97 / 99
after story ~涼平の幸せ~
1
しおりを挟む
プールサイドから子ども達に声をかける。
その声に応えようとして、必死に頑張る姿を見ていると、自分の子どもの頃を思い出す。
いつかは水泳のオリンピック選手になりたいと……
あの頃は本気で考えていた。
だけど、そんな夢が簡単に叶うはずもなく、気づいたら、あっけなく挫折していた。
「智(さとし)、いい感じだよ。タイムも良かった。この調子で頑張れ」
「はい! 涼平先生」
「良い返事だな。智ならきっと良い選手になれるから、しっかり練習していこう」
「あの、涼平先生……」
「どうした?」
中学2年の男子がこんな不安な顔をしていたら、親のような気持ちで心配になる。
「僕はオリンピック選手になりたいです。だけど……最近、好きな女の子ができて、集中できないっていうか」
まさかの告白にドキッとした。
「そ、そっか……。智は優しいから、好きな女の子もきっと良い子なんだろうな」
何を言えばいいか、一瞬迷った。
「はい、すごく」
「好きだって言ったのか?」
「それは……まだ何も……きっと言えないです」
「いつか、好きだって言えたらいいな。智、人を好きになることは、スポーツする上でも悪いことじゃないんだ」
「本当ですか? 僕、ダメなことをしてるのかって悩んでて」
「人を好きになるのは仕方ないこと。理由なく誰かを好きになることは……ごく普通のことだ」
僕が双葉さんを好きになったように。
「でも、集中できないのはどうすればいいんでしょうか?」
智は、誰よりも真面目だ。
この質問にどう答えればいい?
「先生も……人を好きになったことがあるんだ。その時、レッスンに集中できなかったこともあったし、生活の中でもいつも思い出したりしてた。でも、先生の場合はその人にフラれちゃったけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、見事にフラれたよ。それでもさ、ずっと好きな人を想えるって、本当に幸せなことだとわかったから……まあ、今は、好きな人を思う気持ちを、勝手に自分のエネルギーや喜びに変えてるんだ。あの人も頑張ってるから、僕も頑張ろうって。僕が元気でいれば、あの人も嬉しいだろうなって」
僕のこと、今も応援してくれてるかな?
僕は、勝手にそう信じて頑張ってますよ、双葉さん。
「だから、智も、好きな人を想う気持ちを力にして、前を向いて頑張ってみればいいんじゃないか? 集中できない……じゃなくて、その人に『いつか自分の頑張りを見てもらいたい!』、そう思って気持ちを集中させていくんだ。結果、フラれても、うまくいっても、告白できなくても、何でもいい。頑張ったことはムダにはならないから。とにかく今は、好きな人がいることを力にするんだ」
上手く伝わったかはわからない。
でも、きっと、智はもう「力」に変えることができているんだろう。
だって、今日の泳ぎは最高だったから。
人を好きになるってすごいことなんだ。
僕は、双葉さんのおかげで毎日が楽しい。
相変わらず、周りには心配されてるけど、僕には双葉さんしかいなくて。
いつか、TOKIWAスイミングスクールから、智や子ども達がオリンピック選手になった時、1番に双葉さんに報告ができるよう……
僕は、しっかりと未来に向かって進むつもりだ。
その声に応えようとして、必死に頑張る姿を見ていると、自分の子どもの頃を思い出す。
いつかは水泳のオリンピック選手になりたいと……
あの頃は本気で考えていた。
だけど、そんな夢が簡単に叶うはずもなく、気づいたら、あっけなく挫折していた。
「智(さとし)、いい感じだよ。タイムも良かった。この調子で頑張れ」
「はい! 涼平先生」
「良い返事だな。智ならきっと良い選手になれるから、しっかり練習していこう」
「あの、涼平先生……」
「どうした?」
中学2年の男子がこんな不安な顔をしていたら、親のような気持ちで心配になる。
「僕はオリンピック選手になりたいです。だけど……最近、好きな女の子ができて、集中できないっていうか」
まさかの告白にドキッとした。
「そ、そっか……。智は優しいから、好きな女の子もきっと良い子なんだろうな」
何を言えばいいか、一瞬迷った。
「はい、すごく」
「好きだって言ったのか?」
「それは……まだ何も……きっと言えないです」
「いつか、好きだって言えたらいいな。智、人を好きになることは、スポーツする上でも悪いことじゃないんだ」
「本当ですか? 僕、ダメなことをしてるのかって悩んでて」
「人を好きになるのは仕方ないこと。理由なく誰かを好きになることは……ごく普通のことだ」
僕が双葉さんを好きになったように。
「でも、集中できないのはどうすればいいんでしょうか?」
智は、誰よりも真面目だ。
この質問にどう答えればいい?
「先生も……人を好きになったことがあるんだ。その時、レッスンに集中できなかったこともあったし、生活の中でもいつも思い出したりしてた。でも、先生の場合はその人にフラれちゃったけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、見事にフラれたよ。それでもさ、ずっと好きな人を想えるって、本当に幸せなことだとわかったから……まあ、今は、好きな人を思う気持ちを、勝手に自分のエネルギーや喜びに変えてるんだ。あの人も頑張ってるから、僕も頑張ろうって。僕が元気でいれば、あの人も嬉しいだろうなって」
僕のこと、今も応援してくれてるかな?
僕は、勝手にそう信じて頑張ってますよ、双葉さん。
「だから、智も、好きな人を想う気持ちを力にして、前を向いて頑張ってみればいいんじゃないか? 集中できない……じゃなくて、その人に『いつか自分の頑張りを見てもらいたい!』、そう思って気持ちを集中させていくんだ。結果、フラれても、うまくいっても、告白できなくても、何でもいい。頑張ったことはムダにはならないから。とにかく今は、好きな人がいることを力にするんだ」
上手く伝わったかはわからない。
でも、きっと、智はもう「力」に変えることができているんだろう。
だって、今日の泳ぎは最高だったから。
人を好きになるってすごいことなんだ。
僕は、双葉さんのおかげで毎日が楽しい。
相変わらず、周りには心配されてるけど、僕には双葉さんしかいなくて。
いつか、TOKIWAスイミングスクールから、智や子ども達がオリンピック選手になった時、1番に双葉さんに報告ができるよう……
僕は、しっかりと未来に向かって進むつもりだ。
13
あなたにおすすめの小説
怜悧なエリート外交官の容赦ない溺愛
季邑 えり
恋愛
NPO団体に所属し、とある国で医療ボランティアに携わっていた美玲。そんな彼女は急に国外退避の必要が出た中、外交官の誠治に助けてもらい、彼に淡い想いを抱く。そして帰国後、再会した彼にぐいぐい迫られ結婚を前提とした交際をすることに。その後、初めての夜も過ごし、順調に関係を築いていく美玲と誠治。とうとうプロポーズの話が出たけれど、誠治の母と婚約者を名乗る二人が現れ、実は彼には子供がいるなどと言い出して……愛の深いスパダリ外交官との極上溺愛ロマンス!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》
年上幼馴染の一途な執着愛
青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。
一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―
千堂みくま
恋愛
「まりか…さん」なんで初対面から名前呼び? 普通は名字じゃないの?? 北条建設に勤める地味なOL恩田真梨花は、経済的な理由から知り合ったばかりの次期社長・北条綾太と同棲することになってしまう。彼は家事の代償として同棲を持ちかけ、真梨花は戸惑いながらも了承し彼のマンションで家事代行を始める。綾太は初対面から真梨花に対して不思議な言動を繰り返していたが、とうとうある夜にその理由が明かされた。「やっと気が付いたの? まりかちゃん」彼はそう囁いて、真梨花をソファに押し倒し――。○強がりなくせに鈍いところのある真梨花が、御曹子の綾太と結ばれるシンデレラ・ストーリー。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる