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本編
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しおりを挟む殺される、が第一印象だった。赤い眼光は鋭く尖っていて、それに遥か高くから見下されるのが恐ろしくて堪らなかった。それなのに、こうして毎夜一緒のベッドで寝るようになるとは、あの日の自分が見たら泡を噴いて卒倒するかも知れない。
いつものように背に腕が回され、肌が隙間なく重なる。硬い鱗に覆われた彼は外出時以外、基本的に何も身に着けていないことが多い。最初の方は上衣を貸してくれていたので持っていない訳ではないようだが、布よりも余ほど頑丈な鎧が肌を覆い隠しているので必要がないのだろう。
すり、と仮面の冷たさが頬に触れる。こそばゆくて笑いながら身を捩るが、彼は更に身体を寄せてきた。硬い尾が太腿を撫でて、ひやりとした感触に目を細める。
「眠れないの?」
問う声に、つい笑みが混じった。彼は眠りにつく前、良くこうして擦り寄ってくる。自分より大きく逞しい彼が、子どものように見えて可愛いらしく感じた。人というよりも、大型の動物に見えるからかもしれない。命の恩人に対して、こんなことを思っているなんて口が裂けても言えないが。
触れた箇所から熱が伝わってくる。背や尾は鱗のためかヒンヤリとしているが、掌や腹筋部分などは皮膚が表に出ているから温もりが感じられた。寒い日は正面から、暑い日なんかは背中に張りついていると気持ちがいい。冷暖房みたいな扱いをしているのは申し訳ないが、心地がいいので気付いたら吸い寄せられるように傍に寄ってしまう。そのたび静かに受け止めてもらえるのが嬉しくて、ついつい手を伸ばしてしまうのだ。
彼は俺の上に乗り上げると、いつものように喉元を晒すように首を逸らした。意味としては良く分からないが、親愛を示してくれているのなら嬉しい。頬が緩むのを感じつつも、硬い首筋に掌を触れさせた。微かな震えが伝わってくるが、彼は振り払うこともなくされるがままだ。
顎下に、小さな鱗がある。それは他の流れに逆らって生えていて、そこを指でなぞると彼は心地よさそうに大きく身体を震わせた。元の世界では、ちゃんとした名称や意味があった気がする。思い出せないけれど、他の鱗と違い、そこは柔くて脆く思えた。そんな場所を見せてくれているのだと思うと、触れ方も自然と優しくなる。触れるか触れないか瀬戸際を滑るようにするだけで、彼は鋭い瞳を甘く蕩けさせてくれる。手だけでこうなのだから、もっと柔らかいもので――例えば舌で触れたならどんな反応を返してくれるのだろうか。
一度考えてしまうと、視線が喉元に釘付けになる。鋭く尖った瞳が甘く和らぐ瞬間を思い出して、こくりと喉が鳴った。そぅっと硬い鱗の感触を確かめるように撫でると、彼もまた急所を曝け出すようにして身を屈めてくる。
「痛かったら言ってね」
震える舌先を、そっと添えるようにして当ててみる。ふるりと揺れたのはどちらの身体か。分からないまま唇で優しく食んでは舌先でなぞると、力強く隆起した喉仏が鳴るのが振動として伝わってきた。
「ここ、気持ちいい……?」
ベッドが大きく軋み、断続的に揺れ動く。どうやら彼が、尾をゆったりと上下に叩きつけているらしい。それを返事と受け取って、柔らかな鱗を舌先で擽っては、ちゅうっと優しく吸いついた。それに合わせて彼の息遣いが弾んでいくように思えて、何故か俺の心臓まで早鐘を打つ。
後頭部に手が回されて、ぐいっと顔を押しつけられる。それが強請っているように感じられて、夢中になって唇を触れさせた。ちゅぱちゅぱとしゃぶっている間にも二本の腕が腰を掴んで、軽く揺さぶってくる。ぬるりとした熱いものがふくらはぎに触れて、痺れるような感覚が背骨を駆け上がっていった。
「ん……っ、なに……?」
揺さぶられながらも顔を下向ければ、黒い棒状のものが足に触れていた。それは垂直に割れた皮膚の間から飛びだして、雄々しく天を向いている。もう一本の足かと見紛うほど大きなそれが、初めは何か分からなかった。ぬらぬらと透明な液に濡れ、凹凸とした血管を浮き立たせて強く脈打っている。ドクンドクンと鼓動を伝えてくる熱は、擦られるうちに大きさを増していった。ぬちゅっ、と粘ついた音が鳴り始めて、今さら頬が熱を帯びる。
「え……こ、これって……ひ……っ」
服の裾を持ち上げられて、何も身に着けていないそこが晒される。この世界の人は全体的に大きいのか、一番下のサイズでも俺からすればぶかぶかで。彼があれこれと贈ってはくれたのだが、上衣のみをワンピースのようにして着させてもらっていた。下着も身に着けたところでストンと落ちてしまうし、どのみち外に出る予定もないので良いかと思っていたのだ。
腰に分厚い両掌が添えられ、頭上に太い腕が置かれる。真上から圧し掛かられた状態で囲うようにして腕を置かれ、どばっと冷や汗が噴き出した。こんなものを突っ込まれたら死ぬ。試さずとも分かるほどに、俺たちの体格差は歴然だった。蕩けていた思考が一気に覚めるほど、先走りを垂らすペニスは凶器以外の何者にも見えない。
「だ……っ、だ、だんなさま……っ」
熱く弾んだ息遣いが真上から響き、瞳孔まで開いた赤い視線が尻に注がれている。きゅっと閉じた締まりは異様なほど長大なペニスと見合っていないし、どうしたって何も受け入れたことがない此処に初っ端から突っ込んでいいものではない。
無理だ、絶対に無理だ……!
震えながらも必死に首を振り、ぐいぐいと胸を押し返す。ジタバタと手足をばたつかせると、彼も俺の様子に気付いてくれたらしい。両頬を掌で包むようにして、宥めるように顔を寄せてくれた。それに多少なりとも安堵しつつも、このまま大人しくなるわけにはいかない。彼のことは好ましく思っているが、それとこれとは別である。
「無理っ、できない……!」
胸の前で腕を交差させ、髪が頬に当たるほど首を振る。鼻がツンっとして、視界が滲んだ。本能的な恐怖に、全身が震えてしまう。
その必死な様子が伝わったのか。ぎゅっと四本の腕で抱き込まれたかと思えば、ころんと隣り合うようして体勢を変えてくれた。触れた温度にどきまぎしていたが、宥めるように背を撫でられているうちに身体から力が抜けていく。どうやら無理に続けるつもりはないようで、ほっと息が漏れた。
「その……えっと……ありがと……」
礼を言うのも変な気がするが、首筋に舌を触れさせたり肌を撫でたりと、冷静になると自分も相当なことをしていた。まさか、あんなことになるとは思っていなかったが、乗り気と思われても仕方がないような態度を取ったのは確かだ。今更ながらに申し訳なくなってきて、声が尻すぼみになっていく。
彼はそっと髪を撫でると、脇を持ち上げるようにして頬を合わせてくれた。ひやりとした感触が熱くなった頬を冷ましてくれて心地がいい。思わず目を細めると、彼も赤い瞳を優しく和らげてくれた。
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