慌てて言葉を継ぎ足した。
「でも、だからといって、結婚前提のお付き合いに反対なわけではないのっ。ちょっと思考が追いつかなかっただけで、結婚前提のお付き合いは……嬉しい……」
言葉にすると途端に恥ずかしくなって顔に熱を持つ。
けど、確かに「嬉しい」という気持ちは胸にある。
好きな人が将来のことまで考えていてくれることは、とても幸せなことだと思うから。
「じゃ、次。それはつまり口約束の婚約ってことになるわけだけど、それについては?」
ツカサは確実に話を詰めてくる。でも、今回はさっきと違い、一方的に畳み掛けられるような話し方ではないし、ひとつひとつ確認しながら話を進めてくれるので、思っていること、感じていることをきちんと捕まえて答えられる気がした。
「……そこには頭も気持ちも追いついてなくて、でも、さっき言われて頭では理解していて――」
言葉に詰まっていたら、
「婚約には反対?」
その言葉に顔を上げる。
「違うよっ? そういうことじゃないのっ。……えぇと、結婚前提のお付き合いっていう関係性を言葉にすると、『口約束の婚約』になることを理解したばかりで、心が追いつかないっていうか……」
そう、ようやく色々理解したところで、まだ心がそこまで追いつかない。ただそれだけ。
どうしたら心が追いつくんだろう。実感できるんだろう……。
悩んでいるとトン、と膝にツカサの膝が当たり、不思議に思って顔を上げると、膝の上で組んでいた手をツカサの手に包まれた。
「翠、俺が高校を卒業したら正式に婚約しよう」
真摯な目で見つめられ、心臓が止まりそうになる。
「大学を卒業するまで六年かかるけど、卒業と同時に入籍しよう」
すっかり冷たくなった私の手に、ツカサの熱がジンジンと伝ってきて、手から身体に一気に熱が回る。
さっきの比じゃないくらい顔が熱い。顔が、というよりは身体ごと、熱い。それに、嬉しいという気持ちも沸々と湧いてくる。
さっき外で同じようなことを言われたときには呆然としてしまったけれど、今はしっかり心が反応しているのを感じる。
「翠……?」
顔を覗き込まれたものの、なんて答えたらいいのかがわからなかった。
そもそも、婚約とか結婚って、お父さんやお母さんに相談なくお返事していいの……?
そんなことをぐるぐる考えていると、もう一度名前を呼ばれた。
「ツカサ、あの――婚約って、結婚って――」
「……?」
「お父さんやお母さんに相談せずにお返事してもいいものなのかなっ?」
ツカサは小さくため息をつき、
「婚約するのも結婚するのも翠本人なわけだけど、この際誰に相談してもらってもかまわない。電話、したければすれば?」
そう言うと、ツカサは私の手を離した。
私はお布団の上に置かれたままの携帯を凝視する。
この場合、相談するならやっぱりお父さんとお母さんだろうか。それともワンクッション置いて蒼兄や唯兄?
考えているところに携帯が鳴り出してびっくりする。
ディスプレイには「藤宮秋斗」と表示されていた。
人が人なだけに、ツカサの顔色をうかがってしまう。すると、
「出れば? たぶん新年の挨拶だろ」
言われて、そろそろと携帯を手に取った。
「……秋斗さん?」
『翠葉ちゃん、明けましておめでとう!』
こんな挨拶であっても秋斗さんの口調は甘く、単なる挨拶なのに甘やかされている気分になるから不思議だ。いったいどんな話術を身につけているのだろう。
不思議に思いながら、ツカサの正面というちょっと特殊な環境下で挨拶を返す。
「明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします」
『こちらこそよろしく。……翠葉ちゃん、なんか元気ない? 学校のみんなと過ごしてるんでしょう? その割には静かだし……』
「あ……えと、ちょっと前に少し具合が悪くなってしまって、佐野くんの自室で休ませてもらってたんです」
『そういえば、少し血圧下がってたもんね。もう大丈夫?』
「はい。ツカサが適切な処置をしてくれたので、もう大丈夫です」
『……ってことは、今は司と一緒?』
「え? あ、はい……」
『……なんかあった? 司にこっぴどく怒られたとか』
秋斗さんはなんて鋭いんだろう。
具合が悪くなって怒られはした。でもそれは想定内だったし、今気まずいのは、プロポーズ直後にツカサの正面で秋斗さんと電話をしているという環境のせいだと思う。
「あっ――」
『ん?』
「秋斗さん、婚約とか結婚って、お父さんやお母さんに相談しなくてもいいものなんですかっ?」
『は……?』
「あ、突然ごめんなさいっ」
『いや、いいんだけど……何? 司にプロポーズでもされた?』
「…………」
『沈黙は肯定ね』
秋斗さんはクスクスと笑う。
『まずは質問の答えだけど、婚約するのも結婚するのも翠葉ちゃんだからね。返事をするのにとくにご両親の承諾を得る必要はないと思うよ』
ツカサと同じ意見……。
『でも、いいの?』
「え……?」
『司も翠葉ちゃんも、進学すれば新しい人間関係ができるでしょ?』
「はい……」
『そしたら、司以上に性格の合う人が現れるかもしれないよ?』
ツカサ以上に性格の合う、人……?
『司以上に好きになれる人が現れるかもしれないよ?』
ツカサ以上に好きになれる、人……?
『それは司にも同じことが言える。同じ学部で話の合う人間が現れたら――』
「っ――そんなのやだっ」
それ以上聞きたくなくて、思わず携帯を手放し耳を塞ぐ。
ツカサが自分以外の誰かを好きになるなんて、考えたくない。そんなの、やだ――
ただでさえ卒業して会う機会が減ることに不安があるのに、ツカサが大学生になることが途端に怖く思えてきた。
ずっと側にいてほしい。ずっと自分だけを見ていてほしい……。
どうしよう……。まだ現れてもいない人に嫉妬するなんて――
私、こんなに独占欲が強かったのね……。
様々な感情を感じつつも、一番際立っているのは恐怖で、怖くて怖くて涙が溢れてくる。
過去に私が心変わりしたように、ツカサがほかの誰かを好きになったら、と思うと、身を切り刻まれる思いだ。
恐怖に身を震わせていると、唇に柔らかな感触を得た。
びっくりして目を開けると、ツカサの顔がすぐ近くにあって、耳に当てていた手を引き剥がされる。
「秋兄の言うことなんて気にしなくていい」
「でも――」
ツカサはもう一度キスをしてくれた。
「大丈夫だから」――そんな想いがこもったキスを。
「不安に思わなくていいし泣かなくていい」
ツカサは真っ直ぐに私の目を見て口にする。
「俺はこの先どんな人間と会っても翠以外の女を好きになるつもりはない。なんなら一筆書こうか? もしくは、婚約なんて手ぬるいことを言わずに、俺が高校を卒業したら入籍する? すでに貯金はそれなりにあるし、ふたりで生活するのに困らない程度の収入はある」
またしても、何を言われているのかがわからなくなりそうだ。
ツカサは私の顔を覗き込んだまま、「どうする?」と尋ねてくる。
えぇと……ツカサが高校を卒業して入籍ということは、私はまだ高校三年生なわけで――
「まだ高校生なのに、苗字が変わるのはちょっと……」
ツカサは目に見えて脱力する。そして、足を崩し肩を震わせて笑い始めた。
こんなふうに笑うツカサは珍しくてまじまじと見ていると、再び視線を合わせ、
「本当に、秋兄に言われたことなんか気にしなくていい。たとえ話の合う女子が現れたとしても、それが何? 話が合うくらいで好きになったりしない。だって、俺と翠は話が合うから、性格が合うから付き合ってるわけじゃないだろ?」
……そう言われてみれば、「話が合う」ということはない気がする……。私が興味のあるものとツカサが興味のあるものはまったくかぶらないし、性格が似ているということもない。
それでも、惹かれて止まない……。
大好きで、側にいたくて、側にいてもらいたくて、ツカサのいない未来なんて考えたくない――
再度手を取られ、
「翠……愛している。婚約しよう」
「っ……」
ツカサの低く静かな声がこだまする。心の奥に染み渡るように。まるで栄養を得たみたいに心が潤う。
「嬉しい」という気持ちを確かに感じるのに、私は戸惑う。
「まだ何かあるなら全部聞く」
優しい声音に、私はどうしようもなく泣きたくなる。
「私、こんな身体だし、迷惑たくさんかけちゃうだろうし、赤ちゃんだって産めるかわからない……」
去年よりは安定したとはいえ、体調の不安は尽きることがないのだ。
こんな自分を背負わせるのは気が引けて仕方がない。
けれど、ツカサはなんでもないことのように即答した。「それが何?」と。
「俺にとってはなんの問題もないんだけど」
どうして――
「翠、よく聞いて。俺はあまり子どもは得意じゃない。むしろ苦手だと思う。それでも、翠との子どもなら欲しいとも思う。でも、俺が一番大切なのは翠で、翠の身体に負担をかけるようなことは望まない。だから、子どもができなくてもなんの問題もないし、生涯ふたりでも俺は幸せに暮らせると言い切れる。……それでも不安?」
私は涙の止まらない顔で左右に首を振った。
どうしよう、すごく嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。
「翠、もう一度言う。婚約しよう」
私はやっと頷くことができた。
「今度は心、追いついてる?」
「うん……追いついてる」
「じゃ、誓いのキス」
「え……?」
顔を上げた瞬間に顎を取られ、今度はゆっくりと口付けられた。
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