8 / 9
第一章 新しい世界
精霊王と王都散策2
しおりを挟む
蓮が思っていたより王都は広く、さまざまな店があった。服飾も異世界転生ものにありがちなデザインがイマイチとか、素材がイマイチとかいうこともない。むしろ、さらりとした肌触りの良い柔らかな生地は、日本でも見たことのないものだ。
食べ物の屋台も豊富で、味付けもしっかりしている。日本にいたころと同じくらい充実している、というほどではないが、なかなかの満足度であるといえるだろう。どうやら、この世界は科学の発展はそれほどでもないが、魔道具などが電化製品の代わりなどをしているようである。そのため、場合によっては、日本よりも便利に感じる部分もあるようだ。
「思っていたより快適な生活ができそうだね」
「そうねえ。都市部はかなり発展しているものねえ」
「そうぞな。こういった部分はどの種族よりも人間が得意とするところぞな」
シャナの言葉に、シャーレイが器用にうなずいて同意を示す。この世界には獣人族や竜人族、エルフなどさまざまな種族がいるが、生活面を豊かにすることにかけては人族がもっともすぐれているらしい。ちなみに、魔法の扱いではエルフが、戦闘能力においては竜人族が優れているというように、種族によってそれぞれ特色があるようだ。こういった部分は、蓮が読んでいた小説や漫画に通じるものがある。
ともあれ、クレイやシャナ、シャーレイとの王都散策は存外に楽しい。屋台の食べ歩きも楽しく、目新しいものが多くあるのでついつい目移りしてしまい、あれもこれも食べてしまった。ちょっと食べすぎて気持ち悪いまである。
「うーん、食べすぎちゃった。気持ち悪っ」
「我にまかせるぞな」
失敗した、と反省していると、頭の上でいきなりシャーレイがタップダンスを踊り始め、一瞬ぴかっと小さく光る。
「何を‥‥おお?気持ち悪いのなくなった」
むしろ、今日一番に具合がいい。
「ふふ、さすがは光の精霊王ねえ」
回復は、光系統の精霊の十八番とのことのようだ。「でもそれくらいワタシにもできるわよう」と、謎の対抗意識を燃やすシャナ。だが、なぜタップダンス?なんでもいいが、人の頭の上で踊るのはやめてほしいものである。それはそれとして、治してもらったのは確かなことだ。
「ありがとう、シャーレイ」
気分が良くなった蓮が素直に礼を言うと、シャーレイは蓮の目の前にパタパタと飛んできて、まんざらでもなさそうに胸を張った。うん、かわいい。ついもふってしまったのはご愛嬌というものであろう。と、もふもふしていると、じっとこちらを見つめている子供に気づいた。なにやら、頭の上にネコのような耳がついている。全体的に薄汚れているが、顔立ちは悪くないようだ。大通りから少しはなれた、細い路地の入り口辺りからこちらをみている。
「おお~かわいい。もしかしてあれが獣人?」
「ほんとうねえ。こんなところで獣人を見るなんて珍しいわねえ」
「だな」
シャナの言葉に、クレイがうなずく。
「珍しいの?」
確かに、道行く人をみても、獣人らしきヒトはみない。
「獣人はねえ、もっと南の方に住んでいる種族なのよう。この辺りの気候は体質的に合わないようなのよう」
「へえ~」
では、あの子供たちはどこから来たのだろうか。何より視線がすごい。ものすごい圧を感じる。穴が空きそう。
「よし、声かけてみよう」
「やめておくぞな。あの子らには呪いがかかっているぞな。関わり合いになるのはおすすめしないぞな」
呪い、といった不吉な単語に、蓮は眉をひそめた。彼女が見たところ、多少薄汚れてはいても、特別憔悴している様子はないし、小説や漫画にあるような黒い靄をまとっているわけでもない。呪いといわれても全く実感がわかない。
「呪いって‥‥本当?」
「精霊は嘘なぞつかないぞな。我は呪いの類には敏感ぞな」
頭の上でパタパタと羽根を動かしながら、あれだけ濃い呪いをまとっていれば下級精霊にだってわかると断言するシャーレイ。そこまで言われれば、蓮としても納得せざるを得ない。とはいっても、このまま放置するのもなんだかすっきりしない。
「声をかけるだけで危険?」
「いや、そのようなことはないぞな。かかわったとて、我らがおるでの。主にそこまで危険は及ばぬぞな」
「なんかあってもお前は俺が守ってやるよ。コイツらはともかく、お前には傷一つつけねぇから安心しろや」
ニヤリと笑いながら、クレイが乱暴に蓮の頭をなでる。髪がぐしゃぐしゃになるからやめてほしいものだ。だが、守ってくれるというなら安心である。この世界の精霊王は、地域によっては神と崇められるほどに力があるのだから。
「わかった」
うなずいて、蓮は結局声をかけることにした。その間も、獣人の子供がじっと蓮を見ていたからだ。
「ねぇ、なにか用?」
ててっと近づいて、脅かさないように小さく声をかける。
「あ、えっと」
獣人の子供は、蓮とクレイ、シャナを順に見て、蓮の手を取った。
「こっち」
「え?」
かと思うと、いきなり蓮を引っ張る。
「おい!」
「まつのよう。ついていくのよう」
蓮から獣人の手を離そうとしたクレイに、シャナが待ったをかけた。
「イヤな予感がするのよう」
シャナは水の精霊王。少し先の未来を視る力がある。そして、他のどの系統よりも優れた直感力も。その直感が、今はついていくべきといっている。蓮の頭上にいるシャーレイも、何かを感じとっているようで、静かに辺りを観察していた。
そうして、彼らはたどり着いた。この国の最底辺。王都でもっとも貧しい場所、スラム街に。
食べ物の屋台も豊富で、味付けもしっかりしている。日本にいたころと同じくらい充実している、というほどではないが、なかなかの満足度であるといえるだろう。どうやら、この世界は科学の発展はそれほどでもないが、魔道具などが電化製品の代わりなどをしているようである。そのため、場合によっては、日本よりも便利に感じる部分もあるようだ。
「思っていたより快適な生活ができそうだね」
「そうねえ。都市部はかなり発展しているものねえ」
「そうぞな。こういった部分はどの種族よりも人間が得意とするところぞな」
シャナの言葉に、シャーレイが器用にうなずいて同意を示す。この世界には獣人族や竜人族、エルフなどさまざまな種族がいるが、生活面を豊かにすることにかけては人族がもっともすぐれているらしい。ちなみに、魔法の扱いではエルフが、戦闘能力においては竜人族が優れているというように、種族によってそれぞれ特色があるようだ。こういった部分は、蓮が読んでいた小説や漫画に通じるものがある。
ともあれ、クレイやシャナ、シャーレイとの王都散策は存外に楽しい。屋台の食べ歩きも楽しく、目新しいものが多くあるのでついつい目移りしてしまい、あれもこれも食べてしまった。ちょっと食べすぎて気持ち悪いまである。
「うーん、食べすぎちゃった。気持ち悪っ」
「我にまかせるぞな」
失敗した、と反省していると、頭の上でいきなりシャーレイがタップダンスを踊り始め、一瞬ぴかっと小さく光る。
「何を‥‥おお?気持ち悪いのなくなった」
むしろ、今日一番に具合がいい。
「ふふ、さすがは光の精霊王ねえ」
回復は、光系統の精霊の十八番とのことのようだ。「でもそれくらいワタシにもできるわよう」と、謎の対抗意識を燃やすシャナ。だが、なぜタップダンス?なんでもいいが、人の頭の上で踊るのはやめてほしいものである。それはそれとして、治してもらったのは確かなことだ。
「ありがとう、シャーレイ」
気分が良くなった蓮が素直に礼を言うと、シャーレイは蓮の目の前にパタパタと飛んできて、まんざらでもなさそうに胸を張った。うん、かわいい。ついもふってしまったのはご愛嬌というものであろう。と、もふもふしていると、じっとこちらを見つめている子供に気づいた。なにやら、頭の上にネコのような耳がついている。全体的に薄汚れているが、顔立ちは悪くないようだ。大通りから少しはなれた、細い路地の入り口辺りからこちらをみている。
「おお~かわいい。もしかしてあれが獣人?」
「ほんとうねえ。こんなところで獣人を見るなんて珍しいわねえ」
「だな」
シャナの言葉に、クレイがうなずく。
「珍しいの?」
確かに、道行く人をみても、獣人らしきヒトはみない。
「獣人はねえ、もっと南の方に住んでいる種族なのよう。この辺りの気候は体質的に合わないようなのよう」
「へえ~」
では、あの子供たちはどこから来たのだろうか。何より視線がすごい。ものすごい圧を感じる。穴が空きそう。
「よし、声かけてみよう」
「やめておくぞな。あの子らには呪いがかかっているぞな。関わり合いになるのはおすすめしないぞな」
呪い、といった不吉な単語に、蓮は眉をひそめた。彼女が見たところ、多少薄汚れてはいても、特別憔悴している様子はないし、小説や漫画にあるような黒い靄をまとっているわけでもない。呪いといわれても全く実感がわかない。
「呪いって‥‥本当?」
「精霊は嘘なぞつかないぞな。我は呪いの類には敏感ぞな」
頭の上でパタパタと羽根を動かしながら、あれだけ濃い呪いをまとっていれば下級精霊にだってわかると断言するシャーレイ。そこまで言われれば、蓮としても納得せざるを得ない。とはいっても、このまま放置するのもなんだかすっきりしない。
「声をかけるだけで危険?」
「いや、そのようなことはないぞな。かかわったとて、我らがおるでの。主にそこまで危険は及ばぬぞな」
「なんかあってもお前は俺が守ってやるよ。コイツらはともかく、お前には傷一つつけねぇから安心しろや」
ニヤリと笑いながら、クレイが乱暴に蓮の頭をなでる。髪がぐしゃぐしゃになるからやめてほしいものだ。だが、守ってくれるというなら安心である。この世界の精霊王は、地域によっては神と崇められるほどに力があるのだから。
「わかった」
うなずいて、蓮は結局声をかけることにした。その間も、獣人の子供がじっと蓮を見ていたからだ。
「ねぇ、なにか用?」
ててっと近づいて、脅かさないように小さく声をかける。
「あ、えっと」
獣人の子供は、蓮とクレイ、シャナを順に見て、蓮の手を取った。
「こっち」
「え?」
かと思うと、いきなり蓮を引っ張る。
「おい!」
「まつのよう。ついていくのよう」
蓮から獣人の手を離そうとしたクレイに、シャナが待ったをかけた。
「イヤな予感がするのよう」
シャナは水の精霊王。少し先の未来を視る力がある。そして、他のどの系統よりも優れた直感力も。その直感が、今はついていくべきといっている。蓮の頭上にいるシャーレイも、何かを感じとっているようで、静かに辺りを観察していた。
そうして、彼らはたどり着いた。この国の最底辺。王都でもっとも貧しい場所、スラム街に。
3
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
光属性が多い世界で光属性になりました
はじめ
ファンタジー
転生先はかつて勇者、聖女のみが光属性を持つ世界だったが、
勇者が残した子孫が多すぎて光属性持ちが庶民、貴族当たり前の世界。むしろ貴族ならば属性二個持ち以上は当たり前の世界になっていた。
そんな中、貴族で光属性のみで生まれたアデレイド
前世の記憶とアイデアで光属性のみの虐げられる運命を跳ね除けられるのか。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる