【完結】黒茨の魔女と金眼の下僕

灰銀猫

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死にぎわとその後

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「眠っていたって……どう、して……」

 質問してから愚門だったと気付く。あの魔道具を動かすには相当な魔力量が必要だ。普通の人間なら死んでいただろう……いや、魔術師の卵程度の魔力量じゃ起動すらも出来なかったはずだけど……

「詳しいことは俺にもわからない。だが、次に目覚めた時、あの部屋にあったのは骨だけになったあんただけだった」

 さらりと告られた状況に戦慄した。骨になったって……

「……じゃ、私は……」
「間違いなく死んだ。あんたが身に着けていた服や魔道具もそのまんまだったしな」

 そうか……私はやっぱりあの後死んだのか。残った彼が見た光景はどんなものだったろうか……三十年経った死体がどうなるかなんて想像も出来ない。そんな場所に一人目覚めて……

「あんたの骨は拾って庭に埋めた。家は……すっかり燃え尽きて何も残っていなかったよ。幸い地下室は石で出来ていたし、あいつらもあの部屋には入れなかったんだろうな」
「……そ、うか……手間を、かけたな……」

 申し訳ない思いが胸を重くする。眠っていたのなら目覚めた彼の心はまだ十四のままだったろうに。死体の片付けなど酷なことをさせてしまった。それに長く暮らしたあの家も燃えてしまったのか……家に愛着はなかったけれど、あそこには膨大な書物や魔道具があったのに……

「どういう訳か、俺の身体は十四のままだった。で、目覚めてからまた成長し始めたんだ。だから今の俺の身体は二十四だ」

 見上げた彼の身体は確かに少年ではなく立派な青年のそれだった。随分背が伸びたし、顔立ちだって女の子みたいに綺麗だったのに今は精悍という言葉が似あう。中々に、いや、かなり美形だ。昔も美少年って感じだったけど。

「目覚めてから、俺は転生したあんたを探して回ったんだ」

 迷いなく真っ直ぐに向けられる視線が痛い。炎で瞳が赤く染まって、それがどうしても不穏に見えてしまうのは気のせいだろうか……

「そ、それは……随分途方もないことを……」

 転生なんていつするかもわからないし、生まれる場所だってわからない。それに性別や見た目も同じとは限らない。探すといってもあまりにも漠然とし過ぎていて森の中で砂粒一つを探すようなものだろうに……しかも、転生しているかどうかもわからない相手を。

「何としてでも俺はあんたに会いたかった。だから転生させる際に印をつけたんだ」
「印?」

 そんなことが可能なのか? 聞いたこともないけど……

「ああ。あんた、身体のどこかに痣があるだろう?」
「痣……」

 思い当たる痣は確かにあった……左腕に、半月状の痣が……

「……これ、か?」

 袖をまくって左腕にある痣を見せると、彼が目を細めてふわりとほほ笑んだ。

「ああ。俺の魔力を込めてみたんだ。目印になるようにと」
「そんなことが……」

 出来るのか? いや、痣があって彼がそう言うなら出来たのだろうけど……生まれ変わる相手に目印を、しかも形あるものとして残すなんて……

「だけど三年前、急に気配が消えた。ちょうど王都に辿り着いた頃だった。だからそれから三年間は王都をしらみつぶしに探し回ったんだ」

 深みのある声は低く、なんだかじりじりと追い詰められているような気分にさせる……ちょっと待ってくれ。頭が……理解が追い付いてこない……

「あの怪我、は……」
「あれは王宮に忍び込んでやられたものだ」
「なっ!! お前馬鹿か? 王宮だなんて!!」

 あそこは何人もの魔術師が結界を幾重にも張っていると聞く。簡単に忍び込めるような場所じゃない。

「ま、それでも怪我したせいであんたを見つけられた。ラッキーだったと思ってるけど?」

 僅かに口の端をあげる炎に染まった表情に悪寒が走った。この禍々しい気配は一体……それに、どうしてそこまでするのかわからない。自由になったのなら、私のことなど放っておいてしがらみのない人生を送ればいいだろうに……

「な、なんで、そこまで……」

 彼に何の利があるのか。聞いてはいけないような気がしたけれど、口が勝手にそう問うていた。このままここにいてはいけないような気がする。頭の中はとっくに警戒の鐘が鳴り響いているのに……

「あんたを見つけ出して、今度こそ離さないためだ」

 なんだか……犯罪くさい物言いに聞こえたのは気のせいだろうか? ゆらりと音もなくルイが立ち上がった。背が随分伸びたなと……感じている場合じゃない! 今すぐここを立ち去った方がいいと本能が告げる。告げるのに、目の前の男から放たれる言い知れぬ圧に身体が動かない。そうしている間にもゆっくりと、足音も立てずにルイが私の側まで来た。見下ろされて全身に鳥肌が立つ。狼に食われる寸前のうさぎの気分だ……すっと身をかがめて片膝をついたルイが私の手にあったコップを取り上げて地面に置き、そっと私の手を取る。

「あんたは俺のものだ。今度こそ逃がさない」

 顔半分が炎を受けて赤く、その反対側は月に照らされて白く輝いていた。その対比が現実味を失わせていく……手を振り払いたいのに身体が動かない……

「な、なんで、そこまで……」
「あんたに惚れているから」
「惚れ……」

 ちょっと待て!! あの時の私たちのどこにそんな要素があった? 私からしたら野良の子猫を拾ったくらいの気持ちで……そもそも三百年以上生きていた私からしたら、十四歳なんてひよこどころか卵も同然で……

「あんたは命の恩人だからな。前世でも、今生でも」
「恩人って……」

 軽く握られた手がルイの口に近付いた。そのまま指先が柔らかい何かに触れるのを呆然と見ているしか出来なかった。手の向こうのルイの瞳が怪しく煌めいた。あれはきっと炎のせいで……待て。ちょっと情報量が多過ぎて、何が何だ……か……

「それが恋になってもおかしくないだろう?」

 今度こそ私の神経は限界を超えた。




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