【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫

文字の大きさ
25 / 86

頭痛の種

しおりを挟む
 ジョセフ様をいっそミレーヌに押し付けたいと思った私は、エドモンと会うことにした。ミレーヌの現状を聞きたかったからだ。仕事の帰りに王宮にある食堂で一緒に夕食をとることにした。

「姉さんがジョセフ殿みたいなのが苦手なのはわからなくもないけれど……寝取るのがミレーヌだと姉さんの評判まで下がっちゃうよ……」

 エドモンは難色を示したけれど、私としては悪い話ではないと思っていた。縁談が流れた上、ミレーヌが片付けばこんなに有り難い話はない。私の婚約者を奪ったのがミレーヌなら、父も暫くは私に縁談を持って来ないだろう。そうすれば益々行き遅れになって縁談が来なくなる。そうなればずっと室長のお側にいられるかもしれない。

「今更私の評判なんて、今更気にしなくていいわよ」
「そんなこと言って……ルイーズ様の信頼も厚いし、勤務態度も高評価。姉さんの評判は悪くないんだよ」

 そうだったのか。行き遅れて仕事に逃げていると言われているのかと思っていたけれど、エドモンの話では評判が悪いのはミレーヌと父だけだという。

「確かに、私の評判が落ちるとエドモンが困るわね」

 ミレーヌだけでも問題なのに、私までエドモンの足を引っ張るのは避けたい。

「俺は大丈夫だよ」
「そうは言うけれど……婚約はどうするの? 誰かいい相手がいるの?」
「う~ん、まぁ……」

 何とも歯切れの悪い言い方に、女性の影を感じたのは姉の直感だろうか。この子ならいないならいないとはっきり言うだろう。

「協力出来ることがあったら言ってね。あまり役には立てないかもしれないけれど」
「大丈夫だよ」
「可能性は?」
「う~ん、七三で行けるかな。まだ公表は出来ないけどね」
「私も?」
「うん、姉さんなら……いや、まだ言えないな。ごめん」
「ううん、いいのよ。でも時期が来たら教えてね」
「ああ」

 力強く頷く様子からして可能性は高いらしい。エドモンは学園も好成績で卒業しているし、見た目も悪くない。要領がよくて友達も多く年上に気に入られるタイプだ。嫡男でなければ上の爵位の家に婿入りしても上手くやっていけるだろう。エドモンに代替わりすれば我が家は安泰だろうけど、その為にもミレーヌをさっさと片付けたい。

「ミレーヌは? 縁談、何かあるの?」
「いや、全く。子爵家辺りからの申込はあるけど、本人も父上も高望みしているからな。伯爵家出すら難色を示しているけど、どれだけ自己評価が高いんだか……」
「やっぱり」

 学園にいた頃は世間知らずの子どもの世界、見た目や仕草が可愛ければチヤホヤされたけれど、社会に出ればそうはいかない。今やミレーヌのようなタイプは不良物件でしかない。これで我が家が資産家ならまだ資産や事業目当ての申込も来るだろうが、残念ならがそんな要素は皆無に近い。えり好みしていないで、程々の伯爵家にでも嫁げばよかったのにと思う。

「まぁ、ミレーヌだからね。でも、ジョセフ様に執着しだすのは間違いないだろうね。男がいないと死ぬ病気にでもかかっているんじゃないか?」
「怖いこと言わないで。そんなことになったら嫁ぐのは絶望的じゃない」
「そうなんだけどさぁ。そもそもあれ、純潔なの? 兄妹間でこんな話したくはないんだけど……」
「だ、大丈夫じゃない? 多分……」

 私もこんな話はしたくなかったけれど、絶対に大丈夫と言い切れなかった。一応貴族家に輿入れするなら処女性が求められる。血の存続が一番優先されるからだ。

「もしそうじゃなかったら……」
「……はぁ、もう、誰でもいいから引き取ってくれないかなぁ。あんなのが何時までも家にいちゃ、婚約もままならないし」

 私はともかくエドモンには死活問題だろう。あんな小姑がいたら嫁ぎたいと思う令嬢はいないと思う。エドモンの相手とは恋愛感情があるみたいだし、上手くいってほしいのだけど……とにかく問題はミレーヌだった。




 それから一週間ほどが経った。あと三日でルイーズ様と室長が戻ってくる。そう思うと心が落ち着かなくなった。あれから一度、実家に帰ったけれど、相変わらずミレーヌがジョセフ様に付き纏っていた。父に外聞が悪いと言うと注意すると言ったのは意外だった。何時もなら余計なことを言うなと言われて終わるだけだったのに。それだけ父も焦っているのだろう。ここでミレーヌのせいで破談になれば、ミレーヌの結婚は絶望的だ。

(全く、さっさと嫁がせてしまえばよかったのよ)

 ミレーヌから手紙が届いたのは昨夕だった。何かと思えばジョセフ様の件だ。好きになったから譲ってほしいだの何だのと書かれた手紙は、字が下手で文面もなっていない。欲しければ好きにしろと思うけれど、手紙一つもまともにかけない妹に頭が痛い。一晩経って再び手紙が視界に入り、苛々が復活した。職場に向かう道を歩きながらも、父とミレーヌへの悪態は止まらなかった。

「シャリエ伯爵令嬢!」

 職場に向かう回廊を進んでいると、突然名を呼ばれた。声の主は私と同じか少し下くらいの令嬢だった。確か彼女は……

「お待ちください、シャリエ伯爵令嬢!」
「……何でしょうか、ジュベル伯爵令嬢」

 立ち止まると慌ただしく駆けてきた。令嬢たるもの走るとはどういうことだと思うけれど、大きな声で名を呼ぶ時点でマナー違反だったなと頭は冷静だった。時間がないから手短に願いたいのだけど……この手の相手が常識を持っていると期待出来た例がない。

「フィ、フィルマン様のことでお話がありますの。少しよろしくて?」

 当然のように時間を作れという態度に、さっきの苛々がまたぶり返してきた。こちらは文官用の制服姿なのだから、見ればわかりそうなものなのに。

「これから仕事ですの。ご用があるのでしたら事前にご連絡願います。それでは」

 こっちも時間がない。放っておこうとそのまま歩き出そうとしたら腕を掴まれた。

「ッ!」

 思った以上に強い力に嫌悪感が増した。


しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

処理中です...