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中編
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「旦那様、ファルーゼ伯爵家ゆかりの方が一度お会いしたいとのことです」
「必要ない、どうせ財産を寄こせというものだろう。放っておけ。そのような手合いはお前の方で断り、俺を煩わせるな」
帰宅と同時に執事が伝えてくるが、それを一蹴した。
一度、甘い汁を吸わせれば際限なく集られるのがオチだ。
こちらが毅然とした態度を取れば、向こうは怯んで何も言ってこない。
前妻の親戚筋というが、下位貴族と爵位を持たない平民相手、伯爵の自分に強行手段を取れるものではない。
もし取ったところで蹴散らせばよいだけだから問題もないのだが。
「お父様、アレは死んだの?」
「メリージュン、あんなのだって一応あなたの姉なのだから、そんな風に言ってはいけないわ」
妻子のやりとりを伯爵は微笑ましそうに眺めている。
娘は妻によく似た華やかな顔立ちだ。
「お母様だって「あんなの」呼ばわりじゃないの。それよりお父様、私、好きな方がいるの。婚約したくても跡取りでないとまとまらないかもしれないわ。早く死亡届を出してよ!」
「私からもお願いしますわ。キリーク=モルドーはとても令嬢たちに人気がありますの。彼は子爵家の三男だから、婿入りできると知ればメリージュンを選ぶと思うわ」
妻の口から出た名前は、伯爵も名前は聞いたことがある人物だった。
下位貴族とはいえ、上位貴族に婿入りしても問題ない威風堂々とした青年であり、見目が良く女性からよくモテると評判だった。
家も別段、貧しくも裕福でもなく、普通といった形容が似合う子爵家であり、本人も花形職業である近衛騎士だから、集られる心配もない。
「判った。死亡届はまだ出せんが、明日にで失踪届を出して、モルドー子爵家にも婚約の打診をしてみよう」
「ありがとう、お父様!」
メリージュンが大喜びし、妻は微笑ましい眼差しで見ていた。
晩餐の場で、娘の好きなに婚約の申し入れをした五日後だった。
「お久しぶりです。覚えておられないかもしれませんが、ファルーゼ伯爵家の顧問弁護士をしております、アーノルド=ヘイデンと申します」
お久しぶり、というからには前にもあったことがあるのか……。
そういえば前妻の葬儀のときに一度、弁護士に会ったことがあるかもしれない。
古い記憶を掘り返してみるが、なんとなくとしか覚えていなかった。
相手は従者を三人も連れてきている。
仕事を持つということは平民だろうが、堂々とした態度だ。
もしかしたら貴族の出身なのかもしれない。
応接室に通して話を聞けば、どんな用件なのか判るだろう。平民相手だから第二応接室で十分だ。
ヘイデンは勿体をつけながら書類を取り出す。
「ご息女のカメリア様が行方不明とのことですが?」
「その通りです。あれは二度と戻らないと言い捨てて家出をしましたので」
戻らないとは言ってないが、嫌なら出ていけと言って出て行ったのだから、戻ってくることはないだろう。
「なるほど、そういうことでしたか。それで失踪届と一緒に廃嫡届を出されたのですか」
「ええ、お恥ずかしいことですが」
不出来な娘を持つ父親らしく、殊勝な態度を取ってやる。
平民とはいえ不出来な娘が手を煩わせたのだ。親として恥ずべきことであるのは確かなのだ。
「ではもう二度とカメリア様が爵位を継ぐことはないのですね?」
「ええ」
俺の返答の後、少しの間が開いた。
「ではご退去願います」
「は?」
「ですから退去を。貴殿はあくまで伯爵代理。正当な血筋であるカメリア様が成人を迎えられるまでのお立場です。しかしカメリア様は廃嫡され、ファルーゼ伯爵家の一員ではなくなった。ですから親戚筋で一番継承権の高い者が継ぎます」
「何を言ってるのだ! 跡継ぎは娘のメリージュンしかいないだろう!!」
「後妻との間の娘ですね。彼女はファルーゼ伯爵家の血を一滴たりとも引いておりませんから、跡継ぎ足りえませんね」
「黙れっ! 平民風情がっ!!」
伯爵は激昂する。屋敷を出ていけと言われた挙句、愛娘が跡継ぎではないと言い切られたのだ。
「おい! こいつらをつまみ出せ!」
室外にいる使用人に言い渡す。
こんな失礼な平民なぞ、屋敷から叩き出さねば気が済まない。
「穏便にと思いましたが、不当に伯爵家を乗っ取ろうとする輩には、こちらもそれなりに対抗せねばなりません」
ヘイデンが言い終わるまり従者たちが素早く伯爵を拘束した。
「手荒な扱いを受けたくなくば大人しくしろ」
手をねじり上げながらの科白ではないが、従者たちはきにならないようだった。
「畜生! 放せっ!!」
「わめくな、貴族らしくない」
従者たちが見下ろしながら、低い声で脅した。
「必要ない、どうせ財産を寄こせというものだろう。放っておけ。そのような手合いはお前の方で断り、俺を煩わせるな」
帰宅と同時に執事が伝えてくるが、それを一蹴した。
一度、甘い汁を吸わせれば際限なく集られるのがオチだ。
こちらが毅然とした態度を取れば、向こうは怯んで何も言ってこない。
前妻の親戚筋というが、下位貴族と爵位を持たない平民相手、伯爵の自分に強行手段を取れるものではない。
もし取ったところで蹴散らせばよいだけだから問題もないのだが。
「お父様、アレは死んだの?」
「メリージュン、あんなのだって一応あなたの姉なのだから、そんな風に言ってはいけないわ」
妻子のやりとりを伯爵は微笑ましそうに眺めている。
娘は妻によく似た華やかな顔立ちだ。
「お母様だって「あんなの」呼ばわりじゃないの。それよりお父様、私、好きな方がいるの。婚約したくても跡取りでないとまとまらないかもしれないわ。早く死亡届を出してよ!」
「私からもお願いしますわ。キリーク=モルドーはとても令嬢たちに人気がありますの。彼は子爵家の三男だから、婿入りできると知ればメリージュンを選ぶと思うわ」
妻の口から出た名前は、伯爵も名前は聞いたことがある人物だった。
下位貴族とはいえ、上位貴族に婿入りしても問題ない威風堂々とした青年であり、見目が良く女性からよくモテると評判だった。
家も別段、貧しくも裕福でもなく、普通といった形容が似合う子爵家であり、本人も花形職業である近衛騎士だから、集られる心配もない。
「判った。死亡届はまだ出せんが、明日にで失踪届を出して、モルドー子爵家にも婚約の打診をしてみよう」
「ありがとう、お父様!」
メリージュンが大喜びし、妻は微笑ましい眼差しで見ていた。
晩餐の場で、娘の好きなに婚約の申し入れをした五日後だった。
「お久しぶりです。覚えておられないかもしれませんが、ファルーゼ伯爵家の顧問弁護士をしております、アーノルド=ヘイデンと申します」
お久しぶり、というからには前にもあったことがあるのか……。
そういえば前妻の葬儀のときに一度、弁護士に会ったことがあるかもしれない。
古い記憶を掘り返してみるが、なんとなくとしか覚えていなかった。
相手は従者を三人も連れてきている。
仕事を持つということは平民だろうが、堂々とした態度だ。
もしかしたら貴族の出身なのかもしれない。
応接室に通して話を聞けば、どんな用件なのか判るだろう。平民相手だから第二応接室で十分だ。
ヘイデンは勿体をつけながら書類を取り出す。
「ご息女のカメリア様が行方不明とのことですが?」
「その通りです。あれは二度と戻らないと言い捨てて家出をしましたので」
戻らないとは言ってないが、嫌なら出ていけと言って出て行ったのだから、戻ってくることはないだろう。
「なるほど、そういうことでしたか。それで失踪届と一緒に廃嫡届を出されたのですか」
「ええ、お恥ずかしいことですが」
不出来な娘を持つ父親らしく、殊勝な態度を取ってやる。
平民とはいえ不出来な娘が手を煩わせたのだ。親として恥ずべきことであるのは確かなのだ。
「ではもう二度とカメリア様が爵位を継ぐことはないのですね?」
「ええ」
俺の返答の後、少しの間が開いた。
「ではご退去願います」
「は?」
「ですから退去を。貴殿はあくまで伯爵代理。正当な血筋であるカメリア様が成人を迎えられるまでのお立場です。しかしカメリア様は廃嫡され、ファルーゼ伯爵家の一員ではなくなった。ですから親戚筋で一番継承権の高い者が継ぎます」
「何を言ってるのだ! 跡継ぎは娘のメリージュンしかいないだろう!!」
「後妻との間の娘ですね。彼女はファルーゼ伯爵家の血を一滴たりとも引いておりませんから、跡継ぎ足りえませんね」
「黙れっ! 平民風情がっ!!」
伯爵は激昂する。屋敷を出ていけと言われた挙句、愛娘が跡継ぎではないと言い切られたのだ。
「おい! こいつらをつまみ出せ!」
室外にいる使用人に言い渡す。
こんな失礼な平民なぞ、屋敷から叩き出さねば気が済まない。
「穏便にと思いましたが、不当に伯爵家を乗っ取ろうとする輩には、こちらもそれなりに対抗せねばなりません」
ヘイデンが言い終わるまり従者たちが素早く伯爵を拘束した。
「手荒な扱いを受けたくなくば大人しくしろ」
手をねじり上げながらの科白ではないが、従者たちはきにならないようだった。
「畜生! 放せっ!!」
「わめくな、貴族らしくない」
従者たちが見下ろしながら、低い声で脅した。
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