【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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4.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と授業に参加する

4-4.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と授業に参加する

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「問題なく受け入れられるようだな、良かった。好きなだけ飲み食いしてくれ」
「ありがとう。ところでカリタス、甘いもの好きなの? もう焼菓子ないけど」

俺が目を向けた先には、焼き菓子が積んであったはずの大皿が置かれている。
けれど今は欠片しか残っておらず、気づいたカリタスは露骨に動揺していた。

「そのっ、すまない、一人で全部食べ尽くすつもりじゃなかったんだが!」
「怒ってるわけじゃないよ。カリタスの好きな物を知れたなって、思っただけ」

俺は空の大皿を引き寄せて、まだ中身が残っている袋にたくさん取り分ける。
そしてカリタスに差し出すと、彼は恥ずかしそうに受け取ってくれた。

「有事に備えて、素早く食事する癖をつけていた。だが品位に欠けるし、言い訳だ」
「前々から気になってたんだけど、カリタスって軍属とかだった? やけに強いし」

これは以前からの疑問であり、魔物に単騎で立ち向かえる事も拍車を掛けていた。
行動や生活環境からも、なにかを削ぎ落した印象を強く匂わせている。

(せっかくの機会だから、聞いてみよう。俺ってカリタスの事、何も知らないし)

以前なら立ち入らなかった話題だが、長く関わるなら多少の素性は教えてほしい。
そしてカリタスは僅かに言葉を詰まらせた後、観念したように口を開いた。

「私には、幼少期から服従魔法の才があった。故に家門の手駒にされていた」
「やっぱり、そういう経緯があったんだ。じゃあ人嫌いもその影響?」

想像通り、カリタスには普通ではない環境で生きてきた経緯があった。
であれば無力な半淫魔を、わざわざ選んだ理由に合点がいく。

「そうだ、私は魔物を違法取引する貴族の末裔だった。今は縁を切っているが」
(裕福ではあったのかな、幸せだったかは別問題だろうけど)

彼は類稀なる才能に恵まれていたが、生まれ落ちた環境が悪すぎたのだろう。
子供として守られるべき時期に、他者を虐げる道具として扱われていたらしい。

「怯える魔物達を服従魔法で支配し、引き渡していた。犯罪だと理解していたのに」

そして不幸にも彼の倫理観は歪曲せず、だからこそ罪悪感を持ち越してしまった。
更に一人で戦える強さがあったから、過去の傷を自分でも見逃している。

「でもそれ、悪い大人に唆されたんでしょ。カリタスは被害者だよ」
「幼くとも、私には力があった。単純な責任能力で片づける事が出来ない話だ」

俺がいくら庇っても、生真面目な彼は年齢を免罪符にする狡さを持っていない。
何度も嫌がるように首を振り、擁護を受け入れようとしなかった。

(聞いてるだけで辛いな。それでも俺は、力に対する憧れを捨てられないけど)

しかしカリタスの過去は壮絶だが、それでも力に執着する自分が手放せない。
だが辛そうに顔を手で覆う彼の姿は、理想として見るには悲壮過ぎる。

「貴族の館で反抗する魔物を、散々鞭で叩いたんだ。彼らの皮膚が裂ける程に」

見開かれている目は俺を映さず、過去の光景を繰り返し続けているのだろう。
荒くなる呼吸を落ち着けることもできず、虚空へと言葉を吐き出していた。

「……じゃあ顔の古傷も、その時につけられたの? もう痛くない?」
「稀に痛むが、自業自得だ。慰めを受けられるものじゃない」

カリタスは子供のように震え、力のない俺すら拒絶しようと身を竦めている。
けど下手に手を出して返り討ちに遭えば、多分傷つくのは彼の方だった。

「恨まれるのは当然だが、ずっと償う方法が見つからない。私は無力だ」
(もう俺の声、届いてなさそうだ。自然に落ち着くまで待つしかないのかな)

彼が抱えている罪は誰かにとっては本物で、許されるものではないかもしれない。
けど優しくしてもらった俺としては、今後幸せな人生を歩んでほしいとも思う。

「だから卒業後、静かな場所に籠ろうと考えている。もう誰も傷つけないように」
「俺はいいと思うけどな、無責任な期待に応える義務もないでしょ」

後ろめたそうに視線を逸らすカリタスに、俺は気に病むことはないと率直に伝える。
安寧への望みは誰もが持っているし、大した慰めにもならないと思ってたが。

(……あれ、カリタスの目が丸くなってる。驚くようなこと言ってないのに)

カリタスは何度か瞬きをしながら、時間が止まったように息を呑んでいた。
そして机に身を乗り出し、縋るような表情で俺を覗き込んでくる。

「本当にそう思ってくれるのか? 命を握っている主人への、機嫌取りではなく?」
「え、うん。何にも脅かされずに暮らすのって理想じゃない?」

勢いに気圧されながらも何度か頷くと、カリタスは強く唇を噛んだ。
そして俺の方に手を伸ばし、けれど触れる直前で引っ込める。

「そう言われたのは初めてだ。君にとっては些細な言葉なのかもしれないが、私は」

代わりに目を細めて、何かを押し込めたようなはにかんだ表情で感謝を伝えられた。
その内情は察せなかったが、カリタスの気が軽くなったなら良かったとは思う。

(まぁその生活を送る頃には契約が終了してるから、俺はいないだろうけど)

俺の役割は未来への繋ぎだから、彼の夢に存在することはできない。
けれどそれでいい、契約というのは必要な時だけ力を貸す行為なのだから。



授業に参加した日を境に、俺は部屋の外へと連れ出される事が多くなった。
目的地は様々で、今日は校内に訪れた行商の店に立ち寄っている。

「にしてもカリタス、色々と買い込み過ぎじゃない? 俺、今のままで十分だよ」
「生活が便利になるわけだし、必要経費だ。むしろ今までが足りなさ過ぎた」

部屋に戻ると、カリタスは抱えていた大量の荷物を次々と降ろしていく。
大半は俺の為に用意された生活用品で、未開封品もまだ残っていたが。

「それより新しい毛布の感想を教えてくれ。鷲獅子の羽根を使用しているらしいが」
(なんか随分楽しそうだな、カリタス。世話してもらってるのは俺の方なのに)

従魔の生活の質を底上げする為、今のカリタスは寝床作りを熱心に行っていた。
俺は床で寝れれば充分だと言ったのに、代替案で寝具に力を入れ始めている。

「あと衣類は、こんなに買わなくて大丈夫だよ。外出着があれば充分なんだから」
「それはディコラルタが勝手に送り付けてくるだけだ、好きに着てやってくれ」

積み重ねられた衣装も俺に贈られた物で、身に余る待遇に眩暈すら感じてしまう。
けど全てがディコラルタさんに用意された物ではないことを、俺だって知っていた。

「でも杖の魔道具は、カリタスが買ってくれたんでしょ。俺、魔法使えないのに」
「興味はあるように見えた。以前、魔法書の棚を熱心に眺めていたからな」

不出来な過去に触れられて不貞腐れる俺に、カリタスはそっと目を合わせてくる。
それに魔法に夢を見た時期もあったが、今はそんな気持ちなど消え失せていたから。

「昔の憧れだよ。……時々簡単なのを試して、成功する時もあるけどさ」
「ならば一緒に勉強していこう。私も、身体強化や服従魔法以外は得意じゃない」

そういうとカリタスは分厚い包み袋を解き、中から魔法書を取り出した。
そして俺に杖を持たせ、机に広げた大きな本を捲り始める。

(カリタス、ずっと優しいな。どうしたら、この人に報いられるんだろう)

契約が履行できているとはいえ、その対価に過剰なほど尽くされている。
それが弱者への哀れみだったとしても、俺には間違いなく救いだった。

(支配権を握られてるからじゃなくて、彼に応えたいってずっと思ってる)

強大な力を持っていても、他者に分け与えるかは別問題だ。
けれどカリタスは、惜しみなく俺に与えてくれていたから。
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