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【書籍化記念】番外編
マルダーン王女の立場~ベルタ
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こうしてエリサ様にお仕えする毎日が始まり、私の生活も大きく変わった。
私は第一騎士団の中隊長を務めていたが、エリサ様の侍女になったことでその地位は副隊長に譲り、私は騎士団長付きの武官になった。エリサ様の側に控えるのが仕事で、実務が殆ど出来ないから仕方がない。それでも急な異動に引継ぎが間に合わず、午前は騎士団で引継ぎを行い、午後からエリサ様のいる離宮に向かうことになった。
幸いにも午前中はユリアがエリサ様相手に授業をしているので、私の出番がないのが幸いだった。聞けばラウラも一緒に授業を受けているという。二人とも十分な教育を受けていなかったらしいが、それでも中々に飲み込みが早いらしい。
エリサ様は傅かれることに慣れていらっしゃらないようで、私やユリア、他の使える者にも気さくに話しかけ、敬語はやめて欲しいと仰った。だが、さすがにそれを受け入れることは出来ない。我が国の品位を疑われかねないからだ。
既にダニエラたちの失敗があるだけに、そんなことをしたら私たちがトール様から叱られてしまうだろう。叱られるだけならいい、一歩間違えれば笑顔で前線に送られそうな気がする。それにしても……
(まさか……ここまで控えめな方だとは思わなかった)
自ら白い結婚を提案して離宮に移り住んだエリサ様は、我が国が用意したシンプルなワンピースを喜び、宝石どころかアクセサリー一つ身に付けなかった。控えめというには度が過ぎていた。これでは私たちの方がずっといい暮らしをしているのではないだろうか。
ラウラという侍女とは姉妹のように仲が良く、エリサ様が誰よりも気を許しているのは直ぐに分かった。
「ベルタさん、ユリア先生も。お菓子を作ったので食べてみてください」
ここでの生活が十日ほど過ぎて慣れてくると、エリサ様とラウラはお菓子を作って私たちを迎えてくれるようになった。王女自らお菓子を作って侍女に振舞うなんて、誰が想像するだろう。最初にそう言われた時は、私もユリアも互いに顔を見合わせて互いの顔に困惑を浮かべるしかなかった。
どう考えても立場が逆だろうに……と思うのだが、エリサ様はお菓子作りが趣味だとかでとても楽しそうだった。屈託のない笑顔で勧められれば断るなど出来る筈もない。しかも我が国にない甘さ控えめのお菓子は、飽きることがないのだから困った。
「全く、エリサ様には驚かされることばかりね」
「ああ」
ある日、王宮で顔を合わせた私たちは、王宮内にある休憩所を兼ねたカフェを訪れた。ここは職務に関する相談も出来るよう、個室があるので使い勝手がいいと評判だ。もっとも、王宮の中だから当然とも言えるけど。
仲良くなれる自信がなかったユリアだったが、話してみると博識なこともあってか面白く、少しずつ堅苦しさが抜けていった。彼女なりに王宮での仕事に緊張していたのだと聞いたのは随分後になってからだが、人族が少ない王宮で肩身が狭かったのもあるだろう。竜人のオーラに耐えられる上位種族が多い王宮では、人族の立場はかなり弱かったからだ。
それでもユリアがエリサ様の侍女に選ばれたのは、人族だったからだと聞いた。エリサ様が安心するだろうし、我が国の人族の立場を理解してもらう意味もあったのだとか。
「まさか三年経ったら離婚する予定だったとは……」
「ええ。陛下に番が見つかっても直ぐに、だそうよ」
「よくマルダーンはそんな条件を飲んだなぁ」
「それだけあちらの方が切羽詰まっているのでしょう。国力は圧倒的にこちらが上ですもの」
長年我が国と諍いが絶えなかったマルダーンだが、最近は国力が急速に落ちてきているらしい。それは我が国に彼の国の民が流れ込んでいることからも明らかだった。税が重く、生活がままならなくなっているのだという。
「それにエリサ様は、国では虐待されていたというし。だったら逃げ出す口実になるものね」
どこか浮世離れしたエリサ様と、おっとりした印象が強いラウラだったが、意外にも強かな一面を持ち合わせていた。その目標が平民というのが目標が低すぎるような、いかにもあの二人らしいような、複雑な感じだ。まぁ、我が国は貴族もいないし煩い身分制度はない。種族による上下はあるけれど、平民の生活レベルは我が国の方がずっと高いだろう。
「愛妾の子で虐待に近い扱いだったとケヴィン様も言っていたから、知らない国で平民として暮らした方が気は楽かもしれないわね」
「確かに」
エリサ様とラウラを見ていると、確かにそうなのだろうと思う。あの痩せすぎた姿も、質素な生活を好む点も、私たちに対しての態度も、全てが不遇だったからだと言われれば納得だ。そんな事情を知ると、せめてここにいる間は心を込めてお仕えしようという思いが湧き上がった。
私は第一騎士団の中隊長を務めていたが、エリサ様の侍女になったことでその地位は副隊長に譲り、私は騎士団長付きの武官になった。エリサ様の側に控えるのが仕事で、実務が殆ど出来ないから仕方がない。それでも急な異動に引継ぎが間に合わず、午前は騎士団で引継ぎを行い、午後からエリサ様のいる離宮に向かうことになった。
幸いにも午前中はユリアがエリサ様相手に授業をしているので、私の出番がないのが幸いだった。聞けばラウラも一緒に授業を受けているという。二人とも十分な教育を受けていなかったらしいが、それでも中々に飲み込みが早いらしい。
エリサ様は傅かれることに慣れていらっしゃらないようで、私やユリア、他の使える者にも気さくに話しかけ、敬語はやめて欲しいと仰った。だが、さすがにそれを受け入れることは出来ない。我が国の品位を疑われかねないからだ。
既にダニエラたちの失敗があるだけに、そんなことをしたら私たちがトール様から叱られてしまうだろう。叱られるだけならいい、一歩間違えれば笑顔で前線に送られそうな気がする。それにしても……
(まさか……ここまで控えめな方だとは思わなかった)
自ら白い結婚を提案して離宮に移り住んだエリサ様は、我が国が用意したシンプルなワンピースを喜び、宝石どころかアクセサリー一つ身に付けなかった。控えめというには度が過ぎていた。これでは私たちの方がずっといい暮らしをしているのではないだろうか。
ラウラという侍女とは姉妹のように仲が良く、エリサ様が誰よりも気を許しているのは直ぐに分かった。
「ベルタさん、ユリア先生も。お菓子を作ったので食べてみてください」
ここでの生活が十日ほど過ぎて慣れてくると、エリサ様とラウラはお菓子を作って私たちを迎えてくれるようになった。王女自らお菓子を作って侍女に振舞うなんて、誰が想像するだろう。最初にそう言われた時は、私もユリアも互いに顔を見合わせて互いの顔に困惑を浮かべるしかなかった。
どう考えても立場が逆だろうに……と思うのだが、エリサ様はお菓子作りが趣味だとかでとても楽しそうだった。屈託のない笑顔で勧められれば断るなど出来る筈もない。しかも我が国にない甘さ控えめのお菓子は、飽きることがないのだから困った。
「全く、エリサ様には驚かされることばかりね」
「ああ」
ある日、王宮で顔を合わせた私たちは、王宮内にある休憩所を兼ねたカフェを訪れた。ここは職務に関する相談も出来るよう、個室があるので使い勝手がいいと評判だ。もっとも、王宮の中だから当然とも言えるけど。
仲良くなれる自信がなかったユリアだったが、話してみると博識なこともあってか面白く、少しずつ堅苦しさが抜けていった。彼女なりに王宮での仕事に緊張していたのだと聞いたのは随分後になってからだが、人族が少ない王宮で肩身が狭かったのもあるだろう。竜人のオーラに耐えられる上位種族が多い王宮では、人族の立場はかなり弱かったからだ。
それでもユリアがエリサ様の侍女に選ばれたのは、人族だったからだと聞いた。エリサ様が安心するだろうし、我が国の人族の立場を理解してもらう意味もあったのだとか。
「まさか三年経ったら離婚する予定だったとは……」
「ええ。陛下に番が見つかっても直ぐに、だそうよ」
「よくマルダーンはそんな条件を飲んだなぁ」
「それだけあちらの方が切羽詰まっているのでしょう。国力は圧倒的にこちらが上ですもの」
長年我が国と諍いが絶えなかったマルダーンだが、最近は国力が急速に落ちてきているらしい。それは我が国に彼の国の民が流れ込んでいることからも明らかだった。税が重く、生活がままならなくなっているのだという。
「それにエリサ様は、国では虐待されていたというし。だったら逃げ出す口実になるものね」
どこか浮世離れしたエリサ様と、おっとりした印象が強いラウラだったが、意外にも強かな一面を持ち合わせていた。その目標が平民というのが目標が低すぎるような、いかにもあの二人らしいような、複雑な感じだ。まぁ、我が国は貴族もいないし煩い身分制度はない。種族による上下はあるけれど、平民の生活レベルは我が国の方がずっと高いだろう。
「愛妾の子で虐待に近い扱いだったとケヴィン様も言っていたから、知らない国で平民として暮らした方が気は楽かもしれないわね」
「確かに」
エリサ様とラウラを見ていると、確かにそうなのだろうと思う。あの痩せすぎた姿も、質素な生活を好む点も、私たちに対しての態度も、全てが不遇だったからだと言われれば納得だ。そんな事情を知ると、せめてここにいる間は心を込めてお仕えしようという思いが湧き上がった。
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