番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

文字の大きさ
77 / 85
【書籍化記念】番外編

マルダーン王女の立場~ベルタ

しおりを挟む
 こうしてエリサ様にお仕えする毎日が始まり、私の生活も大きく変わった。

 私は第一騎士団の中隊長を務めていたが、エリサ様の侍女になったことでその地位は副隊長に譲り、私は騎士団長付きの武官になった。エリサ様の側に控えるのが仕事で、実務が殆ど出来ないから仕方がない。それでも急な異動に引継ぎが間に合わず、午前は騎士団で引継ぎを行い、午後からエリサ様のいる離宮に向かうことになった。
 幸いにも午前中はユリアがエリサ様相手に授業をしているので、私の出番がないのが幸いだった。聞けばラウラも一緒に授業を受けているという。二人とも十分な教育を受けていなかったらしいが、それでも中々に飲み込みが早いらしい。

 エリサ様は傅かれることに慣れていらっしゃらないようで、私やユリア、他の使える者にも気さくに話しかけ、敬語はやめて欲しいと仰った。だが、さすがにそれを受け入れることは出来ない。我が国の品位を疑われかねないからだ。
 既にダニエラたちの失敗があるだけに、そんなことをしたら私たちがトール様から叱られてしまうだろう。叱られるだけならいい、一歩間違えれば笑顔で前線に送られそうな気がする。それにしても……

(まさか……ここまで控えめな方だとは思わなかった)

 自ら白い結婚を提案して離宮に移り住んだエリサ様は、我が国が用意したシンプルなワンピースを喜び、宝石どころかアクセサリー一つ身に付けなかった。控えめというには度が過ぎていた。これでは私たちの方がずっといい暮らしをしているのではないだろうか。
 ラウラという侍女とは姉妹のように仲が良く、エリサ様が誰よりも気を許しているのは直ぐに分かった。

「ベルタさん、ユリア先生も。お菓子を作ったので食べてみてください」

 ここでの生活が十日ほど過ぎて慣れてくると、エリサ様とラウラはお菓子を作って私たちを迎えてくれるようになった。王女自らお菓子を作って侍女に振舞うなんて、誰が想像するだろう。最初にそう言われた時は、私もユリアも互いに顔を見合わせて互いの顔に困惑を浮かべるしかなかった。
 どう考えても立場が逆だろうに……と思うのだが、エリサ様はお菓子作りが趣味だとかでとても楽しそうだった。屈託のない笑顔で勧められれば断るなど出来る筈もない。しかも我が国にない甘さ控えめのお菓子は、飽きることがないのだから困った。



「全く、エリサ様には驚かされることばかりね」
「ああ」

 ある日、王宮で顔を合わせた私たちは、王宮内にある休憩所を兼ねたカフェを訪れた。ここは職務に関する相談も出来るよう、個室があるので使い勝手がいいと評判だ。もっとも、王宮の中だから当然とも言えるけど。
 仲良くなれる自信がなかったユリアだったが、話してみると博識なこともあってか面白く、少しずつ堅苦しさが抜けていった。彼女なりに王宮での仕事に緊張していたのだと聞いたのは随分後になってからだが、人族が少ない王宮で肩身が狭かったのもあるだろう。竜人のオーラに耐えられる上位種族が多い王宮では、人族の立場はかなり弱かったからだ。
 それでもユリアがエリサ様の侍女に選ばれたのは、人族だったからだと聞いた。エリサ様が安心するだろうし、我が国の人族の立場を理解してもらう意味もあったのだとか。

「まさか三年経ったら離婚する予定だったとは……」
「ええ。陛下に番が見つかっても直ぐに、だそうよ」
「よくマルダーンはそんな条件を飲んだなぁ」
「それだけあちらの方が切羽詰まっているのでしょう。国力は圧倒的にこちらが上ですもの」

 長年我が国と諍いが絶えなかったマルダーンだが、最近は国力が急速に落ちてきているらしい。それは我が国に彼の国の民が流れ込んでいることからも明らかだった。税が重く、生活がままならなくなっているのだという。

「それにエリサ様は、国では虐待されていたというし。だったら逃げ出す口実になるものね」

 どこか浮世離れしたエリサ様と、おっとりした印象が強いラウラだったが、意外にも強かな一面を持ち合わせていた。その目標が平民というのが目標が低すぎるような、いかにもあの二人らしいような、複雑な感じだ。まぁ、我が国は貴族もいないし煩い身分制度はない。種族による上下はあるけれど、平民の生活レベルは我が国の方がずっと高いだろう。

「愛妾の子で虐待に近い扱いだったとケヴィン様も言っていたから、知らない国で平民として暮らした方が気は楽かもしれないわね」
「確かに」

 エリサ様とラウラを見ていると、確かにそうなのだろうと思う。あの痩せすぎた姿も、質素な生活を好む点も、私たちに対しての態度も、全てが不遇だったからだと言われれば納得だ。そんな事情を知ると、せめてここにいる間は心を込めてお仕えしようという思いが湧き上がった。





しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。