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対峙
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(見つかった……のか?)
枢機卿は視線を逸らし、「従者の方は?」とだけ問うた。
「いません。僕一人です。」
背中を汗が伝う。問い詰める気配はない——まだ。
一階のソファに向かい合って腰を下ろすと、枢機卿は柔らかな笑みを浮かべた。
「勘違いなさらぬよう。断罪しに来たわけではありません」
「寛大なお言葉、感謝します」
笑みを崩さぬまま、枢機卿は切り込む。
「婚姻が破談になれば、新教徒と旧教徒の融和は遠のく。あなたは民を感情で危険に晒している」
「……」
「恋など形がない。形のないものは、信じなければ存在しないのです」
アーベルの青い瞳が揺れた。
「だからこそ、信じるんです。僕は……」
言いかけた声を、枢機卿が切り捨てる。
「王族には羽ばたく自由などない」
頭の奥で何かが弾けた。
「恐れながら、猊下」
ゼムクの制止を振り切り、俺は膝をつく。
「選択肢の数ではありません。陛下ご自身が選ぶことに価値があるのです」
この場で一番驚いているのはアーベルだった。
「リュシアン…どうして…」
(ここで、アーベルを捨てていくわけには行かねえよ)
どうして行かないのか自分の気持ちに明確な回答があるわけではなかったけれど。
一瞬、枢機卿の笑みが消える。
「なるほど……やはり、あなたが“そのお相手”か」
背筋を冷たいものが走った。
「リュシアン・ルルワ。王国騎士団特例条例に基づき、あなたを拘束します」
指が鳴り、扉から武装した騎士たちが雪崩れ込む。十余名——包囲は瞬く間だった。
「冗談じゃねえ……!」
俺が立ち上がるより早く、アーベルが前に出る。
「リュシアンを連れて行かせるわけにはいきません!」
万事休す——そう思った瞬間。
「お待ちなさい、猊下!」
マリーテレーズの声が、館内に響いた。
枢機卿は視線を逸らし、「従者の方は?」とだけ問うた。
「いません。僕一人です。」
背中を汗が伝う。問い詰める気配はない——まだ。
一階のソファに向かい合って腰を下ろすと、枢機卿は柔らかな笑みを浮かべた。
「勘違いなさらぬよう。断罪しに来たわけではありません」
「寛大なお言葉、感謝します」
笑みを崩さぬまま、枢機卿は切り込む。
「婚姻が破談になれば、新教徒と旧教徒の融和は遠のく。あなたは民を感情で危険に晒している」
「……」
「恋など形がない。形のないものは、信じなければ存在しないのです」
アーベルの青い瞳が揺れた。
「だからこそ、信じるんです。僕は……」
言いかけた声を、枢機卿が切り捨てる。
「王族には羽ばたく自由などない」
頭の奥で何かが弾けた。
「恐れながら、猊下」
ゼムクの制止を振り切り、俺は膝をつく。
「選択肢の数ではありません。陛下ご自身が選ぶことに価値があるのです」
この場で一番驚いているのはアーベルだった。
「リュシアン…どうして…」
(ここで、アーベルを捨てていくわけには行かねえよ)
どうして行かないのか自分の気持ちに明確な回答があるわけではなかったけれど。
一瞬、枢機卿の笑みが消える。
「なるほど……やはり、あなたが“そのお相手”か」
背筋を冷たいものが走った。
「リュシアン・ルルワ。王国騎士団特例条例に基づき、あなたを拘束します」
指が鳴り、扉から武装した騎士たちが雪崩れ込む。十余名——包囲は瞬く間だった。
「冗談じゃねえ……!」
俺が立ち上がるより早く、アーベルが前に出る。
「リュシアンを連れて行かせるわけにはいきません!」
万事休す——そう思った瞬間。
「お待ちなさい、猊下!」
マリーテレーズの声が、館内に響いた。
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