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15歳の飛翔。
サテラージャ国を出る。
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僕は新たな料理を思いついた。ロスハーン神殿に顔を出し、こちらでも味噌を仕込んでいるか尋ねると、僧正が嬉しそうに大甕の蓋を持ち上げて見せてくれた。香りを吸い込んで、よし、と頷く。玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを大ぶりに刻み、脂を落とした豚もも肉を鍋に合わせる。出汁がふつふつと立ち、野菜が透き通り始めたところで味噌を溶き入れた。湯気が甘く鼻をくすぐり、玉ねぎの甘みと味噌の香りが絡み合う。
朝食の間へ運ぶと、陛下は匙を取り、そっと口に含まれた。少し目を細め、次の一口がすぐに運ばれる。
「……美味いな」
「豚肉と玉ねぎは、とても相性が良いのです。お体が戻られたら、炒め物にしてもよろしいかもしれません」
「よだれが出るではないか、スサン伯」
陛下は笑って椀を傾け、汁の一滴まで残さず召し上がった。侍医が安堵の息を洩らし、料理長はその場で手順を書き写していた。
二日ほどは無理をせず、食と歩行の様子を見ながら、空いた時間で僕らはサテラージャの文化を学ぶ。そしてハミル殿下と役人と七種族協働の勉強会を行う。そんな折、ハミル殿下が「見せたいものがある」と案内してくれたのは、都心に聳える大きな展示殿だった。名はサテラージャホール。白い壁に映える鮮やかな幟、広い床には可動の仕切り……僕と陛下がコリント王国で始めた催しの場と、趣がよく似ている。
「ここで、職人の見本市や料理の祭りを開く予定だ。君の国のやり方を学んで、彼らが改良した」
殿下が誇らしげに言い、案内役の人々も胸を張った。自分たちの工夫で根づかせる……それが一番うれしい。僕は素直にいいね、と答えた。
夜は舞の夕べ。庭園の水面に灯りが揺れ、舞姫たちの衣が風に翻る。手の甲から指先へ、視線の運びにまで意味が宿っているのがわかる。音は控えめだが、拍の奥に熱がある。不思議と、心が鎮まっていく。
出立の時期を測りはじめた朝食の間で、陛下がふと僕を見た。
「のう、スサン伯……そちは我が国にいてはくれぬか」
脈がひと拍、強く打つ。けれど、答えは決まっている。
「ありがたいお言葉です。ですが、僕には任があり、次に待ってくださる国々があります」
「……そうか。仕方がないのぉ」
陛下は小さく肩を落とし、それから悪戯っぽく笑った。
「そちがここにおれば、もっと面白いものを見せてくれそうでな。ならばこう言おう……また来てはくれまいか。いつでも歓迎するぞ」
「喜んで。また必ず、参ります」
旅立ちの朝。僕らは謁見の間に進み、陛下、ハミル殿下、ルディス様と向かい合った。謁が開かれ、通訳の声が静かに重なる。
「スサン伯、親善大使の働き、あっぱれである。褒美として、我が国の名誉男爵の位を与える」
旅行前で聞いた話では、滅多に出ない恩典だとマリエンティ伯爵が言っていた。胸飾りと証書が恭しく差し出される。僕は受け取り、深く礼をした。
「身に余る光栄。いただいた名に恥じぬよう、今後も務めます」
「気をつけて、次の国へ向かうがよい」
謁見が終わり、控えの間に移ると、陛下と殿下、ルディス様がもう一度来てくださった。名残を惜しむ短い時間。
「ここで、お別れだな」
陛下は固い紙の手触りの包みを僕の手に乗せる。
「これは親書だ。丁重に届けてほしい」
「お任せください」
ハミル殿下も封をされた小さな包みを差し出す。
「王様へ、私から直接の書簡だ。頼む」
「必ず」
ルディス様は微笑んで、ナビの頭を撫でた。ナビが目を細めて喉を鳴らす。
「あなたが来てくれて、本当に嬉しかったわ。また、甘いものを一緒に食べましょう」
「ええ、次はもっと大きなケーキを」
「エメイラヒルデさんにもお礼を。良いものをもらったって伝えてね」
「確かに伝えます」
別れの言葉は短く、握手は力強かった。僕は名誉男爵の手続きを済ませ、香辛と布、それから職人の小品が詰まった贈り物の箱を受け取る。港へ向かう馬車の中で、ミレイユが記録の束を整え、ナミリアが侍医章を外して大事に袋へしまう。ミザーリは護衛の列の点呼を手短に終え、アインスとツヴァイは荷の確認、フュンフは出航時刻の再確認を走って取りに行った。ナビは窓辺で尻尾を小さく振り、見慣れた都の外壁が遠ざかるのをじっと見ている。
桟橋に人だかり。軍将オビリケが出迎え、僕らは握手を交わした。
「順調な滞在だったようですな」
「ええ。角煮と豚汁が、良い仕事をしてくれました」
オビリケが笑い、空を見上げる。
「風はいい。今日は滑る」
タラップを上がり、甲板に出る。サテラージャの城壁が朝の光に白く映える。沢山の人達が遠くから手を振っている。こちらも大きく振り返す。鐘が鳴り、舫い綱が外される。海の青が広がって、船腹が静かに水を割った。
僕は受け取った親書を胸元に確かめ、深く息を吸う。次はシトルウェル大公国。新しい扉が、またひとつ音を立てて開く気がした。
朝食の間へ運ぶと、陛下は匙を取り、そっと口に含まれた。少し目を細め、次の一口がすぐに運ばれる。
「……美味いな」
「豚肉と玉ねぎは、とても相性が良いのです。お体が戻られたら、炒め物にしてもよろしいかもしれません」
「よだれが出るではないか、スサン伯」
陛下は笑って椀を傾け、汁の一滴まで残さず召し上がった。侍医が安堵の息を洩らし、料理長はその場で手順を書き写していた。
二日ほどは無理をせず、食と歩行の様子を見ながら、空いた時間で僕らはサテラージャの文化を学ぶ。そしてハミル殿下と役人と七種族協働の勉強会を行う。そんな折、ハミル殿下が「見せたいものがある」と案内してくれたのは、都心に聳える大きな展示殿だった。名はサテラージャホール。白い壁に映える鮮やかな幟、広い床には可動の仕切り……僕と陛下がコリント王国で始めた催しの場と、趣がよく似ている。
「ここで、職人の見本市や料理の祭りを開く予定だ。君の国のやり方を学んで、彼らが改良した」
殿下が誇らしげに言い、案内役の人々も胸を張った。自分たちの工夫で根づかせる……それが一番うれしい。僕は素直にいいね、と答えた。
夜は舞の夕べ。庭園の水面に灯りが揺れ、舞姫たちの衣が風に翻る。手の甲から指先へ、視線の運びにまで意味が宿っているのがわかる。音は控えめだが、拍の奥に熱がある。不思議と、心が鎮まっていく。
出立の時期を測りはじめた朝食の間で、陛下がふと僕を見た。
「のう、スサン伯……そちは我が国にいてはくれぬか」
脈がひと拍、強く打つ。けれど、答えは決まっている。
「ありがたいお言葉です。ですが、僕には任があり、次に待ってくださる国々があります」
「……そうか。仕方がないのぉ」
陛下は小さく肩を落とし、それから悪戯っぽく笑った。
「そちがここにおれば、もっと面白いものを見せてくれそうでな。ならばこう言おう……また来てはくれまいか。いつでも歓迎するぞ」
「喜んで。また必ず、参ります」
旅立ちの朝。僕らは謁見の間に進み、陛下、ハミル殿下、ルディス様と向かい合った。謁が開かれ、通訳の声が静かに重なる。
「スサン伯、親善大使の働き、あっぱれである。褒美として、我が国の名誉男爵の位を与える」
旅行前で聞いた話では、滅多に出ない恩典だとマリエンティ伯爵が言っていた。胸飾りと証書が恭しく差し出される。僕は受け取り、深く礼をした。
「身に余る光栄。いただいた名に恥じぬよう、今後も務めます」
「気をつけて、次の国へ向かうがよい」
謁見が終わり、控えの間に移ると、陛下と殿下、ルディス様がもう一度来てくださった。名残を惜しむ短い時間。
「ここで、お別れだな」
陛下は固い紙の手触りの包みを僕の手に乗せる。
「これは親書だ。丁重に届けてほしい」
「お任せください」
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「王様へ、私から直接の書簡だ。頼む」
「必ず」
ルディス様は微笑んで、ナビの頭を撫でた。ナビが目を細めて喉を鳴らす。
「あなたが来てくれて、本当に嬉しかったわ。また、甘いものを一緒に食べましょう」
「ええ、次はもっと大きなケーキを」
「エメイラヒルデさんにもお礼を。良いものをもらったって伝えてね」
「確かに伝えます」
別れの言葉は短く、握手は力強かった。僕は名誉男爵の手続きを済ませ、香辛と布、それから職人の小品が詰まった贈り物の箱を受け取る。港へ向かう馬車の中で、ミレイユが記録の束を整え、ナミリアが侍医章を外して大事に袋へしまう。ミザーリは護衛の列の点呼を手短に終え、アインスとツヴァイは荷の確認、フュンフは出航時刻の再確認を走って取りに行った。ナビは窓辺で尻尾を小さく振り、見慣れた都の外壁が遠ざかるのをじっと見ている。
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「順調な滞在だったようですな」
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オビリケが笑い、空を見上げる。
「風はいい。今日は滑る」
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