銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第15章 舞奈の長い日曜日

おとなの乾布摩擦

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「で、どうすんだよ? この状況を」
「どうしましょうね」
 真神邸の応接間のソファに並んで腰かけて、舞奈は全裸幼女にジト目を向ける。

 商店街の一角で話しこんでいた舞奈とKAGE。
 そこにあらわれたのは、買い物帰りの園香とチャビーだった。
 舞奈は誤魔化そうとしたものの、園香の不信感を払拭するには至らなかった。
 なので、すったもんだの末、舞奈とKAGEは園香の家にお邪魔することになった。

 園香の御両親は少し早い昼食の後に揃って買い物に出かけたらしい。
 不幸中の幸いではある。
 行き返りに鉢合わせなかったことも含めて。
 厳格な親父さんに、商店街で全裸を引き回していたなどと(してないけど)知られたら身の破滅。真神邸に出入り禁止どころか園香との交際を禁止されかねない。

 そんな風に舞奈ひとりが戦戦慄慄とする中。
 園香は2人をダイニングに案内し、チャビーと共に席を外した。

 残された舞奈とKAGEの前のテーブルには小皿。
 乗っているのはサンドイッチと唐揚げ。
 昼食の残りらしい。

 そういえば今は少し遅いが、いちおう昼飯時ではある。
 だからか気を利かせてくれたのだろう。
 舞奈は『シロネン』で食べてきたが、甘いものは別腹(順番は逆でも可)である。

 なので焦燥を抑えがてらサンドイッチを手に取り、ひとかじり。

 ふんわりボリュームのある6つ切りパンにはさまれているのはポテトサラダ。
 なんでも親父さんが取引先から大量のジャガイモを贈答されたのだそうな。
 それを茹でて潰してポテトサラダにするあたりが園香らしい。
 園香の料理の腕はプロ並み、なのに小学生の溢れる若さで手間を惜しまず調理する。

 そんな彼女が御両親のために腕を振るったサンドイッチのポテトサラダ。
 ホクホクとやわらかく、絶妙な具合に形の残ったジャガイモが舌に馴染む。
 マヨネーズの風味が控え目なのはマッシュポテトの食感を引き立たせるためか。
 隠し味の塩コショウが、やわらかな食感に彩を添える。
 そんな食する者の心に寄り添うようなポテトが、アクセント代わりに細かくカットされたハムとキュウリと混ざり合って、口の中にうららかな春の日の花畑を再現する。

 そうやってKAGEと2人、うっとりとサンドイッチを堪能した後。
 皿の横に添えられた箸をどちらからともなく手に取り、唐揚げに手をつける。

 カリッと揚がった衣の食感に歯が喜ぶ。
 噛んだ途端、衣の中に封じられた肉汁が溢れだす。
 出汁と醤油と生姜のハーモニーが口の中いっぱいに広がる。
 そんな中、例えようもなくやわらかな鶏肉を贅沢に咀嚼する。
 最高だった。

 先ほどのポテトサラダを昼の花畑に例えるなら、衣に包まれた鶏肉は夜の営み。
 まるで一品の料理を通して、自身をこの世界に産んでくれた御両親に生きる喜びと感謝を伝えようとするかのように。

 園香はたった2品の料理で昼と夜、表と裏の悦びを表現してみせた。
 舞奈たちは、そのおこぼれをいただいていた。

「このポテト! もしや西欧の極小国家スカイフォール王国に伝わる伝説の――」
「くっちゃべってないで食え」
 感動を明後日の方向に吐き出したKAGEにツッコミを入れる。
 そして舞奈も昼と夜を、交互に、余すところなく味わう。

 そして、すっかり腹がくちくなった後。
 舞奈はダイニングの入り口……2階への階段の方向をちらりと見やる。

 そう。夢のような晩餐(昼だけど)は終わった。
 舞奈は現実と向き合わなければならない。

「これ、下手するとあたしが園香の家を出入り禁止になるんだぞ……」
 恨みがましく言いながら、隣で最後の唐揚げを堪能していたKAGEを見やる。
 そして頭を抱える。

 足音から園香とチャビーが2階へ行ったのはわかる。
 舞奈たちが食べ終わっても降りてくる気配がないが、何をしているのだろう……?

 問題なのは、2人が状況をどう判断しているか。
 具体的には全裸を見ているのか? いないのか?
 高等魔術による認識阻害【消失の衣バニッシュメント・コート】は対象の意識に対するジャミングだ。
 首尾よく魔法にかかっていれば2人はKAGEが服を着ていると思いこむ。
 その如何によって、舞奈が全裸連れ歩き犯として園香との交際を禁止されるかどうかが決まる。にもかかわらず、

「我が【消失の衣バニッシュメント・コート】を、普通の人間が見破ることは不可能ですよ」
「だといいけどな」
 KAGEは呑気な返事を返す。
 認識阻害への無駄な過信も、悪い意味で他の高等魔術師と同じだ。

「じゃあ、あいつら2階に何しに行ったと思うよ?」
「お茶のお代わりでしょうかね?」
「この家の2階に茶の出る施設はねぇよ。さっきは隣のキッチンから持って来たろ?」
「なるほど。むむむ……」
 KAGEは何やら不自然に沈黙する。
 その挙動が気になって、

「……ひょっとして、あいつらの心を読もうとかしてるのか?」
 ふと尋ねてみた。

 そんな可能性に思い至ったのは午前中に同行したアーガス氏の影響が少しある。
 あんなお人よしのマッチョですら【精神感知マインド・センス】なる能力を駆使し、廃ビルに逃げこんだ市民(脂虫だったけど)の精神を探知したのだ。
 高等魔術師の彼女なら心を読むくらいできても不思議ではないと思った。
 その上で、正直なところ知人の心を勝手に覗かれるのも面白くないので何か一言くらい言ってやろうと思ったのだが、

「……ふえぇ? いや特に何かしていた訳ではないですよ」
 ぼんやりしていただけだったらしい。
 それはそれでダメだろうと肩をすくめる舞奈に、

「まあ高等魔術には読心の魔術【思考読解リード・ソウツ】がありますし、超能力サイオンの【精神読解マインド・リード】でも人の心を読むことはできます」
 いちおう聞いてはいたらしく、KAGEは疑問に答えてくれる。

「ですが、その類の術や、そこから派生する精神操作の私的な使用は魔術結社でも平和維持組織でも推奨されないんですよ」
「難しいのか?」
 新たな疑問に、思わず問う。

「……といいますか、我々は人の肉体と精神を、家と家主に例えます」
「身体は人の心が住む家って訳か」
「はい」
 いきなり解説が始まった。
 正直なところ今は長話をしてる暇はないのだが、識者の話を遮るのも気が引ける。
 あるいは、彼女の話が事態の解消の糸口に……なればいいのだが。

「そして読心の技術とは精神を覗きこむ扉を開ける万能鍵のようなものです」
「そいつを使えば誰の家でも覗き放題って訳か……」
 そんな問答の中で、ふと気づく。

「なるほどな。勝手に人の部屋を覗きこむのは不作法って言いたいのか?」
「それもありますが……危険なんですよ」
「危険だと?」
 KAGEの言葉に舞奈は思わず首をかしげる。

「普通の人なら、部屋を覗いても『キャーエッチ!』で終わります」
「部屋で恥ずかしい格好してる前提なのか……」
「プライベートな部分は誰しもあるでしょう」
 妄言すれすれのKAGEの答えに苦笑する。
 そんな舞奈に何食わぬ顔で答えつつ、恥ずかしい格好の全裸は説明を続ける。

「ですが深層意識――例えるなら押入れに踏みこんだ場合は別です。心の押し入れは言うなれば本人しか扱い方を知らない精神的な道具や機械の仕舞い場所。覗き方によっては尖ったものや危険なものにうっかり触れて怪我をします」
「まあ言わんとすることはわかるが……」
 歯切れの悪い返事を返しつつ、話を自分なりに納得しようとはしてみる。

 例えば園香の心の押し入れには、料理に使う鍋や包丁が仕舞ってあるかもしれない。
 そこに本人の案内なく足を踏み入れて、うっかり踏んで怪我をするようなものか。

 舞奈が自分の知らない世界や業界について、その道を知る識者に頼るのと同じ。
 誰かの大事な世界は、その誰かを味方にしてから覗かなければいけない。
 その理を軽んじても碌なことにならないのは精神の世界も現実の世界も同じだ。

「それ以上に問題なのは魔道士メイジ……特に魔術師ウィザードです」
「……それ以上があるのか?」
「はい。魔法を使うための特殊な精神状態、その境地に至るための心の形、そう言った諸々の資質は、例えるなら心という部屋全体に展開された危険な設備です」
 剣呑な色を帯び始めた話に、舞奈は思わず側を見やる。
 だがKAGEは務めて平静を装った口調で言葉を続ける。

「相手の術者に受け入れられていない状態でその精神に接触した場合、接触を試みた術者は精神的に疲弊し、ダメージを被ります」
「……」
 無言で眉に皺を寄せつつ、言われてみれば納得できるのも事実だ。

 万物を操り、あるいは改変して様々な効果を及ぼす魔道士メイジたちが用いる術。
 それらは行使の過程すら人知を超える危険なものだと言うならば、そうなのだろう。

 もちろん魔法には危険とは程遠い、あるいは有益な手札も山ほどある。

 だが彼女の例えを使うなら、術者の精神とは缶詰工場のようなものか。
 創り出される缶詰に危険はなく、多くの場合は美味で有益だ。
 だが工場に忍びこんで機械に巻きこまれた場合はその限りではない。

 あるいはプラスの感情から魔法消去に使うマイナスの魔力を無理やりに合成している現場に踏み入れる羽目になると考えれば、自分もやってみたいとは思わない。

「そして施術中に接触した場合、最悪は接触者の精神が術に『消費』されて消えます」
「おい……」
 ちょっと肝が冷えた。
 自身が読心の手札を持っていなくて本当に良かったと思った。

 まあ彼女が……というか魔道士メイジたちが心を読もうとしない理由がわかった。
 それはそれで結構なことだ。
 そう思って、ふと気づき、

「なあ、その術者の精神状態とやらが周囲にダダ洩れるとどうなるんだ?」
 尋ねてみる。
 今しがたの問答で、火急ではないが深刻な問題の解決の糸口を見つけた気がした。
 だが、

「明日……知人の術者に、歌うだけで周囲がとんでもないことになる奴がいるんだ」
「いやあ。いませんよそんな人」
「いるんだよ」
「またまた舞奈さんってば……」
 そう言ってKAGEは笑うのみ。

 高等魔術師に否定されると余計に不安になるんだが……
 奴の歌は術者の知識をも超えた災厄だとでもいうのか……

 そんな風に舞奈が唸っている側で、KAGEは静かに目を閉じる。
 どうやら何かの施術を始めたようだ。

「……なに体張ったギャグしてやがる」
 心を読むのは危険だって自分で言ったばかりだろ。
 まあ園香は術者じゃないが。

「いえ流石にそれはしませんよ」
 KAGEはちらりと舞奈を見やる。

「透視と遠距離視覚の魔術【魔術の目ウィザード・アイ】で園香さんの様子を伺おうと思ったのです」
「そうかい」
 問答するうちに、

「……?」
 KAGEの表情が不自然に変わった。
 言い訳しながらも施術を済ませ、視界に別の情報が映ったのだろう。
 流石は高等魔術師である。
 まあ前後のアレな言動のせいで、これっぽっちも尊敬する気にはなれないが。

「……で、何してたんだ? 園香」
「女物の服を持って……」
「バレてるじゃねぇか」
 全裸が。
 なので替えの服を選んでいたらしい。
 園香は変態の奇行に対しても、普通に善良に対応する。

「……階段を降りてます」
「おい」
 透視した意味がないだろう、それは。
 まあ舞奈とKAGEが無駄話していたせいもあるのだが。

 そんな風に2人がぐだぐだしているうちに、

「マイちゃん、おまたせ」
「影浦さんもおまたせー」
 園香とチャビーがやってきた。
 影浦さんと言うのはKAGEが2人に名乗った名だ。
 本名なのか偽名なのかは知らないが。

「あの、これ、お母さんのお古なんですけど、よかったら……」
 園香は手にした服一式を差し出す。

 何か言いたげな園香の視線。
 ちらちらとKAGEを見やるチャビー。
 そんな2人を見やった舞奈の瞳から光が消えた。

 2人が全裸を見抜いているのは一目瞭然だ。
 もはや疑いようも、誤魔化しようもない。

 それにしても園香は自分の替えの服ではなく母親のお古を持ってきた。
 KAGEの中身が大人だと見抜いていたのだろうか?
 舞奈が相手の挙動や筋肉の動きで正体を見抜くのと同じ。
 相手の心を術も使わず察することできる園香も、KAGEの正体を見破っていた。
 子供と、図体だけ子供の大人は立ち振る舞いが違う。似合う服も違う。

「(どうするんだよ)」
「(……)」
 舞奈とKAGEは額に嫌な汗を滴らせながら視線を交わす。
 そして次の瞬間、

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫!」
 KAGEが唐突に立ち上がった。
 貧相な全裸のまま園香とチャビーに向き直り、

「実はわたしは大人の乾布摩擦の最中だったのです!」
(どんな言い訳だよそりゃ!)
 言い放たれた戯言に、舞奈は内心ツッコミをいれる。
 盗み見た全裸幼女の表情からは、彼女が何を考えているかはわからない。

(だいたい、どんな乾布摩擦だよ……)
 反応に困りつつ、

(……って、おい)
 KAGEを睨む。

 緊迫した状況のせいで過敏になったせいか、空気の流れで気づいた。
 このインチキ幼女、商店街で生やしてから処理もせずそのままだった下の毛を、一本だけ引っこめたりのばしたりして遊んでいるのだ。

(この野郎! 真面目にやる気あるのか!?)
 ヒートアップしかけるが、2人の前でツッコむ訳にもいかずに口をつぐむ。
 ここが舞奈の命運の分岐点だ。
 かなり詰んでいる気がしなくもないが……

 そんな2人をチャビーは「?」と不思議そうに見ている。

 園香は「ええ……」みたいな表情をしている。
 それはそうだろう。
 舞奈も同じ気持ちだ。

 だがKAGEを止めさせた後にどうするかなんて考えもつかないのも事実だ。
 だから、そのままやらせておくしかない……

「人が多そうな場所でしたほうが、見られるかもしれないと思ってドキドキしますし」
「……」
 園香はちらりとチャビーを見やる。
 この先の話を、お子様チャビーに聞かせて良いかどうか不安になったのだ。
 舞奈も同じ気持ちだ。
 そんな2人の表情の変化に気づいたか、

「も、もちろん乾布摩擦が終わったら服を着て帰るつもりでしたよ!」
 そう言って、何処からともなく服を取り出してみせた。

(お、おい!?)
 いきなりの暴挙に流石の舞奈も思わず目を見開く。
 明らかに魔法だ。
 空間湾曲は不得意だと言っていたので式神の理論を応用した隠しポケットだろうか?

「ビックリしましたか?」
(ああビックリしたよ!)
 悪い意味で。

「これは大人袋といって、大人にしか見えない不思議な袋なのです! そこに帰りに着る用の服を入れていたのです」
(いや不思議すぎるだろう! 後のフォローとかどうするつもりだ?)
 彼女が繰り広げる奇抜な理論に、内心のツッコみが追いつかない。

 そういえば、ふと以前に梨崎邸でウィアードテールごっこをした際、公安の子供向け番組みたいな口上に明日香がツッコみまくっていたことを思い出した。
 あの時の彼女の気持ちが少しわかったような気がする。

 ――いや待てよ。
 まさか、あの口上を考えたのは……。

 そうやって舞奈がドン引き、園香もフォローの仕方がわからず困惑していると、

「わかった! 乾布摩擦マンだ!」
 今度はチャビーが素っ頓狂な声をあげた。

「……わかったのか?」
 思わず園香を見やると、

「う、うん。朝の子供向け番組に、乾布摩擦のコーナーがあるけど……」
「そうか……」
 そんな答えが返ってきた。
 まったく、朝からろくでもない番組をやってるんだな……。

「かんーぷまさつでじょうぶなカラダ♪」
「乾布摩擦で元気な体♪」
「「か、ん、ぷ、ま、さ、つ、を、みんなでしようー♪」」
 チャビーとKAGEは声をそろえて歌い出す。

 そして、ひとしきりデュエットを楽しんだ後。
 なし崩し的に意気投合した2人は今度は雑談に花を咲かせた。
 話題は子供向け番組だ……

 そんな2人を遠巻きに見やりながら、だが舞奈は深く安堵した。
 全裸は見抜かれていたものの、どうやら舞奈が全裸幼女を連れ歩いていた疑惑は晴れたようだ。……というか有耶無耶になった。

 チャビーはKAGEと仲良くなって、それで満足しているようだ。
 そんな2人を見やった園香も今は普段と同じように微笑んでいる。
 園香は周囲の皆に規律を守らせたいのではなく、幸せであってほしいのだ。

 舞奈にはどうすることもできない理由で舞奈に降りかかった社会的なピンチ。
 そこから舞奈を救ったのも、舞奈には理解できない謎の理論の飛躍だった。
 ひょっとしたら裏の世界の荒事に対して、余人が舞奈たちに向ける感覚も似たようなものかもしれないと、ふと思う。そうしながら、

「その…………なんだ。世話かけてスマン」
「ううん、いいの。影浦さんやマイちゃんが困ってるんじゃなくて良かった」
 苦笑しながら見やる舞奈に、園香も安堵の笑みを返す。

 まあ舞奈は割と困っていたが!

 ……それはともかく、舞奈は側の少女を守るために最強の銃技で戦うことができる。
 園香は友人の笑顔のために、心尽くしでもてなすことができる。
 舞奈とKAGEを自宅に招いた理由も、純粋に全裸を心配したからだ。

 生きる世界も性格も真逆な2人は、あんがい似た者同士だったりもする。
 だから舞奈は園香に、園香は舞奈に、互いに惹かれ合っている。

「そういえば影浦さん、委員長のお家にいた婦警さんに似てるね」
「ふぁっ!? い、いえ……他人ですよ? その人わたし知らないですし……」
 無邪気なチャビーの言葉にKAGEは珍しく動揺する。

 まあ確かに件のウィアードテールごっこの際、チャビーと桜を捕まえたのは彼女だ。
 その後に話すかなんかして、そのときのノリが今と同じだったのだろう。
 もちろん【形態変化シェイプ・チェンジ】で変身した婦警の彼女は、今の彼女と背格好が違う。
 だがチャビーはお子様だが馬鹿じゃない。
 まあ、ここらで少し肝を冷やしておくのもKAGE自身のためだと舞奈は笑う。

 と、まあ、そうこうした後。
 舞奈とKAGEはサンドイッチと唐揚げのお礼を言って、真神邸をおいとました。

「やれやれ、どうにか丸く収まった」
「いやあ、よかったですね」
「元はあんたのせいだろ」
 並んで出てきたKAGEをジト目で見やる。

 側の小洒落たブロック塀の上を、ツンとすましたシャム猫が上品に歩く。
 これでも讃原さんばら町を縄張りにしている野良猫だ。
 ひとつピンチを切り抜けて弛緩していた舞奈は猫に微笑みかけ……

「……おい」
「何か?」
 目を戻すとKAGEは早くも服を脱ごうとしていた。

「いや、そのまま着てろよ」
 思わずKAGEを睨みつける。
 懲りるという言葉を知らんのかこの女は。

「っていうか、遊んでる場合じゃないだろ。アーガスさん待ってるぞ」
「それなんですが……」
「なんだよ?」
「先ほど楓さんからメールで呼ばれまして、これから支部にとんぼ返りを」
「ちょっと待て! 約束はどうするつもりだ」
「そちらはまかせました」
「あっ待ちやがれ……!」
 止める間もなくKAGEは走り去った。

「せめて先方に連絡いれてけよ……」
 愚痴りながら、仕方なく舞奈はひとり公園へと足を向ける。
 走ったりしないのは、今さら数分の時間を惜しんでも変わらない気がしたからだ。

 アーガス氏と別れてから1~2時間は経っているだろうか。
 いくら彼でも不審に思って帰ったかもしれない。
 あるいは場所を変えるか相手を探している可能性は高い。
 どちらでもなければ彼は公園で訳もわからず待ちぼうけしていたことになる。
 酷い話もあったものだ。

 だが舞奈はアーガス氏の連絡先を聞いていない。
 ……なので歩きながら考えた末、携帯を取り出す。

 目当てはテック。
 ミスター・イアソン似の金髪マッチョの居場所を調べてもらおうと思ったのだ。

 スーパーハッカーの彼女は街中の防犯カメラを調べることができる。
 そのおかげで大事な誰かの危機に対処できたことも何度かある。
 場合によっては何らかの手段で先方に言伝することもできるかもしれない。
 そして彼女は休日に好んで外出するタイプではない。

 まったく、持つべきものは友である。
 こんなしょうもない理由で力を借りるのは申し訳ないが。
 今度、何処かで美味い飯でもおごるとしよう。
 そんな事を考えながら携帯を取り出した途端、

「うおっ」
 携帯のほうから鳴りだした。
 番号を見ると、麗華様の取り巻きのデニスからだ。珍しい。

『舞奈様! 出ていただけてよかった』
『持つべきものは友ンすね!』
 電話に出た途端、デニスとジャネットの声が溢れだす。

「休みの日に、おまえらから電話なんて珍しいな。どうしたよ?」
 意識して気さくな声で問いかける。

 デニスとジャネットは西園寺麗華の取り巻きだ。
 そして麗華は何かと舞奈や明日香を目の敵にしている。
 そんな彼女らが、うららかな日曜の午後に舞奈に何の用だと訝しんでいると、

『麗華様が……何者かに誘拐されました』
 電話口から、強張ったデニスの声が聞こえてきた。
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