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25~28 Side 司 02話
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緊迫した空気の中、静さんが動いた。
「翠葉ちゃん、少し深呼吸しようか」
翠の傍らに立つと、
「私と一緒に十階へ行ってみないかい?」
翠はその問いに、「行きます」と即答した。
この状態で歩かせたりして大丈夫なのか――!?
一見して普通に見えるが、翠の血圧は普段より四十近く数値が高い。立ち上がって急にいつもの数値まで血圧が下がったら……!?
心配は尽きない。でも、幸か不幸か、ここは病院だ。都合が悪ければ相馬さんが止めるだろう。
「秋斗さん、ごめんなさい……。今、何を口にしたらいいのかわからなくて……。ツカサが言ったとおり、何を聞いても思い出せなくて、現実味がなくて……」
どんなに時間をかけて話をしたところで俺たちの思いが今伝わることはない。それが事実。
秋兄に翠を会わせてやりたいと思った。翠は秋兄に会うべきだと思った。話をするべきだと思った。知っておくべきだと思った。
そう思っていたすべてが「おこがましい」という一言で片付けられてしまいそうだ。
翠と静さんが病室を出ると、廊下から声が聞こえてきた。
上の階には藤原さんが待機していて相馬さんが付き添うというならば、何が起きても大丈夫だろう。もっとも、万全の体制だからといって無理させていいというわけではないと思うけど……。
相馬さんの「限界」という言葉を耳にした途端、秋兄が携帯を手に取った。
「気づくの遅いんじゃない? なんのためのものなんだか……」
「司……おまえ、これを知ってたからなのか?」
それもあるけど少し違う。
俺だってさすがにこれは堪える。
翠が何も言ってくれないことに……。自分ひとりが勘違いしていたことに――
「それならもっとやりようがあるだろっ!? 話を後日に回すことだってでき――」
「それさ、俺に言うこと? だいたいにして、バイタルを見られる状況にいるやつがもっと神経使えよって話だろっ!? それに、翠が話を止めないのになんで俺が止められるんだよっ。なんでもかんでも俺に振ってくれるなっ」
秋兄は絶句していた。
「周りの人間がいつでも先回りしてくれると思ったら大間違いだっっっ」
「ちょっと、どうしたのっ!?」
栞さんと姉さんが病室に飛び込んできた。遅れて昇さんも入ってくる。
「何も――どうもしない」
それだけ答えて窓の外に視線をやる。
一瞬視界が歪んだ。きっと酸欠。
この部屋酸素濃度薄そうだし、そんな部屋で大声出したからだ。
「あんたが大声出すなんて珍しい……」
姉さんにかまわれるのが耐えられなくて、
「悪いけど、いつもに増して機嫌悪いからかまわないで」
「あんたの機嫌がいい日なんてないじゃない」
だったら、三六五日未来永劫声をかけてくれるな。
姉さんはなんでこんなに余裕なのか――
仮にも翠の循環器内科の主治医だろ? どうしてこんな――違う……。
あのモバイルディスプレイを相馬さんに渡した時点で、翠のことを相馬さんに託しているんだ。その相馬さんが何も言わないのに自分が口を出すなんて真似は、この姉はしない。
ピリピリとした雰囲気の病室にPHSの音が鳴り響く。
それは藤原さんからの電話で、俺と秋兄を十階に呼びつける内容だった。
正直、行きたくなかった。この先の会話なんて聞きたくなかった。
行きたくないと思うからか、廊下を進む足も身体も、何もかもが重く感じる。
エレベーターに乗ると、
「悪い」
秋兄に一言謝られた。
「別に……っていうか、何に謝罪? ……あぁ、やっぱいい、聞きたくない。それに、謝るんだったら俺のほうじゃない? 何も『今日』である必要はなかったよね」
たかだか一階分を上がるだけ。エレベーターに留まっていられる時間は短い。
十階に着くと、異彩なメンバーがこちらを向いて立っていた。
話は簡単で、あの日にあったことをそのまま秋兄が再現する、というもの。
藤原さん、趣味悪すぎ……。秋兄がどのくらい堪えているのか察してくれてもいいものを。
この人を追い詰めすぎると、また俺がフォローする羽目になるんだけど……。
こんなの、秋兄にとったら生き地獄だ。否――これを聞いている翠も俺も、針の筵に入れられたも同然だ。
藤原さんには藤宮の血は流れていないはずなのに、こういうところは容赦なく一族の人間らしい動きをする。
前を歩くふたりから聞こえてきた会話――
「こんなことやってたら、信じてもらえるわけがないよね……」
「秋斗さん……」
「ごめんって言わないでほしい。これ以上謝られるのは耐えられそうにないから。謝らなくちゃいけないのは俺――」
「違うっ……そうじゃなくて、今の私が今の秋斗さんに謝りたい」
もう、やめてくれよ……。俺がおかしくなる――
「……え?」
「こんなにつらそうなのに、本当はもう話したくないんだろうなってわかっているのに、止められなくてごめんなさいっ。……秋斗さんは蒼兄や唯兄とも仲が良いのでしょう? その時点で私は秋斗さんを警戒することはないと思うんです」
「……それもどうなの? 御園生さんや若槻さんのフィルターを通していい人って思ってるだけに過ぎない。そんなのさ、藤宮の人間だから御曹司って思われるのと大差ない」
気づけば口にしているし、翠を思い切り睨みつけていた。
「坊主、おまえの言うことはもっともだけど、今は黙っとけや」
「なら、秋兄だけを呼べばよかったんじゃないですか?」
俺がここにいる必要はない。
相馬さんは九階にいたときから読んでいた。俺がこう動くことを……。
「司くん、御園生さんが倒れたとき、十階の病室にいたのは誰?」
「……自分です」
「そう、私はあとから入ってきたに過ぎないし、何よりも倒れるまでのやり取りを知っているのは司くんよ」
俺は藤原さんに説き伏せられ、俺が話せる本当の最後の部分を話すことにした。
「翠葉ちゃん、少し深呼吸しようか」
翠の傍らに立つと、
「私と一緒に十階へ行ってみないかい?」
翠はその問いに、「行きます」と即答した。
この状態で歩かせたりして大丈夫なのか――!?
一見して普通に見えるが、翠の血圧は普段より四十近く数値が高い。立ち上がって急にいつもの数値まで血圧が下がったら……!?
心配は尽きない。でも、幸か不幸か、ここは病院だ。都合が悪ければ相馬さんが止めるだろう。
「秋斗さん、ごめんなさい……。今、何を口にしたらいいのかわからなくて……。ツカサが言ったとおり、何を聞いても思い出せなくて、現実味がなくて……」
どんなに時間をかけて話をしたところで俺たちの思いが今伝わることはない。それが事実。
秋兄に翠を会わせてやりたいと思った。翠は秋兄に会うべきだと思った。話をするべきだと思った。知っておくべきだと思った。
そう思っていたすべてが「おこがましい」という一言で片付けられてしまいそうだ。
翠と静さんが病室を出ると、廊下から声が聞こえてきた。
上の階には藤原さんが待機していて相馬さんが付き添うというならば、何が起きても大丈夫だろう。もっとも、万全の体制だからといって無理させていいというわけではないと思うけど……。
相馬さんの「限界」という言葉を耳にした途端、秋兄が携帯を手に取った。
「気づくの遅いんじゃない? なんのためのものなんだか……」
「司……おまえ、これを知ってたからなのか?」
それもあるけど少し違う。
俺だってさすがにこれは堪える。
翠が何も言ってくれないことに……。自分ひとりが勘違いしていたことに――
「それならもっとやりようがあるだろっ!? 話を後日に回すことだってでき――」
「それさ、俺に言うこと? だいたいにして、バイタルを見られる状況にいるやつがもっと神経使えよって話だろっ!? それに、翠が話を止めないのになんで俺が止められるんだよっ。なんでもかんでも俺に振ってくれるなっ」
秋兄は絶句していた。
「周りの人間がいつでも先回りしてくれると思ったら大間違いだっっっ」
「ちょっと、どうしたのっ!?」
栞さんと姉さんが病室に飛び込んできた。遅れて昇さんも入ってくる。
「何も――どうもしない」
それだけ答えて窓の外に視線をやる。
一瞬視界が歪んだ。きっと酸欠。
この部屋酸素濃度薄そうだし、そんな部屋で大声出したからだ。
「あんたが大声出すなんて珍しい……」
姉さんにかまわれるのが耐えられなくて、
「悪いけど、いつもに増して機嫌悪いからかまわないで」
「あんたの機嫌がいい日なんてないじゃない」
だったら、三六五日未来永劫声をかけてくれるな。
姉さんはなんでこんなに余裕なのか――
仮にも翠の循環器内科の主治医だろ? どうしてこんな――違う……。
あのモバイルディスプレイを相馬さんに渡した時点で、翠のことを相馬さんに託しているんだ。その相馬さんが何も言わないのに自分が口を出すなんて真似は、この姉はしない。
ピリピリとした雰囲気の病室にPHSの音が鳴り響く。
それは藤原さんからの電話で、俺と秋兄を十階に呼びつける内容だった。
正直、行きたくなかった。この先の会話なんて聞きたくなかった。
行きたくないと思うからか、廊下を進む足も身体も、何もかもが重く感じる。
エレベーターに乗ると、
「悪い」
秋兄に一言謝られた。
「別に……っていうか、何に謝罪? ……あぁ、やっぱいい、聞きたくない。それに、謝るんだったら俺のほうじゃない? 何も『今日』である必要はなかったよね」
たかだか一階分を上がるだけ。エレベーターに留まっていられる時間は短い。
十階に着くと、異彩なメンバーがこちらを向いて立っていた。
話は簡単で、あの日にあったことをそのまま秋兄が再現する、というもの。
藤原さん、趣味悪すぎ……。秋兄がどのくらい堪えているのか察してくれてもいいものを。
この人を追い詰めすぎると、また俺がフォローする羽目になるんだけど……。
こんなの、秋兄にとったら生き地獄だ。否――これを聞いている翠も俺も、針の筵に入れられたも同然だ。
藤原さんには藤宮の血は流れていないはずなのに、こういうところは容赦なく一族の人間らしい動きをする。
前を歩くふたりから聞こえてきた会話――
「こんなことやってたら、信じてもらえるわけがないよね……」
「秋斗さん……」
「ごめんって言わないでほしい。これ以上謝られるのは耐えられそうにないから。謝らなくちゃいけないのは俺――」
「違うっ……そうじゃなくて、今の私が今の秋斗さんに謝りたい」
もう、やめてくれよ……。俺がおかしくなる――
「……え?」
「こんなにつらそうなのに、本当はもう話したくないんだろうなってわかっているのに、止められなくてごめんなさいっ。……秋斗さんは蒼兄や唯兄とも仲が良いのでしょう? その時点で私は秋斗さんを警戒することはないと思うんです」
「……それもどうなの? 御園生さんや若槻さんのフィルターを通していい人って思ってるだけに過ぎない。そんなのさ、藤宮の人間だから御曹司って思われるのと大差ない」
気づけば口にしているし、翠を思い切り睨みつけていた。
「坊主、おまえの言うことはもっともだけど、今は黙っとけや」
「なら、秋兄だけを呼べばよかったんじゃないですか?」
俺がここにいる必要はない。
相馬さんは九階にいたときから読んでいた。俺がこう動くことを……。
「司くん、御園生さんが倒れたとき、十階の病室にいたのは誰?」
「……自分です」
「そう、私はあとから入ってきたに過ぎないし、何よりも倒れるまでのやり取りを知っているのは司くんよ」
俺は藤原さんに説き伏せられ、俺が話せる本当の最後の部分を話すことにした。
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