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風雲急を告げる
1
王宮を後にし、俺たちは街の中央にそびえる大聖堂へ向かった。
黒ずんだ石灰岩の正面には二本の塔が並び立ち、その間に巨大な薔薇窓が輝いている。
男女の聖人像が列をなしてこちらを見下ろし、雨樋から突き出た怪物像が口を開けていた。
厚い木の扉を押し開け、中の小さな扉に入って閉める。途端に外の喧噪は途絶え、冷たい空気に包まれた。
林立した石柱が天へと伸び、頭上のヴォールトは弧を描いて闇の中に消えていた。
ステンドグラスを透かした独特の青い光が床を染め、蝋燭の列が小さく揺れている。
修道士に案内され、俺たちは静まり返った回廊を進む。
枢機卿が待つ居室は、大聖堂の奥まった一角にあるという。
先ほどまでの宮殿の華やぎとは打って変わり、ここには人を拒むような重さが満ちていた。
やがて祭壇の突き当たりに辿り着く。
扉は黒檀で造られ、悪魔を討ち滅ぼす四体の天使像が透かし彫りにされている。
その威容に思わず息を呑む。
侍祭が中へ取り次ぎ、俺たちが来たことを告げると、彼らは静かに退いた。
やがて扉が開き、ひとりの男が現れる。
緋色の法衣に身を包んだ枢機卿は痩身で、青白い頬にはかつて美青年と呼ばれた面影がまだ残っていた。
長い指先でロザリオを弄び、伏せられた瞳は光を宿したまま沈黙している。
「……入りなさい」
石壁に男性にしては少し高めの声が響く、その無機質さが室内の冷気をさらに深くした。
リュシアンは思わず背筋を正す。
(……やっぱり相変わらず、圧がすげえ)
その横でアーベルは、痛みと決意の混ざった表情を浮かべていた。
彼は目を逸らさず、まっすぐに枢機卿を見返していた。
「……よくもまあ、訪ねてこれたものですね」
枢機卿の低めた声が石壁に響き渡った。
アーベルは胸を張り、静かに口を開く。
「討伐を任されたダンジョンについて、あなたが一番詳しいと――アルノルトおじ様から伺いました」
その名が出た途端、枢機卿の表情が翳る。
長い指でロザリオをきつく握り締め、舌打ちが小さく響いた。
「……あの方も余計なことを。相変わらず人を振り回す」
それでも彼はゆっくりと身を翻し、さらに奥の部屋へと重い扉を開いた。
「入れ。……話してやろう」
アーベルの瞳にかすかな安堵が浮かぶ。
枢機卿の声音には苛立ちが混じっていたが、その奥にはかつて弟子を案じた情の影も残っていた。
黒ずんだ石灰岩の正面には二本の塔が並び立ち、その間に巨大な薔薇窓が輝いている。
男女の聖人像が列をなしてこちらを見下ろし、雨樋から突き出た怪物像が口を開けていた。
厚い木の扉を押し開け、中の小さな扉に入って閉める。途端に外の喧噪は途絶え、冷たい空気に包まれた。
林立した石柱が天へと伸び、頭上のヴォールトは弧を描いて闇の中に消えていた。
ステンドグラスを透かした独特の青い光が床を染め、蝋燭の列が小さく揺れている。
修道士に案内され、俺たちは静まり返った回廊を進む。
枢機卿が待つ居室は、大聖堂の奥まった一角にあるという。
先ほどまでの宮殿の華やぎとは打って変わり、ここには人を拒むような重さが満ちていた。
やがて祭壇の突き当たりに辿り着く。
扉は黒檀で造られ、悪魔を討ち滅ぼす四体の天使像が透かし彫りにされている。
その威容に思わず息を呑む。
侍祭が中へ取り次ぎ、俺たちが来たことを告げると、彼らは静かに退いた。
やがて扉が開き、ひとりの男が現れる。
緋色の法衣に身を包んだ枢機卿は痩身で、青白い頬にはかつて美青年と呼ばれた面影がまだ残っていた。
長い指先でロザリオを弄び、伏せられた瞳は光を宿したまま沈黙している。
「……入りなさい」
石壁に男性にしては少し高めの声が響く、その無機質さが室内の冷気をさらに深くした。
リュシアンは思わず背筋を正す。
(……やっぱり相変わらず、圧がすげえ)
その横でアーベルは、痛みと決意の混ざった表情を浮かべていた。
彼は目を逸らさず、まっすぐに枢機卿を見返していた。
「……よくもまあ、訪ねてこれたものですね」
枢機卿の低めた声が石壁に響き渡った。
アーベルは胸を張り、静かに口を開く。
「討伐を任されたダンジョンについて、あなたが一番詳しいと――アルノルトおじ様から伺いました」
その名が出た途端、枢機卿の表情が翳る。
長い指でロザリオをきつく握り締め、舌打ちが小さく響いた。
「……あの方も余計なことを。相変わらず人を振り回す」
それでも彼はゆっくりと身を翻し、さらに奥の部屋へと重い扉を開いた。
「入れ。……話してやろう」
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枢機卿の声音には苛立ちが混じっていたが、その奥にはかつて弟子を案じた情の影も残っていた。
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