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ハインリッヒの活躍だ。
保線区員に切り込む。
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フランス国鉄で、ハインリッヒ監察官を知らないヤツはいない。 あだ名がアイゼンバーンなので、フランス人は彼をアイゼンと呼んだ。 まさに鉄の監察官であるからだ。 線路の保線にうるさく、線路の継ぎ目の間隔にうるさく、車輪の片磨耗にうるさい、まるで日本人のオタクそのものであった。 そのアイゼン(ハインリッヒ)が陸橋保線区に点検を兼ねて監察に及んだ。 保線区の役員が応対する。 アイゼン(ハインリッヒ)が、「保線作業員の教育具合は?」 「計画は、これです。」 「ふむ、まあまあか。」 「ハイ、それなりに時間をさいています。」 「保線作業の代休は消化しているだろうな。」 「人員が不足していますので、それなりです。」 記録用紙をチェツクして、「人員不足は、君の保線区だけではないので、増員を政府に要望する予定だ。」 「それは、ありがたいです。」 アイゼン(ハインリッヒ)は、あの日の保線記録を控えて、「この機関車が脱線した日の保線区の割り振りは?」 「ここに、記入してあります。」 「ふむ、あれ、この空欄は?」 「それは、保線区員の中に、外部の者とイサカイがありまして。」 「イサカイとは。」 「はっきり言いますと、酔っ払ってケンカで、誰かに殺害されたのです。」 「して、犯人は?」 「いえ、捕まっていません。」 「警察は、フランス警察は?」 「捜査してるらしいですが。」 「迷宮入りか?」 「みたいですね。」 「まあ、事件となると、我らのはんちゅうではないな。」 「保線区では、なんとも。」 「その時の、保線区の班長は?」 「え、え、と、これです。」 「ほう、このガストンは?」 「今は、こちらの班にいますんで。」 「それなら、監察官として、事件は把握してなければならない。」 「わかった、ありがとう。」 「不足員は、早急に補充しよう。」 「ありがとうございます。」 保線区の班の区割りの点検は終了した。 役員は、もうフラフラで、ほっとして、内容など覚えていなかった。 ハインリッヒは保線区の、ある班を訪ねた。 「ここは、ガストンが居る班か?」 「そうでげす。」 とヒゲ面の男がいう。 「オレは監察官の・・・」 「アイゼン監察官でしょ。」 「うむ、知ってるなら早い、ガストンを呼んでくれ。」 ハインリッヒは監察官らしくない様子で答えた。 「上ばかり、みていてもわからないからな。」 「現場が知りたいと。」 「そうだ。」 「わいが、ガストンでげす。」 ハインリッヒの前に、50前後の男が・・・・ 「ほう、君か、いつも保線ごくろうだ。」 ハインリッヒは保線区では手間賃を上げたので評判は、いいのである。 「保線は大事だ、鉄道のカナメだと考えている。」ハインリッヒは答えた。 「それで、私としても保線区員の揉め事は聞いておきたいのだ。」 「わかりやした。」 「わいの、相棒はアランといいました。」 「ケンカで・・・」 「そうでげす、殺されやした、だれかわからんですが。」 ガストンは鼻水をハンケチで拭いた。 「アランはいいやつでげした、息子が病気で、大枚の金がいると。」 「そして、あの日は上機嫌で、いい医者に看せらると・・・」 「ふむ。」 「それで、お祝いがてら、町へくりだしたんでさあ。」 よくあるパターンだ。 場末の居酒屋で、気勢をあげたらしい。 「そこで、まあ夜も遅いんで、宿舎へ帰ろうと。」 「すると、アランが酔っ払って、誰かとドンとぶつかり・・・」 「それで、いつの間にか大勢で、ケンカでさあ。」 よくあるパターンだ。 「そこで、誰かがオマワリだ、と叫んで散りじりに逃げ出したんでさあ。」 「そして、オレはアランと別れちまって。」 「まさか、ドブ川に・・・」 翌日、ドブ川に浮かんでいたらしい。 「そのことは、警察には」 「え、え、いいやした。」 「それで。」 「酔っ払いのケンカでドブ川へ落ちたとの話でやした。」 「ふむ、ところで、アランの宿舎は?」 「案内しゃす。」 「助かる。」 二人は保線区員の宿舎へ足を運んだ。 長屋が数棟建っている。 そこの、ひとつをガストンは案内した。 もう、引き払って無人だ。 しかし、ハインリッヒは室内に入り観察した。 現場100回という言葉が、わが国の警察にある。 100回、足を運ばないと事件は解決しないとの意味だ。 まあ、ここは事件現場ではないが、ハインリッヒは手間隙を惜しまず足を運ぶことが、よい結果を出すことを知っていたのだ。 室内は紙くず、壊れた家具などが・・・ハインリッヒは足元のクズ入れをのぞいた。 紙質が違う紙が一枚くしゃくしゃで、それが気になったのだ。 紙が他の紙ゴミと違うからだ。 あとは、詳細に観察したが、空家の捜査は終了した。 ガストンと別れて、街灯の下で、気になった紙くずを開く。 そこには・・・イヌ釘を3本・・・と書いてあった。 え、これは、ひょっとして、ハインリッヒは辺りを見回した。 誰もいない、安心した。 間違いない、線路のイヌ釘を抜けのことに違いない。 線路の鉄製のレールは枕木にイヌ釘で止められているのだ。 それを、3本も抜けば、そこがレールの継ぎ目なら・・・・脱線だ。 ハインリッヒは、ロンメロにとり、まさに使える人材であったのだ。
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