中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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おまけ

【短編】誕生の記2

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 雪がエマの寝室を訪れると、窓から射し込む光に包まれたベッドの上で、エマが穏やかに微笑んでいた。
 その隣では、セイルがまるで騎士のように静かに控えている。

「具合はどう? 痛みはある?」

 雪が淡々と問いかけると、エマは苦笑しながら首を横に振った。

「それが……全く痛みがなくて」

 雪は頷きつつ、エマの下半身に掛けられたシーツの中を覗き、慎重に状態を確認する。

「……まだそんなに開いてなさそうだね」

 そう言いながら、雪はちらりと視線を横に移す。
 不自然なまでに真剣な顔をしている父に、ふと問いかけた。

「まさかとは思うけど……治癒の力を使ったりしてないよね」

 その瞬間、セイルの目がかすかに揺れた。
 分かりやすい肯定だった。

 雪は深くため息をつく。

「出産は怪我じゃないの。もし開きかけた子宮口が塞がったら、赤ちゃんが出られなくなるのよ」

「……確かに」

 明らかに下手を打ったセイルは、たちまち青ざめた。
 項垂れる父に、雪は医師として真剣な声を落とす。

「いい? これからお母さんがどんなに泣いて助けを求めても、何時間経っても、生まれるまでは治癒の力は禁止。絶対に」

 その言葉に、エマもセイルも同時に息を呑んだ。
 やがてセイルが、苦渋の決意をにじませて頷く。

「……分かった。雪、エマを頼みます」

 エマは不安げに娘と夫の顔を交互に見やる。
 雪はそんな二人を見つめ、力強く頷いた。

「それじゃあ、伯爵様は退室してください。これから処置を始めます」

「処置?」

 怪訝に眉を寄せたセイルは、次の瞬間には雪にぐいぐいと押し出され、あっけなく部屋の外へ追い出された。

 エマはきょとんとした顔のまま、雪を見上げる。
 雪は落ち着いた手つきで医療用の手袋を嵌めながら、さらりと言った。

「陣痛が来るように、少しお手伝いするの」

「え……何を──」

 言葉を終えるより早く、エマの身体に脳天を突き抜けるような衝撃が走った。
 全身をかき乱されるような激痛に、思わず背をのけぞらせる。

「──っっっ!!!!」

 呼吸も忘れるほどの苦痛。
 だが雪が手を離すと同時に、嘘のように痛みは引いていった。

「まだ全然開いてないね。赤ちゃんも降りてきてないみたい」

 平然と告げる雪に、エマは涙目で縋る。

「い、痛かったわ……」

 それは今までの触診とはまるで違う、全身を突き刺すような痛みだった。

 雪は手袋を外しながら、柔らかな微笑みを浮かべた。

「痛いよね。でも大丈夫。これから数時間ごとに繰り返せば、陣痛が起きやすくなるから」

「え……?」

 愕然とするエマに、雪は明るく言葉を重ねる。

「さぁ、頑張ろうね」

 医師としての揺るぎない笑みに、エマは先ほどの痛みを思い出して身を竦ませる。
 再び訪れる恐怖と、迫り来る誕生の瞬間に、心臓が激しく高鳴っていた。
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