98 / 99
after story ~もみじの幸せ~
1
しおりを挟む
「先生。締切は来月の10日ですよ」
「大丈夫。間に合うから安心して」
「そうは言っても、このペースじゃ……」
「??」
睨みをきかせれば、出版社の担当が後込む……
なんてことは無い。
売れっ子作家でもない普通レベルの私には容赦ないダメだしが飛んでくる。
それでも、何とか「恋愛小説」を2冊出すことができたのは、読者のおかげ……なんだろう。
私の小説を面白いと言ってくれてることに、なぜか素直に感謝が溢れる。
そして、不思議だけど、最近、両親の仲が良い。
心做しか、お母さんが小さくなってる気がしてて、その代わり、お父さんがお母さんに優しく声をかけている。いったい何がどうしたっていうの?
でも……
両親が穏やかで、仲良くしてるのを見るのって……悪くはない。
私はそんな2人とは離れ、近くのマンションに1人で暮らしてる。
小説家としてはまだまだ駆け出しだけど、書くことが心から楽しいと思えてる。
週に2日のバイトも頑張って、実家に少しだけお金を渡したりして、こんな生活を送る日がくるなんて……今までは考えたこともなかった。
双葉を妬んでいた自分がどれほどみじめだったか、今ならわかる。だけど、あの頃の苦しい気持ちはどうにもならなかった。
今は、色んな経験を糧にして、貪欲に作品を書いている。そんな中で、少しずつ、自分自身の「幸せ」も……そろそろ考えてもいいのかなって思うようになった。
幸せがどんなものなのかわからないし、それがどこにあるのかもわからない。
それでも、いつかは……見つけたい。
「もみじ先生。原稿、それができたら少し休憩しませんか? 近くにオシャレなカフェができたみたいですよ」
「そうなんだ。べつにいいけど」
私は、外に出て、2人でカフェに向かった。
なぜかみんなが私……ううん、となりにいる編集者の男性のことをチラチラと見ている。
「あなたのこと、みんな見てるけど、顔に何か付いてるんじゃない?」
「何も付いてませんよ。いつも思いますけど、先生は、僕が高身長のイケメンだってこと、わからないんですかね?」
「あなたがイケメン? 理仁さんに比べたら、あなたは普通よ」
「理仁……さん?」
「……別にいいの。気にしないで」
「先生の……好きな人?」
「……違う、好き……だった人。もう未練はないわ」
本当に……もう忘れてる。
だけど、あんな素敵な人には二度と出会えない。
「そうですか。じゃあ、今、先生には特別な相手がいないってことですよね」
「はあ? 私がそんなモテないとでも思ってるの?」
確かに……相手はいないけど。
この男、ちょっとムカつく。
「まさか! もみじ先生はとても素敵です。正直、相手がいるのかいないのか、すごく気になってました」
な、何?
そんなウサギみたいな可愛い目で私を見ないでよ……
「い、いないわよ。今はね。でも、そのうち幸せになる予定だから」
「そのうち……ですか。でも、もし良かったら、その予定、今すぐにでも実現させませんか?」
「えっ?」
「僕なら、すぐにあなたを『幸せ』にできますよ。ここ1年、ずっと近くで先生を見てきましたから」
何だかよくわからない。
でも、どこにあるかわからないと思ってた幸せは……意外と近くにあるのかも知れない。
「今度は遊園地に行きましょうか? 近くにある小さな遊園地なんですが」
「そこだけは遠慮するわ」
「じゃあ、ボーリングでも」
「何でボーリング?」
「僕、得意なんで、スコアヤバいですよ。聞きたいですか?」
「別に」
「聞いてくださいよ」
「じゃあ、実際、やって見せてよ」
「やった! ぜひぜひ」
こういうのが……
もしかして「幸せ」っていうの?
まだ、全然、わからないけどね。
「大丈夫。間に合うから安心して」
「そうは言っても、このペースじゃ……」
「??」
睨みをきかせれば、出版社の担当が後込む……
なんてことは無い。
売れっ子作家でもない普通レベルの私には容赦ないダメだしが飛んでくる。
それでも、何とか「恋愛小説」を2冊出すことができたのは、読者のおかげ……なんだろう。
私の小説を面白いと言ってくれてることに、なぜか素直に感謝が溢れる。
そして、不思議だけど、最近、両親の仲が良い。
心做しか、お母さんが小さくなってる気がしてて、その代わり、お父さんがお母さんに優しく声をかけている。いったい何がどうしたっていうの?
でも……
両親が穏やかで、仲良くしてるのを見るのって……悪くはない。
私はそんな2人とは離れ、近くのマンションに1人で暮らしてる。
小説家としてはまだまだ駆け出しだけど、書くことが心から楽しいと思えてる。
週に2日のバイトも頑張って、実家に少しだけお金を渡したりして、こんな生活を送る日がくるなんて……今までは考えたこともなかった。
双葉を妬んでいた自分がどれほどみじめだったか、今ならわかる。だけど、あの頃の苦しい気持ちはどうにもならなかった。
今は、色んな経験を糧にして、貪欲に作品を書いている。そんな中で、少しずつ、自分自身の「幸せ」も……そろそろ考えてもいいのかなって思うようになった。
幸せがどんなものなのかわからないし、それがどこにあるのかもわからない。
それでも、いつかは……見つけたい。
「もみじ先生。原稿、それができたら少し休憩しませんか? 近くにオシャレなカフェができたみたいですよ」
「そうなんだ。べつにいいけど」
私は、外に出て、2人でカフェに向かった。
なぜかみんなが私……ううん、となりにいる編集者の男性のことをチラチラと見ている。
「あなたのこと、みんな見てるけど、顔に何か付いてるんじゃない?」
「何も付いてませんよ。いつも思いますけど、先生は、僕が高身長のイケメンだってこと、わからないんですかね?」
「あなたがイケメン? 理仁さんに比べたら、あなたは普通よ」
「理仁……さん?」
「……別にいいの。気にしないで」
「先生の……好きな人?」
「……違う、好き……だった人。もう未練はないわ」
本当に……もう忘れてる。
だけど、あんな素敵な人には二度と出会えない。
「そうですか。じゃあ、今、先生には特別な相手がいないってことですよね」
「はあ? 私がそんなモテないとでも思ってるの?」
確かに……相手はいないけど。
この男、ちょっとムカつく。
「まさか! もみじ先生はとても素敵です。正直、相手がいるのかいないのか、すごく気になってました」
な、何?
そんなウサギみたいな可愛い目で私を見ないでよ……
「い、いないわよ。今はね。でも、そのうち幸せになる予定だから」
「そのうち……ですか。でも、もし良かったら、その予定、今すぐにでも実現させませんか?」
「えっ?」
「僕なら、すぐにあなたを『幸せ』にできますよ。ここ1年、ずっと近くで先生を見てきましたから」
何だかよくわからない。
でも、どこにあるかわからないと思ってた幸せは……意外と近くにあるのかも知れない。
「今度は遊園地に行きましょうか? 近くにある小さな遊園地なんですが」
「そこだけは遠慮するわ」
「じゃあ、ボーリングでも」
「何でボーリング?」
「僕、得意なんで、スコアヤバいですよ。聞きたいですか?」
「別に」
「聞いてくださいよ」
「じゃあ、実際、やって見せてよ」
「やった! ぜひぜひ」
こういうのが……
もしかして「幸せ」っていうの?
まだ、全然、わからないけどね。
13
あなたにおすすめの小説
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる