光のもとで2

葉野りるは

文字の大きさ
71 / 271
August

海水浴 Side 明 01話

しおりを挟む
「蒼樹さん、蒼樹さんっ! みんなで遠泳対決やりません?」
 海斗が蒼樹さんに声をかけると、
「あ、いいね。ちょうど沖のほうに岩が出てるし……。やるとしたらあそこまで?」
「ですです」
「桃華たちもやる?」
 蒼樹さんが訊くと、
「勝てる気はしませんけど参加はします」
「私も私もー!」
「佐野もやるだろ?」
「や、俺はちょっと飲み物飲んでくる」
「じゃぁさ、浜辺に戻りがてら、秋兄たちにも声かけてきてよ」
「了解した」
「っつか……蒼樹さん、なんで翠葉あんなところにいるんです?」
 海斗の質問に、蒼樹さんは苦笑のみを返す。俺は不思議に思いながら、御園生と秋斗先生たちがいる場所まで泳いだ。

「秋斗先生、唯さん、海斗と蒼樹さんが遠泳対決しませんか、って。あそこの岩までらしいですけど」
 沖にある岩を指差すも、唯さんと秋斗先生は御園生を見て苦笑を浮かべる。それはまるで、さきほどの蒼樹さんの表情と似通ったものだった。
「御園生がどうかしたんですか? ってか、なんでこんなとこ……?」
 御園生は今までにないくらい情けない顔をしていた。そして、御園生の手はがっしりと唯さんの手を掴んでいる。
 これはもしかして……。
「御園生、もしかして泳げない?」
 御園生は情けなさの中にも悔しさを垣間見せる表情になる。
 図星ですか……。
 すると、見るに見かねた唯さんが口を開いた。
「あはは、なんていうか海が相当久し振りで入るのにもびびってた口なんだよね。今、ようやく慣れてきたところ。みんなのいるとこまで行くのはちょっと無理だろうなぁ……」
 思わぬ情報にまじまじと御園生を見てしまう。御園生はさらに情けない表情で俯いた。
 つまり、御園生は誰かが一緒じゃないと海には入っていられない状況なのだろう。
 これはグッドタイミングかも。俺、御園生とふたりで話したいことあったし。
「俺、飲み物飲みたいから御園生付き合って。唯さんと秋斗先生は遠泳対決行ってきてください」
「リィ、大丈夫?」
「……浜辺に戻れるならがんばって戻る。佐野くん、手、つないでもらってもいい?」
「了解」

 御園生は俺の手にしがみつく状態で浜辺まで戻ってきた。
 目が涙目で、本当に怖いんだな、と思う。
「何が苦手?」
「……顔に水がかかるのとか、足が掬われる感じ。あと、泳ぎにも自信がないからすべてが恐怖」
「……もしかして、小さいころはシャンプーハットにお世話になった人デスカ?」
 その質問にも、御園生は視線を逸らしてコクリと頷いた。
 くっ……なんかおかしい。
 普段はなんでもそつなくこなすくせに、苦手なものはとことん苦手なんだ。さらには、それを認めるのがひどく悔しいような素振りが笑える。
 翠葉さん、実はとっても負けず嫌いですね?
 そんな一面を見て思う。またひとつ御園生の新しい一面を見られた、と。
「今度プール行こうか? 泳ぎなら教えるよ?」
「あの……プールの塩素でかぶれちゃうの」
 なるほど……。
 これはもしかしたら学校のプールにもあまり入ってこなかった口だな。
「じゃぁさ、今度は川に行こうよ。藤川の上流に行けば水きれいだし、大きな岩の近くは水深結構あったりするからさ」
「……本当?」
「うん。だからさ、心臓が大丈夫なら少しやってみない?」
「……たくさんは動けないけど、少しだけなら大丈夫だと思う。あくまでも息が上がらない程度なら」
「じゃ、次はみんなで川ね」
 そんな話をしながらタープのとこまで戻ってきた。
 御園生はいの一番にタオルで顔を拭いた。そんな御園生を笑うと、
「佐野くん、ひどい……」
 俺は珍しく御園生に睨まれた。

 クーラーに入れていた飲み物を取り出し、ペットボトルの半分ほどの分量をガブガブと飲み下す。
 少し空気を変える感じで、
「御園生御園生、内緒話しませんか?」
 声を潜める必要はどこにもなかったけれど、雰囲気づくりのために声を潜める。と、同じくらい御園生も小さな声で、「ん?」と首を傾げた。
「ちょっとした報告」
「報告……?」
「俺、七倉と付き合うことにした」
「えっ!?」
 御園生のセンサーがピコン、と立った気がした。そんな反応に思わず笑みが漏れる。
「あのっ……あれ? あ……えと、佐野くんはすでに告白されているし……でも、一度は断わっているから……えと――」
 どうしたことか、御園生が急にてんぱり始めた。
「インハイが終わって、入賞したって連絡をするときに俺から告った」
 御園生は大きな目をさらに大きく見開いて俺を見ていた。そして、
「おめでとう!」
 そう言ったかと思えば、
「あれ? 告白におめでとうは変? でも、こういうときはなんて言うの?」
 右に左に首を傾げる様が妙にコミカルに見える。俺はくつくつと笑いながら、
「おめでとう、でいいと思うよ」
「本当……?」
「うん」
「……おめでとう。良かったね」
 おめでとうの言葉と共に見せるふわっとした笑顔が妙に御園生っぽい。そういえば、七倉がこんなことを言っていた。
 ――「翠葉ちゃんの髪の毛は柔らかくて艶やかで、風で舞い上がったところが壮絶にかわいいの! あと、ふわっと空気を含んでる感じの笑顔がたまらなくかわいいよね」。
 そういうの、なんかわかる気がする。
 心の底から「おめでとう」の言葉を言われているのがわかるから、嬉しくて、ちょっと気恥ずかしい。
「香乃子ちゃん、喜んでるだろうなぁ」
「うん。……その、どうして、とか訊かないの?」
「……どうして?」
 御園生は首を傾げたまま固まってしまった。数秒後、機械的な動きで首をもとに戻すと、
「どうして、とは思わないけど……訊いてほしいの?」
 きょとんとした御園生に尋ねられ、ドキッとする。
 あれ? 俺、訊いてほしいのか? 言いたいのか?
「佐野くん……?」
 俺は答えが出ないままに、
「……言いたい、のかな?」
 御園生に習うようにして首を傾げる。と、
「なら、教えて?」
 話の運びはものすごくおかしかったのに、相手が御園生だとそんなの関係なく話せるから不思議だ。
 興味津々で訊かれるわけでもなく、だからといってまったくの無関心というふうでもなく、聞いてもらえる環境がきちんと整ってます、そんな感じ。変な安定感があるところが御園生だ。
「ずっと立花のことを好きで、七倉に告白されてからも立花以外のことは考えられなかったんだけど、そういう返事をしても七倉はずっと俺を見ててくれて、俺が走ってるところの絵を何枚も何枚も描いてくれてたんだ。もちろん、見ていた分だけ俺の努力とか、悔しい気持ちとかもわかってくれてて……」
 御園生は相槌を打つでもなく、じっと俺の目を見ていた。
 なんだろう……この安心感。俺は不思議に思いながら、胸にある気持ちを紐解く。
「ずっと見ててくれるのが嬉しくなった」
 たぶん、そういうことなんだと思う。
 人を追いかけて見ることばかりしてきたからか、真っ直ぐに俺を見ていてくれる眼差しに心が動いた。
 御園生はにこりと笑う。
「見ていてもらえるの、嬉しいよね。それから、口にしたわけでもないのに、思っていることを理解してくれるのも」
「うん……。インハイ前も、見ていてくれることが励みにもなってて、それがきっかけだったと思う」
「良かったね」
 その言葉に、「おかえり」と言われたような安堵感を覚えた。
 好きな子とは違う。友達ともちょっと違う。
 簾条や立花は仲がいい女子という括りだけど、御園生はそこからは少し外れたところにいて……。
 俺にとって、御園生はどんな存在なんだろう。
 大切であることはわかるんだけど、まだ明確な言葉は見つからないみたいだ。
 こういうのも話せばきっとわかってくれる。でも、今はあえて口にする必要はないかな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...