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8歳の旅回り。
馬車の中の語らい。
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エフェルト公爵領からルステインへと続く道は、切り拓かれたばかりで真新しかった。馬車の車輪が小石を踏みしめる音と、馬の蹄の規則的な響きが、心地よい静けさを作っている。そんな中僕はお父さんとロイック兄さんと話をしていた。
「まったく、お前はどこまで先を見ているんだか」
ロイック兄さんが呆れたように笑う。お父さんは、その隣で目を細めて黙っている。
「でもね、ロイック兄さん。熱源装置を改良すれば冷却もできるんだよ。仕組みを反転させてさ。熱を吸収して、外に放り出すような構造にすればいい。それを箱の中で制御すれば…エアコンディショナーができる」
僕の言葉に、ロイック兄さんの目が興味深そうに動いた。
「エアコンディショナー、ねぇ…それって、涼しくする道具?」
「そう。暑い夏に屋内を快適に保つための装置。冷却だけでなく、空気を整えることもできる。衛生的にも大きな意味があると思うんだ」
「それは…凄いな」
お父さんが、静かに口を開いた。
「冷却装置はそれ単独でも市場価値がある。だがそのエアコンディショナーとなると、生活の質そのものを変えるかもしれん」
ロイック兄さんが前を見ながら言う。
「馬車にそれを積んだら、貴族が喜ぶな。夏の移動でも涼しいし、医療用にも使える。氷の保存、魚や肉の運搬…夢が広がる」
「そう。しかも、今回の熱源装置は燃費がとてもいい。魔法石の消費を従来の10分の1に抑えられるようにしたから」
ロイック兄さんが驚いたように振り返る。
「10分の1って…それ、魔法道具の概念が変わるぞ」
「うん。でもこれは僕の商会じゃなくて、スサン商会で展開してほしい。開発と試作は手伝うけど、広げるのはお父さんと兄さんのネットワークの方がいい」
お父さんがゆっくり頷いた。
「…商会の未来を考えているのだな、リョウ」
「ただし、課題もあるんだ」
僕がそう言うと、ロイック兄さんはすぐに聞き返してきた。「例えば?」
「冷却装置そのものの安定性。今はまだ試作段階だけど、放熱の仕組みや構造材に改良の余地がある。あと、制御部分も…魔力の流れを細かく調整する回路が必要なんだ」
「そうか、要するに魔法回路か。そこはこっちでも開発部隊に動いてもらえる。ルステインの技師も今は優秀だしな」
「うん、それにコリント王国の他都市でも協力者は出ると思う。僕からも声をかけてみるよ」
お父さんが穏やかな声で言った。
「馬車に積んで移動できる冷却装置となれば、貴族だけでなく商業面にも応用が利く。スサン商会の名前を刻むには、ふさわしい一品になるだろうな」
ロイック兄さんも笑った。
「お前らしいよ。自分の商会じゃなく、親の商会に回すなんて」
「だって、僕の商会はまだ成長途中だもん。いま必要なのは、信用と生産力。それはやっぱりスサン商会の方がある」
「お前…ますます商会長の器だな」
そう言われると、さすがに顔が熱くなる。父は黙っていたが、その目は優しかった。
「ロイック兄さん。冷却装置を単独でも使えるようにして、保存庫とか、野外活動用の冷蔵箱とかも作ってみたい」
「そういうの、貴族が狩猟に持っていくのにも便利だろうな。あと、医者が薬草を保存する時とかも」
「うん、それに山間部や砂漠の交易でも役に立つよ。温度管理ができれば、もっと遠くに物を運べる。輸送革命だよ」
お父さんが小さく笑った。
「…ルステインから世界が変わるかもしれんな」
僕は思った。旅をしながら、こうやって語り合える時間こそが何よりの贈り物なのだと。
「ロイック兄さん、工房に戻ったら試作の設計図送るよ。今度は冷気の制御を中心に」
「楽しみにしてるよ。リョウエスト」
馬車の外では、草の香りと風が混ざって広がっていた。ルステインまで、あと少し。だけど、僕らの話はまだまだ終わらなかった。
「お父さん、冷却装置が完成したら、まずどこで使いたいと思う?」
僕の問いに、お父さんは少し考えてから言った。
「そうだな…まずは病院だ。命を扱う場所にこそ、安定した温度管理が必要だろう。あとはワインの貯蔵庫にも良い。品質を保てるからな」
ロイック兄さんがうなずいた。
「宿でも重宝されるぞ。真夏でも涼しい部屋があるってだけで、集客が違う。お前が考えてるより、ずっと影響が広がるかもしれないな」
「…そうか」
僕は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。夢を語って、それが現実になりかけている。旅の終わりは、いつも次の始まりだ。
「頑張ろう、ロイック兄さん。お父さん」
「おう」
「ふふ、頼もしい息子を持ったものだ」
ルステインの街並みが、遠くに見え始めていた。
そのとき、兄さんがふとつぶやいた。
「でも…冷却装置の普及には障壁も多い。部材の入手性、維持コスト、技師の育成。道のりは平坦じゃないぞ」
「分かってるよ、ロイック兄さん。でも僕らには協力してくれる仲間がいる。職人たち、錬金術師、魔法技師、商会の人たち。一人じゃないから、きっとやれるよ」
お父さんが目を細めてうなずいた。
「そうだな。リョウエスト、お前は…本当にいい目をしている」
そう言われて、僕はちょっとだけ照れた。
気がつけば、馬車の揺れが心地よくなっていた。
やがて僕らの馬車は、ルステインの大門へと差しかかった。
「まったく、お前はどこまで先を見ているんだか」
ロイック兄さんが呆れたように笑う。お父さんは、その隣で目を細めて黙っている。
「でもね、ロイック兄さん。熱源装置を改良すれば冷却もできるんだよ。仕組みを反転させてさ。熱を吸収して、外に放り出すような構造にすればいい。それを箱の中で制御すれば…エアコンディショナーができる」
僕の言葉に、ロイック兄さんの目が興味深そうに動いた。
「エアコンディショナー、ねぇ…それって、涼しくする道具?」
「そう。暑い夏に屋内を快適に保つための装置。冷却だけでなく、空気を整えることもできる。衛生的にも大きな意味があると思うんだ」
「それは…凄いな」
お父さんが、静かに口を開いた。
「冷却装置はそれ単独でも市場価値がある。だがそのエアコンディショナーとなると、生活の質そのものを変えるかもしれん」
ロイック兄さんが前を見ながら言う。
「馬車にそれを積んだら、貴族が喜ぶな。夏の移動でも涼しいし、医療用にも使える。氷の保存、魚や肉の運搬…夢が広がる」
「そう。しかも、今回の熱源装置は燃費がとてもいい。魔法石の消費を従来の10分の1に抑えられるようにしたから」
ロイック兄さんが驚いたように振り返る。
「10分の1って…それ、魔法道具の概念が変わるぞ」
「うん。でもこれは僕の商会じゃなくて、スサン商会で展開してほしい。開発と試作は手伝うけど、広げるのはお父さんと兄さんのネットワークの方がいい」
お父さんがゆっくり頷いた。
「…商会の未来を考えているのだな、リョウ」
「ただし、課題もあるんだ」
僕がそう言うと、ロイック兄さんはすぐに聞き返してきた。「例えば?」
「冷却装置そのものの安定性。今はまだ試作段階だけど、放熱の仕組みや構造材に改良の余地がある。あと、制御部分も…魔力の流れを細かく調整する回路が必要なんだ」
「そうか、要するに魔法回路か。そこはこっちでも開発部隊に動いてもらえる。ルステインの技師も今は優秀だしな」
「うん、それにコリント王国の他都市でも協力者は出ると思う。僕からも声をかけてみるよ」
お父さんが穏やかな声で言った。
「馬車に積んで移動できる冷却装置となれば、貴族だけでなく商業面にも応用が利く。スサン商会の名前を刻むには、ふさわしい一品になるだろうな」
ロイック兄さんも笑った。
「お前らしいよ。自分の商会じゃなく、親の商会に回すなんて」
「だって、僕の商会はまだ成長途中だもん。いま必要なのは、信用と生産力。それはやっぱりスサン商会の方がある」
「お前…ますます商会長の器だな」
そう言われると、さすがに顔が熱くなる。父は黙っていたが、その目は優しかった。
「ロイック兄さん。冷却装置を単独でも使えるようにして、保存庫とか、野外活動用の冷蔵箱とかも作ってみたい」
「そういうの、貴族が狩猟に持っていくのにも便利だろうな。あと、医者が薬草を保存する時とかも」
「うん、それに山間部や砂漠の交易でも役に立つよ。温度管理ができれば、もっと遠くに物を運べる。輸送革命だよ」
お父さんが小さく笑った。
「…ルステインから世界が変わるかもしれんな」
僕は思った。旅をしながら、こうやって語り合える時間こそが何よりの贈り物なのだと。
「ロイック兄さん、工房に戻ったら試作の設計図送るよ。今度は冷気の制御を中心に」
「楽しみにしてるよ。リョウエスト」
馬車の外では、草の香りと風が混ざって広がっていた。ルステインまで、あと少し。だけど、僕らの話はまだまだ終わらなかった。
「お父さん、冷却装置が完成したら、まずどこで使いたいと思う?」
僕の問いに、お父さんは少し考えてから言った。
「そうだな…まずは病院だ。命を扱う場所にこそ、安定した温度管理が必要だろう。あとはワインの貯蔵庫にも良い。品質を保てるからな」
ロイック兄さんがうなずいた。
「宿でも重宝されるぞ。真夏でも涼しい部屋があるってだけで、集客が違う。お前が考えてるより、ずっと影響が広がるかもしれないな」
「…そうか」
僕は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。夢を語って、それが現実になりかけている。旅の終わりは、いつも次の始まりだ。
「頑張ろう、ロイック兄さん。お父さん」
「おう」
「ふふ、頼もしい息子を持ったものだ」
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そのとき、兄さんがふとつぶやいた。
「でも…冷却装置の普及には障壁も多い。部材の入手性、維持コスト、技師の育成。道のりは平坦じゃないぞ」
「分かってるよ、ロイック兄さん。でも僕らには協力してくれる仲間がいる。職人たち、錬金術師、魔法技師、商会の人たち。一人じゃないから、きっとやれるよ」
お父さんが目を細めてうなずいた。
「そうだな。リョウエスト、お前は…本当にいい目をしている」
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やがて僕らの馬車は、ルステインの大門へと差しかかった。
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