選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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5.母との思い出の場所

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そしてただただ足を進めた先にあったのは母と来たことがある食堂だった。

5歳だった私が覚えているほど印象的な外観のお店。

建物を緑の蔓が覆いつくしていて、店だなんて思えないようなお店。

でも祖母と同じ年くらいの女の人が出してくれる食べ物は暖かくて、とても美味しかった。

死ぬ前に母との思い出の温かい食事を食べたいと思った。

静かにドアを開けるとそこは思い出の中にあるような大きな店ではなくて、こじんまりした店だった。

思い出の中の店はもっと大きかった気がする。これは私が大きくなったと言うことなんだろうか。

そんなことに思いを巡らせながらキョロキョロと店の中を見渡していると奥から女性が出てきた。

「おや、いらっしゃい。客なんて久しぶりだよ。よくこの店がわかったね」

「あのすみません、ずいぶん前に母ときた記憶があって。もうお店はやってらっしゃらないんですか?」

「いや、客が来なかっただけで店はやってるよ。お望みのものはなんだい?」

「えと…。
商品名はわからないのですが…以前いただいたスープと本当はステーキをいただきたいんですが、ステーキは食べられそうにないのでスープだけでもいいですか?」

「わかったよ。じゃぁできるまで好きなところに座ってな」

そう言って奥に行った女性はスープを持って戻ってきてくれた。

「はいよ。本当は具がたくさんあるんだけど、あんたの様子じゃ、それもしんどそうだから具は少なめね。次のときには具だくさんのスープを出してやるから今日はそれで我慢しな」

そう言われて差し出されたスープはなんだかとても懐かしい匂いがした。

「ありがとうございます」

そう言ってスープを口に入れると、なんだか今までの気持ち悪さが嘘のように体中がすっきりしたような気がする。今まで何を食べてもすぐに吐きたい衝動に駆られていたのにこのスープを食べてもそんな衝動に襲われる事は無い。そのことが嬉しくて次々とスープを口に運ぶとあっという間にスープがなくなってしまった。

本当はもう少し食べていたい気持ちもある。でも今までほとんど食べてこなかった体はさすがにそんなに受け入れてくれはしなさそうだ。だから静かにスプーンを机の上におろすと、それを見越して女性が話しかけてきた。

「おや、食べ終わったのかい?想像よりも食べれてよかったよ。一度にあまり多くを食べると体が驚いてしまうからまた後で軽く食べればいいさ。その間に私と昔話をしようか」

そう言って女性は私の席の前に座って話を始めた。
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