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風雲急を告げる
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質素な石の部屋。机と椅子、十字架と蝋燭以外には何もない。
昼間だというのに薄暗く、蝋燭の光が枢機卿の横顔を照らした。
緋色の衣に包まれた痩身の聖職者は、かつて美青年と呼ばれた面影をまだ残していた。
青白い頬、沈んだ瞳。暗い部屋に浮かぶその姿は禁欲の象徴のようだった。
「……あのダンジョンを、私も最後まで踏破したわけではない」
枢機卿は低く語り出した。
枢機卿は机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。
広げられたそれには、幾つもの線と記号が描き込まれている。
「第一階層と、第二階層の一部を――私自身で歩いて描いた地図だ」
俺とアーベルは思わず身を乗り出す。
そこには回廊や部屋、仕掛けの位置まで細かに記されていた。
筆致は几帳面で、部屋の名前や注意書きまで細かく書き込まれている。
『○○をしないと扉が開かない』
『一定時間で閉ざされる』
……そんな書き込みが、冷たい文字で並んでいる。
羊皮紙の一角に、ひときわ細かな筆致で書き込みがあった。
『寝室?』と疑問符らしきものが書かれていて、その横には小さな注釈が添えられている。
『内部は豪奢な寝台のみ。特に仕掛けは見られず。部外者が侵入できる場所に寝所を置くのか?他に調度はない』
アーベルが怪訝そうに眉を寄せる。
「……寝台だけ?」
枢機卿は淡々と答えた。
「ああ。無駄に広い部屋だった。豪華な寝具以外に何もない。……だが不気味なほど静かでな」
地図に添えられて男性にしては細い指先が一瞬止まり、低く言い添える。
「条件を満たさねば、先に進めないのかも知れない。この先の扉は閉ざされていて先の記録を取ることができなかった」
枢機卿はロザリオを弄びながら言った。
「最もこのダンジョンは可動式のようだ。部屋が動き、罠が入れ替わる気配もあったからな。この地図が役に立つとは限らない」
だがその目には、弟子を案じるかすかな影が宿っていた。
「それでも、何も知らずに挑むよりはましだろう」
アーベルが深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
枢機卿は答えず、視線を逸らした。
その横で、俺は気づけば身を乗り出していた。
「……一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
枢機卿の瞳が冷たくこちらを向く。
昼間だというのに薄暗く、蝋燭の光が枢機卿の横顔を照らした。
緋色の衣に包まれた痩身の聖職者は、かつて美青年と呼ばれた面影をまだ残していた。
青白い頬、沈んだ瞳。暗い部屋に浮かぶその姿は禁欲の象徴のようだった。
「……あのダンジョンを、私も最後まで踏破したわけではない」
枢機卿は低く語り出した。
枢機卿は机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。
広げられたそれには、幾つもの線と記号が描き込まれている。
「第一階層と、第二階層の一部を――私自身で歩いて描いた地図だ」
俺とアーベルは思わず身を乗り出す。
そこには回廊や部屋、仕掛けの位置まで細かに記されていた。
筆致は几帳面で、部屋の名前や注意書きまで細かく書き込まれている。
『○○をしないと扉が開かない』
『一定時間で閉ざされる』
……そんな書き込みが、冷たい文字で並んでいる。
羊皮紙の一角に、ひときわ細かな筆致で書き込みがあった。
『寝室?』と疑問符らしきものが書かれていて、その横には小さな注釈が添えられている。
『内部は豪奢な寝台のみ。特に仕掛けは見られず。部外者が侵入できる場所に寝所を置くのか?他に調度はない』
アーベルが怪訝そうに眉を寄せる。
「……寝台だけ?」
枢機卿は淡々と答えた。
「ああ。無駄に広い部屋だった。豪華な寝具以外に何もない。……だが不気味なほど静かでな」
地図に添えられて男性にしては細い指先が一瞬止まり、低く言い添える。
「条件を満たさねば、先に進めないのかも知れない。この先の扉は閉ざされていて先の記録を取ることができなかった」
枢機卿はロザリオを弄びながら言った。
「最もこのダンジョンは可動式のようだ。部屋が動き、罠が入れ替わる気配もあったからな。この地図が役に立つとは限らない」
だがその目には、弟子を案じるかすかな影が宿っていた。
「それでも、何も知らずに挑むよりはましだろう」
アーベルが深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
枢機卿は答えず、視線を逸らした。
その横で、俺は気づけば身を乗り出していた。
「……一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
枢機卿の瞳が冷たくこちらを向く。
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