番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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【書籍化記念】番外編

マルダーンから来た王女~ベルタ

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「マルダーンから来た王女殿下の侍女をお願いします」

 そう言って、我が国の宰相閣下はにっこりと笑みを浮かべた。

 私はベルタ。誇り高き狼人で、騎士団に所属している。我が家は兄妹共に騎士となり、兄二人は相応の地位にあるし、私だって兄ほどではないが部隊を率いる身だ。なのに護衛ではなく侍女だと、宰相のトールヴァルト様がにこやかな笑顔で言った。にこやかな笑顔だが、中身が曲者なのは兄の話から感じていた。この話には裏があるのではないか、と警戒心が湧いた。

「私が侍女、ですか?」

 我らが王、ジークヴァルト陛下が敵国マルダーンから王女を妃として迎えたのはつい最近のこと。長年私たちの同胞を奴隷扱いしていた仇敵と同盟を結んだことも驚きだったが、それ以上に妃を迎えたと聞いた時には耳を疑った。
 なんせ陛下は竜人なのだ。番しか愛せない、番以外には目もむけない竜人が政略結婚しようというのだ。この知らせに我が国の多くの獣人が耳を疑ったのは間違いなかった。なのに……

「ああ、ベルタが言いたい事は分かります。陛下は竜人。妃と言っても形だけのものです。それにあなたは非常に優秀な騎士だ。立場的にも侍女を務めるような方ではありませんからね」
「はぁ」

 私が騎士として認められているのは分かったけれど、だったらどうして侍女なのだ。

「ですが、相手はマルダーンの王女。スパイの可能性もゼロではありません」
「それは、私に監視をしろと、そういうことですか?」
「私の印象ではそのようなことが出来る方ではなさそうです。ですが、何事も想定外ということはありますからね」

 そう言って再び笑みを深めた。何だろう、整った優しそうなそれは確かに目の保養になるレベルなのに、どこか薄ら寒く感じるのは……

「そう、ですか」
「侍女と言っても、王女殿下は連れて来た侍女がいて、身の回りのことはその娘がやっています。ベルタは話し相手として日中側に控えて下さればと思います」
「話し相手、ですか?」

 それでは侍女とは言わないのではないだろうか。それに身の回りの世話をするのが一人というのも解せない。王女ともなれば何人もの侍女が付くだろう。特に人族ではそういう傾向が強いと聞く。

「そう言えば、ダニエラとシーラはどうなさったのです? あの二人が侍女に選ばれたと聞きましたが?」

 そう、王女付きの侍女にはあの二人が選ばれたと聞いた。人族にいい印象を持っていなかった二人だから不安がなかったとは言えない。だが、彼女たちも王宮では評判がよかったし、大抵のことは卒なくこなしていた。

「あの二人は、王宮から追放しました」
「追放?」
「ええ。王女への不適切な対応が原因です」
「不適切って……」
「王女殿下に異臭のする食事を提供したり、ティーポットを投げつけたりしたのです」
「はぁ?」

 不適切どころの話ではないだろう。一歩間違えば同盟が破棄されても仕方がない悪行だ。いくらマルダーンや人族にいい印象がないとはいえ、やっていい事と悪いことがある。

「人族に恨みを持つ者、竜人である陛下を案じる者、様々です。ですが王宮でそれを表に出すような者は置いておけませんからね」

 にこりと笑みを浮かべたが、却って背筋がひやりとした。あの二人がどうなったのか心配だ。いや、さすがに命まで取る事はしないだろうけど……

「そういう訳で、今度は失敗が許されないのですよ」

 なるほど、確かに二度目はないだろう。国同士の同盟の証としての婚姻なのだから。だったらこの辞令は王女の監視だけでなく、我が国側の監視も兼ねているのだろう。だから騎士でもあり、それなりの地位にある私なのだ。

「畏まりました。ご命令、謹んでお受けいたします」

 こうして私は、マルダーン王女の侍女となった。
 マルダーンの王女は控えめで慎ましく、王女らしからぬ気さくな人物だという。あのマルダーンにそんな好人物がいるのかと思ったが、私の予想はかなり外れた。



- - - - - 
書籍化のお礼を兼ねたSSを投稿しました。
こちらは以前考えていた番外編のベルタ視点での話になります。
あの時は時系列的に合わず没になったものを元に書いたものです。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
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