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【書籍化記念】番外編
マルダーンとの深い確執~ベルタ
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「あら、ベルタ! こんなところで珍しいわね」
カフェを出たところで声をかけてきたのは、同じ騎士で豹人のエッダだった。夕焼けを溶かし込んだような赤毛と、意志の強そうな深緑の瞳を持つ彼女は、昔から何かと絡んでくる面倒な相手だった。せっかくのすっきりした気分を害された気分になった。
「エッダか、久しぶりだな」
「そうね。騎士団で顔を合わせることも減ったものね。あなた、あの人族の王女の侍女になったんですって? 大変そうねぇ」
心配している風に聞こえるが、顔のにやつきは隠しきれていなかった。私が騎士から侍女になったのだ。世間的には降格に見られるから面白くて仕方がないのだろう。
「せっかく中隊長になったのに、王女の護衛じゃなく侍女だなんて。陛下も随分な仕打ちをなさるわね」
「なんだと?」
「だってそうじゃない。侍女だなんて、ただ側にいて身の回りの世話をするのでしょう? 騎士がやる仕事じゃないもの」
エッダが侍女を下に見ているのがありありと伝わってきた。確かに侍女を騎士よりも下に見る者は少なくない。上位の騎士には侍女が付くという事情もあるだろう。
だが、王族に仕える侍女の多くは上位種族で、身元もしっかりしている者が殆どだ。それに教養やマナーだけでなく、美容やファッション、宝飾品に詳しい者、他国の事情に通じている者、いざという時に盾になれる体術を心得ている者、社交や事情に通じている者など、何かしらの能力も要求される。その上で仕える者に対しての忠誠心が厳しくみられるのだ。そういう面では騎士と大した変わりはなかった。
「しかも相手はマルダーンの王女。番でもないのに図々しく陛下の妃になろうなんて、浅ましいったらないわ」
「浅ましい?」
「だってそうでしょう? 陛下の妃になれるのは番様お一人。なのに薄汚いマルダーンの王女がその地位に就くなんて、陛下と我が国への侮辱だわ」
我が国のマルダーンへの心証は、正直に言えば悪いどころか底辺だ。長年敵対関係が続いている上、彼の国が私たちの同胞を攫って奴隷にしているのは有名だ。そのマルダーンの王女であるエリサ様への風当たりは相当で、中には番ではないのなら幽閉しておくのが妥当だと言うものすらいる。エリサ様が離宮で過ごすことを許されたのは、そのような悪意を持つ者から守る意味もあった。王宮も人の出入りが激しいから安全とは言い難かった。
「ベルタも巻き込まれてお気の毒よね。順調だった出世をマルダーンの王女に邪魔されるなんて。みんなベルタには同情しているのよ?」
あざとい笑みに怒りが湧いたが、一方でこれがエリサ様の置かれている現実なのだと改めて感じさせられた。全く、単身この国にいらっしゃったその勇気が素晴らしい。いや、ご本人はここまで悪意を持たれているとご存じないのかもしれないが。
「別に同情される謂れはないさ。この人事は陛下とトールヴァルト様直々にお命じになられたもの。名誉と思いこそすれ、嘆くことなどなにもないが?」
「やだ、負け惜しみなんか言わなくてもいいのよ?」
「負け惜しみではないさ。むしろ両国の同盟に瑕疵を与える人物ではないとお認め頂いたんだ。大変光栄なことだと思っているよ」
そう笑顔で答えると、エッダがあからさまに顔を歪めた。
「ふん、マルダーンとの同盟なんて無用だわ。我が国の方が国力は上なんだから」
「そうは言うが、同盟も婚姻も陛下がお決めになったもの。それに異を唱える者はダニエラの二の舞になるだけだ。思慮の足りない者には任せられないと、陛下もトールヴァルト様もお考えになった結果だと私は思っているよ」
「な!」
暗に陛下に楯突くのかと問えば、エッダは顔を赤くしてプルプル震えていた。自分の発言が陛下の意に沿っていないと自覚したのか、言い負かされて腹を立てているのかは知らない。だが、さすがにそれ以上何も言えず、悔しそうな表情を浮かべながら走り去っていった。
カフェを出たところで声をかけてきたのは、同じ騎士で豹人のエッダだった。夕焼けを溶かし込んだような赤毛と、意志の強そうな深緑の瞳を持つ彼女は、昔から何かと絡んでくる面倒な相手だった。せっかくのすっきりした気分を害された気分になった。
「エッダか、久しぶりだな」
「そうね。騎士団で顔を合わせることも減ったものね。あなた、あの人族の王女の侍女になったんですって? 大変そうねぇ」
心配している風に聞こえるが、顔のにやつきは隠しきれていなかった。私が騎士から侍女になったのだ。世間的には降格に見られるから面白くて仕方がないのだろう。
「せっかく中隊長になったのに、王女の護衛じゃなく侍女だなんて。陛下も随分な仕打ちをなさるわね」
「なんだと?」
「だってそうじゃない。侍女だなんて、ただ側にいて身の回りの世話をするのでしょう? 騎士がやる仕事じゃないもの」
エッダが侍女を下に見ているのがありありと伝わってきた。確かに侍女を騎士よりも下に見る者は少なくない。上位の騎士には侍女が付くという事情もあるだろう。
だが、王族に仕える侍女の多くは上位種族で、身元もしっかりしている者が殆どだ。それに教養やマナーだけでなく、美容やファッション、宝飾品に詳しい者、他国の事情に通じている者、いざという時に盾になれる体術を心得ている者、社交や事情に通じている者など、何かしらの能力も要求される。その上で仕える者に対しての忠誠心が厳しくみられるのだ。そういう面では騎士と大した変わりはなかった。
「しかも相手はマルダーンの王女。番でもないのに図々しく陛下の妃になろうなんて、浅ましいったらないわ」
「浅ましい?」
「だってそうでしょう? 陛下の妃になれるのは番様お一人。なのに薄汚いマルダーンの王女がその地位に就くなんて、陛下と我が国への侮辱だわ」
我が国のマルダーンへの心証は、正直に言えば悪いどころか底辺だ。長年敵対関係が続いている上、彼の国が私たちの同胞を攫って奴隷にしているのは有名だ。そのマルダーンの王女であるエリサ様への風当たりは相当で、中には番ではないのなら幽閉しておくのが妥当だと言うものすらいる。エリサ様が離宮で過ごすことを許されたのは、そのような悪意を持つ者から守る意味もあった。王宮も人の出入りが激しいから安全とは言い難かった。
「ベルタも巻き込まれてお気の毒よね。順調だった出世をマルダーンの王女に邪魔されるなんて。みんなベルタには同情しているのよ?」
あざとい笑みに怒りが湧いたが、一方でこれがエリサ様の置かれている現実なのだと改めて感じさせられた。全く、単身この国にいらっしゃったその勇気が素晴らしい。いや、ご本人はここまで悪意を持たれているとご存じないのかもしれないが。
「別に同情される謂れはないさ。この人事は陛下とトールヴァルト様直々にお命じになられたもの。名誉と思いこそすれ、嘆くことなどなにもないが?」
「やだ、負け惜しみなんか言わなくてもいいのよ?」
「負け惜しみではないさ。むしろ両国の同盟に瑕疵を与える人物ではないとお認め頂いたんだ。大変光栄なことだと思っているよ」
そう笑顔で答えると、エッダがあからさまに顔を歪めた。
「ふん、マルダーンとの同盟なんて無用だわ。我が国の方が国力は上なんだから」
「そうは言うが、同盟も婚姻も陛下がお決めになったもの。それに異を唱える者はダニエラの二の舞になるだけだ。思慮の足りない者には任せられないと、陛下もトールヴァルト様もお考えになった結果だと私は思っているよ」
「な!」
暗に陛下に楯突くのかと問えば、エッダは顔を赤くしてプルプル震えていた。自分の発言が陛下の意に沿っていないと自覚したのか、言い負かされて腹を立てているのかは知らない。だが、さすがにそれ以上何も言えず、悔しそうな表情を浮かべながら走り去っていった。
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