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対峙
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「お待ちくださいませ、猊下」
扉の向こうから涼やかな声が響き、マリーテレーズが堂々と現れた。
「人の婚約話を、当人抜きで進められるのは心外ですわね」
「これはこれは、マリーテレーズ殿下。ご無礼をお許しください」
枢機卿が立ち上がり、優雅に膝をついて頭を垂れる。マリーテレーズはその姿に一瞥もくれず、すっとアーベルの隣に腰掛けた。
「そもそもこの婚約、私は最初から破棄するつもりでこちらに参りましたの」
「おや、それはまた……。ご両家の行く末がどうなってもよろしいと?」
枢機卿が柔らかい微笑を浮かべる。
「構いませんわ。ロレーヌ家とエスターライヒ家の結びつきはすでに成立していますもの。アーベル様の兄君、フィリップ殿下は私の姉君を妃に迎えておられるでしょう?」
枢機卿の片眉がわずかに持ち上がる。
「私、不思議に思っていたのです。この婚約は、枢機卿が進言されたとか。かの聡明な猊下が、すでに縁戚関係にある両家に、なぜ二重に縁を結ばせようとなさるのか……。私の中で辿り着いた答えは、ただ一つですわ」
「……ほう。それは興味深い。ぜひ、お聞かせいただきたい」
余裕の微笑を崩さず、枢機卿は足を組み直す。だが、マリーテレーズの言葉が続いた瞬間、その表情に一瞬、僅かな緊張が走った。
「ハイデルベルク──新教徒の多く住まう我が故郷を、意図的に弱体化させるおつもりだったのではありませんか?」
「……おや? 何のお話でしょうか?」
「ハイデルベルクは、新教徒の拠点です。騎士団もまた、その信仰を守る者たちですわ。この国に嫁げば、形式上は改宗を求められないにせよ、実際には旧教に従うことを強いられる。日常の礼拝、服装、食事、社交の作法に至るまで、旧教の流儀に合わせねばならないのですもの」
「強制ではありません。慣習にすぎませんよ」
「ですが、その“慣習”が騎士団の士気を損ねるには十分でしょう。新教徒の主君が旧教に帰属する。その現実が何を引き起こすか、猊下ならご理解のはずです」
「そうかも知れません、ですが、その心配をしている時に旧教側からちょっかい・・・そう例えば理由のわからない旧教の軍隊がこの狩猟小屋の周りなんかに大挙していることがわかったら大騒ぎになるでしょうね?」
枢機卿がハッとする使いのものをそばに呼び、言伝る
「確かに、先ほど、斥候と見られる兵士が・・・」
枢機卿が大きくため息をつく
「兵を退却させろ」
「・・・ですが・・・」
「いいから早く」
雷鳴のような声に男は飛び上がり、すぐに館の外へ駆け出していった。
「残念ですが、『敵対する意思のある国家』に嫁ぐわけには参りませんわ」
ーーこの婚約は、破棄させていただきます。
扉の向こうから涼やかな声が響き、マリーテレーズが堂々と現れた。
「人の婚約話を、当人抜きで進められるのは心外ですわね」
「これはこれは、マリーテレーズ殿下。ご無礼をお許しください」
枢機卿が立ち上がり、優雅に膝をついて頭を垂れる。マリーテレーズはその姿に一瞥もくれず、すっとアーベルの隣に腰掛けた。
「そもそもこの婚約、私は最初から破棄するつもりでこちらに参りましたの」
「おや、それはまた……。ご両家の行く末がどうなってもよろしいと?」
枢機卿が柔らかい微笑を浮かべる。
「構いませんわ。ロレーヌ家とエスターライヒ家の結びつきはすでに成立していますもの。アーベル様の兄君、フィリップ殿下は私の姉君を妃に迎えておられるでしょう?」
枢機卿の片眉がわずかに持ち上がる。
「私、不思議に思っていたのです。この婚約は、枢機卿が進言されたとか。かの聡明な猊下が、すでに縁戚関係にある両家に、なぜ二重に縁を結ばせようとなさるのか……。私の中で辿り着いた答えは、ただ一つですわ」
「……ほう。それは興味深い。ぜひ、お聞かせいただきたい」
余裕の微笑を崩さず、枢機卿は足を組み直す。だが、マリーテレーズの言葉が続いた瞬間、その表情に一瞬、僅かな緊張が走った。
「ハイデルベルク──新教徒の多く住まう我が故郷を、意図的に弱体化させるおつもりだったのではありませんか?」
「……おや? 何のお話でしょうか?」
「ハイデルベルクは、新教徒の拠点です。騎士団もまた、その信仰を守る者たちですわ。この国に嫁げば、形式上は改宗を求められないにせよ、実際には旧教に従うことを強いられる。日常の礼拝、服装、食事、社交の作法に至るまで、旧教の流儀に合わせねばならないのですもの」
「強制ではありません。慣習にすぎませんよ」
「ですが、その“慣習”が騎士団の士気を損ねるには十分でしょう。新教徒の主君が旧教に帰属する。その現実が何を引き起こすか、猊下ならご理解のはずです」
「そうかも知れません、ですが、その心配をしている時に旧教側からちょっかい・・・そう例えば理由のわからない旧教の軍隊がこの狩猟小屋の周りなんかに大挙していることがわかったら大騒ぎになるでしょうね?」
枢機卿がハッとする使いのものをそばに呼び、言伝る
「確かに、先ほど、斥候と見られる兵士が・・・」
枢機卿が大きくため息をつく
「兵を退却させろ」
「・・・ですが・・・」
「いいから早く」
雷鳴のような声に男は飛び上がり、すぐに館の外へ駆け出していった。
「残念ですが、『敵対する意思のある国家』に嫁ぐわけには参りませんわ」
ーーこの婚約は、破棄させていただきます。
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