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懐かしの我が家へ
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その日から私たちは前世の私が住んでいた家を目指した。今いるのはディゼル峠よりわずかに上流に進んだところで、街道からあまり離れていないだろうとルイは言った。私を抱えて川から離れたけれど、一日も歩かなかったと。今頃私たちはお尋ね者として周辺の町や村に触れが出ているだろうから近づくことは出来ないらしい。
「とにかく山を歩くしかないな」
悲しいかなそれ以外の方法がなかった。馬でも手に入るといいのだけど、魔獣が出る森に臆病な馬がいるはずもない。元の家はディゼル峠から北北東、セロー砦身体とちょうど北になる。街道に沿って流れるロアール川はセロー砦の上流で支流と合流するけれど、私の家はその支流の上流にある。支流に沿って山に向かえば辿り着くのだけど……
「川に沿って行けば迷うこともないが……セロー砦には近付けないし……」
ルイはどこで手に入れたの知らないが、簡単な地図を眺めて考え込んでいた。そんな地図、どこで手に入れたんだ? それよりも……
「ルイ、その地図間違っているぞ?」
「は?」
「ロアール川と支流は街道の南側だし、セロー砦はもっと南だ」
「そうなのか?」
「最初の百年ほどは砦やその南にある村と交流していたからな。変わっていなければ、だが」
まだ魔女と忌み嫌われる前は作った薬を納めて生活に必要なものを買ったりもしていた。それも不老になってからはやめたけど。ただ、二百年ほど前のことなので今もそうなのかはわからないけれど。それに地図の多くはその地を訪れた商人や冒険者が記憶を頼りに記したものだ。それを書き写したものが出回るが、書き写す度に内容が代わってしまうことも少なくない。当てに出来るかどうかかはかなり微妙で運とも言える。
「最短で行くならこのまま北上するのが早いと思う。支流は途中で西に蛇行しているから北上すればどこかで川に出るはずだ。川にさえ出られれば……」
「そう、か。そうだな。砦に近付くのは危険だし、山を突っ切った方がまだ安全か」
どうやら前世の知識も少しは役に立ったらしい。まずはこのまま北に向かい、支流を探すしかないだろう。しかし……着替えも何もかも川に流されてしまったから心許ない。それに息をするように使っていた魔術も、今生の結界や治癒の魔術も使えないのは地味に痛かった。
「じゃ、行くか」
「はぁ? もう?」
意外だった。昨日まではやたら過保護だったから暫く動かないのかと思っていた。
「お前の体調も少しはよくなったんだろう?」
「あ、ああ。まぁ……」
前世を思い出す前には及ばないけれど。
「ここに留まって数日経っている。そろそろ追手が来るかもしれない。少しでもいい。川から離れるぞ」
「わかった」
直ぐにルイはその辺にあった荷物を鞄に詰め込んだ。とはいっても持っているものは木で出来た皿やコップ、小鍋、僅かな着替えと使い古したタオルに薄い毛布、ナイスが数本と縄くらいだ。それらを背負うタイプの鞄に詰めていく。この鞄はたくさんの荷物が入る上、両手が空くからと旅人や冒険者が好んで使う。
「ほら、入れ」
「は? 入れって……」
「鞄の中に決まっているだろう?」
「はぁあ?」
まさか鞄に入れと言われるとは思わなかった。いや、さすがにそれは無理だろう。いくら年よりも小柄だといってもそれなりに背はあるし重いのに……
「底が抜けるぞ」
「大丈夫だ。この鞄は成人の男一人が入っても耐えられる」
「はぁ?」
耐えられるって……だからってそこに入れと? さすがにそれは……
「これは魔術で強化した鞄だから心配ない。あんた、道もない坂を延々と登れるのか?」
「こうなったら歩くしかないだろう」
「その体力でか?」
「う……」
さすがにそう言われると大丈夫とは言い切れなかった。やっと起きあれるようになったところで、ルイの言う通りだけど……
「これ以上ここに留まるのは危険だ。あんた、自分が魔女だって白状しちまっただろ?」
「う……」
「あの場面で黙っていればよかったのに……そうと知れたら国は血眼になって探し出すぞ」
あの時は記憶が戻ったこととガイエ司教たちへの怒りが勝ってつい口走ってしまったけれど……冷静になってみればとんでもない悪手だった。
「家に……戻るのは危険だろうか?」
エヴァが黒茨の魔女だと知れたら王はあの家に人を送るかもしれない。そうなったら……
「その可能性は高いな。あいつらがあんたを魔女だと認めたらだけど」
ルイはその可能性を否定しなかった。騎士たちの報告を受けて彼らが荒唐無稽な話だと一蹴してくれたらいいのだけど、万が一の可能性もあるかも……
「あいつらが王都に報告に戻るまで十日近くはかかる。それから命令を受けてこちらに来るにも同じくらいはかかるだろう」
「そう、だな」
「だったらそれよりも先に家に辿り着いて、用を済ませたら離れるしかないな。三十日……」
「え?」
「あいつらがあの家にたどり着くまでに三十日はかかるだろう。それまでに家に辿り着ければ俺たちの勝ち。それ以上かかるなら家に寄るのは諦めるしかない。捕まりに行くようなものだからな」
ルイの目算は多分間違ってはいないのだろう。彼らはいい意味でも悪い意味でも上の指示がないと動けない。そして、命令を出すにも時間がかかるし、出立するにも一、二日はかかるだろうから。
「そういうわけで、時間がない。あんたに歩かせると時間がかかるんだ。わかったら大人しく運ばれろ」
そう言われると断ることは出来ず、私は鞄に入って荷物として運ばれるしかなかった。
「とにかく山を歩くしかないな」
悲しいかなそれ以外の方法がなかった。馬でも手に入るといいのだけど、魔獣が出る森に臆病な馬がいるはずもない。元の家はディゼル峠から北北東、セロー砦身体とちょうど北になる。街道に沿って流れるロアール川はセロー砦の上流で支流と合流するけれど、私の家はその支流の上流にある。支流に沿って山に向かえば辿り着くのだけど……
「川に沿って行けば迷うこともないが……セロー砦には近付けないし……」
ルイはどこで手に入れたの知らないが、簡単な地図を眺めて考え込んでいた。そんな地図、どこで手に入れたんだ? それよりも……
「ルイ、その地図間違っているぞ?」
「は?」
「ロアール川と支流は街道の南側だし、セロー砦はもっと南だ」
「そうなのか?」
「最初の百年ほどは砦やその南にある村と交流していたからな。変わっていなければ、だが」
まだ魔女と忌み嫌われる前は作った薬を納めて生活に必要なものを買ったりもしていた。それも不老になってからはやめたけど。ただ、二百年ほど前のことなので今もそうなのかはわからないけれど。それに地図の多くはその地を訪れた商人や冒険者が記憶を頼りに記したものだ。それを書き写したものが出回るが、書き写す度に内容が代わってしまうことも少なくない。当てに出来るかどうかかはかなり微妙で運とも言える。
「最短で行くならこのまま北上するのが早いと思う。支流は途中で西に蛇行しているから北上すればどこかで川に出るはずだ。川にさえ出られれば……」
「そう、か。そうだな。砦に近付くのは危険だし、山を突っ切った方がまだ安全か」
どうやら前世の知識も少しは役に立ったらしい。まずはこのまま北に向かい、支流を探すしかないだろう。しかし……着替えも何もかも川に流されてしまったから心許ない。それに息をするように使っていた魔術も、今生の結界や治癒の魔術も使えないのは地味に痛かった。
「じゃ、行くか」
「はぁ? もう?」
意外だった。昨日まではやたら過保護だったから暫く動かないのかと思っていた。
「お前の体調も少しはよくなったんだろう?」
「あ、ああ。まぁ……」
前世を思い出す前には及ばないけれど。
「ここに留まって数日経っている。そろそろ追手が来るかもしれない。少しでもいい。川から離れるぞ」
「わかった」
直ぐにルイはその辺にあった荷物を鞄に詰め込んだ。とはいっても持っているものは木で出来た皿やコップ、小鍋、僅かな着替えと使い古したタオルに薄い毛布、ナイスが数本と縄くらいだ。それらを背負うタイプの鞄に詰めていく。この鞄はたくさんの荷物が入る上、両手が空くからと旅人や冒険者が好んで使う。
「ほら、入れ」
「は? 入れって……」
「鞄の中に決まっているだろう?」
「はぁあ?」
まさか鞄に入れと言われるとは思わなかった。いや、さすがにそれは無理だろう。いくら年よりも小柄だといってもそれなりに背はあるし重いのに……
「底が抜けるぞ」
「大丈夫だ。この鞄は成人の男一人が入っても耐えられる」
「はぁ?」
耐えられるって……だからってそこに入れと? さすがにそれは……
「これは魔術で強化した鞄だから心配ない。あんた、道もない坂を延々と登れるのか?」
「こうなったら歩くしかないだろう」
「その体力でか?」
「う……」
さすがにそう言われると大丈夫とは言い切れなかった。やっと起きあれるようになったところで、ルイの言う通りだけど……
「これ以上ここに留まるのは危険だ。あんた、自分が魔女だって白状しちまっただろ?」
「う……」
「あの場面で黙っていればよかったのに……そうと知れたら国は血眼になって探し出すぞ」
あの時は記憶が戻ったこととガイエ司教たちへの怒りが勝ってつい口走ってしまったけれど……冷静になってみればとんでもない悪手だった。
「家に……戻るのは危険だろうか?」
エヴァが黒茨の魔女だと知れたら王はあの家に人を送るかもしれない。そうなったら……
「その可能性は高いな。あいつらがあんたを魔女だと認めたらだけど」
ルイはその可能性を否定しなかった。騎士たちの報告を受けて彼らが荒唐無稽な話だと一蹴してくれたらいいのだけど、万が一の可能性もあるかも……
「あいつらが王都に報告に戻るまで十日近くはかかる。それから命令を受けてこちらに来るにも同じくらいはかかるだろう」
「そう、だな」
「だったらそれよりも先に家に辿り着いて、用を済ませたら離れるしかないな。三十日……」
「え?」
「あいつらがあの家にたどり着くまでに三十日はかかるだろう。それまでに家に辿り着ければ俺たちの勝ち。それ以上かかるなら家に寄るのは諦めるしかない。捕まりに行くようなものだからな」
ルイの目算は多分間違ってはいないのだろう。彼らはいい意味でも悪い意味でも上の指示がないと動けない。そして、命令を出すにも時間がかかるし、出立するにも一、二日はかかるだろうから。
「そういうわけで、時間がない。あんたに歩かせると時間がかかるんだ。わかったら大人しく運ばれろ」
そう言われると断ることは出来ず、私は鞄に入って荷物として運ばれるしかなかった。
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