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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
序章
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暗闇の中に男がいた。
その傍らには天井から吊られた繊細な細工の鳥かご。
封印の魔法がかかったその鳥かごには、男が大切にしている何よりも美しい存在が捕らわれている。
この世界で唯一無二の存在、強大な力を持つ美しき神龍・守護聖龍。
彼がこの檻に捕らえられてから、もう大分時は過ぎてしまった。
最初は何とか逃げ出そうと苦心し、どうやっても逃げ出せないと分かった時はいっそ自ら命を絶とうかとも考えた。
だが、この鳥かごは虜囚の自死すら許してくれない。
食事を絶とうと、己を傷つけようと、死ぬことは出来なかった。
鳥かごにかけられた強い魔力封じのせいで魔力が使えず、外の様子を知ることも出来ない。
時折気まぐれに、憎い男が話してくれる言葉だけが、彼の情報源だった。
囚われの彼が唯一男に気づかれず出来ること、それは、夢の回廊を通じてメッセージを送ること。
メッセージを送れる相手は親しい相手に限られるし、こちらから一方的に情報を送るだけのものではあるが。
この閉じられた檻の中から、唯一1人、彼がメッセージを送れる相手がいた。
その相手は、守護聖龍たる青年がただ1人守護を与えた者。
輝く金色の髪に色違いの双眸の美しき少女、雷砂。
彼女にだけは、何とか己の声を届けることが出来た。
一方通行の短いメッセージしか送れず、しかも助けに来てくれと言おうにも、自分の捕らえられている場所すらわかりはしないのだが。
だが今、その雷砂に危険が迫っていた。
原因は、彼を捕らえている目の前の男だ。
彼は己の好奇心を満たすために雷砂に接触し、逆に囚われてしまったのだ。
雷砂という人間の魅力に。
先日、その雷砂から手ひどいしっぺ返しを受け、戻ってきてから余計にその傾向が顕著になった。
今はまだいい。
雷砂に受けた傷を癒し、使いすぎた魔力を回復させるために男は大人しく自分の城に籠もっている。
以前の状態を取り戻すには、もうしばらく時が必要だろう。
だがいずれ、この男は動き出す。雷砂を手に入れるため。
その目的を阻止は出来なくとも邪魔をする為に、なんとか手を打たねばならなかった。
だが、出来ることは少ない。
まずは雷砂に新たなメッセージを送る事。
時間はかかるが、これは問題なく行えるだろう。
それに加えて、もう一つ考えている事があった。
それは、雷砂に流れる血を通じて、友人でもある雷砂の父親にメッセージを送ること。
これが成功するかどうかは、まだ何ともいえなかった。
だが、成功すれば少しは雷砂の力になれるはずだ。
「・・・・・・フォスカ、なにを考えてる?」
「なにも。ただ雷砂がお前の腕ではなく、首を落としてくれていたら良かったとは思っていたがな」
「ひどいな。腕だけですませるのは大変だったんだよ?雷砂はとても怒っていたし、変な水龍の横やりが入って、フォスカの力をほんの少しだけど引き出して向かってきたから」
変な水龍、という言葉が引っかかった。
どうやら、今の雷砂のそばには龍神族の誰かがいるようだ。
里を離れて活動する変わり者など、そういない。
水龍というなら、雷砂の近くにいるのは恐らくイルサーダだろう。奴は昔から人の世界をわたって歩くのが好きだったから。
彼がいるなら少しは安心だ。
変な奴だが、知識も力も中々のものだ。
奴なら雷砂の身体に宿る力を、なるべく負担なく引き出す方法を教えてやれるだろう。
なんといっても、雷砂はまだ幼い。
肉体がもう少し成熟しないことには、全ての力を引き出す事は難しいし、雷砂の身体を傷つける恐れがある。
そう言ったことも、イルサーダであればきちんと把握しているだろうから、雷砂に無茶な真似をさせないよう動いてくれるはずだ。
男に悟られないように、無表情のままそんな事を考えた。
だが、彼にはお見通しだったようだ。
「余分な情報を上げちゃったみたいだね。何だか嬉しそうな顔をしているよ、フォスカ」
誓って表情は動かさなかったはずだ。だが、男は心底楽しそうにフォスカの顔をのぞき込んだ。
「まあ、なにを企んでもどうにもならないよ。いずれ雷砂もオレのものにする。フォスカも、雷砂が一緒なら寂しくないだろ?」
雷砂に手を出すなーそう言いたかったが、あえて口をつぐんだ。
この男はフォスカがさえずればさえずるほど喜ぶのだから。
「雷砂に手を出すな、とは、もう言わないんだね?」
からかうような、男の声。苛立ちは募るが、フォスカは沈黙を守った。
男を喜ばせてなるものか、と。
「賢明だよ、フォスカ。もう、あなたがなにを言おうと、オレは雷砂を手に入れる。どんな手を、つかっても」
くすくすと、楽しそうに笑う声。
拳を握り、フォスカはただ耐える。怒りを露わにして、男に楽しい思いをさせないように。
「でも、まだ会いにはいけないな。まずは雷砂に切られた腕をくっつけて、使いすぎた魔力も回復してからでないと。雷砂は思ってたよりずっと強かったよ、フォスカ。これは嬉しい誤算だった。次に会うときは、この間よりしっかり計画を練って万全の状態で挑まないとね。もう少し時間がかかりそうだから、それまではフォスカに遊んでもらって我慢するよ」
男は無邪気といってもいい笑顔でにっこり笑った。
その顔を静かに睨みつけながら、
(雷砂。お前の可能性と力を、私は信じているぞ。お前は、こんな男に負けはしない)
フォスカはじっと雷砂の事を思った。
その傍らには天井から吊られた繊細な細工の鳥かご。
封印の魔法がかかったその鳥かごには、男が大切にしている何よりも美しい存在が捕らわれている。
この世界で唯一無二の存在、強大な力を持つ美しき神龍・守護聖龍。
彼がこの檻に捕らえられてから、もう大分時は過ぎてしまった。
最初は何とか逃げ出そうと苦心し、どうやっても逃げ出せないと分かった時はいっそ自ら命を絶とうかとも考えた。
だが、この鳥かごは虜囚の自死すら許してくれない。
食事を絶とうと、己を傷つけようと、死ぬことは出来なかった。
鳥かごにかけられた強い魔力封じのせいで魔力が使えず、外の様子を知ることも出来ない。
時折気まぐれに、憎い男が話してくれる言葉だけが、彼の情報源だった。
囚われの彼が唯一男に気づかれず出来ること、それは、夢の回廊を通じてメッセージを送ること。
メッセージを送れる相手は親しい相手に限られるし、こちらから一方的に情報を送るだけのものではあるが。
この閉じられた檻の中から、唯一1人、彼がメッセージを送れる相手がいた。
その相手は、守護聖龍たる青年がただ1人守護を与えた者。
輝く金色の髪に色違いの双眸の美しき少女、雷砂。
彼女にだけは、何とか己の声を届けることが出来た。
一方通行の短いメッセージしか送れず、しかも助けに来てくれと言おうにも、自分の捕らえられている場所すらわかりはしないのだが。
だが今、その雷砂に危険が迫っていた。
原因は、彼を捕らえている目の前の男だ。
彼は己の好奇心を満たすために雷砂に接触し、逆に囚われてしまったのだ。
雷砂という人間の魅力に。
先日、その雷砂から手ひどいしっぺ返しを受け、戻ってきてから余計にその傾向が顕著になった。
今はまだいい。
雷砂に受けた傷を癒し、使いすぎた魔力を回復させるために男は大人しく自分の城に籠もっている。
以前の状態を取り戻すには、もうしばらく時が必要だろう。
だがいずれ、この男は動き出す。雷砂を手に入れるため。
その目的を阻止は出来なくとも邪魔をする為に、なんとか手を打たねばならなかった。
だが、出来ることは少ない。
まずは雷砂に新たなメッセージを送る事。
時間はかかるが、これは問題なく行えるだろう。
それに加えて、もう一つ考えている事があった。
それは、雷砂に流れる血を通じて、友人でもある雷砂の父親にメッセージを送ること。
これが成功するかどうかは、まだ何ともいえなかった。
だが、成功すれば少しは雷砂の力になれるはずだ。
「・・・・・・フォスカ、なにを考えてる?」
「なにも。ただ雷砂がお前の腕ではなく、首を落としてくれていたら良かったとは思っていたがな」
「ひどいな。腕だけですませるのは大変だったんだよ?雷砂はとても怒っていたし、変な水龍の横やりが入って、フォスカの力をほんの少しだけど引き出して向かってきたから」
変な水龍、という言葉が引っかかった。
どうやら、今の雷砂のそばには龍神族の誰かがいるようだ。
里を離れて活動する変わり者など、そういない。
水龍というなら、雷砂の近くにいるのは恐らくイルサーダだろう。奴は昔から人の世界をわたって歩くのが好きだったから。
彼がいるなら少しは安心だ。
変な奴だが、知識も力も中々のものだ。
奴なら雷砂の身体に宿る力を、なるべく負担なく引き出す方法を教えてやれるだろう。
なんといっても、雷砂はまだ幼い。
肉体がもう少し成熟しないことには、全ての力を引き出す事は難しいし、雷砂の身体を傷つける恐れがある。
そう言ったことも、イルサーダであればきちんと把握しているだろうから、雷砂に無茶な真似をさせないよう動いてくれるはずだ。
男に悟られないように、無表情のままそんな事を考えた。
だが、彼にはお見通しだったようだ。
「余分な情報を上げちゃったみたいだね。何だか嬉しそうな顔をしているよ、フォスカ」
誓って表情は動かさなかったはずだ。だが、男は心底楽しそうにフォスカの顔をのぞき込んだ。
「まあ、なにを企んでもどうにもならないよ。いずれ雷砂もオレのものにする。フォスカも、雷砂が一緒なら寂しくないだろ?」
雷砂に手を出すなーそう言いたかったが、あえて口をつぐんだ。
この男はフォスカがさえずればさえずるほど喜ぶのだから。
「雷砂に手を出すな、とは、もう言わないんだね?」
からかうような、男の声。苛立ちは募るが、フォスカは沈黙を守った。
男を喜ばせてなるものか、と。
「賢明だよ、フォスカ。もう、あなたがなにを言おうと、オレは雷砂を手に入れる。どんな手を、つかっても」
くすくすと、楽しそうに笑う声。
拳を握り、フォスカはただ耐える。怒りを露わにして、男に楽しい思いをさせないように。
「でも、まだ会いにはいけないな。まずは雷砂に切られた腕をくっつけて、使いすぎた魔力も回復してからでないと。雷砂は思ってたよりずっと強かったよ、フォスカ。これは嬉しい誤算だった。次に会うときは、この間よりしっかり計画を練って万全の状態で挑まないとね。もう少し時間がかかりそうだから、それまではフォスカに遊んでもらって我慢するよ」
男は無邪気といってもいい笑顔でにっこり笑った。
その顔を静かに睨みつけながら、
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フォスカはじっと雷砂の事を思った。
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