光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
762 / 1,060
Side View Story 13

05~08 Side 海斗 02話

しおりを挟む
 これを逃がしたら最後――
「翠葉、ちょっといい?」
「え?」
 翠葉は手を止め俺を見た。
 話せるタイミングも場所もここしかない。
「みんな悪い。数分でいいからバックヤード使わせて」
 みんなの返事を聞く前に、翠葉の手を掴みバックヤードへ連れていった。
 連れていく、というよりは引き摺っていたかもしれない。
 バックヤードにいた人間も外に出し翠葉とふたりきりになると、ひどく緊張している自分に気づく。
 やば――
「海斗くん……?」
 きょとんとした顔が俺を見上げる。
「安心して? 告白とかじゃないから」
 にっと笑って見せたけど、翠葉は苦笑する。
「……教室に入ってきたときから何か変だったよね?」
「……本当に、俺は繕うのが下手だよなぁ」
 思わずその場にしゃがみこむ。
 すると、翠葉が目の前にちょこんと座った。
「何かあった?」
 若干覗き込むような仕草で訊いてくれる。
 こんなんじゃなくて、ちゃんと俺が「話す側」にならなくちゃいけないのにな……。
「翠葉、悪い……。うちの一族に巻き込むことになる」
 腹を据えて口にした。
「……え?」
「正確には、もうとっくのとうに巻き込んでた」
 あの司ですら、「今朝気づいた」と言うくらいにはみんながどうかしていたんだ。
 もう、ずいぶんと前から翠葉は「対象者」だった。なのに、どうして誰も気づかず、こんな大切なことを言わずにきてしまったのか……。
 これは司の失態じゃない。秋兄の失態でもない。
 こんなの、俺たちみんな連帯責任だろ?
 翠葉、悪いな――
「翠葉が俺たち藤宮とつながりが強いのは、傍から見て明らかだ。それはつまり、標的になりやすいってことなんだ」
 意思や声がぐらつかないように、ぐっと堪える。
 翠葉は何を言われているのか要領を得ないといった感じで、目を白黒とさせていた。
「幼稚部から一緒なわけでもなく、高等部からの入学でこれだけ藤宮の人間と深く関わっている人間ともなると、狙われかねない。普段の校内ならまだしも、外部から人が入ってくるとなると話は別」
「海斗くん、何? なんの話?」
 慌てた翠葉は少し身を引く。
 それも仕方ない、かな。
 言い始めたらあとには引けない。
 もっとも――あとに引く道なんて残されていないんだ。
「ごめんな。俺たちと関わっていると身の危険に晒される可能性がある。薬物と外から持ち込まれた飲食物――それだけは警備ではじけない。だから――」
 先に続ける言葉を探していると、ちょうどいいものが側にあった。
 それは翠葉の脇に置かれた飲みかけのペットボトル。
「開封済みのペットボトルや食べ物。一度でも自分が目を離したものは口にしないでほしい」
 翠葉の目が見開かれる。
 そうだよな……。この反応が正しい。
「本当にごめん……。薬物入れられてたら洒落にならないから。今日は色んなところで飲食物を出してるけど、俺か司が調達したもの以外は口にしないでほしい。もしくは湊ちゃんか秋兄。ほかからはもらわないで。もし、もらったとしても口にはしないでほしい。それを人にあげることも禁止」
「海斗くんっ」
「本当にごめん――」
 それしか言えない。
 これからも翠葉とは友達でいたいし、上辺だけの付き合いなんてしたくない。
 それなら、こうするしかないんだ。
「海斗くん……」
 どう思われただろう……。翠葉はこのあとどうするだろう。
 心が不安に支配され始めたころ、翠葉が口を開いた。
「それは、海斗くんもツカサも秋斗さんも湊先生も、みんな同じ?」
「え? あ……そうだけど?」
 驚きを隠せない、といった表情をしているものの、翠葉の纏う雰囲気からは「拒絶」を感じない。
 むしろ、なんか気遣われてるっぽい……。
「……大変なんだね」
 一度言葉を区切り、もう一度、
「すごく、大変なんだね」
 ひとつひとつ区切る話し方が妙に翠葉っぽいとか、俺はどうでもいいことが頭に浮かぶ。
「大変っていうのはもうないかな。ほら、小さいころからの習慣だから、さすがに慣れた」
 言いながら、思わず苦笑。
「……本当は、慣れてないよね? 顔がつらいって言ってる」
「っ――」
「教えてくれてありがとう。私と友達になってくれてありがとう。……言われたこと、気をつけるね」
 意外だった……。
 もっと、しどろもどろになって泣かれたりするかと思ってた。
 最悪、拒絶されることも考えていたのに――
「今言われたことを気をつけるとしたら、ミネラルウォーターをあらかじめ何本か買っておかなくちゃいけないよね?」
 対策まで練り始めた翠葉に唖然としてしまったけれど、はっと我に返り、
「それなら大丈夫」
「え?」
「図書棟にもステージ下にも、俺たちが出入りする場所には必ず未開封のペットボトルが常備されてる。それは常に警備の人間が管理してるから問題ないんだ」
「……そうなのね? 良かった……私、この格好で今から自販機まで行かなくちゃいけないのかと思っちゃった」
 そう言って、スカートの裾をきゅっと引っ張りながら笑う翠葉が天使に見えた。
 ちっこい翠葉をぎゅ、ってしたくなる。
「翠葉さん」
「ん?」
「ぎゅっ、てしてもいいですかね?」
 翠葉はびっくり眼で俺を見上げた。
 おっかしいなぁ……。
 今は互いが床に座っていて目の高さだってそんな変わらないはずなのに、どうしてこんなにちっさく見えるんだろ?
「っていうか、するけどねっ」
「えっ!? わわっ、海斗くんっ!?」
 腕の中に細っこい身体がすっぽりおさまり、長い髪からフローラルの香りがする。
 やましい感情は少しもない。ただ、抱きしめたかった。
 女子とか好きな子とかそういうものではなく――大切な、失いたくない友達として。
 司、悪ぃ……。俺、結果的には役得かも。
 というよりは、自分が翠葉に言えて良かった。
 俺が、自分から翠葉に言えて良かったと思えた。
「翠葉、俺も――俺も変わらないのかもしれない」
「ん?」
 いつもより近くに翠葉の声が聞こえる。
 至近距離だとこんなふうに声が聞こえるんだ……。
「友達を作るのは怖いよ。大切な存在を作るのは怖い。自分がそれを守る自信もないのに手に持つのは怖い。そういう意味なら、翠葉の言う『怖い』は理解できなくない」
 こんなこと、誰にも話したことはなかったし、直視することすら避けてきた。
 その結果のひとつが飛鳥であることにも今気づいた。
「……海斗くん、ありがとう。ありがとうね?」
 次の瞬間、俺の身体に翠葉の腕が回された。
 そして、俺がしたみたいに、翠葉にぎゅっと抱きしめられた。
「大丈夫だよ。……私は大丈夫だから、そんなつらそうな顔しないでね」
 言いながら、腰のあたりをポンポンと叩かれる。
「くっそ……普段弱っちく見えるくせに、こんなときは強いのな? ちょっとずりぃ……」
 俺は涙声になりながら、抱きしめる腕にほんの少し力をこめた。
「海斗くんたちが教えてくれたんだよ」
「え?」
「踏み出す勇気、信じる勇気、支えあえる関係」
 言葉をひとつひとつ区切り、最後に身体を離しては、俺と視線を合わせてにこりと笑う。
「怖いの……わかるって言ってくれてありがとう。でもね、踏み出した先には、信じた先には大好きな人たちがいたよ。だから、海斗くんもきっと大丈夫。ほら、私はここにいるでしょう?」
 翠葉は膝立ちになり、俺の頭にポンポンと軽く手を置いた。
 叩くとかそういう感じじゃなくて、すごく丁寧に手を置かれた感じ。
 今度は俺が翠葉を見上げる。
 そんな俺を見て翠葉は「おまじない」と口にして笑った。
 俺を安心させるように笑って見えたけど、その笑顔は偽物じゃなかった――
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...