番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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【書籍化記念】番外編

不穏な空気と心配性の兄~ベルタ

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 エッダのことはユリアにも話をして、気を付けるように伝えた。エリサ様に何かをすることはないだろうが、彼女は人族を見下しているからユリアに何かする可能性がないとも言えない。

「そう、ありがとう。気を付けるわ」

 そう言ったユリアだったが、兄さんに聞いたところ時々王宮で上位種に絡まれているのだという。人族は底辺と思われている上、王宮に人族が少ないのもあるだろう。
 ケヴィン様はその優秀さで一目置かれているが、それでも妬む者は少なくない。その縁者となれば一言言いたくなるのだろう。それは獣人の中にある弱肉強食の本能によるので、中々払拭するのは難しかった。

「何かあったら相談してくれ。力になるから」
「ありがとう。そう言って貰えると心強いわ」

 いつも冷静で表情を崩さないユリアが、珍しく弱々しい笑みを浮かべた。やはり相当なプレッシャーがかかっていたのだろう。こうなると他の侍女や護衛にも気を付けた方がよさそうだし、彼らへの教育も必要かもしれない。残念ながら上位種になればなるほど、番ではないのに妻となったエリサ様への心象は悪いのだ。



 それから私は、エリサ様だけでなくユリアのことも気にするようになった。この状況でユリアに何かあればそれはエリサ様の知るところとなる。もし人族への差別やエリサ様への反発でユリアが害されれば、エリサ様の我が国への心証は悪化する。既に一度、いや、トール様から聞いた陛下とエリサ様の初体面のことを入れたら、我が国は既に二度もやらかしているのだ。これ以上カウントを増やすわけにはいかなかった。

「よぉ、ベルタ!」
「レイフ兄さん」

 王宮からエリサ様の離宮に向かう途中、兄さんに会った。兄さんは一応陛下の護衛だけどそれが形だけのものなのは明らかだった。誰よりも強く、毒などへの耐性もある陛下を害するのは簡単ではないし、陛下の剣技を見れば誰も手を出そうなどとは思わないだろう。私も勝てる気が全くしない。兄妹の中で最も強く、狼人の中では最強とも言われるルーベルト兄さんですら敵わないのだ。勝てるのなら同じ竜人のトール様かブロム卿だろうか。

「これから王女さんのところか?」
「ああ。兄さんは?」
「あ~俺? 今から騎士団にいくとこ」
「騎士団って……陛下の護衛は?」
「ジークなら番探しに行ってていないんだよ。だから王宮じゃすることがなくて」
「そっか」

 陛下はエリサ様を迎えても番探しの旅を止めることはなかった。でもそれも仕方がない。獣人は番が見つからなければ心が空虚なのだ。そしてそれは竜人では特に顕著で、番の有無で人生どころか性格も変わってくる。この国の安定のためにも陛下の番の発見は獣人の切なる願いだった。

「あ~ベルタ。その、色々気を付けろよ」
「兄さん?」
「トールが言ってた。王女さんを狙う輩がいるそうだ。今ルー兄が調べているらしい」
「……わかった。気を付けるよ」

 トール様とルーベルト兄さんが動いているのなら、それはかなり具体的な計画があるのだろう。エリサ様を狙う可能性のある者は少なくない。番至上主義者や反国王派、反マルダーン派。それ以外でもマルダーンとの同盟をよく思わない国もあるだろう。例えばルーズベール王国やフェセン王国などだ。表面上は友好的でも、自国の利益に合わなければ裏で何をするかわからない。性急とも言えるマルダーンとの同盟はそれだけ周辺国にとっては脅威なのだ。

「王女さんは勝手に離宮の外には出ないんだろう?」
「うん、出ても庭くらいかな」
「そうか。ルー兄も警備を強化したと言っていたし、大丈夫だとは思うけど……気を付けろよ」

 そう言って兄さんが私の頭をポンポンと叩いた。ルーベルト兄さんならまだしも、レイフ兄さんに子ども扱いされるのは何となく腑に落ちないんだけど……

「兄さんには言われたくないなぁ」
「何言ってんだよ。昔から一番無鉄砲なのはベルタ、お前なんだぞ」
「そんな筈ない。だったら兄さんの方が……」
「昔、友達を助けようとして、池に飛び込んだのは誰だよ」
「あ、あれは……」

 指摘されたことを思い出して、それ以上言い返せなかった。

「泳げないのに、池の深さも知らないで飛び込んだの、忘れたとは言わせねぇぞ。あん時、俺がどれだけ肝を冷やしたかわかってるのか?」
「う……」

 あの時のことをここで取り上げられるとは思わなかった。確かにそんなこともあったけど、あれはまだ小さい頃の話だ。今はそんな無茶なことなんかしない、はず……

「頼むから後のこと、ちっとは考えてから動けよ。父さんや母さんにあまり心配かけんなよ」
「わ、わかったよ」

 そこまで言われると反発することは出来なかった。兄さんが本当に心配してくれたのが伝わって来たし、両親は私の意志を尊重してくれているけど、本当は騎士になるのは反対だったのだ。




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