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甘味を楽しむ
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新しい服で街に出るとなんだか酷く恥ずかしい気分がした。新しい服が目立つ色だったのもあるかもしれない。夕陽色は滅多に見ないから。この色を出すのに苦労したと言っていたからきっと少数派だ。何となく周りに見られている気がして落ち着かなかった。
ふと、さっき絡んで来たマノンがいないか気になったけれど、幸いにもその姿はなかった。よかった、あれで諦めてくれたのならいいのだけど。
「さて、これからどうしたい?」
「どうしたいとは?」
買い物に来たし、必要なものは買ってしまったはず。と言うかこれ以上買い物するのは不安だからそろそろ帰ってもいいと思うのだけど。
「たまには外で食事でもするか」
「へ?」
帰ろうと言おうとしたら別の提案が下りて来た。食事って……宿のご飯で十分じゃないだろうか?
「あんたは外の世界を知らな過ぎる。今までは体調が心配で外には出さなかったけど、買い物や食事に出るくらいなら……」
「いいのか?」
思わず食い気味に聞いてしまった。でも、そろそろあの宿屋の一室で過ごすのは飽きてしまった。一人で外を眺める生活もそろそろ限界だった。前よりは体力も肉もついたはずだし。
「俺が一緒の時ならな。体調は戻っても魔力はまだ戻っていないだろう?」
「あ、ああ」
「せめて簡単な術が使えるようになるまでは一人では出せない」
断言されてしまったけれど、私も十七になって一応成人しているんだけど……
「いや、体力をつけるのにその辺を散歩くらいなら……」
「子どもは人買いに狙えわれやすいんだよ」
「私は子どもじゃない!」
「年はな。だけど見た目はどう見ても子供だろうが。相手はわざわざ年なんか聞いてこないんだぞ」
「う……」
そう言われると返す言葉がなかった。確かに今の私は精々十三、四歳にしか見えないだろう。いや、これでも前よりは上に見えるようになったんだけど。
「とにかく、攫われたら探すの一苦労なんだ。頼むから大人しくしててくれ。誰かが会いに来ても絶対会うなよ」
「あ、ああ」
「出来ないなら従属の腕輪、付けるぞ?」
「は?」
「術式は覚えているからな。その辺の腕輪と魔石があれば出来る」
出来るって……そんなこと自慢げに言われても……でも、金眼なら可能なんだよな。羨ましい……
「とにかく、術が使えるようになるまでの我慢だ。いいな?」
それは疑問形だったけれど命令に等しかった。まぁ、私も攫われるのはさすがに勘弁したいからわざわざ逆らったりはしない。人攫いに捕まったら真っ当な人生が送れないことくらいは世間知らずの私でもわかる。
それから向かった先はさっきの市場だった。寒くても食料を売る店や食堂が並んでいるから人が多くて賑やかなままだ。そこでルイは人の列の後ろで足を止めた。結構な人が並んでいる。
「ここは?」
「甘い物が食える店だ」
「甘い物?」
ちょっと気分が上がった。いや、かなりかもしれない。甘い物なんて王都でも中々口に入らなかった。この町に来てからは時々ルイが作ったりどこかから手に入れて来たりしたけれど……中に入ると小さい店なのにたくさんの人で溢れていた。見かけによらないとはこういう事かもしれない。
「ここじゃエカっていう芋を使った菓子が人気なんだ」
「エカ芋って……あの?」
「そう。あのエカ芋」
そう、エカ芋とはこの地方では主食扱いの芋で、わりと手軽に手に入る。ただ、あまり美味しくない、いや、不味いと言っていいだろう。独特のえぐみがあるから。それでも食料が足りない時は我慢して食べるしかない。そういうお菓子なんだけど……
「大丈夫なのか?」
「まぁ、食ってからのお楽しみだな」
その言い方だと食べたことがあるように聞こえるけれど……あ、この表情は絶対に教えてくれないやつだ。仕方なく注文の列に並んだ。
「ほら、食ってみろ」
渡されたのは平べったい形に焼かれた物体だった。色は芋の色だし匂いもそうだけど……美味しいのか? 半信半疑で平たくなったエカ芋を見つめる私の横でルイがかぶりついていた。買って貰ったのに食べないのも失礼だろうと私もそれに倣ったけれど……
「美味しい……」
見た目や事前情報など全く当てにならない味だった。えぐみもないし、それどころか本当に甘い。蜂蜜とはまた違う甘みが口の中に広がってそれだけで頬が緩んだ。凄い、エカ芋の可能性を掘り出した人、天才だ……
「美味かっただろう?」
「ああ、エカ芋への認識が変わった。素晴らしい発見だ」
「大袈裟だなぁ」
ルイが呆れたように言うけれど……本当に美味しいと思ったのだからいいじゃないか。いや、多分エカ芋のあの不味さのギャップが余計に美味しく感じられたのだろうけど。
「ありがとう。貴重な体験だった」
「そこまで言うか?」
「だって、本当に美味しかったから」
甘い物は正義だ。それだけで幸せを感じられるから。
「ま、喜んでくれたなら来た甲斐があったってもんだ」
「ああ、嬉しかった」
「それなら今度は……っ!」
機嫌よく話していたルイだったけれど、急に言葉が途切れた。どうかしたかと思って見上げると顔を手で覆っている。
「どうした?」
「いや、何でもない。舌を噛んだだけだ」
「そうか」
珍しいこともある。見上げると痛いのか顔をしかめていたけれど直ぐに口の端を上げてこっちを見た。大丈夫、何だよな? それくらいよくあることだし。
「ほら、次の店に行くぞ」
「まだ食べるのか?」
「何だ、もう腹いっぱいか? だったら帰るか」
「いや、食べられるのなら、食べたい」
「じゃ、行くぞ」
ルイが私の手を取って歩き出した。見上げる横顔はいつも通りで繋いだ手がとても温かかった。
ふと、さっき絡んで来たマノンがいないか気になったけれど、幸いにもその姿はなかった。よかった、あれで諦めてくれたのならいいのだけど。
「さて、これからどうしたい?」
「どうしたいとは?」
買い物に来たし、必要なものは買ってしまったはず。と言うかこれ以上買い物するのは不安だからそろそろ帰ってもいいと思うのだけど。
「たまには外で食事でもするか」
「へ?」
帰ろうと言おうとしたら別の提案が下りて来た。食事って……宿のご飯で十分じゃないだろうか?
「あんたは外の世界を知らな過ぎる。今までは体調が心配で外には出さなかったけど、買い物や食事に出るくらいなら……」
「いいのか?」
思わず食い気味に聞いてしまった。でも、そろそろあの宿屋の一室で過ごすのは飽きてしまった。一人で外を眺める生活もそろそろ限界だった。前よりは体力も肉もついたはずだし。
「俺が一緒の時ならな。体調は戻っても魔力はまだ戻っていないだろう?」
「あ、ああ」
「せめて簡単な術が使えるようになるまでは一人では出せない」
断言されてしまったけれど、私も十七になって一応成人しているんだけど……
「いや、体力をつけるのにその辺を散歩くらいなら……」
「子どもは人買いに狙えわれやすいんだよ」
「私は子どもじゃない!」
「年はな。だけど見た目はどう見ても子供だろうが。相手はわざわざ年なんか聞いてこないんだぞ」
「う……」
そう言われると返す言葉がなかった。確かに今の私は精々十三、四歳にしか見えないだろう。いや、これでも前よりは上に見えるようになったんだけど。
「とにかく、攫われたら探すの一苦労なんだ。頼むから大人しくしててくれ。誰かが会いに来ても絶対会うなよ」
「あ、ああ」
「出来ないなら従属の腕輪、付けるぞ?」
「は?」
「術式は覚えているからな。その辺の腕輪と魔石があれば出来る」
出来るって……そんなこと自慢げに言われても……でも、金眼なら可能なんだよな。羨ましい……
「とにかく、術が使えるようになるまでの我慢だ。いいな?」
それは疑問形だったけれど命令に等しかった。まぁ、私も攫われるのはさすがに勘弁したいからわざわざ逆らったりはしない。人攫いに捕まったら真っ当な人生が送れないことくらいは世間知らずの私でもわかる。
それから向かった先はさっきの市場だった。寒くても食料を売る店や食堂が並んでいるから人が多くて賑やかなままだ。そこでルイは人の列の後ろで足を止めた。結構な人が並んでいる。
「ここは?」
「甘い物が食える店だ」
「甘い物?」
ちょっと気分が上がった。いや、かなりかもしれない。甘い物なんて王都でも中々口に入らなかった。この町に来てからは時々ルイが作ったりどこかから手に入れて来たりしたけれど……中に入ると小さい店なのにたくさんの人で溢れていた。見かけによらないとはこういう事かもしれない。
「ここじゃエカっていう芋を使った菓子が人気なんだ」
「エカ芋って……あの?」
「そう。あのエカ芋」
そう、エカ芋とはこの地方では主食扱いの芋で、わりと手軽に手に入る。ただ、あまり美味しくない、いや、不味いと言っていいだろう。独特のえぐみがあるから。それでも食料が足りない時は我慢して食べるしかない。そういうお菓子なんだけど……
「大丈夫なのか?」
「まぁ、食ってからのお楽しみだな」
その言い方だと食べたことがあるように聞こえるけれど……あ、この表情は絶対に教えてくれないやつだ。仕方なく注文の列に並んだ。
「ほら、食ってみろ」
渡されたのは平べったい形に焼かれた物体だった。色は芋の色だし匂いもそうだけど……美味しいのか? 半信半疑で平たくなったエカ芋を見つめる私の横でルイがかぶりついていた。買って貰ったのに食べないのも失礼だろうと私もそれに倣ったけれど……
「美味しい……」
見た目や事前情報など全く当てにならない味だった。えぐみもないし、それどころか本当に甘い。蜂蜜とはまた違う甘みが口の中に広がってそれだけで頬が緩んだ。凄い、エカ芋の可能性を掘り出した人、天才だ……
「美味かっただろう?」
「ああ、エカ芋への認識が変わった。素晴らしい発見だ」
「大袈裟だなぁ」
ルイが呆れたように言うけれど……本当に美味しいと思ったのだからいいじゃないか。いや、多分エカ芋のあの不味さのギャップが余計に美味しく感じられたのだろうけど。
「ありがとう。貴重な体験だった」
「そこまで言うか?」
「だって、本当に美味しかったから」
甘い物は正義だ。それだけで幸せを感じられるから。
「ま、喜んでくれたなら来た甲斐があったってもんだ」
「ああ、嬉しかった」
「それなら今度は……っ!」
機嫌よく話していたルイだったけれど、急に言葉が途切れた。どうかしたかと思って見上げると顔を手で覆っている。
「どうした?」
「いや、何でもない。舌を噛んだだけだ」
「そうか」
珍しいこともある。見上げると痛いのか顔をしかめていたけれど直ぐに口の端を上げてこっちを見た。大丈夫、何だよな? それくらいよくあることだし。
「ほら、次の店に行くぞ」
「まだ食べるのか?」
「何だ、もう腹いっぱいか? だったら帰るか」
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