銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第5章 過去からの呼び声

休業1

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「……ってなことがあったんだよ」
 舞奈はくたびれた様子で、丸テーブルに突っ伏す。

 ここはネオンの横棒が消えかけた『画廊・ケリー』の店内。
 借りたガリルを返しがてら、舞奈はスミスにに事件の顛末を話していた。

 テーブルの対面では、遊び疲れたリコが机につっぷして寝ている。
 満ち足りた笑顔で握りしめているのは、河原で拾ったという綺麗な石だ。
 リコは舞奈とは対照的に、実りある休日を過ごしたらしい。

「あれでよく生きてたなって、今でも思うよ」
 側のサイドテーブルの上には、無造作に置かれたアサルトライフルガリルARM
 その側には黒くくすんだバナナ型の弾倉マガジンが2つ。
 強力無比な小口径ライフル弾5.56×45ミリ弾が35発も入る代物なのだが、今はどちらも空だ。

 刀也が祠を破壊した後、襲い来る無数の地蔵をすべて砕く羽目になった。
 阿鼻叫喚の大乱戦が終わる頃には舞奈は弾を撃ち尽くし、明日香もドッグタグを使い果たし、4体いた式神は1体になっていた。

「でも、志門ちゃんもお友達ちゃんも、相変わらず強いのね。それだけの人数を相手にケガひとつないなんて、洋画の主人公みたい。惚れちゃったかも」
 シナをつくる巨漢から気味悪げに目をそらしながら、
「……明日香が腕を撃たれた」
 舞奈はボソリと言った。

 明日香のワンピースは新素材を使った防弾仕様だ。
 だが袖は普通の布だ。
 少女の小柄な身体が着弾の衝撃で引き倒されるくらいなら、非致命部位への命中弾は貫通させたほうがリスクは少ないからである。
 だが、舞奈は納得などできない様子で言葉を続ける。

「シスターが気に病んで、報酬を上乗せしてくれたよ」
 苦笑する。

「それに、すぐサト兄の所に行ったから今は平気だ」
 古神術を嗜む悟は、呪術によって怪我を治すことができる。
 舞奈は仕事柄まともな医者には見せられない怪我をよくする。
 だから、たびたび悟の世話になっていた。

「けどな……」
 だが、明日香が仕事で傷つくことは稀だった。
 類稀な反射神経と身体能力を誇る舞奈が前に立ち、彼女を庇ってきたのだから。
 それなのに……。

「だいたい、悪いのは全部トウ坊じゃないか」
 舞奈の顔に浮かぶのは動揺、悔恨、そして、側にいた少女がいなくなる恐怖。
 そんな心の傷痕をトゲのある声色で覆い隠し、

「ゾマん時だって横からしゃしゃり出てきて邪魔してさ。いい迷惑だよ」
 片手で頬杖をついたまま、むくれる。

「バカは後から撃っていいっていう規定でもできればいいんだ、まったく」
「それじゃ、【機関】のルールが許したら、志門ちゃんはその子を撃てるの?」
「撃てるさ! あんな奴!」
 勢いにまかせて言う。すると、

「まぁ、志門ちゃんったら」
 そう言って、スミスはと店の奥へ向かう。

「殺し屋の子には、ごはん食べさせてあげられないわね」
「そりゃないよ。なぁ、今のはナシだ! 【掃除屋】は人命第一の安全運転だ!!」
「ふふ、分かってるわよ」
 慌てて立ち上がる舞奈に、店の奥から再びあらわれたスミスは笑みを向ける。
 そして、手にしたビーフシチューの皿を、丸テーブルにトンと置いた。

 そして、翌朝の教室。

「よっ、明日香」
 登校してきた舞奈は、ごく普通に明日香に声をかける。
 明日香はひと足先に席について授業の準備をしていた。

「おはよう、舞奈」
 明日香も普通に挨拶を返す。
 そんな彼女の、先日の事件で撃たれた腕をこっそり見やる。

「三剣さんの腕前は流石ね」
 舞奈の視線に、明日香は気づいたらしい。
 短い付き合いじゃないのだから隠し事は難しい。

「傷痕すら残らないし、入浴してもしみないわ。怪我したなんて信じられないくらい」
 入浴という単語につられた視線が、細い腕からふくらみかけの胸へと移る。
 だが怪我の件をうやむやにするには至らない。

「……でも、おまえが撃たれたって事実がなくなるわけじゃない」
「わかってるわよ」
 明日香は肩をすくめる。

 普段は飄々ひょうひょうとしている舞奈だが、ときおり過保護な一面をみせる
 それは彼女も知っている。
 側の少女が失われることへの恐怖を、できれば知られたくなかった。

「マイおはよー、安倍さんもおはよー」
 2人の微妙な静寂を破ったのは、能天気なチャビーの声だった。

「マイちゃん、明日香ちゃん、おはよう」
「2人ともおはよう」
「よっ、おはようさん」
 舞奈も笑みを取り繕い、チャビーと園香に挨拶を返す。

「マイちゃん、この前はありがとう」
「喜んでもらえてよかったよ」
 舞奈は笑う。

 数日前、懐が温かくなっていた舞奈は園香を商店街のケーキ屋に誘った。
 特に色っぽい展開もなく本当に2人でケーキを食べただけだが、園香はちょっとしたデートを楽しんでくれたようだ。
 明日香は面白くなさそうに視線をそらす。
 そんな明日香に、

「あのね、明日香ちゃんもありがとう。何度もこわい人たちから守ってくれて」
 園香はニッコリと微笑みかける。
「それに、この前はあんな危ないところまで来てくれたんだよね」
「例には及ばないわ。わたしにできることをしただけよ」
 真正面から好意を向けられて、さすがの明日香も表情を和らげる。
 そんな明日香を見やって、園香も笑う。

 明日香のおかげで、過去に幾度も園香や他の少女たちを救うことができた。
 それは紛れもない事実だ。

 その際たるは、誘拐された園香を救うべくアイオスと繰り広げた魔法戦だ。
 園香を取り戻すべく明日香が戦い、明日香のピンチに舞奈が駆けつけ、3人揃って生き埋めになりかけたところで奈良坂に救われた。

 すべてが終わった後、舞奈は心の底から安堵を覚えた。
 舞奈は仲間を、側にいた少女たちを失わずに済んだから。
 美佳と一樹のように、失わずに済んだから。

 だから舞奈も笑う。
 
 ちなみに、件の事件でアイオスが爆破した誘拐犯の何人かには息があった。
 瓦礫の下敷きになっていたところを執行人エージェントに救出されたらしい。
 今は明日香の実家が副業で経営している特殊病院に収容されている。
 アイオスの魔法にムラがあったのだろうか?
 脂虫の生死など人間が気にすることではないが、まあ悪運が強くてなによりだ。

「それより、調子はどうだ?」
 舞奈は園香に笑いかける。
「あのね、最近は物騒な事件が多いからって、奈良坂さんが一緒に帰ってくれてるの。でもこわいことは何もないよ。奈良坂さんもやさしくしてくれるし」
 園香の言葉に、明日香が訳知り顔で苦笑する。
 舞奈も「そりゃよかった」と笑う。

 九杖サチの一件は一応の解決を見せたものの、それ以前に園香を誘拐したアイオスは逃げたまま行方をくらませたままだ。
 それどころか、話によるとサチの一件に絡んできたらしい。
 なので、園香には引き続き護衛がつくことになった。

 それが家が近くて最初の護衛だった小夜子ではなく奈良坂なのは、小夜子が属する諜報部が忙しいためだ。
 サチの一件で脂虫が大量死したからだ。

 今は彼らの死を穏便に処理すべく、諜報部が順番に死傷事件を捏造している。
 だから最近の朝のニュースでは、毎日のように物騒な事件が報じられている。
 その中には信じられないような報道もあった。
 信じられないというのは、信じられないほどパンクで嘘くさいという意味だ。
 舞奈的には技術担当官《マイスター》ニュットに事件のネタを考えさせるのを止めるべきだと思う。

 そんなことを考えているうちに、園香とチャビーは自分たちの席に向かった。

「そういえば」
 舞奈は携帯の画面に【機関】のサイトを表示させ、ニヤリと笑う。
「アイオスの奴、けっこうな額の賞金がかかってたぞ」
「でしょうね。執行人エージェントの手に負えるって感じじゃなかったし」
 明日香は苦笑する。

 怪異や怪人への対処は、本来は執行人エージェントの仕事である。
 そして、彼らが対処すべきではないと判断された案件には報奨金が設定される。

 ひとつは、執行人エージェントが手を下す必要がないほどの小物。
 もうひとつは、執行人エージェントでは対処できない難物。

 舞奈たちが日常的に狩っている泥人間は前者だ。
 そして、明日香をピンチに陥れたアイオスは後者である。
 今頃、支部の掲示板ののピクシオンのポスターの隣には、アイオスとの単独での接触を禁止するポスターが貼られているのだろう。

 元ピクシオンとしてはエロシスターと並べられるのは心外だ。
 けれど明日香にとってはリターンマッチのチャンスである。だが、

「今回は降りるわ。しばらく仕事を休もうと思ってるの」
 明日香は面白くもなさそうに言った。

「どういう風の吹きまわしだよ?」
「なんだか最近、守りの弱さを痛感することが多くて」
「おまえのせいじゃないだろ。全部トウ坊の奴が引っ掻き回したからじゃないか」
「彼のせいで死んだからって、彼が生き返らせてくれるわけじゃないでしょ?」
 淡々と告げる明日香の言葉に、舞奈の顔が曇る。

「……足を洗うのか?」
「まさか。守りを固めるために新しい術を研究してるの」
 明日香は笑う。

「けど、実用化するには戦闘カンプフクロークにいろいろ手を加えなきゃいけないから、しばらく使えなくなるのよ」
「そっか」
 舞奈はひとりごちるように答える。

 ずいぶん急な話だなとは思うが、明日香を止めてもムダだ。
 クールで知的に見える彼女だが、好奇心に火が付くと止められない頑固者だ。
 こうなっては、もはや心ゆくまで上着を改造させてやるほかない。
 それに、明日香がより安全になるのだから、反対する理由などあるはずもない。

「いいよ。こっちは前の仕事の稼ぎでしばらく食っていけるから」
 舞奈は口元に笑みを浮かべて、言った。
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