光のもとで2

葉野りるは

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July

七夕祭り Side 翠葉 02話

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「中学一年のとき、男子に告白されて断わったの。でも、なかなか聞き入れてもらえなくて、無理やりキスをされそうになったり、行く手を阻まれて腕掴まれたり手首掴まれたり、そういうことが続いて、気づいたときには過剰反応するようになってた。それを面白がったほかの男子にも同じようなことをされるようになって――以来、男子が苦手です」
 言葉にしたら、あまりにも単純なきっかけだった。
「笑う……?」
 高い位置にある顔を見上げると、
「……笑わない。ただ、くだらないとは思う」
 くだらない、か……。そうかもしれない。自分で話してみても、「くだらない」という思いは多少なりとも生じる。
「そうだね……その当時、くだらないって思えたら良かったんだけどな」
 苦笑を漏らすと、「違う」と低い声が短く唱えた。
「え……?」
「あんたが、じゃなくて、そういうことを面白がった人間が、くだらない」
 きっぱりと言われて、「勘違いするな」の視線を向けられた。
「繰り返し嫌なことをされればトラウマにだってなるだろ。そういうのをどうこうと言うつもりはない。ただ、なんでそのくらい突っぱねられなかったんだ、とは思う。そういう弱さって男に付け入られる隙だと思うけど?」
 飛翔くんが言っていることはたぶん正しい。だから、三年間もそんな状態が続いたのだ。
「克服だけど……」
「え……?」
「意識を変えればできるんじゃない?」
 意識……?
「たとえば、あんたがいたその環境と今の環境、同じなの? 違うの?」
「……違う」
「なら、周りの人間をもっと信じればいい。そしたら克服できるんじゃないの」
 言った直後、飛翔くんは私に背を向け携帯をかけ始めた。
「飛鳥? 今、おまえどこにいる? ――じゃ、引き返して部室棟に向かって。――手のかかる捕虜引きわ――やっぱいいわ」
 飛翔くんは携帯をポケットにしまうと、「保護者のお出迎え」と顎で方向を示す。そちらを見ると、ツカサがこちらに向かって歩いてくるところだった。
 ツカサは近くに来るなり、携帯ホルダーに視線を移す。
「携帯を所持していても出なかったら意味がないんだけど」
 言われて気づく。テストが終わってもサイレントモードのままだったことに。
「ごめん……」
 サイレントモードを解除しようと携帯のディスプレイを見て唖然とした。ディスプレイには今まで見たこともない着信件数が表示されていたのだ。
 もしかして、これ全部ツカサからの着信……?
 履歴を見ると、見事にツカサの名前で埋めつくされていた。
「ごめんなさい……でも、どうしたの? 急用?」
 ツカサが答える前に飛翔くんがうんざりした顔をする。
「あのさ、司先輩はあんたが困る事態に陥ってないか心配してくれたんじゃないの?」
「えっ?」
 ツカサを見ると、図星といった表情だった。
「そのくらい察しろよ。ああああっ、面倒くせぇ女っ」
 飛翔くんはこめかみに片手を添え、
「先輩、コレの連行お願いします」
 文字通り、「引き渡す」ように私の背を押し、飛翔くんはくるりと方向を変えて早足で歩きだした。
 再度ツカサを振り返ると、
「飛翔と一緒で大丈夫だったの?」
 ぶっきらぼうに訊かれる。
「ん……怖い人っていう印象が少し和らいだかも?」
 やっぱり、人とは話してみないとわからないものだな……。
 見た目や声だけで「怖い」と決め付けるのは良くないだろう。それと同じで、「男子だから」というだけで苦手意識を持つのもきっと良くない。でも、根付いてしまった先入観はどうしたら払拭できるだろう。
「翠」
「ん?」
「何を考えてる?」
「……先入観について」
「は……?」
「どうしたら先入観を払拭できるかな、と思って」
「……それ、飛翔のこと?」
 正しくは「男子」一括りだけど、「飛翔くん」であっても間違いではない。だから、頷くことで肯定した。
「……先入観が誤りだと認識すれば必然的に払拭されると思う」
 答えると、ツカサは芝生広場へと向かってさっさと歩き始めてしまった。

 ツカサの背を追いかけ隣に並び、
「今日の七夕祭りには誰が来るの?」
「うちの両親と兄さん夫婦、静さんと姉さんは来られないらしい」
「海斗くんと朗元さんは?」
「海斗は部活が終わったら立花と藤倉駅でやってる七夕祭りに行くって」
「……お祭り?」
「藤倉の駅前通りでやってるやつ。北口のターミナル脇に大きな笹が飾られているらしい」
「……すごく混みそうだけど、そういうところへ行っても大丈夫なの?」
「さすがに今日は近接警護だろうな。そうまでして行きたい心境が俺にはわからないけど」
 ツカサらしい言い分に苦笑を返すと、
「じーさんが来るかは聞いてないけど、バーベキューと花火もするらしいから来ないと思う」
「あ、喘息持ちだから?」
「そう。翠は? 一度マンションに戻るの?」
「うん。お母さんが幸倉から浴衣を持ってきてくれたの。だから、久しぶりに浴衣を着ようと思って。それから、マンションからは果歩さんと一緒に藤山まで歩く約束をしているの」
「……そう」
 そんな話をしていたら芝生広場に着いてしまった。
 捕虜の列は蛇行しており、結構な長さになっている。そして、最後尾には見知った人が立っていた。
 ツンツンとした赤い髪のこの人は、軽音部の風間先輩だ。
「……大丈夫なの?」
 これは手をつなぐことに対して言われているのだろう。
「……きっと、大丈夫。……うん、大丈夫だから、ツカサは捕獲班に戻って?」
 ツカサは私を気にしながら校舎へと向かって走りだした。

 風間先輩まであと数歩というところで、
「御園生さんも捕まったかー。運動部のやつら本気で追いかけてくんの、あれどうなのよ」
 先輩は汗をかきつつ、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
「あ……これ、手つながなくちゃだけど……大丈夫?」
 表情を改めた先輩は、心配そうな顔をしている。
「……基本的には苦手です。でも、克服したいなとは思っているので――」
 私は自分から手を差し出し、風間先輩の手を取る。と、風間先輩はぽかんとした顔でつながれた手を見ていた。
「風間先輩は知らない人じゃないし、怖い人でもない――だから、大丈夫なはずなんです」
 口にすることで、先入観を追い払う。
「……ってことはさ、紅葉祭のときは多少なりとも俺を怖いと思ってたの?」
 たぶんそれは違う。
「……いいえ。あのときも、怖い人ではないことはわかっていました」
「今と何が違うの?」
「……何が苦手なのか明確になったから、でしょうか?」
「何が苦手だったの、って訊いてもいい?」
 遠慮気味に尋ねられ、私は笑みを返した。
「もともとはひとりの男子が苦手だったんです。でも、気づいたら周りの男子全員が苦手になっていて、それからは一括して『男子が苦手』と思いこんでいたみたいです」
 風間先輩はくっ、と笑った。
「ずいぶんと大雑把に括ったもんだな」
「そうですよね。今考えてみると、ちょっと色々申し訳ない気がします」
「これからは大丈夫そう?」
「……どうでしょう。少しずつ克服していきたいんですけど、三、四年間思い続けてきたことだから、先入観が強くって」
「じゃ、今みたいにゆっくり考えて先入観の払拭していけばいいと思うよ」
「はい。そうします」
 鬼ごっこ大会は捕虜の人数が四十五人対三十一人で運動部の勝利で終わった――
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