番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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番う上で気になる大事な事

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 私がジーク様に番になると言った後、私の周りは俄かに騒がしくなりました。思えば…既に番だのですから番になるとの言い方もどうだったのかしら…と後になって思いましたが、そこはジーク様も察して下さったようです。

 そして今、私はずらりと侍女さんに囲まれていました。この方々は…結婚式の前に私のマッサージなどをして下さった方ですが…これって…

「あの…」
「さぁ、エリサ様。しっかり、ばっちり、お手入れしましょうね」

 以前に比べて三割増しの笑顔で私にそう宣言したのは、リーダー格のナタリーさんでした。ぱっちりまつ毛の奥には、薄緑の瞳が輝いていました。美容に詳しい彼女はウエーブのかかった黒髪もお肌も艶々で、迫力ある美人のお姉様という感じです。彼女の号令と共に私は、あっという間に身ぐるみ剥がされて浴室に連れ込まれていました。

「さすがはナタリーさん、仕事が早いですね」

 一通りの行程を終えた私がソファでぐったりしていると、ラウラが冷たいお茶を持って来てくれました。浴槽で散々磨き倒された上にマッサージのフルコースの後は、冷たいお茶が染み入る様でした。

「一体何だったの…」
「そりゃあ、陛下との初夜に向けての前準備ですよ」
「初夜…」

 やっぱりこうなりますよね…わかってはいましたが、言葉にされると恥ずかしく、複雑な気分です。

「でも…意外でした」
「何が?」
「エリサ様が、初夜って言われても騒がないのが」
「同感。私もそう思ったよ」

 ラウラの指摘に同意したのはベルタさんでした。ちなみにベルタさん達にもこの話はしっかり伝わっていて、皆さんの笑顔が生温かく見えるのは意識し過ぎているからでしょうか…

「だって、ピアスしたら、こうなるのでしょう…」

 正直に言えば早まったと言う感じがありますが、そもそもこういう事は勢いが大事なんですよ!と力説したのはラウラですよ?なのに、そんな事を言うなんて…
 でも今は、それよりも気になる事があります。

「ベルタさん、お聞きしたい事があるんですが…」
「何?」
「その…竜人と番ったら…どうなるんですか?」
「へ?どうって?」

 私の質問にベルタさんが、今度は何?と言いたげな表情を向けました。何気に警戒されている気がしますが…うう、それってどういう意味でしょうか…でも、これは私もどうしても知っておきたい事だったので譲れないのです。

「竜人と番ったら、身体が変わって、寿命も延びるんですよね?」
「え?あ~うん、そうだよ」
「それって、どれくらいかかるんです?それに、痛みとかあるんですか?もしかして熱が出たりするんでしょうか?」
「あ、それ、私も気になっていました!」

 ラウラも同じように声を上げましたが、そうなのです、私が気になったのは番った後の身体の変化についてでした。寿命が延びるのも不思議ですが、それに合わせて身体が変わるんですよね。それって具体的にどうなるのでしょうか。

「熱って…そんな事はない筈だけど…」
「でも、この前宰相様の番さんが、番った後は半年ほど起き上がれなかったって言っていましたよ」

 ラウラがすかさず質問しています。彼女も近いうちにレイフ様と結婚するので他人事ではないのでしょう。何だか私よりも食い気味に質問していますが、その話は私も聞きました。

「それに、宰相様の番さんは兎人ですよね?兎人の寿命は竜人の半分だから、人族の私達はその倍はかかるんでしょうか?」
「やっぱりラウラもそう思う?竜人の寿命は人族の四倍ですものね」
「ええ。狼人も竜人と同じくらいだって聞いてますし、だったら私達も同じくらいかかるのかなって?」
「えっと…」

 ラウラと二人で質問攻めにしてしまったせいか、ベルタさんもユリア先生も返事に困っているようにも見えました。でも、これってかなり重要だと思うんですよね。事前に出来る事があるならしておきたいですし、逆にやってはいけない事は避けたいですから。いずれはラウラも通る道なので、この際はっきりしておきたいのです。

「身体の変化については‥ごめん、私も経験がないから何とも…」
「そうね。私も同じだわ」

 そうですか、やはり番った経験がある人に聞かないとわからないのですね。う~ん…

「それじゃ、どなたか上位種の番になった人族の方をご存じないですか?もしくはお医者様とか。詳しい方からお話が聞けるならそれでもいいんですけれど」
「ですよね。私も不安なので、是非聞きたいです」

 それから暫くして、王宮に務める女性のお医者様がいらっしゃって、番った後の事の身体の変化について教えてくれました。
 個人差があるとの前置きでしたが、確かに番った直後は体が怠かったり眠かったりするそうです。これは身体を作り変えるための防衛本能だそうで、その期間はあまり無理をせずに過ごした方がいいと言われました。ここで無理をすると後で影響が出るのだとか。
 また、かなり稀ではありますが、病弱な方などは変化に耐えられずに亡くなってしまう事もあるそうです。私やラウラは大丈夫だろうとの事でしたが、種族の差が大きければ大きい程危険度も増すそうなので、番う前から体調管理は万全に、辛い時は無理をしないで休養するように、とそこは重ねて言われました。

「心配していた程の事はなさそうですね、エリサ様」
「ええ、よかったわ。でも、必ずしも大丈夫とは言えないみたいだし、気を付けないと。ラウラも結婚する半月くらい前からは侍女の仕事も控えてね」
「ええ~それくらい平気ですよ」
「でも、ラウラに何かあったら大変だわ。レイフ様に恨まれちゃうじゃない」

 これは冗談ではなく、本当に心配なのです。ラウラがレイフ様の番になった事で、これからもずっと同じ時間を過ごせますが、何かあったら…と考えると不安が込み上げてきます。

「それにしても…エリサ様の番う不安って、そっちだったんだ」
「そうね、私も意外だったわ。てっきり…」

 ユリア先生が言い難そうにしていると言う事は、閨の事を指しているのでしょうね。それは確かに不安ではありますが…

「あの、ね、閨の事は…考えても仕方ないから、気にしない事にしたんです」
「そ、そう…」
「だって、具体的に何をするのか、誰に聞いてもはっきり答えて下さらないし…それに、アルマ様やセルマ様も、そこはジーク様に任せておけば大丈夫だと仰るばかりで…」
「そ、そっか…」
「聞いても答え辛そうにされますし、中途半端に知っている方が不安になりそうで。だからもう、ぶっつけ本番でいいかなと…」

 そう、そちらの方はもう未知の世界で、考えても具体的な事がさっぱりわからないので考えようもないのです。聞いても皆さん、気まずそうに視線を逸らすので、聞くのも悪い気がしますし…

「意外ですよね~エリサ様がそっちは気にしないなんて」
「うん…それは確かに」
「同感ね」

 うう、皆さん、そんな風に見ていたんですね。いえ、そこは否定も反論も出来ませんが…でも、その事でじたばたするのも、それはそれで恥ずかしいですし…

「それでエリサ様、初夜は今夜ですの?」
「それが…」

 ユリア先生にそう尋ねられましたが…実は私もよくわからないのです。侍女さん達がやってきて準備が始まりましたが、具体的な事は何も聞いていません。ジーク様もあの後出て行ったっきりで、話も出来ていませんし…

「まぁ、数日は番の側を離れないのが慣例だし、スケジュールの調整も必要だからね」
「確かに。式が終わったせいで政務が溜まっている時期ですしね」
「やはり、そうですよね…タイミングが悪かったみたいですね」

 やっぱり…私ももう少し考えてから動くべきでした。もしかすると側近の皆さんにもご負担をかけてしまったでしょうか…

「そんな事はないと思うよ。まぁ、陛下は真面目なお方だから、準備してるじゃないかな」
「そうね、以前番探しに出ていた時も、しっかり根回ししていらしたわね」
「どっちにしても、竜人が番を後回しにする事はないから大丈夫だって。そのうち連絡が来る筈だよ」

 ベルタさんにそう言われて、少しだけ気持ちが落ち着くのを感じました。きっとそのうち、ジーク様か侍女さん達から連絡があるでしょうね。こうなったらなる様にしかなりませんから、流れに身を任せるだけです。
 
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