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第1章
あの糸は…
しおりを挟む公表は3か月後。その時に伯爵家の陞爵の件と新しいナシェルカ公爵領についても発表される。
まだまだ色々なことに頭の整理が追いついていない私たちには3か月の猶予があるの。
少しずつ頭の中を整理していこうと思う。
だが、領地のことに慣れるのは早ければ早いほどいいと、フレッド様は基本的な生活を我が家で始めた。
部屋はとりあえず客間を用意し、お父様と一緒に積極的に領地回りをしてくれている。
そして私が学校から帰って、時間が合えば必ずお茶に誘ってくれる。
「そういえばサリー、ドレスに使っている糸はどうやって作ったの?領地の特産物の情報はむやみに言えないかなと思って深くは聞かなかったけれど、婚約者になったから聞いてもいいかな。」
今日も私が学校から帰って、お茶をして、学校の出来事などを話していると、急にフレッド様からそんな質問が飛んでくる。
確かに特別な糸としか説明していなかったな。でも領地を回っているときにでも父に聞けば良かったのに。
「あれは蜘蛛の糸なんです」
私がそういうと、フレッド様がとても驚いた顔をしている。
「……くも!??くもってあの脚がたくさんある蜘蛛?」
「はい、脚がたくさんあるあの蜘蛛です。
わが領で数年前、大量発生した珍しい蜘蛛がいたんです。
専門家に聞いてみたのですが、新種の蜘蛛じゃないかといわれ、今ではナシェルカ蜘蛛と呼ばれています。その蜘蛛が本当に繁殖能力が高く、その上一度巣を張ったら、糸が丈夫過ぎて、処理するのも大変だったんです。
私はたまたまその時期領地に帰っていて、その状況を見ていたんです。そして本当に偶然なんですけど、何匹かの蜘蛛が同じような場所に巣を張り、それが輝いて見えたんです。何匹もが作った巣が重なってしまって、その巣は雨が降ってもきれいな形を保ったまま壊れませんでした。その巣がなんだか気になって触ってみたんです。そしたら雨の後だったからか、その巣はさらさらとしていて、触り心地も悪くなく、それに手で触っても切れにくかったんです。
だから、当時から私の遊び相手になってくれていたアンと一緒に、綺麗な蜘蛛の巣を集め、一本一本ほどいて洗ってみたんです。最初は切れたりしてたんですけど、要領がわかってくるとするするするっとほどけていって楽しいんですよね。そしてその糸で小さいものですけど、布を作ってみたんです。全然布なんて言えるような物ではなかったけど、それでも布になりそうな物になったんです。
そこからは領民たちとやり方を考えて、蜘蛛が多くなりすぎないくらいに増やせないかと話し合いました。色々と試しながらやってみたんですが、なぜか迷惑になるほど蜘蛛が多くなることはなかったんです。そしてほかの蜘蛛はここまでではないようですが、ナシェルカ蜘蛛は糸で玉を作り、その中で子どもを育てます。子どもが玉の中にいる間は自分の近くで守るんですが、子蜘蛛がそこから巣立つとその玉を手放すのです。だからそのいらなくなった玉をとって糸を作っているんです。そうしてみると、きれいな糸の玉が取れ、それから糸が確保できるようになったんです。
しかも一つの巣の中で育てる蜘蛛の数がかなり少ないおかげで、かなり多くの糸玉が確保できるんです。
ただ、難点なのが探すこと。たまには高い所にあったり、たまには踏みつけてしまいそうになったりと探すことだけが難しんです。
それを子どもたちが遊び感覚で集めてくれるようになりました。だから本当に遊びの場に見立てて糸玉1個取れるといくらの特典付きの遊び場にしたんです。。そしたら大量に取ることができて、人件費もかなり安く抑えることができました。それと同時に子どもたちのお小遣い稼ぎする場ができ、領民の懐も少し潤ったんです。
そしてきれいに見えるようにと、洗い方も工夫してしてみると、とてもきれいな糸にすることができました。それを今まで繭の糸でシルクを仕上げていた職人さんに持って行って同じように編んでほしいとお願いしました。すると出来上がった物は予想以上。とてもきれいなものができたんです。
そこからはもうみんなで協力してあっという間に製品化しました。面白かったのは編んでくれた方。自分もこれを作るのに協力する!といってわざわざわが領地に引っ越してきてくださったんです。
そしたら、農家さんたちが自分たちも蜘蛛をやった方が儲かるだろうかって言ってきて。もちろん蜘蛛もいい産業になる気がするんです。でも領地の野菜がおいしいことだって自慢なんです。だから野菜の方もどうにかしたくていろいろ考えていたら色をつけられるってわかって………ってすみません。話しすぎですね。
と、とりあえず、蜘蛛の糸なんです……」
こんな事を話せることがとても楽しく、ひとりで熱くなって話してしまったけれど、ふと目に入ったフレッド様がとてもニコニコしていて、急に恥ずかしくなってしまった。もう普通の淑女だなんて思っていないと思うけれど、それでも淑女がこんなに熱くなって話すべきではなかった……恥ずかしい……
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