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【書籍化記念】番外編
親友へと続く未来~ベルタ
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「くそっ! どうしてこんなことに!」
翌朝、王宮の地下牢では三人の獣人が悪態を付いていた。エッダとその仲間の騎士二人だ。いや、今は騎士の身分もはく奪されて元騎士と言うべきだろう。陛下の意に反するものを騎士にしておくなど言語道断だ。その動機が陛下のためだとしても、だ。
「ベルタ! ここから出しなさいよ!」
私がルーベルト兄さんとその部下と一緒に地下牢に向かうと、私の姿を見つけたエッダが叫んだ。昨夜捕縛されたままらしく、髪も顔も泥だらけだ。辛うじて囚人用の服に着替えているが、普段の洒落た彼女らしさはそこになかった。
「出せと言われてもな。王妃様を襲おうとした者を野に放つなど無理に決まっているだろう」
「何ですって! わ、私たちは陛下の御ために……!」
「そうだ! 私たちは陛下の御ためにマルダーンの王女を弑しようとしたのだ!」
「そうしなければ陛下の番様だって……!」
彼らはただ一心に陛下の御ためだと叫んでいた。その様子から本心から陛下を思っていたのだろう。だが……
「そうは言うが、マルダーンの王女を妃に迎えたのは陛下の御意志。番様のことも考慮された上でのご決断だ。それに逆らったお前たちは陛下の御意志を無視したも同然だろう」
「な!」
「そんなこと……!」
ルーベルト兄さんにそう指摘されて、彼らは言葉を失った。確かにエリサ様を妻に迎える決断をされたのは陛下で、彼らがしたのはその決断を無にするに等しいのだ。
「陛下の御ためというのであれば、陛下がお決めになったことに従うべきだったな」
「そんな……!」
「そうは言うが、お前たちのしたことを陛下がお聞きなったとして、陛下はお喜びになるとでも?」
「当然だわ! でなきゃ番様が悲しまれるのだもの」
「隊長もベルタも、狼人ならわかるでしょ? 番がどれほど大切なのか!」
豹人は狼人と同じくらいに番への執着が強い。竜人ほどではないが。そんな彼女の気持ちもわからなくはない。番が悲しむだろうと思うと、私だって偽りの伴侶など絶対に向かえないだろうから。
「エッダの気持ちはわかる」
「だったら!」
「それでも、その思いを抑え込んで陛下はエリサ様をお迎えになったんだ」
「それは……」
「陛下だってお悩みになっただろう。それでも私たち国民のために苦渋の決断をなさったのだ。お前はそんな陛下の思いを無にする気か?」
「あ……」
さっきまでの勢いはすっかり霧散し、エッダもその仲間たちも呆然とした表情で力なくその場に座り込んでしまった。陛下の思いをやっと理解したのだろう。既に遅すぎたが。
その後、彼らの処分をトール様がお決めになった。王妃を害しようとする企みは国家反逆罪で厳罰だ。彼らは程なくして処刑されることになった。顔見知りがその様な最期を迎えると聞けば心が騒めいたが、国のために許すことは出来ない。世襲ではない王でも、いや、だからこそ王の威信を損なうことは出来ないのだから。
彼らは反逆者として遺骨も家に帰ることは許されなかった。せめてもの手向けとして、私は残された彼女らの遺品の一部を遺族の元に送った。彼らもまた、反逆者の家族としてこれから苦難の人生を送ることになるだろう。何とも表現しようのない後味の悪さが残った。
そんな騒動が起きている間に、ラウラの熱が下がった。ケヴィン様の薬と、エリサ様の看病が功を奏したのだろう。ラウラはすっかり元気になって、 熱が下がった三日目にはいつも通りに戻ってエリサ様の側で細々と世話を焼いていた。
「ベルタ様もユリア様も、お見舞いをありがとうございました」
深々と頭を下げてお礼を言われてしまったが、大したことはしていない。お礼を言うならエリサ様とケヴィン様にだろう。
「それでですね、お見舞いのお礼に、こんなものを作ってみたんです」
そう言ってエリサ様とラウラが出してきたのは、何種類かの焼き菓子だった。クッキーやマドレーヌ、それにジャムもいる。聞けばこれらは全てネネリの実を使って作ったものだと言った。
「熱が下がってからは暇で暇で、ずっとエリサ様とネネリを使ったお菓子を考えていたんです」
「エリサ様と?」
「はい。エリサ様はお菓子作りが大好きなんです。あ、これはネネリを使ったお茶です」
そう言ってラウラが出してくれたのは、確かにネネリの香りがするお茶だった。嗅ぎ慣れた甘い香りが部屋に広がった。
「意外に、甘くないのね……」
「ほんとだ」
意外にも甘い香りの割にネネリのお茶は甘くなかった。それよりも爽やかな酸味と独特の香ばしさが勝った。
「クッキーにもネネリの香りがするわ」
「こっちのマドレーヌは……これは、乾燥した実?」
「はい、干したネネリの実を細かく刻んで入れてみました」
「こっちのパンケーキにはジュースも入れてみたんです。あ、こっちはネネリのジャムなので、塗って食べてみてください」
次から次へと並べられるお菓子に、驚きしかなかった。しかも我が国ではくどいほどに甘いお菓子が定番だけど、これは自然な甘さで後味が残らなかった。
「この甘さだととても食べやすいわ」
「ああ。いくらでも食べられそうな気がするよ」
「本当ですか! よかったです」
「大成功ですね、エリサ様!」
私たちの反応に、エリサ様とラウラが手を取り合って喜びを露わにした。こんなに庶民的で素朴な王妃など世界中を探してもいないんじゃないだろうか。でも、それがちっとも嫌じゃなかったし、むしろそんなエリサ様が陛下の番だったらよかったのに……との思いが深まった。
こうして私たちの距離は一層縮まり、更にはエリサ様が陛下の、ラウラがレイフ兄さんの番だと判明して、私たちは一生の親友になるのだけど……この時の私たちにはそんな未来があるなんて思いもしていなかった。
翌朝、王宮の地下牢では三人の獣人が悪態を付いていた。エッダとその仲間の騎士二人だ。いや、今は騎士の身分もはく奪されて元騎士と言うべきだろう。陛下の意に反するものを騎士にしておくなど言語道断だ。その動機が陛下のためだとしても、だ。
「ベルタ! ここから出しなさいよ!」
私がルーベルト兄さんとその部下と一緒に地下牢に向かうと、私の姿を見つけたエッダが叫んだ。昨夜捕縛されたままらしく、髪も顔も泥だらけだ。辛うじて囚人用の服に着替えているが、普段の洒落た彼女らしさはそこになかった。
「出せと言われてもな。王妃様を襲おうとした者を野に放つなど無理に決まっているだろう」
「何ですって! わ、私たちは陛下の御ために……!」
「そうだ! 私たちは陛下の御ためにマルダーンの王女を弑しようとしたのだ!」
「そうしなければ陛下の番様だって……!」
彼らはただ一心に陛下の御ためだと叫んでいた。その様子から本心から陛下を思っていたのだろう。だが……
「そうは言うが、マルダーンの王女を妃に迎えたのは陛下の御意志。番様のことも考慮された上でのご決断だ。それに逆らったお前たちは陛下の御意志を無視したも同然だろう」
「な!」
「そんなこと……!」
ルーベルト兄さんにそう指摘されて、彼らは言葉を失った。確かにエリサ様を妻に迎える決断をされたのは陛下で、彼らがしたのはその決断を無にするに等しいのだ。
「陛下の御ためというのであれば、陛下がお決めになったことに従うべきだったな」
「そんな……!」
「そうは言うが、お前たちのしたことを陛下がお聞きなったとして、陛下はお喜びになるとでも?」
「当然だわ! でなきゃ番様が悲しまれるのだもの」
「隊長もベルタも、狼人ならわかるでしょ? 番がどれほど大切なのか!」
豹人は狼人と同じくらいに番への執着が強い。竜人ほどではないが。そんな彼女の気持ちもわからなくはない。番が悲しむだろうと思うと、私だって偽りの伴侶など絶対に向かえないだろうから。
「エッダの気持ちはわかる」
「だったら!」
「それでも、その思いを抑え込んで陛下はエリサ様をお迎えになったんだ」
「それは……」
「陛下だってお悩みになっただろう。それでも私たち国民のために苦渋の決断をなさったのだ。お前はそんな陛下の思いを無にする気か?」
「あ……」
さっきまでの勢いはすっかり霧散し、エッダもその仲間たちも呆然とした表情で力なくその場に座り込んでしまった。陛下の思いをやっと理解したのだろう。既に遅すぎたが。
その後、彼らの処分をトール様がお決めになった。王妃を害しようとする企みは国家反逆罪で厳罰だ。彼らは程なくして処刑されることになった。顔見知りがその様な最期を迎えると聞けば心が騒めいたが、国のために許すことは出来ない。世襲ではない王でも、いや、だからこそ王の威信を損なうことは出来ないのだから。
彼らは反逆者として遺骨も家に帰ることは許されなかった。せめてもの手向けとして、私は残された彼女らの遺品の一部を遺族の元に送った。彼らもまた、反逆者の家族としてこれから苦難の人生を送ることになるだろう。何とも表現しようのない後味の悪さが残った。
そんな騒動が起きている間に、ラウラの熱が下がった。ケヴィン様の薬と、エリサ様の看病が功を奏したのだろう。ラウラはすっかり元気になって、 熱が下がった三日目にはいつも通りに戻ってエリサ様の側で細々と世話を焼いていた。
「ベルタ様もユリア様も、お見舞いをありがとうございました」
深々と頭を下げてお礼を言われてしまったが、大したことはしていない。お礼を言うならエリサ様とケヴィン様にだろう。
「それでですね、お見舞いのお礼に、こんなものを作ってみたんです」
そう言ってエリサ様とラウラが出してきたのは、何種類かの焼き菓子だった。クッキーやマドレーヌ、それにジャムもいる。聞けばこれらは全てネネリの実を使って作ったものだと言った。
「熱が下がってからは暇で暇で、ずっとエリサ様とネネリを使ったお菓子を考えていたんです」
「エリサ様と?」
「はい。エリサ様はお菓子作りが大好きなんです。あ、これはネネリを使ったお茶です」
そう言ってラウラが出してくれたのは、確かにネネリの香りがするお茶だった。嗅ぎ慣れた甘い香りが部屋に広がった。
「意外に、甘くないのね……」
「ほんとだ」
意外にも甘い香りの割にネネリのお茶は甘くなかった。それよりも爽やかな酸味と独特の香ばしさが勝った。
「クッキーにもネネリの香りがするわ」
「こっちのマドレーヌは……これは、乾燥した実?」
「はい、干したネネリの実を細かく刻んで入れてみました」
「こっちのパンケーキにはジュースも入れてみたんです。あ、こっちはネネリのジャムなので、塗って食べてみてください」
次から次へと並べられるお菓子に、驚きしかなかった。しかも我が国ではくどいほどに甘いお菓子が定番だけど、これは自然な甘さで後味が残らなかった。
「この甘さだととても食べやすいわ」
「ああ。いくらでも食べられそうな気がするよ」
「本当ですか! よかったです」
「大成功ですね、エリサ様!」
私たちの反応に、エリサ様とラウラが手を取り合って喜びを露わにした。こんなに庶民的で素朴な王妃など世界中を探してもいないんじゃないだろうか。でも、それがちっとも嫌じゃなかったし、むしろそんなエリサ様が陛下の番だったらよかったのに……との思いが深まった。
こうして私たちの距離は一層縮まり、更にはエリサ様が陛下の、ラウラがレイフ兄さんの番だと判明して、私たちは一生の親友になるのだけど……この時の私たちにはそんな未来があるなんて思いもしていなかった。
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