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第九話
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ヒースは、eVTOLの操縦桿を握っている。eVTOLは全長七メートルほどの、自動車に似た姿をしていた。だが、車輪のあるべきところにあるのは、四機のサイクロローターである。
フォーミュラーカーのタイヤにも似た円筒の中でブレードが回転し、気流を制御して揚力を発生させ空を飛んでいる。音は静かで、目立たずに移動できた。
ヒースはロングドウン・ナイト家の館がある島西方の丘陵から、市街へとむかう。車では十分以上かかる道のりを、空からだと一分以内で移動可能だ。
ヒースの隣には、黒天狐の姿に変わったトキオがいる。黒い狐のマスクで顔を覆った黒天狐はトキオとは全く別の人格をもった人物のようだ。
トキオが昼間の明るさをもつ人物とすれば、黒天狐は夜の闇をこころに満たしたおとこである。ヒースは、黒天狐からは常に薄い怒りの波動を感じていた。
eVTOLのコックピットにある通話装置が、着信のランプを光らせる。ヒースは、通話スイッチを入れた。
「こちら、ヒース・レイヴンだ」
「よお、ヒース。なかなかご機嫌なパーティだったみたいだな。おれも招待されたかったぜ」
ヒースは、苦笑する。
「イシガミ部長、プライベート・セキュリティ・サービスのあんたが紛れ込んだら、ぶちのめされるぞ」
イシガミの笑い声が、響く。黒天狐は、夜の底から響くような昏い声をだす。
「戯言はいい。状況を教えろ、イシガミ」
「よくないな、相手は暗闇旅団のアデプタス・マイナーだ。モノホンの、魔道士だよ。まあ、ドラゴンを素手でぶち殺す黒天狐にすれば、大した相手ではないかもしれんが」
ヒースは、軽く口笛をふく。黒天狐は、重い調子で問いをなげる。
「暗闇旅団といえば、秘密結社『真実の夜明け団』のテロ実行部隊だな。グリモワールで魔神を呼び出し、街を破壊するつもりか」
「まあ、それはないな。むしろ」
イシガミは、どこか気楽な調子で語る。
「あんたと話をしたいのではないかな、黒天狐」
ヒースは、驚いて少し黒天狐に目をむける。黒天狐は、憮然とした調子で言葉をこぼす。
「例の魔法省からの打診が、リークしてると思っているのか? イシガミ」
イシガミは、上機嫌にこたえる。
「暗闇旅団は、街を人質としてあんたに例の話を断らせたいんだよ。ま、色々考えが甘すぎるとはおもうけどね」
「例の話?」
ヒースの問に、イシガミは沈黙する。黒天狐は、重い口調で答えた。
「その件は、いずれ話す。ヒース、そこに着地させてくれ」
ヒースは言われるがままに、eVTOLを公園のはずれにある展望台の屋上に着地させた。四機のサイクロローターはボディに収納されてゆき、代わりに4つのタイヤが接地する。その姿はまるきり車ではあったが、七メートルの車長では小回りがきかなさそうだ。
ヒースは、十二.七ミリのアンチマテリアルライフルを手にしてeVTOLから降りる。長大なライフルはダンジョン向けではないが、ヒースはそれを愛用していた。
ヒースの装着した骨伝導イヤホンが、イシガミの声をつたえる。
「現場の近くに配備したドローンの暗視スコープからの映像と、位置情報を送る。スマートグラスをつけなよ、ヒース」
ヒースはスマートグラスを、つける。灰色のマントを纏った魔道士は、今まさに召喚の最中のようだ。地面には蒼白い鬼火のように輝く魔法陣が描かれ、陽炎のような次元の歪みが生じていた。
「わが友、ヒースよ。魔神が召喚される前に、魔道士を撃て」
二脚でライフルを固定し伏射の姿勢をとったヒースは、黒天狐に問をなげる。
「いいのか、やつらはあんたと話しをしたいのだろ」
黒天狐は、感情を感じさせない声でいった。
「テロリストと交渉はしないし、会話も不要だ」
ヒースは頷くとボルトを操作し、チャンバーに銃弾を送り込む。一応知り合いの魔道士に加護の魔法を付与してもらっているので、ある程度の結界は突破できるはずだ。
黒天狐はヒースに会釈すると、夜の公園にむけて跳躍する。漆黒の翼のように、黒いマントが夜空に広がった。その毛皮は、八尾の狐から得られたものだ。八本の尾が、八枚の翼がごとく月明かりの下翻る。
ヒースは、黒天狐を見送るとドローンからの情報に集中した。ドローンは映像の他にターゲットの位置情報や現場の気候状態などの情報も送り込んでくる。ヒースはバーチャルコンソールを操作し、それらの情報を自分の携帯端末に処理させ射出角度や照準の調整を行う。
ターゲットとの距離は、約五百メートルというところか。本来アンチマテリアルライフルなら、目を瞑っても仕留められる距離だ。ただ、相手が魔道士なら話が少し違う。
魔道士は、おそらく魔法結界を纏っている。その情報はドローンからは得られないので、勘まかせとなる。そこはヒースの経験で、見当をつけるしかない。ヒースは照準の最終調整を行いながら、ターゲットが動きをとめるのを待つ。
フォーミュラーカーのタイヤにも似た円筒の中でブレードが回転し、気流を制御して揚力を発生させ空を飛んでいる。音は静かで、目立たずに移動できた。
ヒースはロングドウン・ナイト家の館がある島西方の丘陵から、市街へとむかう。車では十分以上かかる道のりを、空からだと一分以内で移動可能だ。
ヒースの隣には、黒天狐の姿に変わったトキオがいる。黒い狐のマスクで顔を覆った黒天狐はトキオとは全く別の人格をもった人物のようだ。
トキオが昼間の明るさをもつ人物とすれば、黒天狐は夜の闇をこころに満たしたおとこである。ヒースは、黒天狐からは常に薄い怒りの波動を感じていた。
eVTOLのコックピットにある通話装置が、着信のランプを光らせる。ヒースは、通話スイッチを入れた。
「こちら、ヒース・レイヴンだ」
「よお、ヒース。なかなかご機嫌なパーティだったみたいだな。おれも招待されたかったぜ」
ヒースは、苦笑する。
「イシガミ部長、プライベート・セキュリティ・サービスのあんたが紛れ込んだら、ぶちのめされるぞ」
イシガミの笑い声が、響く。黒天狐は、夜の底から響くような昏い声をだす。
「戯言はいい。状況を教えろ、イシガミ」
「よくないな、相手は暗闇旅団のアデプタス・マイナーだ。モノホンの、魔道士だよ。まあ、ドラゴンを素手でぶち殺す黒天狐にすれば、大した相手ではないかもしれんが」
ヒースは、軽く口笛をふく。黒天狐は、重い調子で問いをなげる。
「暗闇旅団といえば、秘密結社『真実の夜明け団』のテロ実行部隊だな。グリモワールで魔神を呼び出し、街を破壊するつもりか」
「まあ、それはないな。むしろ」
イシガミは、どこか気楽な調子で語る。
「あんたと話をしたいのではないかな、黒天狐」
ヒースは、驚いて少し黒天狐に目をむける。黒天狐は、憮然とした調子で言葉をこぼす。
「例の魔法省からの打診が、リークしてると思っているのか? イシガミ」
イシガミは、上機嫌にこたえる。
「暗闇旅団は、街を人質としてあんたに例の話を断らせたいんだよ。ま、色々考えが甘すぎるとはおもうけどね」
「例の話?」
ヒースの問に、イシガミは沈黙する。黒天狐は、重い口調で答えた。
「その件は、いずれ話す。ヒース、そこに着地させてくれ」
ヒースは言われるがままに、eVTOLを公園のはずれにある展望台の屋上に着地させた。四機のサイクロローターはボディに収納されてゆき、代わりに4つのタイヤが接地する。その姿はまるきり車ではあったが、七メートルの車長では小回りがきかなさそうだ。
ヒースは、十二.七ミリのアンチマテリアルライフルを手にしてeVTOLから降りる。長大なライフルはダンジョン向けではないが、ヒースはそれを愛用していた。
ヒースの装着した骨伝導イヤホンが、イシガミの声をつたえる。
「現場の近くに配備したドローンの暗視スコープからの映像と、位置情報を送る。スマートグラスをつけなよ、ヒース」
ヒースはスマートグラスを、つける。灰色のマントを纏った魔道士は、今まさに召喚の最中のようだ。地面には蒼白い鬼火のように輝く魔法陣が描かれ、陽炎のような次元の歪みが生じていた。
「わが友、ヒースよ。魔神が召喚される前に、魔道士を撃て」
二脚でライフルを固定し伏射の姿勢をとったヒースは、黒天狐に問をなげる。
「いいのか、やつらはあんたと話しをしたいのだろ」
黒天狐は、感情を感じさせない声でいった。
「テロリストと交渉はしないし、会話も不要だ」
ヒースは頷くとボルトを操作し、チャンバーに銃弾を送り込む。一応知り合いの魔道士に加護の魔法を付与してもらっているので、ある程度の結界は突破できるはずだ。
黒天狐はヒースに会釈すると、夜の公園にむけて跳躍する。漆黒の翼のように、黒いマントが夜空に広がった。その毛皮は、八尾の狐から得られたものだ。八本の尾が、八枚の翼がごとく月明かりの下翻る。
ヒースは、黒天狐を見送るとドローンからの情報に集中した。ドローンは映像の他にターゲットの位置情報や現場の気候状態などの情報も送り込んでくる。ヒースはバーチャルコンソールを操作し、それらの情報を自分の携帯端末に処理させ射出角度や照準の調整を行う。
ターゲットとの距離は、約五百メートルというところか。本来アンチマテリアルライフルなら、目を瞑っても仕留められる距離だ。ただ、相手が魔道士なら話が少し違う。
魔道士は、おそらく魔法結界を纏っている。その情報はドローンからは得られないので、勘まかせとなる。そこはヒースの経験で、見当をつけるしかない。ヒースは照準の最終調整を行いながら、ターゲットが動きをとめるのを待つ。
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