一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。

白滝春菊

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「お母さん、妊娠したの」

 浄化の旅を一年ぐらい掛けて無事に終えて、国に帰ってきて歓迎のパレードやパーティが終わった次の日のことだ。
 お母さんから話があると言われて少し緊張してテーブルに向かい合って座るとお母さんが恥ずかしそうにそう言った。
 最初は何を言っているのかわからなかった。
 だってお父さんは死んでいるし妊娠なんてするわけないじゃん……

「え……誰の?」

 まさかと思いつつそう尋ねるとお母さんは顔を真っ赤に染めて、言いにくそうに小さな声で呟いた。

「……エリオットさんよ」
「は?」

 エリオットさん?あの騎士のエリオットさん?私の初恋であり片想い中のエリオットさん?
 そりゃお母さんは年齢の割に若々しい見た目だし美人だよ?お母さんは38……いや、先月誕生日を迎えたから39歳で10歳差だしそんなに離れては無いけど……

「私が死ぬ思いで頑張っていたのに何しているの……」

 年齢とか年の差よりも何よりも私が旅をしている間に二人で距離を近づけてきているのが問題だった。

 私の気も知らないで……私だって、エリオットさんをいいなぁって思っていたけど我慢して!我慢して帰る為に頑張ったのにお母さんは安全な場所で

「ごめんさない……でも、不安で……そしたらエリオットさんが……」
「聞きたくない」

 言い訳をしようとするお母さんに思わず冷たく言ってしまい、私は椅子から立ち上がって自分の部屋に戻った。

 その後、しばらく部屋から出てこなかった私にお母さんは何度も謝りにきたけれど全部無視をした。
 もうあの頃には戻れないのかな?せっかく瘴気浄化出来て帰ってきたのに……こんなことになるならエリオットさんを旅に同行させるべきだった。

 そうしたらエリオットさんが選んだのは私でお母さんはずっとお父さんだけを好きでいてくれたのに。

 ……そう思いながらベッドの上悩んでいるとエリオットさんが部屋を訪ねてきた。お母さんに私のことを聞いて心配になったらしい。
 それはとてもエリオットさんらしいなと思いながらも私も話をしたかったから一度外に出て中庭に散歩をしに行った。

「子供が出来たんだってね」

 どんな顔をすれば良いのかわからなかったので空に浮かぶ月を見たまま尋ねた。

 元の世界の月と違ってここの月はとても青い。
 そして私はきっと可愛くない顔をしているんだろうな。

「はい、申し訳ありません。私は……その……」

 ああ、謝られても困るよ……本当に家族になろうなんて言われたらどう対処していいかわからない。
 そんなの苦しいだけだ。あの人は私に恋をしていないし、私のことなんて妹ぐらいにしか思っていないからね。

「責任を取りたい。彼女との結婚を認めて欲しい」

 思わず立ち止まると、エリオットさんも立ち止まって振り返った。その顔はとても真剣で冗談を言っているようには見えない。

「私が許さなかったら結婚は諦めるの?」
「それは……」
「私が認めなかったらお母さんのお腹の赤ちゃんは私生児扱いになるんだよ?その覚悟はあるの?」
「そうではなく…… 」

 私が早口でそう言うとエリオットさんはとても辛そうに顔を歪めて泣きそうになっていた。こんなエリオットさんは見たくなかった。

「順番が違うよね?」

 私が帰ってきて、妊娠なんてしてなくてお付き合いをしたいと最初に言ってきてくれれば私はまだエリオットさんの手を取れたかもしれない。エリオットさんなら信じられると思ったから……
 でももう駄目だよ。もう手遅れで、気持ち悪いとしか感じない。

「私、旅の途中で何度か魔物に襲われたりして大変だったんだよ?宿屋のベッドは当たり外れあるし野宿とかもしてさ、ご飯もあまり美味しくないし、異世界人だからって快く思わない人だっていたの……そう、楽しいだけの旅じゃなかった」

 辛いことがあっても元の世界にお母さんと一緒に帰る為に泣くのを我慢して頑張ってきたのだ。
 帰りたい場所があるから頑張れたのに……エリオットさんの子供を身籠ったから幸せですって?そんなの絶対に許さない。
 私が話している間、エリオットさんはずっと辛そうな顔をしていた。その顔は見ていて胸が痛くなるけれど知ったこっちゃない。それぐらい私は悲しくて怒っている。

「彼女を責めないでほしい……私が先に」
「やめてってば!」

 そんな気持ち悪い話なんて聞きたくない。どっちが先に好きになったとかそんなの関係ない。
 家族が増えて喜ばれると思っていたのかお母さんもエリオットさんも傷ついた顔して、悲しそうで、それで余計腹が立つ。
 そして私はエリオットさんに酷い言葉をたくさん投げつけた。エリオットさんは泣きそうになりながらもずっと黙って聞いていた。
 こんなにわがままで酷くて冷たいことを言ってしまって嫌われただろう。

 私のお父さんは死んだお父さんだけ、私の家族はお母さんだけ……

 涙が出てきて、こんな泣き顔を見られたくなくてその場から走り出した。
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