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美女の勧誘
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「マノンか」
ルイの呟きで相手の女性がマノンという名だと理解した。栗色の髪は艶やかで陽の光に白い輪が輝いて、肌は白く手入れがよくされていると伺えた。それに美人だ。女性らしい華のある顔立ちに笑みを浮かべると花が咲いたよう。よく見ると瞳は春の若葉と同じ色で精気に溢れている。丈の長い薄緑のワンピースに紺のマントを羽織って佇む様は出来る女性といった感じだ。神殿で幅を利かせていたアリアーヌ様と同類に見えた。
「珍しいわね。ルイが外に出ているなんて。こんなところで会えるなんて思わなかったわ」
声には喜色が現れていて彼女がルイに好意を持っているのが感じられた。ルイは背も高いし顔も悪くないどころかいい方だ。あの宿に向かった時ですら酒場のお姉さんらしき女性に声をかけれていたし。
「今日は買い物? だったら町を案内するわよ?」
「間に合っているからいい」
「遠慮しなくてもいいわよ。ここでは多少顔が利くから私と一緒の方がいい買い物が出来るはずよ。いい店を知っているの」
女性は物怖じしない質らしい。それとも自分に自信があるのか。まぁ、美人なのは間違いない。さっきから男性の視線を集めているし。
「店の目の前だし宿の女将さんの紹介もある。余計なお世話だ」
女性に対してルイは邪険とまでは言わないけれど素っ気なかった。さっきまで機嫌がよかったのにどうしたんだ? それとも……この美人と何かあったのだろうか。
「もう、素っ気ないんだから……って、あら、お連れ様? もしかして、その人がルイの?」
美人はようやくルイの隣にいた私に気付いたらしい。いや、最初から気付いていて気付かないふりをしていたのかもしれないけれど。笑顔が挑発的に見えるのは気のせい、じゃなさそう。この人、ルイを狙ってる?
「お前には関係ない」
そう言うとルイは私の肩を抱いて美女の横を通り抜けようとした。
「紹介してくれないの?」
「何のために?」
「な、何のためって……」
まさかそう返されるとは思わなかったのか、美女に動揺が見えた。でも、確かに接点はなさそうだし紹介する必要はない、かもしれない。彼女がどこの誰か知らないけれど。
「妻がおまえらと関わることはないから必要ない」
「あら、でも彼女はそう思っていなさそうだけど?」
ちらと向けられた視線に挑発的なものを感じるのは気のせいだろうか。彼女に興味はなったけれど、もしかしてこれが噂の修羅場かと思うとちょっとドキドキしてきた。この私にこんな機会が訪れようとは……いや、面白がっている場合じゃないんだけど。
「初めまして、奥様。私はB級冒険者のマノン。この町を拠点にしているの」
「初めまして、エ……」
「こんな奴に挨拶する必要はない」
挨拶を返そうとしたらルイに遮られてしまった。どうやらルイは私が彼女と関わるのを望んでいないらしい。苦虫を噛み潰したように表情を歪めたルイに対して、マノンと名乗った女性は笑みを深めた。その笑みがいい意味ではないことくらいは私でも察せられたけれど……この女性らしい美人が冒険者? しかもB級って……そっちも驚きだ。
冒険者は最上位がSで、以下A,B、C……と続き、Fまである。冒険者は実力主義で、誰でも最初はFから始まって、実績によって上へと上がっていくのだとか。B級以上に上がれるのは一握りの者だけだと聞いているけれど……こんな若い子が……人は見かけによらない。
「もう、ルイったら酷いわ。でもいいわ。ね、奥様、私、B級冒険者のパーティーに所属しているのよ。この町では一、二を争う実力者のパーティーよ。今はA級に上がれるように頑張っているのだけど、そのためにはどうしても強いメンバーが必要なの」
「おい!」
「でね、ルイには是非私たちのパーティーに参加してほしいの。私たちのパーティーに入ったらルイだってこの町で一目置かれるようになるわ。宿屋の食堂で小銭を稼ぐようなことしなくていいし、広くて立派な家も買える。どう? 悪い話じゃないでしょう?」
疑問系だけど……そうだと言わんばかりだし、さりげなく今の暮らしも仕事も馬鹿にしているようにも聞こえて不快だった。いや、言っていることは正しいんだろうけど……でも、別に食堂の仕事だって立派な仕事だ。私にはあんな美味しい料理は作れないから。
「おい、いい加減にしろ。宿屋を馬鹿にする気か?」
「そんなつもりはないわ。宿屋だって食堂だって立派な仕事だもの。でも、あなたはそんな器じゃないわ。もっと大きな仕事が出来る人なのに勿体ないって言っているの!」
「俺は今の仕事にも境遇にも満足している。余計なお世話だ」
ルイの周りの空気が一層冷え込んだ気がした。そうは見えないけれどこれはかなり怒っている、確実に……
「あの宿は俺たちの恩人だ」
「わ、わかったわよ。別に悪く言うつもりじゃなかったのよ。ただ、あなたの実力を思うと釣り合っていないって言いたかっただけで……」
「俺は冒険者になっても誰かとつるむ気はない。望むのは妻との穏やかな生活だ。そのためなら稼ぎは今の額で十分だ」
そう言うとルイは私の肩を抱いてマノンの横を通り抜け、目の前の店のドアを開けた。
ルイの呟きで相手の女性がマノンという名だと理解した。栗色の髪は艶やかで陽の光に白い輪が輝いて、肌は白く手入れがよくされていると伺えた。それに美人だ。女性らしい華のある顔立ちに笑みを浮かべると花が咲いたよう。よく見ると瞳は春の若葉と同じ色で精気に溢れている。丈の長い薄緑のワンピースに紺のマントを羽織って佇む様は出来る女性といった感じだ。神殿で幅を利かせていたアリアーヌ様と同類に見えた。
「珍しいわね。ルイが外に出ているなんて。こんなところで会えるなんて思わなかったわ」
声には喜色が現れていて彼女がルイに好意を持っているのが感じられた。ルイは背も高いし顔も悪くないどころかいい方だ。あの宿に向かった時ですら酒場のお姉さんらしき女性に声をかけれていたし。
「今日は買い物? だったら町を案内するわよ?」
「間に合っているからいい」
「遠慮しなくてもいいわよ。ここでは多少顔が利くから私と一緒の方がいい買い物が出来るはずよ。いい店を知っているの」
女性は物怖じしない質らしい。それとも自分に自信があるのか。まぁ、美人なのは間違いない。さっきから男性の視線を集めているし。
「店の目の前だし宿の女将さんの紹介もある。余計なお世話だ」
女性に対してルイは邪険とまでは言わないけれど素っ気なかった。さっきまで機嫌がよかったのにどうしたんだ? それとも……この美人と何かあったのだろうか。
「もう、素っ気ないんだから……って、あら、お連れ様? もしかして、その人がルイの?」
美人はようやくルイの隣にいた私に気付いたらしい。いや、最初から気付いていて気付かないふりをしていたのかもしれないけれど。笑顔が挑発的に見えるのは気のせい、じゃなさそう。この人、ルイを狙ってる?
「お前には関係ない」
そう言うとルイは私の肩を抱いて美女の横を通り抜けようとした。
「紹介してくれないの?」
「何のために?」
「な、何のためって……」
まさかそう返されるとは思わなかったのか、美女に動揺が見えた。でも、確かに接点はなさそうだし紹介する必要はない、かもしれない。彼女がどこの誰か知らないけれど。
「妻がおまえらと関わることはないから必要ない」
「あら、でも彼女はそう思っていなさそうだけど?」
ちらと向けられた視線に挑発的なものを感じるのは気のせいだろうか。彼女に興味はなったけれど、もしかしてこれが噂の修羅場かと思うとちょっとドキドキしてきた。この私にこんな機会が訪れようとは……いや、面白がっている場合じゃないんだけど。
「初めまして、奥様。私はB級冒険者のマノン。この町を拠点にしているの」
「初めまして、エ……」
「こんな奴に挨拶する必要はない」
挨拶を返そうとしたらルイに遮られてしまった。どうやらルイは私が彼女と関わるのを望んでいないらしい。苦虫を噛み潰したように表情を歪めたルイに対して、マノンと名乗った女性は笑みを深めた。その笑みがいい意味ではないことくらいは私でも察せられたけれど……この女性らしい美人が冒険者? しかもB級って……そっちも驚きだ。
冒険者は最上位がSで、以下A,B、C……と続き、Fまである。冒険者は実力主義で、誰でも最初はFから始まって、実績によって上へと上がっていくのだとか。B級以上に上がれるのは一握りの者だけだと聞いているけれど……こんな若い子が……人は見かけによらない。
「もう、ルイったら酷いわ。でもいいわ。ね、奥様、私、B級冒険者のパーティーに所属しているのよ。この町では一、二を争う実力者のパーティーよ。今はA級に上がれるように頑張っているのだけど、そのためにはどうしても強いメンバーが必要なの」
「おい!」
「でね、ルイには是非私たちのパーティーに参加してほしいの。私たちのパーティーに入ったらルイだってこの町で一目置かれるようになるわ。宿屋の食堂で小銭を稼ぐようなことしなくていいし、広くて立派な家も買える。どう? 悪い話じゃないでしょう?」
疑問系だけど……そうだと言わんばかりだし、さりげなく今の暮らしも仕事も馬鹿にしているようにも聞こえて不快だった。いや、言っていることは正しいんだろうけど……でも、別に食堂の仕事だって立派な仕事だ。私にはあんな美味しい料理は作れないから。
「おい、いい加減にしろ。宿屋を馬鹿にする気か?」
「そんなつもりはないわ。宿屋だって食堂だって立派な仕事だもの。でも、あなたはそんな器じゃないわ。もっと大きな仕事が出来る人なのに勿体ないって言っているの!」
「俺は今の仕事にも境遇にも満足している。余計なお世話だ」
ルイの周りの空気が一層冷え込んだ気がした。そうは見えないけれどこれはかなり怒っている、確実に……
「あの宿は俺たちの恩人だ」
「わ、わかったわよ。別に悪く言うつもりじゃなかったのよ。ただ、あなたの実力を思うと釣り合っていないって言いたかっただけで……」
「俺は冒険者になっても誰かとつるむ気はない。望むのは妻との穏やかな生活だ。そのためなら稼ぎは今の額で十分だ」
そう言うとルイは私の肩を抱いてマノンの横を通り抜け、目の前の店のドアを開けた。
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