【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳

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2話

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朝日がまだ昇りきらない時間に目が覚めた。最近、妙に早起きになったのは、たぶん俺が「美味しいポーションづくり」に燃えているからだ。自分でも笑っちゃうが、夜中に寝る前まで調合法の本を読んだり、どんな材料を組み合わせると味がどう変わるかをノートにまとめたりしていると、興奮して寝付きが悪くなる。それでも翌朝になるとぱっちり目が覚めるんだから、まぁ元気なことだけは取り柄かもしれない。

「よし、今日もやるか」

小さくつぶやいてベッドから飛び降りる。まだ両親は寝ているみたいだ。俺は足音を立てないように廊下を進み、店の裏手にある物置兼倉庫へと向かった。アイザワ商店には商品として売るためのポーションがいろいろ置いてあるが、それ以外にも未精製の素材や在庫過多になった材料が雑多に詰まっているスペースがある。そこにこっそり入り込めば、簡易的に調合ができる程度の器具も揃っているし、材料をちょっと拝借するのも楽ってわけだ。

もっとも、使った分だけ在庫が減るから、母エレーナに見つかれば説教は必至。でも俺は知っている。両親は起きるのが遅いときは遅い。ガルス父さんに至っては「店の休みの日くらいはゆっくり寝かせてくれ」なんて言いながら、昼近くまで寝坊することもある。今日は休みじゃないけど、それでも開店までまだ時間があるし、一度軽く実験するくらいなら大丈夫だろう……たぶん。

倉庫の扉をそっと開けると、ほんのり冷たい空気が鼻先をかすめる。外はまだ薄暗く、明かりがないと中は見えにくい。でも魔道具のランプがあるから問題ない。魔石をはめ込んだ小型ランプのスイッチを入れると、ぼんやりとしたオレンジ色の光が倉庫を照らし出した。

「さて、昨日はここに置いといたあの素材……あったあった」

棚の奥から取り出したのは、灰色がかった葉っぱの束。名を“セルリアハーブ”という。苦味が強く、ポーションの主成分に使われることも多い。だけどこれをそのまま煮出すと、あの独特の苦さがポーションにしっかり残ってしまうのが問題なんだ。前世の料理経験を振り返っても、下処理を間違えると苦味と青臭さばかりが際立つ野菜は多い。でも逆にいうと、しっかり下茹でしてアクを抜いたり、あるいは少し炒めて香ばしさを引き出したりすれば、ぐっと食べやすくなる場合がある。

料理で応用できるってことは、ポーションの調合にも何か手があるんじゃないか? そう思って、昨日から何度か試してみた。結果は……まぁ惨敗だ。きちんと下茹でしてみても、苦味は少しマシになるけど、代わりにポーション効果がガクッと落ちてしまう。これはどうやら有効成分が抜けてしまっているらしい。まるで料理でいえば煮こぼし過ぎて栄養が全部お湯に溶け出すようなものだ。

「そう簡単にはいかないか……」

でも俺はまだ諦めていない。今日試そうと思っている方法は、ハーブを一度乾燥させて粉末状にしてから溶かすというやり方。下茹でした段階で有効成分を飛ばすより、先に水分を抜いてから効率よくエキスを取り出せばいいんじゃないか――という安直な発想だが、試す価値はある。周りに「味なんか誰も求めてないよ」と言われても、俺だけはこれを追求し続けようと思ってる。だって俺が美味しいほうがいいんだもん。誰に迷惑をかけるわけでもなし、自分で実験して失敗しても自己責任だからいいだろう。

倉庫の床に、魔道具で作った簡易コンロをセットする。これは下級火魔石を組み込んだ火力調整ができる優れもの。まぁ、かなり古くて火力の調節が微妙に難しいんだけど、とにかくそれを使って小鍋を温める。水を入れたビーカーを鍋に浮かべ、ハーブを粉末にしたものをバサッと投入――まだまだ実験段階だけど、俺の頭の中ではそれなりの手順が組み立てられている。

少しずつ湯気が立ち上り、独特の香りが漂ってきた。うわ、やっぱりキツい臭いだ。隣近所に漏れたら一瞬でバレそうだから、急いで倉庫の窓をちょっと開けて換気する。冷たい風が入ってくるけど、仕方ない。くしゃみをこらえながら、沸騰しない程度の温度を保ちつつ、じわじわ抽出していく。

「アクは……ちょっと浮いてるな。すくうか」

小さい網ですくってゴミ箱に捨てる。その後に、仕上げ用の素材を追加。これは、友達の冒険者――というか常連客の兄ちゃんが「妙に甘い樹液が取れたんだけど要る?」とくれたものを小瓶に詰めたやつだ。かなり珍しいらしく、量が少ない。味見したら甘みとほのかな酸味があって、何となく蜂蜜に近い気がした。あれを入れれば苦味と渋みを少し和らげられる……はず!

問題はコストだよな。これ、もし大量に作るとなれば費用がかさむし、そもそも入手が不定期なんだ。そんなときこそ、俺の“複製(コピー)”スキルの出番だろう。でもまだレア素材の複製には成功した試しがない。何度かトライして、うまくコピーできたのは小石や木の枝レベル。値段に換算すればゴミ同然のものばかりだ。高価なもの、貴重なものになると、それだけ魔力の消耗も激しくなって失敗しやすい。しかも仮にコピーに成功したとして、「それを普通に売ったら犯罪」っていうリスクもある。お金や貴金属をコピーするのはアウトだし、それに等しい価値の素材をコピーして商売するのもどうなんだと道徳的に悩むところ。とはいえ、自分が試作で使うぶんにはギリギリセーフ……かな?

「まぁ、使うにしても、あとでこっそりやろう。とりあえず今は実験だけに集中っと」

ビーカーの中身をかき混ぜ、さらに別の瓶から少量の回復エキスを加える。これもポーションの効果を高めるために必要な成分だが、くせの強い匂いがして鼻が曲がりそうだ。料理で言うところの“臭み消し”をどううまくやるかがポイントなんだけど、手探り状態なので何度やっても難しい。俺は皿代わりのフタに少量だけ移し、冷ましてから味見する。匂いは正直クサイけど、飲めないほどじゃなさそうだ。

「……ん、うぇ……まだマズイな。けど昨日よりは……マシか?」

お世辞にも「おいしい」とは言えないけど、少なくとも以前よりは苦味が弱まっている。なんだか薄いハーブティーが失敗したような味……って言うとわかりにくいか。むしろ雑草を煮て甘味を足しただけ、みたいな。でもこれ、調合が終わればそこそこ回復効果が出るはず。

ここからさらに工夫を凝らすことで、少しでも“不快感”を減らしつつ“効き目”を落とさないようにしないといけない。これが本当に難しい。地球でいう料理なら、味を追求したいなら栄養価が多少落ちても構わないことが多いけど、ポーションは効果が生命線。それを維持しながら味をどうにかしようってんだから、俺が独学でやるにはハードルが高い。それでも楽しいんだから仕方ない。

「あとは……このまま少し煮詰めれば……」

と、思ったときだった。倉庫の扉が勢いよく開いた。びっくりして振り返ると、そこには寝起きのぼさぼさ髪の父さんが立っていた。ガルスはまだ目が半分閉じてるくせに、鼻をひくつかせている。

「う……うわ……なんだ、リオ? なんかくせぇぞ……?」
「あー、ごめん父さん……ちょっと実験してた」
「実験って……おまえ、この匂い、まさかポーションを自作してるのか?」

顔をしかめた父さんが、コンロで煮詰められているビーカーを見てため息をつく。そりゃそうだよな、普通こんなことを朝っぱらからやってる子どもはいない。でも俺は慣れた手つきで火を止め、舌打ちしながらビーカーを引き上げた。あと少しで完成だったのに。

「母さんが起きる前にやりたかったんだけど……父さんに見つかったか」
「そりゃ見つかるだろうよ。家の中まで変な匂いが漂ってるんだから」

俺は気まずそうに笑う。これ、やっぱり匂いがきついんだな。自分でやってると慣れるからわからないけど、周囲には相当異臭だったかもしれない。そろそろ父さんが怒り出すんじゃないかと思ったが、意外にもガルスは怒らない。ただし呆れ顔で腕を組んでいる。

「リオ……おまえ、いまだにそんなに頑張ってんのか?」
「まぁね。こうでもしないと、誰もやらないし。気になるんだよ」
「わからんでもないが……ほどほどにな。母さんにバレたら怒られるぞ?」
「あはは、だよな」

実は父さん、俺が“美味しいポーション”なるものを目指してるのを最初は馬鹿にしていたけど、最近は「好きにすればいい」みたいなスタンスになっている。まぁ困ったら助けてくれるし、結構やさしい。もちろん母さんも嫌っているわけじゃないけど、材料費を無駄にするのは許さない性分だから、度が過ぎると怒られてしまう。

父さんはくしゃみを一つしてから、コンロの炎をもう一度確認した。

「とりあえず朝食の前に換気だけはしとけよ。オレもお客さんが来る前に店を開けないといけないんだ。早めに片づけとけ」
「了解。悪いね、朝っぱらから」

ガルスは再びあくびをかみ殺しながら倉庫を出ていった。よかった。ほんの数分の遅れで母さんだったら、倍くらい説教を食らっていたかもしれない。俺は安堵の息をつき、せっかくなので最後まで調合をやりきることにした。せめて味見だけでもしてから仕舞いたい。



数分後、完成した“試作品ポーション”を小瓶に移し替えた。色は薄い緑色で、匂いは……微妙。ちょっと甘いような気もするが、ハーブ臭がまだ残っている。でも昨日よりは確実にマシだと自負している。恐る恐る口に含んでみると、苦味が若干残るものの、どうにか“飲める”レベルだ。少なくとも初期の吐き気を催すような不味さではない。

「よしよし……ちょっとは進歩してる気がする」

ただ、これが世に売り出せるかと言われれば微妙だし、効果のほども未知数だ。回復力がほぼないんじゃ意味がない。母さんに怒られる前に片づけておこうと、使った道具をまとめていたら、外から聞き慣れた声が聞こえた。

「おーい、開いてるかー?」
「あれ、もうお客さん? ……あ、違うか」

扉が開いて入ってきたのは、店の常連冒険者――タケロさん(本名はタケロ・マスティン)。俺より十歳ほど年上で、そこそこ腕は立つらしい。見た目はガタイがよくて強面だけど、実は気さくでおしゃべり好き。いつも魔物の素材を売りに来るついでに、安めのポーションを買っていく人だ。

「リオくん、今日も朝から頑張ってるな」
「おはよう、タケロさん。父さんならさっき起きたばかりだよ」
「ああ、ガルスさんには後で挨拶するさ。いや、実はちょっと面白い素材を手に入れてな。リオくん、興味あるかなと思って」

タケロさんはそう言って、背負い袋から小瓶を取り出した。うっすら青い液体が入っていて、何やらキラキラした粒子が底に沈んでいる。見るからに怪しげ……というか、貴重そうだ。

「へぇ、これって何です? 魔物の体液か何か……」
「正解だ。とある湿地帯で“ブルームスライム”ってやつを狩ったんだが、その体内から採れた液体さ。スライム系は色によって性質が違うが、こいつは攻撃力が低い代わりに“凍結”の力を持っているらしい。この液体、下手に触れると肌が凍りかけるって話だ」
「うわ、危険じゃん……」

思わず手を引っ込めそうになる。でもタケロさんはニヤッと笑う。

「ところが、うまい調合をするといい回復剤になるって噂なんだ。ひんやりして痛みを和らげるとか何とか。実際のところ詳しいことは知らないけど、リオくんはポーションの材料を集めてるって聞いたし、試してみたら面白いんじゃないか?」
「……試してみたい、めっちゃ」

興味が湧かないわけがない。こういう珍しい素材は大抵高値がつくし、普通の調合師なら敬遠するか、高額で買い取るかのどちらかだ。俺の資金力じゃ絶対に手を出せないシロモノだ。でも、もし使いこなせれば面白いポーションが作れそうな予感がする。

「いくらくらいなんですか、それ」
「いや、今回はちょっと面白半分に持ってきただけだし、タダでやるよ。いつもこっちもリオくんやガルスさんには世話になってるしな。その代わり、なんか成果があったら教えてくれ」
「えっ、本当にいいんですか?」

思わず素で驚いたけど、タケロさんは豪快に笑う。

「スライム一体から取れる量は少ないが、あんまり商品価値があるとも思えないからな。使えるかどうかも謎だし。誰かにあげようと思ってたんだ。もしリオくんがうまく調合できたら、次回からは本格的に採ってきて売りつけるかもしれんが」
「なるほど。助かります! ありがとう、タケロさん」

タケロさんは「じゃあ後でガルスさんにも挨拶しとくわ」と言い、店のほうへ移動していった。俺は思わぬ好機にワクワクしながら、小瓶をつかんで透かして見てみる。青い液体の中でかすかな光の粒が揺らめいているようにも見える。これが新しいヒントになるかもしれない。

「しかし、こりゃまた調合が難しそうだな……」

万が一凍結作用が残ったらどうなる? 飲んだ瞬間に喉が凍るとか勘弁してほしい。とはいえ、“冷たさ”をうまく利用すれば刺激臭や苦味がまぎれるかもしれない。冷たい飲み物って、多少の味の悪さを隠してくれることがあるじゃないか。これをポーションに応用できたら、ほんの少し近道になる……かも?

「うん、やってみる価値は十分あるな」

脳内シミュレーションだけはどんどん進む。でも実際に手を動かすとなると材料費がまたかさむし、失敗も多いだろう。今の試作品だってまだ完成度は低い。優先すべきは味を改善しながら、回復効果を落とさない調合法の確立――そして貴重な素材を複製して量産できるように、スキルをもっと磨く必要がある。やることだらけだな。

「……あれ、でもそうか。試作なら少しだけ素材を使って、複製で増やせば、失敗を恐れずできるんじゃ?」

少量でいいから、複製に挑戦してみよう。前は成功率が低かったけど、あれから小物のコピーで練習を重ねて、熟練度は上がってきているはずだ。レア素材を複製できたら、劇的に研究が進むに違いない。

「よーし……母さんにバレないうちに、早速試してみるか」

とはいえこの匂い問題をどうにかしないと、朝食前に母さんが様子を見に来るかもしれない。とりあえず今ある器具やビーカーを片付けて、匂いのついた空気を換気。それから家の周りを一周して風を入れれば……なんとかなるかな? 真剣な顔つきで倉庫を掃除していたら、ふと店のほうから父さんとタケロさんの笑い声が聞こえてきた。忙しくも、いつも通りの朝が始まっている。



片付けを終えて家に戻ると、母さんが早速朝食を用意してくれていた。パンとスープ、ハムっぽい肉と野菜を合わせた簡単な料理。俺は毎度のことながら少しだけ味を整えるお手伝いをする。塩をひとふり、スパイスを足して、最後にコクを出すためにほんの少しバターを溶かす。母さんは最初こそ不思議がっていたけど、慣れた今では俺の料理センスを大いに信頼してくれているようだ。

「リオ、朝からあの倉庫で何してたの?」
「えっ……いや、ちょっと整理をね」
「ふーん……まぁ、いいけど。あまり在庫を散らかすんじゃないわよ」

案の定、若干疑われたような顔をされたけど、母さんは特に追及はしてこなかった。何しろ味を整えてくれる息子は母からすれば有能。さすがに料理を準備している最中にあの刺激臭が漂ってきたらアウトだろうが、換気が早めに済んでよかった。横で父さんが苦笑いをしている。タケロさんに余計なことは言ってないと信じたい。

「いただきまーす」

朝食を済ませてエネルギー補給したら、店を開ける前にちょっとだけ“複製”の練習をしよう。今日はさっそくタケロさんからもらった青い液体の複製に挑戦したい。……そんなことを考えていた矢先、母さんの声が背後で飛んできた。

「あ、そうだリオ。悪いけど、昼過ぎまで店番をお願いしてもいい? 私とお父さんは倉庫の整理をしたいの。ちょっと大量に仕入れすぎたものがあってね」
「え、店番か……まぁ、いいけど」

幸い店番なら材料に触れるチャンスもあるし、店の奥で複製の練習くらいはできるかもしれない。俺はあっさり了承した。こうして俺の二日目(厳密には新章になって二日目というか、単に今日の冒険)が始まる。



開店準備を終え、俺はカウンターに座って「いらっしゃいませー」と客を迎える。いつものように通りがかりの客がポーションや簡易魔道具を買っていく。正直、退屈といえば退屈だけど、客がいないときは暇つぶしにスキルの練習をすることができる。昨日作った失敗ポーションの残りを机の下に隠し持ってきて、味や匂いを再確認しては「うーん、まだダメだな……」とか独り言をこぼす。

そんな空き時間に、“複製”スキルを試そうと思い立った。こっそり店の奥に移動し、小さなテーブルの上にタケロさんからもらった青い液体の瓶を置く。量はほんの20ミリリットル程度だろうか。これくらいなら、できるだけ魔力を集中すればなんとか複製できるかもしれない。まぁ、失敗したら瓶ごとぶっ壊れて中身が散らばるかもしれないが……想像しただけで怖い。

「よし……集中」

魔力を手のひらに集めるイメージをしながら、瓶を片手でしっかり持つ。これが昔は全然うまくいかなかったけど、最近はだいぶコツをつかんできた。一瞬ふわっと青白い光が瓶を包む。あとは魔力を流し込み、イメージを崩さないように……これまで小石や紙屑のコピーしか成功してないから不安だが、ここで逃げるわけにはいかない。

「う……ぐっ……」

徐々に手が痺れてくるような感覚がある。でもまだ光は消えていない。無理やり踏ん張って魔力を込め続ける。すると、次の瞬間、瓶の側にまるで蜃気楼のような輪郭が見えた。瓶をもう一つ描くような虹色の線――これは成功の予兆かもしれない!

「いける……いけるぞ」

そう思った途端、猛烈な頭痛と吐き気が襲ってきた。やばい、魔力の消耗が想像以上に激しい。頑張れ、あと少し……! と思ったところで意識が白んでいきそうになる。腕の力も抜け始める。ダメか……?

パキンッ! と小さな破裂音がした。慌てて目を凝らすと、新しく生まれかけた瓶のイメージが砕け散るみたいに消えていった。その拍子で本物の瓶を手から取り落としそうになるが、どうにか必死でキャッチしてセーフ。床に落としたら大参事になるところだった。

「はぁ、はぁ……まじかよ、きつ……」

額から汗が伝い落ちる。無理やり踏ん張りすぎて全身が震える。結局、失敗したってことか。あれだけ集中しても複製には至らない。やっぱりレア素材は簡単にはコピーできないんだな……。まだまだ修行不足と痛感する。せめてもう少し上達したら、数ミリリットルだけでもコピーできるかもしれない。

「……まぁ、焦らず行くしかないか」

諦めて瓶を安全な場所に戻し、俺はぐったりと床に座り込む。ポーションならまだしも、魔力回復ポーションなんてのは普通存在しないし、あっても高価すぎるだろう。こうして俺はしばらく、その場で動けずにゼェゼェ呼吸を整えた。その間に客が来なくてよかった。



結局、その日も俺は店の手伝いと自作ポーションの微調整を繰り返しただけで終わった。珍しい素材を活かすどころか、複製失敗でエネルギーを使い果たしてしまい、研究はまったく進まなかった。でも、少しずつでもいい。いつか必ず成功させてみせる。

夜、部屋のベッドに転がり込み、窓の外の星空を眺めながら考える。「転生してまで、俺は何を目指してるんだろうな」と。地球の高校生活もあれはあれで悪くなかったけど、こっちに来たら来たで不思議とワクワクすることばかり。ポーションのまずさを世の常識で片づけるなんて、もったいないじゃないか。きっと突き詰めたら、美味しくて効果も高いポーションが作れる。そう信じているし、それを実現してみたい。

母さんや父さんにはあまり大きなことを言ってないけど、もし完成したらすごい発明になるんじゃないか? 道具屋が革命を起こすなんて、ちょっとワクワクする。もっとも、この世界にはマジで強力なスキルを持つ人や、王宮で本格的に調合を研究している人だっている。そういう連中が本気でやってない以上、難易度が高すぎるのかもしれないけど、俺はたまたま“料理知識”というアドバンテージがあるから、きっとそこに可能性があるはずだ。

「とにかく今は、ちまちま研究を続けるしかないよな」

いつか、複製スキルがもっと使えるようになって、貴重な素材を手に入れたり、自分で採取できないような物をうまく増やせたら……。想像だけは一人前に膨らむ。実際にはその道のりは遠いし、辛いことも多いだろう。でも、こうやって“何かを頑張れる”ってだけで幸せじゃないか。転生先がのほほんとした環境でよかったな、と心底思う。

「よーし、明日こそはもう少し味をマシにしてみせる。新素材も活かせるように、いっぱい調べて……」

なんて、頭の中で次の実験の手順をぐるぐる巡らせているうちに、いつのまにか意識が遠のいていく。ふわふわとした夢の中で、俺は地球の定食屋を思い出していた。父さんや母さん(前世の方の)と一緒に厨房に立って、しょうが焼きとか、みそ汁とか、サクサクのコロッケとかを作っていた頃。味見をして「もうちょっと醤油入れたほうがいいんじゃない?」なんて会話をしていた、あの懐かしい記憶。

転生して15年、記憶もだいぶ薄れてきたけど、不思議とその頃の舌はまだ覚えている。これはきっと俺の最大の武器だろう。前世と今世を繋ぐ架け橋みたいなものなんだ。だから俺は、それをフル活用して“おいしいポーション”を完成させる。誰も信じてくれなくてもいい。俺だけは信じているから。そう思いながら、深い眠りへと落ちていった。

──明日も、また早起きして匂いのキツい実験をすることになりそうだ。隣の家の人たちにクレームを入れられないように気をつけなきゃいけないけど、それだって含めてこの生活は面白い。どうせなら思い切り笑いながら、失敗を恐れずに突き進もう。まだ俺は誰からも期待されちゃいないけど、そんなの関係ない。俺は俺のやり方で、きっと大事なものを見つけ出してみせるんだ。
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