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前編
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「お前は十六歳の誕生日にノードル伯爵家に嫁にやる」
そうカメリアの父親が宣言したのは、誕生日の一か月前だった。
ノードル伯爵家は評判がよろしくない。当主はもとより二人の子息のどちらもが伯爵同様、粗暴で有名だった。夫人が社交の場に出てこないのは、伯爵が虐待し傷だらけだからだとも、既に死んでいるのだとも言われている。
「嫁にということは、ファルーゼ伯爵家は誰が継ぎますの? もしかしてファルーゼの血が一滴も流れていないメリージュンが?」
「俺の血が流れているのだから問題ない」
父親の返答にカメリアはふーんとしか思わなかった。
ファルーゼ家に婿入りした父親は、母の死後、愛人とその娘を屋敷に連れ込み、継嗣であるカメリアをないがしろにし続けていた。
世間的には問題しかない。
「わかりましたわ」
何を言っても無駄だと知っているカメリアは黙って自室に戻った。
いくら気に入らないとはいえ、実の娘を嬲り殺すような相手を探してくるなんてね。
私室に戻ったカメリアは溜息をつく。
ろくな荷物の無い部屋。
お母様から受け継いだ宝石類は全部、継母と異母妹が持って行ってしまった。
ドレスはまともにつくってもらってないから、お母様のドレスをサイズ直しをするのと同時に、流行のデザインにリメイクしていたけど、それさえも二人が持って行ってしまう。
現在、カメリアのクローゼットには使用人のような服が三着きりしかなかった。
――お母様が生きいたころは良かった。
度々、母方の親戚と会い交流を持っていた。
中でもはとこであるロランとは仲が良かった。
十歳年上のロランはとても面倒見の良い性格で、カメリアとよく遊んでくれた。
勉強嫌いだといえば学ぶ楽しさを教えてくれ、馬に乗れないと言えば乗馬を教えてくれた。
大切な思い出。
当然のように初恋はロランだ。
十歳のときに大好きと告白したら、年頃になったら結婚しようと言ってくれたけど、その一年後、カメリアの母親が急逝してから、一度も会っていない。
ロランお兄様……。
もう五年以上も会っていない。
ロランは今年で二十六歳になる。
会っていないどころか、連絡一つ取っていないのだから、もうとっくに結婚してしまっているだろう。
次男とはいえ国王陛下に仕える近衛兵として将来有望だし、何よりも容姿と人柄が良いのだから。
こんな環境になっていなければ、結婚できたかもしれない相手。
ロクデナシの父親と、カメリアを虐めることと着飾ることしかできない継母と異母妹。
今以上に居心地が悪くなることはないと思ったのは甘かった。
冗談じゃない、嫁ぐくらいなら家出してやるわ。
幸いにも家庭教師になれるくらいの学力ならある。もっとも家庭教師にならずとも、家を出た後に行く当てはあるのだが。
学力に関しては母親が亡くなった直後に、父親と継母が家庭教師を馘にしようとしたところ、社交界でカメリアへの虐待疑惑が出たことで、急遽続行になったのだ。
何せ虐待して衰弱死したから家庭教師が不要になったのだとか、邪魔な娘を殺しただとか噂され、捜査の手が入りそうになったため、噂を払拭しなくてはいけくなったのだから。
でも与えられたのは家庭教師だけ。
使用人以下の生活は変わらず、食事は余りもの。
酷い扱いだった。
その上、家庭教師も一年前の誕生日に解雇された。
本当は成人年齢に達する十六歳まで家に居たかったが仕方がない。
決心したカメリアは、少ない荷物をまとめて屋敷を出て行った。
常々、父親から「嫌なら出ていけ」と言われ続けていただけあって、屋敷を出る邪魔をする者はいなかった。
そうカメリアの父親が宣言したのは、誕生日の一か月前だった。
ノードル伯爵家は評判がよろしくない。当主はもとより二人の子息のどちらもが伯爵同様、粗暴で有名だった。夫人が社交の場に出てこないのは、伯爵が虐待し傷だらけだからだとも、既に死んでいるのだとも言われている。
「嫁にということは、ファルーゼ伯爵家は誰が継ぎますの? もしかしてファルーゼの血が一滴も流れていないメリージュンが?」
「俺の血が流れているのだから問題ない」
父親の返答にカメリアはふーんとしか思わなかった。
ファルーゼ家に婿入りした父親は、母の死後、愛人とその娘を屋敷に連れ込み、継嗣であるカメリアをないがしろにし続けていた。
世間的には問題しかない。
「わかりましたわ」
何を言っても無駄だと知っているカメリアは黙って自室に戻った。
いくら気に入らないとはいえ、実の娘を嬲り殺すような相手を探してくるなんてね。
私室に戻ったカメリアは溜息をつく。
ろくな荷物の無い部屋。
お母様から受け継いだ宝石類は全部、継母と異母妹が持って行ってしまった。
ドレスはまともにつくってもらってないから、お母様のドレスをサイズ直しをするのと同時に、流行のデザインにリメイクしていたけど、それさえも二人が持って行ってしまう。
現在、カメリアのクローゼットには使用人のような服が三着きりしかなかった。
――お母様が生きいたころは良かった。
度々、母方の親戚と会い交流を持っていた。
中でもはとこであるロランとは仲が良かった。
十歳年上のロランはとても面倒見の良い性格で、カメリアとよく遊んでくれた。
勉強嫌いだといえば学ぶ楽しさを教えてくれ、馬に乗れないと言えば乗馬を教えてくれた。
大切な思い出。
当然のように初恋はロランだ。
十歳のときに大好きと告白したら、年頃になったら結婚しようと言ってくれたけど、その一年後、カメリアの母親が急逝してから、一度も会っていない。
ロランお兄様……。
もう五年以上も会っていない。
ロランは今年で二十六歳になる。
会っていないどころか、連絡一つ取っていないのだから、もうとっくに結婚してしまっているだろう。
次男とはいえ国王陛下に仕える近衛兵として将来有望だし、何よりも容姿と人柄が良いのだから。
こんな環境になっていなければ、結婚できたかもしれない相手。
ロクデナシの父親と、カメリアを虐めることと着飾ることしかできない継母と異母妹。
今以上に居心地が悪くなることはないと思ったのは甘かった。
冗談じゃない、嫁ぐくらいなら家出してやるわ。
幸いにも家庭教師になれるくらいの学力ならある。もっとも家庭教師にならずとも、家を出た後に行く当てはあるのだが。
学力に関しては母親が亡くなった直後に、父親と継母が家庭教師を馘にしようとしたところ、社交界でカメリアへの虐待疑惑が出たことで、急遽続行になったのだ。
何せ虐待して衰弱死したから家庭教師が不要になったのだとか、邪魔な娘を殺しただとか噂され、捜査の手が入りそうになったため、噂を払拭しなくてはいけくなったのだから。
でも与えられたのは家庭教師だけ。
使用人以下の生活は変わらず、食事は余りもの。
酷い扱いだった。
その上、家庭教師も一年前の誕生日に解雇された。
本当は成人年齢に達する十六歳まで家に居たかったが仕方がない。
決心したカメリアは、少ない荷物をまとめて屋敷を出て行った。
常々、父親から「嫌なら出ていけ」と言われ続けていただけあって、屋敷を出る邪魔をする者はいなかった。
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