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43 ゲームヒロインは聖女様疑惑
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「――熱も下がったし、すっかり体調も良さそうだな。これなら今日にも帰宅して問題無いと思うぞ。良かったな」
ディートハルト先生は、いつもの様に眼鏡を掛け、前髪で顔を半分隠しながら口角を引き上げた。
先生のパン粥のおかげか、はたまた邸宅から駆けつけてくれたメイドのリリーのおかげかは判らないけれど、二日後には熱も下がって体調もほぼ元通りになった。
「俺はこれから職員会議だからもう行くけれど…カールは気を付けて帰れよ」
グシャグシャと髪を撫でると『やばい…遅れる…』と焦った様子で走って出て行ってしまう。
「あ…の‼…医務室の鍵、は…?」
慌てて声をあげた時には、既に先生の姿は無く、流石に此処の鍵を開けたままで無人にするのは、不用心過ぎるのでは無いかと悩んでいると、リリーが苦笑しながら提案してくれた。
「ディートハルト先生がこちらに戻られるまで、私が医務室で留守番をしておきます。カール様もご帰宅前に忘れ物が無いように荷物をご確認下さいね」
その言葉で、自分が図書館から借りた本を数冊、教室に置き去りのままだったことを思い出した。
「大変‼休暇課題に必要な資料を教室に置き忘れていたわ。リリーには悪いけれど、少しだけ待っていてくれる⁈」
駆け足で医務室を飛び出すと、既に夏季休暇中のプティノポローン棟はひっそりと静まり返って人気が無い。
今は職員会議中のせいか、学院の教師にさえすれ違わないまま、辿り着いた教室もガランとしていて、何処か寂し気に見えた。
(――あっ‼ これこれ…邸宅に戻る前に気づいて良かったわ~…)
机の中から持ち帰る本を見つけると、不意に風が強く吹いて窓をガタガタと揺らす。
視線の先に小さく映ったのは、私が落ちた噴水で、地下水からくみ上げたあの水は、夏だと言うのに驚くほど冷たかったことを、身をもって教えられた。
――もしマリアーナ嬢が噴水に叩き込まれていたら、もっとずっとひどい状態になっていた可能性は高い。
令嬢が全身を濡れネズミにされ、誰からも救いの手が差し伸べられなかった場合はどれ程に傷ついただろうか。
だから、水を被ったのが自分で良かったと思う反面、マリアーナから向けられた敵意の理由が判らないから、モヤモヤと今も胸を搔き乱すのだ。
(…そんなに彼女から嫌われるような事をした覚えは無いんだけどな…)
マリアーナ嬢の言い分を聞いてみない事にはどうにも気持ちの落としどころが見つからない。
そんなことを考えていたせいか、噴水脇の茂みの中に見覚えのあるストロベリーブロンドが微かに揺れているのを見つけた時には幻覚かと、思わず目を瞬かせた。
(…えっ⁈ 既に夏季休暇中だというのに、彼女は学術院で何をしているんだ?)
本当にあれが彼女なのかは判らないが、あそこに誰かがいることは確実だ。
そう思ったら居ても立っても居られず、咄嗟に窓枠を乗り越えると、私は中庭に向けて走り出してしまった。
――彼女の真意を、直接聞いてみたいと思ったから…。
「ぅ…グスっ…も、もうダメだわ…彼に…嫌われ…ふっ…グス…」
傍まで近づくと、どうやら彼女は泣きじゃくりながら誰かと会話しているらしい事が判った。
茂みに身を隠しながら、こっそりと様子を覗うと、人気が無い事で安心しているのか、声を潜めることも無いままに彼女の会話は続いている。
「ハァ…だからボクは最初に言ったよねぇ。キミに対する彼の好感度が低すぎて、あの状態じゃイベントを起こすのは無理だって‼」
「で…でも、予定通りに意地悪モブ令嬢たちが私を…中庭に連れて来たから…グスっ…いけると思ったんだもん…うう…」
「…そのおかげで、キミは益々フランツに嫌われたわけだ。今じゃ彼のファーストネームすら呼べないぐらいには、好感度最悪状態だけどねぇ」
「それも全部…あの男のせいよ‼何で男のくせにフランツ様にお姫様抱っこをされる訳⁈ 幼馴染とか言っていたけれど、あんなのゲームイベでは一度も見たこと無かったわ‼バグじゃないの⁈運営出て来いーっ‼」
「ハァ…本当にキミは馬鹿だよね。この転生したゲーム世界に運営は居ないよ。ちなみに僕は、苦情は受け付けていませ~ん‼」
(一体、何の話…?どうやら噴水での出来事を話しているようだけど…)
意図せず、自分の悪口を盗み聞きする形になったのが気まずい。
偶然を装っても、既に出て行ける雰囲気では無いし、コッソリ教室に引き返して素知らぬふりを決め込むのも今さら難しそうだ。
「もう、いい加減に泣き止んでくれる?全部自分のせいなんだから諦めなよ」
マリアーナ嬢の盛大な泣き声に混じって、微かにため息と辛らつな誰かの声が漏れ聞こえる。――この声の主は一体誰なんだろうか?
そろそろと茂みの陰から覗き見ると、制服姿のままで地面に突っ伏して号泣するマリアーナ嬢と、その目の前で仁王立ちする真っ白な毛玉――いや“白猫”の後ろ姿が見えた。
(あれって…えっ⁈あの日の…入学式で捕まえた子猫だよね⁈何で…しかも人語をしゃべっているって…??)
そう言えば、この猫は入学式の日もやり取りを理解しているかのような不自然な行動と、私の視線からも目を逸らしたことを思い出した。
「キミはこのままだと攻略失敗だよ☆誰からも愛されない哀れな聖女様の末路は、僕に“聖魔力”ごとペロリと食べられてTHE・ENDだね☆アハハ」
「そんなの嫌~~~‼エリクの馬鹿馬鹿馬鹿―っ‼」
(っ⁈…今、聖魔力って言ったわよね…⁈)
いきなり飛び出したその一言に、言葉にならないほどの衝撃が走った。
まさか彼女――マリアーナ・アウレイア男爵令嬢は聖魔力持ちだとでも言うのだろうか?
もし彼女が本当に聖魔力持ちだとすれば、大変な秘密を隠していたことになる。
聖魔力を体に秘める女性は【聖女】と呼ばれ、その聖魔力であらゆる災害を退けると言い伝えられている。
聖女信仰の教会で認められた聖女には【救済の乙女】の称号が与えられ、その称号は王家の一族と同等の価値があるとも言われる。
聖女を手に入れるために、各国の王族が挙って求婚するぐらいには、貴重な存在なのだ。
その力さえあれば、今の仮初の治癒ではなく、ルイスの“聖魔力欠乏症”を治すことなど簡単に出来るだろう――もし…彼女が本物の聖女であるのなら…。
思わずゴクリと唾を飲み込んで、利己的な考えを振り払う。
(こんな処に本物の聖女様がいるはず無いわよ。本物ならば教会が存在を隠しているに決まっている…)
ドキドキする鼓動を落ち着かせるために、何度か深呼吸して胸に手を当てる。
ふと気が付いた時、いつも間にか二人の会話が聞こえてこないことに違和感を覚えた。
――しかも、気が付けば目の前にはあの白猫が仁王立ちで立っているではないか。
「…キミは確か、カールの方だよね?…勝手に話を盗み聞くなんて良い趣味しているよ、本当に。それに、ボクのこの状況にも驚かないなんて、一体どういう事さ?!頭から丸かじりしてあげようか⁈」
イライラと尻尾を地面に叩きつけ、怒りをあらわにする白猫に思わず顔が引きつる。
「…コッソリと話を盗み聞きしたことは謝るよ。本当にゴメン。実は体調が悪くてここ数日は私も学術院の医務室でお世話になっていたんだ。…まさか、休暇中の学院に誰かいるとは思わなくて、偶然、姿を見たから…」
“結果的に盗み聞きになっちゃったね”と頭を下げると、白猫は「キミは何処まで聞いたんだい?」と尋ねてくる。
「先日の一件がゲームのイベントとかで失敗したとか、好感度が低いからこのままだと彼女の聖魔力は白猫さんに丸ごと食べられるとか…そんな話を…」
「あーあ…一番聞かれたくない部分はバッチリ聞いているんだね。参ったなぁ」
そう大きなため息を吐くと「ボクはエリクだよ」とぶっきらぼうに呟いた。
「え…何の話…?」
「だ・か・ら、ボクの名前は“使い魔のエリク”だよ。勝手に白猫さんとか呼ばないでくれる?そんな下等動物と一緒にされるとかありえないんですけど⁈ボクこそは、この【金色のSALUS】の導き手であり、ゲームヒロインが迷わないように行く手を示す重要な役どころなんだからね」
(…この白猫…いやエリクは一体何の話をしているんだろう…?ゲーム?ヒロイン?)
唖然とする私に、何故か満足そうに頷くと、エリクは「驚いただろう☆」と益々ふんぞり返る。
「えーっと…ごめんね、意味が解らないよ。それに私が聞きたいのはそこじゃなくて…マリアーナ嬢が本当に聖魔力の持ち主なのかという事だけなんだ」
「――そうよ。私は【救済の乙女】聖女マリアーナなのよ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはマリアーナ・アウレイアが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。今日も相変わらず、恐ろしい形相をしている…。
「私がヒロインとして輝くべき世界で、微笑みを浮かべ、愛を囁いてくれるはずのフランツ様も、メインキャラの王太子殿下も全っ然、私に靡いてくれないのよ‼ それに本来ならアンタはゲームに居ないはずでしょう?カールは領地に居るはずだし、ルイスなんて聞いたことも無いわ。どう考えてもシナリオを逸脱した状況よね⁈ アンタってバグなの?おかしいんじゃない⁈」
一気に捲し立てるマリアーナは、興奮しているのかハアハアと鼻息も荒い。
彼女の話す内容は荒唐無稽で、あまりにも常軌を逸したことばかりだけれど、どうにも無視できない要素を含んでいる。
――カールが本来であれば領地に居て、王立学術院に通えない状況だったことを、何故彼女が知っているのか…?その一点が引っかかるのだ。
「ほーら‼図星を差されて随分と動揺しているみたいじゃないの。私を騙そうったってそうはいかないんだから。この“金色のSALUS”は前世でプレイ済みだから、大まかなシナリオだってちゃんと覚えているんだからね⁈」
ギラギラと肉食獣のように目を光らせるマリアーナの姿に、私は只、戸惑うことしか出来なかったのだった。
ディートハルト先生は、いつもの様に眼鏡を掛け、前髪で顔を半分隠しながら口角を引き上げた。
先生のパン粥のおかげか、はたまた邸宅から駆けつけてくれたメイドのリリーのおかげかは判らないけれど、二日後には熱も下がって体調もほぼ元通りになった。
「俺はこれから職員会議だからもう行くけれど…カールは気を付けて帰れよ」
グシャグシャと髪を撫でると『やばい…遅れる…』と焦った様子で走って出て行ってしまう。
「あ…の‼…医務室の鍵、は…?」
慌てて声をあげた時には、既に先生の姿は無く、流石に此処の鍵を開けたままで無人にするのは、不用心過ぎるのでは無いかと悩んでいると、リリーが苦笑しながら提案してくれた。
「ディートハルト先生がこちらに戻られるまで、私が医務室で留守番をしておきます。カール様もご帰宅前に忘れ物が無いように荷物をご確認下さいね」
その言葉で、自分が図書館から借りた本を数冊、教室に置き去りのままだったことを思い出した。
「大変‼休暇課題に必要な資料を教室に置き忘れていたわ。リリーには悪いけれど、少しだけ待っていてくれる⁈」
駆け足で医務室を飛び出すと、既に夏季休暇中のプティノポローン棟はひっそりと静まり返って人気が無い。
今は職員会議中のせいか、学院の教師にさえすれ違わないまま、辿り着いた教室もガランとしていて、何処か寂し気に見えた。
(――あっ‼ これこれ…邸宅に戻る前に気づいて良かったわ~…)
机の中から持ち帰る本を見つけると、不意に風が強く吹いて窓をガタガタと揺らす。
視線の先に小さく映ったのは、私が落ちた噴水で、地下水からくみ上げたあの水は、夏だと言うのに驚くほど冷たかったことを、身をもって教えられた。
――もしマリアーナ嬢が噴水に叩き込まれていたら、もっとずっとひどい状態になっていた可能性は高い。
令嬢が全身を濡れネズミにされ、誰からも救いの手が差し伸べられなかった場合はどれ程に傷ついただろうか。
だから、水を被ったのが自分で良かったと思う反面、マリアーナから向けられた敵意の理由が判らないから、モヤモヤと今も胸を搔き乱すのだ。
(…そんなに彼女から嫌われるような事をした覚えは無いんだけどな…)
マリアーナ嬢の言い分を聞いてみない事にはどうにも気持ちの落としどころが見つからない。
そんなことを考えていたせいか、噴水脇の茂みの中に見覚えのあるストロベリーブロンドが微かに揺れているのを見つけた時には幻覚かと、思わず目を瞬かせた。
(…えっ⁈ 既に夏季休暇中だというのに、彼女は学術院で何をしているんだ?)
本当にあれが彼女なのかは判らないが、あそこに誰かがいることは確実だ。
そう思ったら居ても立っても居られず、咄嗟に窓枠を乗り越えると、私は中庭に向けて走り出してしまった。
――彼女の真意を、直接聞いてみたいと思ったから…。
「ぅ…グスっ…も、もうダメだわ…彼に…嫌われ…ふっ…グス…」
傍まで近づくと、どうやら彼女は泣きじゃくりながら誰かと会話しているらしい事が判った。
茂みに身を隠しながら、こっそりと様子を覗うと、人気が無い事で安心しているのか、声を潜めることも無いままに彼女の会話は続いている。
「ハァ…だからボクは最初に言ったよねぇ。キミに対する彼の好感度が低すぎて、あの状態じゃイベントを起こすのは無理だって‼」
「で…でも、予定通りに意地悪モブ令嬢たちが私を…中庭に連れて来たから…グスっ…いけると思ったんだもん…うう…」
「…そのおかげで、キミは益々フランツに嫌われたわけだ。今じゃ彼のファーストネームすら呼べないぐらいには、好感度最悪状態だけどねぇ」
「それも全部…あの男のせいよ‼何で男のくせにフランツ様にお姫様抱っこをされる訳⁈ 幼馴染とか言っていたけれど、あんなのゲームイベでは一度も見たこと無かったわ‼バグじゃないの⁈運営出て来いーっ‼」
「ハァ…本当にキミは馬鹿だよね。この転生したゲーム世界に運営は居ないよ。ちなみに僕は、苦情は受け付けていませ~ん‼」
(一体、何の話…?どうやら噴水での出来事を話しているようだけど…)
意図せず、自分の悪口を盗み聞きする形になったのが気まずい。
偶然を装っても、既に出て行ける雰囲気では無いし、コッソリ教室に引き返して素知らぬふりを決め込むのも今さら難しそうだ。
「もう、いい加減に泣き止んでくれる?全部自分のせいなんだから諦めなよ」
マリアーナ嬢の盛大な泣き声に混じって、微かにため息と辛らつな誰かの声が漏れ聞こえる。――この声の主は一体誰なんだろうか?
そろそろと茂みの陰から覗き見ると、制服姿のままで地面に突っ伏して号泣するマリアーナ嬢と、その目の前で仁王立ちする真っ白な毛玉――いや“白猫”の後ろ姿が見えた。
(あれって…えっ⁈あの日の…入学式で捕まえた子猫だよね⁈何で…しかも人語をしゃべっているって…??)
そう言えば、この猫は入学式の日もやり取りを理解しているかのような不自然な行動と、私の視線からも目を逸らしたことを思い出した。
「キミはこのままだと攻略失敗だよ☆誰からも愛されない哀れな聖女様の末路は、僕に“聖魔力”ごとペロリと食べられてTHE・ENDだね☆アハハ」
「そんなの嫌~~~‼エリクの馬鹿馬鹿馬鹿―っ‼」
(っ⁈…今、聖魔力って言ったわよね…⁈)
いきなり飛び出したその一言に、言葉にならないほどの衝撃が走った。
まさか彼女――マリアーナ・アウレイア男爵令嬢は聖魔力持ちだとでも言うのだろうか?
もし彼女が本当に聖魔力持ちだとすれば、大変な秘密を隠していたことになる。
聖魔力を体に秘める女性は【聖女】と呼ばれ、その聖魔力であらゆる災害を退けると言い伝えられている。
聖女信仰の教会で認められた聖女には【救済の乙女】の称号が与えられ、その称号は王家の一族と同等の価値があるとも言われる。
聖女を手に入れるために、各国の王族が挙って求婚するぐらいには、貴重な存在なのだ。
その力さえあれば、今の仮初の治癒ではなく、ルイスの“聖魔力欠乏症”を治すことなど簡単に出来るだろう――もし…彼女が本物の聖女であるのなら…。
思わずゴクリと唾を飲み込んで、利己的な考えを振り払う。
(こんな処に本物の聖女様がいるはず無いわよ。本物ならば教会が存在を隠しているに決まっている…)
ドキドキする鼓動を落ち着かせるために、何度か深呼吸して胸に手を当てる。
ふと気が付いた時、いつも間にか二人の会話が聞こえてこないことに違和感を覚えた。
――しかも、気が付けば目の前にはあの白猫が仁王立ちで立っているではないか。
「…キミは確か、カールの方だよね?…勝手に話を盗み聞くなんて良い趣味しているよ、本当に。それに、ボクのこの状況にも驚かないなんて、一体どういう事さ?!頭から丸かじりしてあげようか⁈」
イライラと尻尾を地面に叩きつけ、怒りをあらわにする白猫に思わず顔が引きつる。
「…コッソリと話を盗み聞きしたことは謝るよ。本当にゴメン。実は体調が悪くてここ数日は私も学術院の医務室でお世話になっていたんだ。…まさか、休暇中の学院に誰かいるとは思わなくて、偶然、姿を見たから…」
“結果的に盗み聞きになっちゃったね”と頭を下げると、白猫は「キミは何処まで聞いたんだい?」と尋ねてくる。
「先日の一件がゲームのイベントとかで失敗したとか、好感度が低いからこのままだと彼女の聖魔力は白猫さんに丸ごと食べられるとか…そんな話を…」
「あーあ…一番聞かれたくない部分はバッチリ聞いているんだね。参ったなぁ」
そう大きなため息を吐くと「ボクはエリクだよ」とぶっきらぼうに呟いた。
「え…何の話…?」
「だ・か・ら、ボクの名前は“使い魔のエリク”だよ。勝手に白猫さんとか呼ばないでくれる?そんな下等動物と一緒にされるとかありえないんですけど⁈ボクこそは、この【金色のSALUS】の導き手であり、ゲームヒロインが迷わないように行く手を示す重要な役どころなんだからね」
(…この白猫…いやエリクは一体何の話をしているんだろう…?ゲーム?ヒロイン?)
唖然とする私に、何故か満足そうに頷くと、エリクは「驚いただろう☆」と益々ふんぞり返る。
「えーっと…ごめんね、意味が解らないよ。それに私が聞きたいのはそこじゃなくて…マリアーナ嬢が本当に聖魔力の持ち主なのかという事だけなんだ」
「――そうよ。私は【救済の乙女】聖女マリアーナなのよ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはマリアーナ・アウレイアが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。今日も相変わらず、恐ろしい形相をしている…。
「私がヒロインとして輝くべき世界で、微笑みを浮かべ、愛を囁いてくれるはずのフランツ様も、メインキャラの王太子殿下も全っ然、私に靡いてくれないのよ‼ それに本来ならアンタはゲームに居ないはずでしょう?カールは領地に居るはずだし、ルイスなんて聞いたことも無いわ。どう考えてもシナリオを逸脱した状況よね⁈ アンタってバグなの?おかしいんじゃない⁈」
一気に捲し立てるマリアーナは、興奮しているのかハアハアと鼻息も荒い。
彼女の話す内容は荒唐無稽で、あまりにも常軌を逸したことばかりだけれど、どうにも無視できない要素を含んでいる。
――カールが本来であれば領地に居て、王立学術院に通えない状況だったことを、何故彼女が知っているのか…?その一点が引っかかるのだ。
「ほーら‼図星を差されて随分と動揺しているみたいじゃないの。私を騙そうったってそうはいかないんだから。この“金色のSALUS”は前世でプレイ済みだから、大まかなシナリオだってちゃんと覚えているんだからね⁈」
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