番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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【書籍化記念】番外編

リータ様の思い出~ラウラ

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「ラウラの髪は柔らかくて綺麗ね」

 そう言って私のふわふわの髪を優しく編み込んでくれたのは、この国のお妃さまの一人で母さんがお仕えしているリータ様だった。リータ様はエリサ様と同じ赤みのある金の髪と春の若葉のような綺麗な緑色の瞳をしていた。色がとっても白くて、でも頬は羨ましいほどの薔薇色で、私が知っている人の中では一番綺麗だった。母さんも綺麗だって言われるけど、リータ様のそれには敵わない。実は妖精だったんですって言われても驚かないだろうな、と思うくらい。
 そんなリータ様は、最近あまりお元気じゃない。でも理由は分かっている。王様のお妃様たちからの虐めだ。きっとリータ様が美人だから嫉妬しているのよ。それにリータ様はお優しくて言い返さないから、調子に乗っているんだと思う。

「もう、信じられない。一度ガツンと言ってやればいいのに!」
「馬鹿なことを言わないで、ラウラ! そんなことをしたらもっと酷い目に遭わされてしまうわ!」

 いつだったか、あまりにも腹が立ってそう言ったら、母さんに思いっきり叱られてしまった。リータ様はどこかの国の王女様なんだから、お妃様たちよりもずっと上の立場の筈なのに……

「リータ様の国はもうなくなってしまったの。だからリータ様の立場はとても弱いのよ」
「どうして? それでも王女様なんでしょう?」
「それでも、よ。国がないからリータ様には助けてくれる人がいないの。だからお妃様たちの中では一番立場が弱いの。だからそんなことは言わないで」

 そう言って母さんは私を抱きしめると、暫く何かに耐えるように肩を震わせていた。よくわからないけれど、私が言った事はリータ様にとってよくないんだと分かったから、それ以降は何も言わないようにした。言うのは母さんの前だけだ。

 そんな中でも、リータ様はいつも優しくしてくれた。エリサ様と姉妹のように扱ってくれて、おやつだっていつも一緒なものを食べさせてくれたし、今日だってこうして私の髪をエリサ様とお揃いにしてくれた。私の髪はふわふわで直ぐに絡まっちゃうし、エリサ様は綺麗な真っすぐの髪だから、同じように編んでくれても出来上がりは全然同じには見えないけれど……それでも、リータ様の優しい手つきは気持ちよくて大好きだった。



「エリサ、お誕生日おめでとう」

 今日はエリサ様の七歳のお誕生日だ。エリサ様はこの国の王女様だけど、お父様の王様は殆どエリサ様に会いに来なかった。それでも、お誕生日には王様からのプレゼントがあった。プレゼントは本や髪飾り、色とりどりのお菓子で、この時だけはエリサ様にお父様がいるんだな、って思った。
 後で知ったけど、これらは全部リータ様が用意して、王様からだと言って渡していたものだったんだけど。エリサ様もそれを感じ取っていたのか、王様からだと言われてもあんまり嬉しそうじゃなかった。どっちかというと困っている感じ? 私にはそんな風に見えた。

「さ、これは私からよ」
「お母様、ありがとう!」

 そう言ってエリサ様は満面の笑みを浮かべてリータ様からのプレゼントを受け取った。その笑顔は王様のそれとは全然違っていた。

「わぁ!」

 中に入っていたのは、花を模した髪飾りだった。エリサ様やリータ様の瞳と同じ色の石が付いていて、とっても可愛らしいけど、私たちにはちょっと大人っぽいように見えた。大人が使っているものと同じだったからだ。

「もう七歳だものね。少しは淑女らしいプレゼントもいいでしょう?」
「本当! 嬉しい!」

 これまでもプレゼントはワンピースや靴など普段使いの物が殆どで、アクセサリーは初めてだったからエリサ様は大喜びだった。

「それから、これはラウラにね」
「え?」

 リータ様が私にと取り出したそれは、エリサ様が手にしているのと同じ大きさで、リボンの色だけが違った。

「わ、私に、ですか?」
「ええ。エリサとお揃いなのよ」
「でも、私はもう……」

 私は既にリータ様から可愛らしいエプロンとハンカチを頂いていたから、その上でまた何かを頂くなんて考えてもいなかった。ちなみに私の誕生日はエリサ様より少しだけ早い。本当なら私の方が後に生まれる筈だったけど、母さんが転んでしまって早く生まれてしまったんだと聞いていた。

「まぁ、ラウラとお揃い!」

 私が戸惑いながらも包みを開けると、そこにはエリサ様のとは色違いの水色の石が付いた髪飾りが入っていた。それを見たエリサ様が一層嬉しそうな笑みを浮かべた。

「リ、リータ様、このような品を受け取るわけには……」

 どう見ても高そうなそれに、横で母さんがビックリした表情でそう言った。私にだってわかる。それにエリサ様と同じものを頂くなんて、とんでもないことだってことは。

「いいのよ、ティナ。ラウラにはいつも助けられているわ。こんなことしか出来なくてごめんなさいね」
「そんな! 勿体ないことです」
「ううん、ラウラだって私にとっては娘のようなものよ。むしろ私のせいで苦労をかけてしまっているのに一緒にいてくれるわ。ティナとラウラのお陰で、どれほど私たちが助かっているかわからないわ」

 そう言ってリータ様は私とエリサ様の頭を撫でてくれた。リータ様はいつだって母さんや私を大切にしてくれるし、困っている時は手を差し伸べて下さる。だから私も母さんも、リータ様とエリサ様に心からお仕えしているのだ。

 こうして、その時に貰った髪飾りは私の一生の宝物になった。その後もリータ様が亡くなるまでプレゼントを頂いたけれど、それらは母さんが死んだ後でエリサ様の義姉たちに壊されたり取り上げられたりしてしまったから、あの髪飾りはリータ様に頂いた唯一の品になってしまった。
 でも、私は知っている。それまで私宛に届いていた、私の父だという人からのプレゼントが、この年から来なくなったことを。そしてそれを知ったリータ様が、その代わりにとプレゼントをくれるようになったのだと。きっとリータ様は私を気遣って下さったのだろう。

「ふふっ、ラウラとお揃いよ!」

 そう言って同じ髪飾りをつけたエリサ様の笑顔に、私は誓った。一生リータ様とエリサ様にお仕えすると。何があっても側に居て、絶対に離れないと。

 でも、私の誓いも虚しく、それから三度目の秋を迎えた頃、リータ様は帰らぬ人となった。それから私たちは一層苦難の日々を送ることになって、その後母さんもリータ様の元に旅立ってしまった。それは私たちにとっては一層苦しい生活をもたらしたけれど、エリサ様はいつだって前向きで、私たちはいつかここから出て平民になって幸せに楽しく暮らそうと話し合っていた。結局その願いは叶わず、でも別の種類の幸せがやって来るのだけど、それを知るのはまだずっと先の話。




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感想 822

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みんなの感想(822件)

m‥·*"
2023.06.20 m‥·*"
ネタバレ含む
2023.06.22 灰銀猫

コメント&誤字報告ありがとうございます。
暗殺が成功…していたらこのお話もなかったでしょうね。
ジークは一生番探しを続けて、いずれは番探しのために退位しそうです。
ネリリは味は桃、食感はリンゴのイメージです。
体調は戻りました。お気遣いありがとうございます。

解除
m‥·*"
2023.06.17 m‥·*"
ネタバレ含む
2023.06.18 灰銀猫

コメントありがとうございます。
獣人も種族で考えも違うので、暴走したら大変だろうなと思います。
ベルタも兄たちも強いので、大抵のことは大丈夫なはずです。

解除
m‥·*"
2023.06.13 m‥·*"
ネタバレ含む
2023.06.14 灰銀猫

コメントありがとうございます。
はい、あの話の前の段階、まだ互いに遠慮し合っている頃のお話です。
一方でエリサたちがラルセンではどう思われていたかもですね。

解除

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