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突然の乱入者
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少し舌足らずな甘えたような話し方とこの声、聞き間違えようもない。魔の森を逃亡中に襲い掛かってきた魔術師の女だ。年は私と同じか一、二ほど上だろうか。こんなに綺麗で若い子だったとは思わなかった。
「何をしに来た」
ルイが放った質問は凍てついた氷塊のようで拒絶の言葉に聞こえた。あの時、ルイは言った。邪魔をするなら殺すと。二度と近付くなと。彼女もそれを了承してその話は終わったけれどあの時のルイは本気だった。それが覆されたら……
「何って、ルイを見つけて国に連れ戻すためよ。あ、大丈夫。そこの女も一緒よ。二人セットって言われているから」
「断る」
ルイの危惧は現実になっていた。結界を維持していた私がいなくなったせいで、あの国は困っているのだろう。だって、あの神殿は私一人に結界を押し付けていて、神官のほとんどは力がない形ばかりの神官だったのだから。特に名前は忘れたけど、あの公爵令嬢なんかはその典型だ。箔付けのために神官を名乗っているだけで、魔力が殆どなかったのだから。
「そう言わないでよ。こっちも命がけなんだから」
「俺には関係ない」
「そう言われてはいそうですかと受け入られられないのよ。失敗出来ないの!」
以前は余裕があったのに今はどこか切羽詰まったものが感じられた。失敗出来ないって、何に対して? 私たちを連れ戻すため?
「お前の都合を何で俺が気にしてやらなきゃいけないんだ?」
「何でって……私たち、仲間だったじゃない!」
「仲間? ただ二週間ほどパーティーを組んだだけだ。限りなく赤の他人だろうが」
「だけど! 一緒に旅したじゃない!」
「ただギルドの募集に応募しただけだ。パーティーになったのだってそう割り振りされただけだ」
「そんなっ!」
温度差が凄い。ルイにとってはその他大勢に過ぎないけれど、あの子にとってはそうじゃなかったのか。そう言えば伴侶と言っていたっけ。だったら共に行動している間にルイに一惚れしたってこと? って、あれって……
「ねぇ、ルイ」
「あんたは心配しなくていい」
「いや、そうじゃなくて……あの子の腕のアレ……」
「腕?」
私の指摘にルイが訝し気に彼女を見た。ローブで隠れているから見た目ではわからないけれど、腕から知った魔力と魔術式を感じる。金眼のルイなら見えるはず。
「なんだお前、そんなもん付けられるなんて抜けてるな」
「っ! し、仕方ないじゃない。物理攻撃を防ぐものだって言われたんだから! 金眼みたいに見えないんだから!」
そうだよねぇ、普通は気付かなくても仕方がない。私が気付いたのは身に覚えがある者だったからだ。そう、あのガイエ司教の魔力とそこから発せられる独特の気配をよく知っているから気付いただけで。
「あなたたちを連れて行かないと仲間が殺されるのよ! だからお願いよ!!」
「へぇ、あんたの仲間のために俺たちに死ねって?」
ルイの言い方はこれ以上ないほどに冷たく、突き放したものだった。彼女の秀麗な顔が歪んだ。
「殺したりしないわ! ただ結界を守って貰うためだって。そうしなきゃ国が大変なことになるって!」
「そう。結界のために死ぬまで拘束されて使い尽くされるんだろうよ。以前のこいつみたいに」
それはこれまでも私の十年余りの日々だ。それを命じたのはガイエ司教と、多分あの王子だろう。自分たちの失態が、神殿の腐敗が知られないように内々に私を捕らえて地下牢にでも監禁して、死ぬまで魔力を……だな。うん、それ以外の未来が見えない。
「断るに決まっているだろう? あんたは俺を奴隷にしたいのか? そんなクソみたいなこと、あんたは喜んでやるのかよ?」
「ルイは大丈夫よ! 私が司祭に頼み込んで置いたから。ただ、その女さえ戻ってき……」
その言葉の先は続かなかった。更なる客人が部屋を訪れたからだ。
「おやおや、先客でしたかな?」
のんびりした口調は壮年の男性のものだった。黒っぽい髪と神経質そうな顔立ち、服装は役人がよく着るような貴族服を簡略したものだった。その後ろには似たような服装の少し若い男性と……無数の騎士の姿があった。
「な、何なの、あんたたち……」
突然部隊に現れた新顔に彼女が狼狽えた。騎士はこちらに剣先を向けているのもその理由の一つだろう。魔術師らしい服装の者の姿もある。
「私はファロン王国の魔術師団の一人です。ロベルと呼んでください」
「はぁ? フェロンのって……」
「おや、あなたも魔術師のようですね。その言葉訛り、ランメルト国の方ですか?」
「っ!」
美女が言葉を詰まらせた。もし彼女がそうだとすると不法侵入ということになる。いや、それを言ったら私たちもなんだけど、私たちは家の不遇に耐え切れずに駆け落ちしてきた設定だからそこは寛大にみてもらえるだろう。この町を救った実績もあるし。だけど、そうでない彼女は……
「魔術師の不法侵入は両国の条約違反ですねぇ。詳しくお話を伺っても?」
「そ、それはこの二人も同じで……私はただ、国に帰るように説得を……」
「ああ、そうですか。わかりましたよ。それではじっくり話を聞かせて貰いましょうね」
美女が益々表情を崩した。騎士や魔術師は戦争の当事者でもある。それが国境を侵して侵入したとなればスパイと疑われても仕方がないし、何ならでっち上げて自国のいいように利用することも可能だから……これって非常にマズいんじゃないの? いやいやいや、その前に私たち、こいつらに見つからないよう逃げ出すところだったのに! 見つかった上にこれって、もしかして最悪の展開じゃ……
「何をしに来た」
ルイが放った質問は凍てついた氷塊のようで拒絶の言葉に聞こえた。あの時、ルイは言った。邪魔をするなら殺すと。二度と近付くなと。彼女もそれを了承してその話は終わったけれどあの時のルイは本気だった。それが覆されたら……
「何って、ルイを見つけて国に連れ戻すためよ。あ、大丈夫。そこの女も一緒よ。二人セットって言われているから」
「断る」
ルイの危惧は現実になっていた。結界を維持していた私がいなくなったせいで、あの国は困っているのだろう。だって、あの神殿は私一人に結界を押し付けていて、神官のほとんどは力がない形ばかりの神官だったのだから。特に名前は忘れたけど、あの公爵令嬢なんかはその典型だ。箔付けのために神官を名乗っているだけで、魔力が殆どなかったのだから。
「そう言わないでよ。こっちも命がけなんだから」
「俺には関係ない」
「そう言われてはいそうですかと受け入られられないのよ。失敗出来ないの!」
以前は余裕があったのに今はどこか切羽詰まったものが感じられた。失敗出来ないって、何に対して? 私たちを連れ戻すため?
「お前の都合を何で俺が気にしてやらなきゃいけないんだ?」
「何でって……私たち、仲間だったじゃない!」
「仲間? ただ二週間ほどパーティーを組んだだけだ。限りなく赤の他人だろうが」
「だけど! 一緒に旅したじゃない!」
「ただギルドの募集に応募しただけだ。パーティーになったのだってそう割り振りされただけだ」
「そんなっ!」
温度差が凄い。ルイにとってはその他大勢に過ぎないけれど、あの子にとってはそうじゃなかったのか。そう言えば伴侶と言っていたっけ。だったら共に行動している間にルイに一惚れしたってこと? って、あれって……
「ねぇ、ルイ」
「あんたは心配しなくていい」
「いや、そうじゃなくて……あの子の腕のアレ……」
「腕?」
私の指摘にルイが訝し気に彼女を見た。ローブで隠れているから見た目ではわからないけれど、腕から知った魔力と魔術式を感じる。金眼のルイなら見えるはず。
「なんだお前、そんなもん付けられるなんて抜けてるな」
「っ! し、仕方ないじゃない。物理攻撃を防ぐものだって言われたんだから! 金眼みたいに見えないんだから!」
そうだよねぇ、普通は気付かなくても仕方がない。私が気付いたのは身に覚えがある者だったからだ。そう、あのガイエ司教の魔力とそこから発せられる独特の気配をよく知っているから気付いただけで。
「あなたたちを連れて行かないと仲間が殺されるのよ! だからお願いよ!!」
「へぇ、あんたの仲間のために俺たちに死ねって?」
ルイの言い方はこれ以上ないほどに冷たく、突き放したものだった。彼女の秀麗な顔が歪んだ。
「殺したりしないわ! ただ結界を守って貰うためだって。そうしなきゃ国が大変なことになるって!」
「そう。結界のために死ぬまで拘束されて使い尽くされるんだろうよ。以前のこいつみたいに」
それはこれまでも私の十年余りの日々だ。それを命じたのはガイエ司教と、多分あの王子だろう。自分たちの失態が、神殿の腐敗が知られないように内々に私を捕らえて地下牢にでも監禁して、死ぬまで魔力を……だな。うん、それ以外の未来が見えない。
「断るに決まっているだろう? あんたは俺を奴隷にしたいのか? そんなクソみたいなこと、あんたは喜んでやるのかよ?」
「ルイは大丈夫よ! 私が司祭に頼み込んで置いたから。ただ、その女さえ戻ってき……」
その言葉の先は続かなかった。更なる客人が部屋を訪れたからだ。
「おやおや、先客でしたかな?」
のんびりした口調は壮年の男性のものだった。黒っぽい髪と神経質そうな顔立ち、服装は役人がよく着るような貴族服を簡略したものだった。その後ろには似たような服装の少し若い男性と……無数の騎士の姿があった。
「な、何なの、あんたたち……」
突然部隊に現れた新顔に彼女が狼狽えた。騎士はこちらに剣先を向けているのもその理由の一つだろう。魔術師らしい服装の者の姿もある。
「私はファロン王国の魔術師団の一人です。ロベルと呼んでください」
「はぁ? フェロンのって……」
「おや、あなたも魔術師のようですね。その言葉訛り、ランメルト国の方ですか?」
「っ!」
美女が言葉を詰まらせた。もし彼女がそうだとすると不法侵入ということになる。いや、それを言ったら私たちもなんだけど、私たちは家の不遇に耐え切れずに駆け落ちしてきた設定だからそこは寛大にみてもらえるだろう。この町を救った実績もあるし。だけど、そうでない彼女は……
「魔術師の不法侵入は両国の条約違反ですねぇ。詳しくお話を伺っても?」
「そ、それはこの二人も同じで……私はただ、国に帰るように説得を……」
「ああ、そうですか。わかりましたよ。それではじっくり話を聞かせて貰いましょうね」
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