ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?

浅野明

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第一章 新しい世界

スラム街と呪われた獣人

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スラム街。

それは、小説や漫画にはよく出てくるものの、日本で普通に生活している分にはほとんど見たことがある人はいないだろう。蓮とて、知識ではしっているものの、実際に目にしたのは初めてである。周辺にある建物はどれも今にも倒壊しそうなほどボロボロで、道端にはあちこちに大人、子供問わず人が転がっている。

道端にいる人々の多くは獣人だが、人間やエルフなどもちらほら見かける。その瞳はうつろで、蓮は思わず足を止めてしまった。このような人々を見るのは初めてで、蓮は怖くなってしまったのだ。

道は小汚く、全体的に空気もよどんでいる気がする。これ以上進んではいけない、と本能が訴えてくる。人の数は多くはないが、かといって気にならないほど少なくもない。

「こっちだよ」

腰が引けてしまっている蓮に構わず、獣人の子供はぐいぐい彼女を引っ張っていく。けれど、脚に根が生えたように止まってしまって、なかなか先に進むことができない。彼女は特別臆病ではないが、さりとて、この先にいってはいけないという本能の警告を無視できるほどには図太くも無謀でもないのだ。

「どこまで行くの?」

足は動かないものの、とりあえず、このまま黙ってじっとしていても怖いので、気になることを聞いてみる。

「もうちょっとだよ」

そもそも、勝手に手を引っ張ってこられているので、彼女はどこに向かっているのかも、なぜ向かっているのかもわからないのだ。そのことが、より一層不安を掻き立てる。それも、足が動かなくなってしまった要因の一つだろう。

「ここって色々なヒトがいるのね」

「うん、初めは僕らだけだったけど、いつの間にかどんどん集まってきて・・・・・」

そこまで行って、子供は言いよどむ。ちらりとグレイを見て、さっと視線を逸らすと、また蓮を引っ張り始めた。

「とにかく早く、急いで」

動いてよ、と蓮をぐいぐい引っ張る。

「そんなこと言っても・・・・・」

獣人は身体能力に優れているものが多い。相手は子供とはいえ、今は蓮も子供(実年齢はともかく)である。ぐいぐい引っ張られても、なかなかついていくのは難しいのである。それに、せめて目的地や何のために連れていきたいのかだけでも行ってほしい、というのが本音だ。ちらりとグレイとシャナを見やると、二人とも笑顔でうなずいてくれる。

(ついていっても大丈夫ってことだね・・・・)

きっと、本当に危険があるなら、彼らは絶対に蓮を行かせはしないだろう。二人のまなざしからは、蓮に対する深い愛情が見て取れる。精霊というモノは、いたずら好きも多いが、愛情深いのだとシャーレイがいっていた。

「そんなに早くは無理だよ」

立ち止まっている間に多少回復したものの、またもや速足で歩かされてそろそろ息も上がってきた。この体のことはまだよくわからないもの、もともと運動自体好きではない蓮は、日本にいた時は完全に引きこもりだったのだ。ちょっとは気を使ってほしいというのが本音である。

「体力ねえな」

「そんなんじゃだめよう」

息一つ乱さずについてきている、グレイとシャナが言う。彼らは、ゆっくりと歩いているようにしか見えないのに、蓮に遅れることなくぴったりとついてきている。いったいどうやって歩いているのか、非常に謎だ。気になるが、それよりも息が上がってそろそろ限界である。何とかならないものか。

「仕方がないぞな」

蓮がそろそろ倒れそうだな、と思っていると、シャーレイが少しは運動も必要ぞな、とわざとらしくため息をつく。それでも何かをしたらしく、蓮の足取りが軽くなった。心なしか疲れも取れて、体も軽い。

「おお、ナニコレ、すごい。‥‥でも初めからこうしてくれればよかったんでは?」

「ダメ人間になるぞな。ちゃんと自分で運動するぞな」

以外に厳しいシャーレイさんである。蓮はしぶしぶうなずきつつ、それでも助かった、とシャーレイに笑顔でお礼を告げると、パタパタと激しく羽根を動かしながらくるくる回り始める。喜んでいるようだが、頭上でされるとうっとうしいのでおとなしくしてほしい。

「着いたよ」

「わっ」

いきなりピタッと止まった獣人の子供に、ドン、とぶつかる蓮。急に止まった彼をすごいとは思うが、蓮は急には止まれないのだ。ブレーキは早めにかけるのが鉄則と思う蓮だった。

「もう、急に止まらないでよ」

「え、あ、ごめん」

文句を言うと、獣人の子供は耳をぺたんとさせてしょぼんとした顔であやまってきた。被害を被ったのは蓮であるのに、なんだかいじめている感がすごい。

「むう、納得いかない」

「なにがだ?」

「どうしたのよう」

グレイとシャナがのぞき込んでくるが、蓮は何でもないと首を振って、改めて目の前の建物を見る。屋根はボロボロで所々剥げており、壁にはいくつもの亀裂が入っている。支えている柱も、なんか箇所か腐食しているのが見える。目に見えないところもきっとボロボロなのだろう。

「ええと、入ったとたんに崩れたりしない?」

「大丈夫だよ。そう簡単に崩れるわけないだろ」

胸を張って断言された。どや顔である。むしろ、蓮としてはその自信はどこから来るのだと問いたい。中に入って5秒後に建物が崩れたとして、蓮は驚かないだろう。

「ほら、早く!」

手招きされて、ためらいながら蓮は中に足を踏み入れる。やっぱり、シャーレイの言ったとおりに、関わらない方がよかっただろうか、とちらりと思ったものの、いまさらだと腹をくくった。

「お、おじゃまします・・・?」

それでもつい挨拶してしまうのは、日本人だからだろうか。こわごわ足を踏み入れる蓮に続いて、グレイとシャナは遠慮なくずかずかと入り込み、中に足を踏み入れた途端にさりげなく蓮の前に出て、いつの間にか蓮の目の前に来ていた犬の獣人が蓮に触れようとするのを遮った。

「レンに気安く触れるな」

「ウィザー?!何をしようとしている!」

「シュウ、お前本気でこんな子供が俺たちの呪いを溶けると思っているのか?そんなわけないだろ、あいつらに騙されてるんだよ。いい加減目を覚ませ!」

犬の獣人に強い口調で言われて、蓮をここまで引っ張ってきた猫の獣人が悔しげにうつむく。

「そんなことないよ。彼女の言うことはきっと正しい。これまでだってそうだっただろう?」

「あんなの、ただの偶然だ」

「ちがうよ!彼女は僕たちの助け手だ。母さんだって治してくれるに決まってる」

「そんな夢みたいなことばかり言ってないで、パンの一つでも貰って来いよ」

犬の獣人はじろりと蓮たちをにらみ、「こいつらは奴隷商にでも売ればいい」と言い放つ。

正直、蓮たちは完全に置いてきぼりである。何を言っているのかさっぱりわからない。だが、犬の獣人からの敵意は、蓮であってもはっきりと感じ取れる。精霊王たちは、なおさらだろう。けれど、グレイが一歩前に出ようとしたところをシャナが止める。

「ふふ、だめよう。あなたは少し落ち着くべきなのよう」

「ああ?!」

「ここはわたしにまかせるのよう」

にこやかに言い放つシャナがぱちんと指を鳴らすと、犬の獣人の頭上から大量の水が降り注ぐ。すぐ近くにいる蓮には水しぶきの一つもかからないが、犬の獣人とついでに猫の獣人、なぜかグレイまでびしょぬれになってしまった。

「とりあえず、頭を冷やすことも大切よう」

何気にやることに一番容赦がないのは、シャナではないかとそっと目の前の惨状から目をそらす蓮だった。



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