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第十一章 トラウマ
48話
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「怖いよ……」
「……翠葉?」
だって……。
「ツカサみたいにみんなが気づいているのだとしたら、すごく怖い……」
みんなが大好きなのは嘘じゃない。でも、その好きな人たちが離れていってしまうことが怖くて、いつも心の隅で怯えている自分がいる。
そんな自分は知られたくなかった。
信用していないわけじゃない、疑っているわけでもない。わかっているのに――わかっていても、どうにもできないの……。
「なんの話か話せるか?」
顔を覗きこまれ、一瞬うろたえる。
「……体調、今のうちに立て直さないといけないのはわかってる。でも、それができないのは――もちろん楽しいからっていうのもあるけれど、それ以外の理由もあって……」
蒼兄は何も言わずに聞いてくれていた。
「今は生徒会という場所があって、自分にも何かしらできることがある。でも、もし体調不良で自分がそこを離れなくちゃいけなくなったとして、誰かに迷惑をかけることも怖いけど、それ以上に自分がいなくてもどうにかなっちゃうことが怖い。……自分の居場所がなくなってしまいそうで、自分がいてもいなくても何も変わらないことを思い知るのが怖い。クラスも同じ……。自分ひとりがいなくても何も変わらないことがわかるのが怖い。それに、人と別行動を取ることでひとり置いていかれるのが怖い。また……誰とも話せなくなる日が来るのが怖い。――中学のときとは違うってわかっているの。わかってるけどっ――それでも学校を休んだ次の日に、教室のドアを開けるのが怖くて仕方ないっっっ」
息継ぎもままらなないくらい一気に話した。
こんなこと、人に話したことはなかった。話したくなかった。
誰かに聞いてほしくて、でも、誰にも知られたくなくて、どうしたらいいのかがわからなかった。
「蒼兄、怖いよ……」
ずっと下を向いていたら蒼兄が抱きしめてくれた。私は縋りつくようにその胸で泣く。
「中学のとき、そんなこと一度も言わなかったな……」
「だって……ただでさえ身体のことで心配かけているのに、学校のことまで心配かけたくなかったよ。それに……体調のせいだったとしたら、お母さんとお父さんがつらい思いをする」
こんな不安を打ち明けたら、大好きなお父さんとお母さんがどんな顔をするのか――
ふたりを傷つけてしまう気がして、怖くて話せなかった。
「蒼兄……私、知ってるのよ? お母さんが一時メンタルクリニックに通っていたの……。あれは私の体調が原因なのでしょう?」
「……翠葉が気づいているのは薄々わかってた。たぶん、母さんも……。それはちょっと置いておこう? 学校を休んだ次の日はすごく怖いんだろ? なら、今日も休まずに行ったほうがいいんじゃないのか?」
「……ツカサに『俺たちを侮るな』って言われた。『中学の人間と一緒にするな。考えただけでも虫唾が走る』って……。『俺たち』ってツカサのほかにあと誰っっっ!? 桃華さんも気づいていたらどうしようっ!? 海斗くんや飛鳥ちゃんも気づいていたらどうしようっ!? 同じだなんて思っているわけじゃないのっ、違うのっっっ」
「翠葉、落ち着こう? 司はただ、自分だちは中学のとき翠葉の周りにいた人間たちとは違うってことを言いたかっただけなんじゃないか?」
……そうなの? 本当にそれだけ?
蒼兄の顔を見ようと顔を上げたとき、玄関のドアを開ける音がした。
「おふたりさん、おはよ。……ごめんね、出るに出られなくて……」
高崎さんがマンションの一室から出てくる。
「翠葉ちゃん、とりあえず顔を拭こうか」
差し出されたのはホットタオル。
「す、すみません……」
「でね、翠葉ちゃん。司様との会話も粗方聞こえちゃったわけなんだけど、彼は翠葉ちゃんに対して虫唾が走るって言ったんじゃないよ? もう一度言われたことを思い出してごらん?」
タオルから顔を離し、高崎さんを見る。すると、高崎さんはふわり、と優しく笑った。
「司様は翠葉ちゃんの体調を優先するって言ってたし、それで翠葉ちゃんが葛藤しても悩んでも止めるって言ってたよね? それはさ、翠葉ちゃんをひとり置いていくつもりはないってことでしょう?」
わからない――
「逆にそこで悩んじゃうほうが司様は怒りそうだけど?」
あ――
「わかった? 侮るなっていうのは、自分たちは中学の人間たちとは違うんだから、要らぬことで悩むな、葛藤するな、ってことじゃない? ま、究極の思考翻訳だけどさ」
高崎さんは肩を竦めて見せた。そこにコンコン、という音が割り込む。
「そろそろ出てもいいでしょうか?」
高崎さんが出てきたドアから空太くんが顔を出した。
「ごめんね……俺も話を聞いちゃったんだ。ちょうど家を出ようと玄関で靴を履いた直後だったから……」
空太くんは頭を掻きながらばつの悪い顔で出てきた。
「そのさ……話を聞いちゃって申し訳ないとは思うんだけど、そのうえで俺の意見を言わせてもらってもいい? ――俺、結構ショック。翠葉ちゃんが中学のときにどれだけ嫌な思いをしてきたのかは知らないけど、少なくともうちのクラスには翠葉ちゃんを仲間はずれにするような人間はいないし、誰もが翠葉ちゃんを好きだと思ってると思う。その気持ちが届いていないのは正直悔しいよ。……だから基本姿勢は藤宮先輩と一緒。俺も戦線布告――そんなことが理由で翠葉ちゃんが必要以上にがんばるんだったら、俺も止める。止めても翠葉ちゃんをひとりにするつもりはないから」
そう言って手を差し出された。
「学校へ行こう」
「蒼樹、悪い。空太も一緒に車乗せてやって」
蒼兄ははっとしたように腕時計を見た。
「あ、やばっっっ。翠葉急ぐぞっ」
「きゃっ――」
有無を言わさず蒼兄に抱え上げられた。
走り出した蒼兄に並走する高崎さんが、
「はい、タオルはお預かりいたしまーす!」
手に持っていたそれを取り上げられる。
バタバタと車に乗せられ、学校に着いたのは二十分。三十分までには教室に着いていないと遅刻扱いになってしまう。
「蒼樹さん、ここからは自分一緒ですから」
空太くんが言うと、
「悪いけどお願いね」
駐車場を出て少し歩いたところで蒼兄と別れた。
「大丈夫だよ」
空太くんは念を押すように、励ますように言ってくれる。それでも私は自信が持てない。
「だって、あそこ見てみて?」
空太くんが指差したのは校舎だった。
「翠葉も空太もおっそーいっ!」
飛鳥ちゃんが窓から身を乗り出していて、それを止めている海斗くんがいる。桃華さんは時計を指差し、「遅刻ギリギリよ」と口を動かした。
「ね? もし仮に翠葉ちゃんがそう思っていることに気づいたとしても、あそこにいるクラスメイトたちは変わらないと思わない? 時間が必要なら時間をかけてもいいからわかってよ。そうだな……たとえば、翠葉ちゃんが二十位脱落して生徒会から除名されたとしても、うちのクラスの出席番号二十八番は翠葉ちゃんで、その代わりになる人はいないんだよ」
空太くんがふわりと笑う。その笑顔は高崎さんにそっくりだった。
「空太くん、ありがとう……。わかってるの、わかってるんだよ……?」
「うん……わかってても踏ん切れないことってあるよね。だからさ、時間かけていいんだ」
――どうして、どうしてここにいる人はみんな優しいのだろう。
「わわわっっっ、泣かないでっ!? 翠葉ちゃん泣かせたら俺がみんなに殺されるっ」
「――それでも、ツカサは……ツカサは怒っていたよね?」
視線も声も冷たかった。それだけしか覚えていない。
「ん~……あの人は色々と複雑なんだと思うけどね」
「複雑……?」
「だって、翠葉ちゃんのかなり近くにいるじゃん。翠葉ちゃんは藤宮先輩をすごく頼りにしているでしょ?」
首を縦に振ることで肯定する。
「なのにさ……信じてくれているはずなのに、ひとり置いていかれるのが怖いとか、誰とも話せなくなるのが怖いとか、そんなふうに思われてたらショックじゃん。自分はそんなつもりないわけだからさ。……翠葉ちゃんが思っていることは、翠葉ちゃんにより近い場所にいる人がすごくショックを受けることだと思うよ」
ショック――
「うちのクラスなら海斗や佐野。桃や飛鳥。……でも、ショックを受けたとして、そのままでいる連中じゃないっしょ? 知った時点では怒るかもしれない。でも、そのあとに取る行動は藤宮先輩と同じ。猛反撃に出るよ」
そんな話をしていると、教室のドアの前まにたどり着いてしまった。
「翠葉ちゃんはさ、クラスに入るときまず何を見る?」
「……ひとつも欠けることなくきれいに並んでる机」
自分の机が定位置にあるとほっとする。
花瓶が置かれていないとか、何も落書きがされていないとか――ほかの机と何も変わらない自分の席があるとほっとする。
「俺は真っ先に翠葉ちゃんの席を見るよ」
「……どうして?」
空太くんを見上げると、
「いつも一番のりでしょ? で、誰かが入ってくるたびに目をやってはおはよって笑ってくれる。だから、まず翠葉ちゃんの席を見る。たぶん、みんな同じ。で、いないとあれ? ってなって、情報を持ってそうな桃に訊く」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。……最初の一歩、その勇気だけはご自分でご用意を」
空太くんがドアを開き、中へ促される。
「ほら、勇気総動員かけて右足出して!」
恐る恐る教室に足を踏み入れると、廊下側の一番後ろの席の小川くんに声をかけられた。
「珍しく遅いからどうしたのかと思ったよ」
「ね?」
空太くんに顔を覗きこまれて、また涙がじわりと浮かぶ。
「空太、何泣かせてんのよっ」
小川くんの隣の席の聖子ちゃんだ。
どうしよう……わかっているのに、どうしてだめなんだろう――
「翠葉ちゃん、焦る必要ないけどさ、川岸先生来たから席までは急ごう」
空太くんに背中を押されて教室を移動した。
「……翠葉?」
だって……。
「ツカサみたいにみんなが気づいているのだとしたら、すごく怖い……」
みんなが大好きなのは嘘じゃない。でも、その好きな人たちが離れていってしまうことが怖くて、いつも心の隅で怯えている自分がいる。
そんな自分は知られたくなかった。
信用していないわけじゃない、疑っているわけでもない。わかっているのに――わかっていても、どうにもできないの……。
「なんの話か話せるか?」
顔を覗きこまれ、一瞬うろたえる。
「……体調、今のうちに立て直さないといけないのはわかってる。でも、それができないのは――もちろん楽しいからっていうのもあるけれど、それ以外の理由もあって……」
蒼兄は何も言わずに聞いてくれていた。
「今は生徒会という場所があって、自分にも何かしらできることがある。でも、もし体調不良で自分がそこを離れなくちゃいけなくなったとして、誰かに迷惑をかけることも怖いけど、それ以上に自分がいなくてもどうにかなっちゃうことが怖い。……自分の居場所がなくなってしまいそうで、自分がいてもいなくても何も変わらないことを思い知るのが怖い。クラスも同じ……。自分ひとりがいなくても何も変わらないことがわかるのが怖い。それに、人と別行動を取ることでひとり置いていかれるのが怖い。また……誰とも話せなくなる日が来るのが怖い。――中学のときとは違うってわかっているの。わかってるけどっ――それでも学校を休んだ次の日に、教室のドアを開けるのが怖くて仕方ないっっっ」
息継ぎもままらなないくらい一気に話した。
こんなこと、人に話したことはなかった。話したくなかった。
誰かに聞いてほしくて、でも、誰にも知られたくなくて、どうしたらいいのかがわからなかった。
「蒼兄、怖いよ……」
ずっと下を向いていたら蒼兄が抱きしめてくれた。私は縋りつくようにその胸で泣く。
「中学のとき、そんなこと一度も言わなかったな……」
「だって……ただでさえ身体のことで心配かけているのに、学校のことまで心配かけたくなかったよ。それに……体調のせいだったとしたら、お母さんとお父さんがつらい思いをする」
こんな不安を打ち明けたら、大好きなお父さんとお母さんがどんな顔をするのか――
ふたりを傷つけてしまう気がして、怖くて話せなかった。
「蒼兄……私、知ってるのよ? お母さんが一時メンタルクリニックに通っていたの……。あれは私の体調が原因なのでしょう?」
「……翠葉が気づいているのは薄々わかってた。たぶん、母さんも……。それはちょっと置いておこう? 学校を休んだ次の日はすごく怖いんだろ? なら、今日も休まずに行ったほうがいいんじゃないのか?」
「……ツカサに『俺たちを侮るな』って言われた。『中学の人間と一緒にするな。考えただけでも虫唾が走る』って……。『俺たち』ってツカサのほかにあと誰っっっ!? 桃華さんも気づいていたらどうしようっ!? 海斗くんや飛鳥ちゃんも気づいていたらどうしようっ!? 同じだなんて思っているわけじゃないのっ、違うのっっっ」
「翠葉、落ち着こう? 司はただ、自分だちは中学のとき翠葉の周りにいた人間たちとは違うってことを言いたかっただけなんじゃないか?」
……そうなの? 本当にそれだけ?
蒼兄の顔を見ようと顔を上げたとき、玄関のドアを開ける音がした。
「おふたりさん、おはよ。……ごめんね、出るに出られなくて……」
高崎さんがマンションの一室から出てくる。
「翠葉ちゃん、とりあえず顔を拭こうか」
差し出されたのはホットタオル。
「す、すみません……」
「でね、翠葉ちゃん。司様との会話も粗方聞こえちゃったわけなんだけど、彼は翠葉ちゃんに対して虫唾が走るって言ったんじゃないよ? もう一度言われたことを思い出してごらん?」
タオルから顔を離し、高崎さんを見る。すると、高崎さんはふわり、と優しく笑った。
「司様は翠葉ちゃんの体調を優先するって言ってたし、それで翠葉ちゃんが葛藤しても悩んでも止めるって言ってたよね? それはさ、翠葉ちゃんをひとり置いていくつもりはないってことでしょう?」
わからない――
「逆にそこで悩んじゃうほうが司様は怒りそうだけど?」
あ――
「わかった? 侮るなっていうのは、自分たちは中学の人間たちとは違うんだから、要らぬことで悩むな、葛藤するな、ってことじゃない? ま、究極の思考翻訳だけどさ」
高崎さんは肩を竦めて見せた。そこにコンコン、という音が割り込む。
「そろそろ出てもいいでしょうか?」
高崎さんが出てきたドアから空太くんが顔を出した。
「ごめんね……俺も話を聞いちゃったんだ。ちょうど家を出ようと玄関で靴を履いた直後だったから……」
空太くんは頭を掻きながらばつの悪い顔で出てきた。
「そのさ……話を聞いちゃって申し訳ないとは思うんだけど、そのうえで俺の意見を言わせてもらってもいい? ――俺、結構ショック。翠葉ちゃんが中学のときにどれだけ嫌な思いをしてきたのかは知らないけど、少なくともうちのクラスには翠葉ちゃんを仲間はずれにするような人間はいないし、誰もが翠葉ちゃんを好きだと思ってると思う。その気持ちが届いていないのは正直悔しいよ。……だから基本姿勢は藤宮先輩と一緒。俺も戦線布告――そんなことが理由で翠葉ちゃんが必要以上にがんばるんだったら、俺も止める。止めても翠葉ちゃんをひとりにするつもりはないから」
そう言って手を差し出された。
「学校へ行こう」
「蒼樹、悪い。空太も一緒に車乗せてやって」
蒼兄ははっとしたように腕時計を見た。
「あ、やばっっっ。翠葉急ぐぞっ」
「きゃっ――」
有無を言わさず蒼兄に抱え上げられた。
走り出した蒼兄に並走する高崎さんが、
「はい、タオルはお預かりいたしまーす!」
手に持っていたそれを取り上げられる。
バタバタと車に乗せられ、学校に着いたのは二十分。三十分までには教室に着いていないと遅刻扱いになってしまう。
「蒼樹さん、ここからは自分一緒ですから」
空太くんが言うと、
「悪いけどお願いね」
駐車場を出て少し歩いたところで蒼兄と別れた。
「大丈夫だよ」
空太くんは念を押すように、励ますように言ってくれる。それでも私は自信が持てない。
「だって、あそこ見てみて?」
空太くんが指差したのは校舎だった。
「翠葉も空太もおっそーいっ!」
飛鳥ちゃんが窓から身を乗り出していて、それを止めている海斗くんがいる。桃華さんは時計を指差し、「遅刻ギリギリよ」と口を動かした。
「ね? もし仮に翠葉ちゃんがそう思っていることに気づいたとしても、あそこにいるクラスメイトたちは変わらないと思わない? 時間が必要なら時間をかけてもいいからわかってよ。そうだな……たとえば、翠葉ちゃんが二十位脱落して生徒会から除名されたとしても、うちのクラスの出席番号二十八番は翠葉ちゃんで、その代わりになる人はいないんだよ」
空太くんがふわりと笑う。その笑顔は高崎さんにそっくりだった。
「空太くん、ありがとう……。わかってるの、わかってるんだよ……?」
「うん……わかってても踏ん切れないことってあるよね。だからさ、時間かけていいんだ」
――どうして、どうしてここにいる人はみんな優しいのだろう。
「わわわっっっ、泣かないでっ!? 翠葉ちゃん泣かせたら俺がみんなに殺されるっ」
「――それでも、ツカサは……ツカサは怒っていたよね?」
視線も声も冷たかった。それだけしか覚えていない。
「ん~……あの人は色々と複雑なんだと思うけどね」
「複雑……?」
「だって、翠葉ちゃんのかなり近くにいるじゃん。翠葉ちゃんは藤宮先輩をすごく頼りにしているでしょ?」
首を縦に振ることで肯定する。
「なのにさ……信じてくれているはずなのに、ひとり置いていかれるのが怖いとか、誰とも話せなくなるのが怖いとか、そんなふうに思われてたらショックじゃん。自分はそんなつもりないわけだからさ。……翠葉ちゃんが思っていることは、翠葉ちゃんにより近い場所にいる人がすごくショックを受けることだと思うよ」
ショック――
「うちのクラスなら海斗や佐野。桃や飛鳥。……でも、ショックを受けたとして、そのままでいる連中じゃないっしょ? 知った時点では怒るかもしれない。でも、そのあとに取る行動は藤宮先輩と同じ。猛反撃に出るよ」
そんな話をしていると、教室のドアの前まにたどり着いてしまった。
「翠葉ちゃんはさ、クラスに入るときまず何を見る?」
「……ひとつも欠けることなくきれいに並んでる机」
自分の机が定位置にあるとほっとする。
花瓶が置かれていないとか、何も落書きがされていないとか――ほかの机と何も変わらない自分の席があるとほっとする。
「俺は真っ先に翠葉ちゃんの席を見るよ」
「……どうして?」
空太くんを見上げると、
「いつも一番のりでしょ? で、誰かが入ってくるたびに目をやってはおはよって笑ってくれる。だから、まず翠葉ちゃんの席を見る。たぶん、みんな同じ。で、いないとあれ? ってなって、情報を持ってそうな桃に訊く」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。……最初の一歩、その勇気だけはご自分でご用意を」
空太くんがドアを開き、中へ促される。
「ほら、勇気総動員かけて右足出して!」
恐る恐る教室に足を踏み入れると、廊下側の一番後ろの席の小川くんに声をかけられた。
「珍しく遅いからどうしたのかと思ったよ」
「ね?」
空太くんに顔を覗きこまれて、また涙がじわりと浮かぶ。
「空太、何泣かせてんのよっ」
小川くんの隣の席の聖子ちゃんだ。
どうしよう……わかっているのに、どうしてだめなんだろう――
「翠葉ちゃん、焦る必要ないけどさ、川岸先生来たから席までは急ごう」
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