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第一部 幸せな日々、そして旅立ち
第八章 第十一話
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「とうとう見えなくなってしまったのぅ」
老人の言葉は、その場にいる人達の気持ちを代弁していた。
一座の馬車を見送っていた面々は、名残惜しそうに街道の先を眺め、徐々にばらけていく。
挨拶を交わし、1人減り、2人減り。
「ミル、もう行こう」
「うん、キアル・・・・・・」
少年が、しょんぼりした少女を促して去った後は、先の言葉を発した老人と、獣人族の面々しか残っていなかった。
「ジルヴァン殿も、さびしかろう」
親しげに、老人が獣人族の長に声をかける。長は苦く笑い、
「確かに、さみしいものですな。思っていた以上に堪えるものだ」
素直にそんな気持ちを吐露した。サイ・クーはさもあらんと頷き、
「そうじゃろうのぅ。この爺ですら、さみしくて仕方ないんじゃからの」
こちらも素直にそんな言葉を返した。
名残惜しそうに街道の先を見つめる老人の横顔を見つめながら、
「あなたには雷砂が本当にお世話になった。改めてお礼申し上げる」
ジルヴァンは丁寧に頭を下げた。
サイ・クーはしわ深い顔に笑みを浮かべ、彼の顔を見上げる。
「いやいや。雷砂のお陰で楽しい日々じゃったよ。礼を言うのはこっちの方じゃ。礼がわりと言う訳じゃないが、ジルヴァン殿の薬は今後この爺がきちんと準備させて頂きますぞ。安心して下され」
「なにからなにまで。ありがとうございます。薬の受け取りには、私の姪を伺わせましょう」
「噂の姪ご殿か。それは楽しみじゃのう。所で、姪ご殿は今日は?」
「数日前から私の名代で部族会に行かせておりまして。流石に、雷砂の旅立ちには間に合わなかったようです」
「なんと。それは残念じゃったのう」
老人は本当に残念そうにそう言った。
雷砂は養い親である彼女の事をとても慕っていた。
本当なら、きちんと顔を合わせて別れを告げたかったであろうと、老人はしばし雷砂の気持ちを思ったその時、遠くの方から人の声が聞こえた。
はて、と老人が首を巡らせると、黒い獣がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。
「叔父上」
再び同じ声。
その呼びかけに、ジルヴァンも声のする方を見た。
小さかった姿がみるみる大きくなり、黒い猫科の獣はジルヴァンの前で足を止めた。
「シンファ、ずいぶん早かったな?」
軽い驚きと共にそう告げる。
通常の旅程であれば早く着いても今日の深夜になるだろうと思っていたのだ。
「ら、雷砂は?」
荒い息を整えながら、彼女は叔父に問うた。
彼は、姪の問いに少し困ったような顔をし、
「少し前に出てしまった。残念だったな」
正直にそう告げた。だが、彼の姪は前向きだった。
「少し前か。なら、急げば間に合うな」
言うが早いか、再び駆け出す姪に、ジルヴァンが叫ぶ。
「シンファ、行くのはいいが、獣の姿だと一座の者が驚くぞ!?」
「大丈夫だ。何とかする」
反射的に返ってきた返事に、ジルヴァンは首を傾げる。
何とかすると言ったが、どうするのか。
見たところ、彼女はなんの荷物も持っていなかった。
急いで返るために身軽になって来たのだろうが、荷物がないということは、人身になったときの着替えもないということだ。
だがまあ、何とかするというのだから、なにかしら考えがあるのだろう。
そんな風に思いながら、ジルヴァンは微笑んだ。
思いがけず間に合った養い親の姿を見て喜ぶ雷砂の顔を思い浮かべて。
この後、姪が思った以上に思い切った手を使って雷砂の度肝を抜くことになるなど、ジルヴァンには知る由もなかった。
老人の言葉は、その場にいる人達の気持ちを代弁していた。
一座の馬車を見送っていた面々は、名残惜しそうに街道の先を眺め、徐々にばらけていく。
挨拶を交わし、1人減り、2人減り。
「ミル、もう行こう」
「うん、キアル・・・・・・」
少年が、しょんぼりした少女を促して去った後は、先の言葉を発した老人と、獣人族の面々しか残っていなかった。
「ジルヴァン殿も、さびしかろう」
親しげに、老人が獣人族の長に声をかける。長は苦く笑い、
「確かに、さみしいものですな。思っていた以上に堪えるものだ」
素直にそんな気持ちを吐露した。サイ・クーはさもあらんと頷き、
「そうじゃろうのぅ。この爺ですら、さみしくて仕方ないんじゃからの」
こちらも素直にそんな言葉を返した。
名残惜しそうに街道の先を見つめる老人の横顔を見つめながら、
「あなたには雷砂が本当にお世話になった。改めてお礼申し上げる」
ジルヴァンは丁寧に頭を下げた。
サイ・クーはしわ深い顔に笑みを浮かべ、彼の顔を見上げる。
「いやいや。雷砂のお陰で楽しい日々じゃったよ。礼を言うのはこっちの方じゃ。礼がわりと言う訳じゃないが、ジルヴァン殿の薬は今後この爺がきちんと準備させて頂きますぞ。安心して下され」
「なにからなにまで。ありがとうございます。薬の受け取りには、私の姪を伺わせましょう」
「噂の姪ご殿か。それは楽しみじゃのう。所で、姪ご殿は今日は?」
「数日前から私の名代で部族会に行かせておりまして。流石に、雷砂の旅立ちには間に合わなかったようです」
「なんと。それは残念じゃったのう」
老人は本当に残念そうにそう言った。
雷砂は養い親である彼女の事をとても慕っていた。
本当なら、きちんと顔を合わせて別れを告げたかったであろうと、老人はしばし雷砂の気持ちを思ったその時、遠くの方から人の声が聞こえた。
はて、と老人が首を巡らせると、黒い獣がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。
「叔父上」
再び同じ声。
その呼びかけに、ジルヴァンも声のする方を見た。
小さかった姿がみるみる大きくなり、黒い猫科の獣はジルヴァンの前で足を止めた。
「シンファ、ずいぶん早かったな?」
軽い驚きと共にそう告げる。
通常の旅程であれば早く着いても今日の深夜になるだろうと思っていたのだ。
「ら、雷砂は?」
荒い息を整えながら、彼女は叔父に問うた。
彼は、姪の問いに少し困ったような顔をし、
「少し前に出てしまった。残念だったな」
正直にそう告げた。だが、彼の姪は前向きだった。
「少し前か。なら、急げば間に合うな」
言うが早いか、再び駆け出す姪に、ジルヴァンが叫ぶ。
「シンファ、行くのはいいが、獣の姿だと一座の者が驚くぞ!?」
「大丈夫だ。何とかする」
反射的に返ってきた返事に、ジルヴァンは首を傾げる。
何とかすると言ったが、どうするのか。
見たところ、彼女はなんの荷物も持っていなかった。
急いで返るために身軽になって来たのだろうが、荷物がないということは、人身になったときの着替えもないということだ。
だがまあ、何とかするというのだから、なにかしら考えがあるのだろう。
そんな風に思いながら、ジルヴァンは微笑んだ。
思いがけず間に合った養い親の姿を見て喜ぶ雷砂の顔を思い浮かべて。
この後、姪が思った以上に思い切った手を使って雷砂の度肝を抜くことになるなど、ジルヴァンには知る由もなかった。
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