『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫

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愛しい番は今日もつれない

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PCの整理をしていたら以前書いた物が出てきたので公開します。
番物で、『番が見つかったら即離婚!~』よりも前に書いた物ですが、世界観などは別物です。
ハッピーエンドではないので、それが許容出来る方のみお進みください。




- - - - - - - - -



「おはようございます、ルジェク様!私の番になってください!」

 今日も朝から第三騎士団の官舎に、獣人の少女の声が響き渡った。
 夜勤と早番の交代の時間まであと一刻。出勤するには少し早い時間帯のため、騎士達の姿はまばらだ。
 そんな中、小柄だが騎士服をまとった蜂蜜色の髪をした少女が、オレンジ色の瞳をキラキラと輝かせながら、黒髪の背が高い男の元に駆け寄り、満面の笑みを浮かべながら話しかけた。

「おはよう。だが番の件は断る」

 尻尾があったなら、それこそブンブンと音がしそうなくらいの勢いで喜色を前面に出す少女に対して、答える男は淡々と事務的に言葉を返すだけだった。

「はいっ!分かりました。でも、私も諦めませんから!今日も一日よろしくお願いします」
「ああ…」

 背を向けて歩き始めた男の後姿を熱のこもった瞳で見送る少女と、僅かも気にかける気はないと言わんばかりの男の朝の邂逅は、今日も平常運転だった。



「おはよう、ラディ。毎日頑張るわね」
「あ、おはよう、サシャ。今日もいい天気ね」

 声をかけたのは、背が高く綺麗な金髪を短く切った同じ年ごろの少女だった。ラディと呼びかけられた少女は、それでも男の姿が消えるまで視線を移す事なく答えた。これもいつもの事なので、サシャと呼ばれた少女は気にした風はない。むしろやれやれと言った感じで、毎朝繰り広げられる光景を眺めていた。

「相変わらず副団長は素っ気ないわね」
「うん。でも、そんなところも素敵…」

 落ち込むだろう事を言われても、ラディはうっとりした表情でそう答えた。恋は盲目の言葉そのままだが、二人ともそれを気にした風はなかった。

「ま、ラディは獣人だし、番相手だから仕方ないか」
「うん。そう。何度断られても諦めないわ。だって、副団長こそが私の番だもの」

 そう、ラディは獣人だった。獣人とはこの世界に存在する二つの種族の一つで、もう一つの種族は人だ。
 獣人は外見は人とあまり変わりがないが、人とは違う部分が多くあった。見た目が整った者が多い事、身体能力に優れている事、五感の鋭い事などがあげられるが、最も大きいのは番という存在だろう。

 番は獣人にとって、魂の片割れであり伴侶であり、何よりも優先すべき尊い存在だ。獣人は番を見つける事を人生最大の目的としているようにも見えるほどに番に執着しているし、人も獣人の本能に憧れを持つ者も少なくなかった。
 なんせ獣人は番に出会うと、自分の命よりも大切にするのだ。番が自分のために命を差し出せと言ったら、ためらいなくそうするほどに。

 そんな一途で重すぎる愛も、思い通りに結婚相手が見つからない人からすると理想そのものなのだ。もっとも、見た目や好みもあるから、そう簡単に理想の相手が番になるわけではないのだが…

「ま、副団長はあんなんだけど、誠実で公平なお人柄だからね。頑張って、ラヴィ」
「うん、ありがとう、サシャ。さ、ご飯に行こう!」

 ルジェクが消えた方を一度だけ振り返ったラヴィは、今度は朝食をとるために友人を誘って食堂へ向かった。



 ラヴィがルジェクに出会ったのは、二年近く前の事だった。
 ラヴィの父親が、以前お世話になった友人からの頼まれ物を届けに行く際、ちょうど暇をしていたラヴィに一緒にいかないかと声をかけたのがきっかけだった。その時ラヴィは15歳で、子供が必ず通う学園の卒業を控えていたが、ラヴィはまだ進路を決めかねていた。騎士にはあまり興味がなかったラヴィだったが、父は実際に見てみるのもいいだろうと思って連れて行ったのだ。

そして、そこで運命の出会いを果たした。

 ルジェクに出会ってからのラヴィの動きは早かった。直ぐに卒業後の進路を騎士に決めて、父からも騎士になるための手ほどきを受けた。実は父は昔騎士団に所属していて、怪我が元で引退するまではそれなりに偉い立場にいたのだという。獣人は身体能力が高いから、騎士になる者も多かったし、この国は他国に比べて獣人への偏見が少ないのもあり、騎士団の半分は獣人だった。
 華奢で整った顔立ちのラヴィは、騎士になるなんてもったいないと散々周りに言われたが、番がいる世界を自分も知りたいと言い、諦めなかった。父の手ほどきで剣術や馬術、騎士が必要とされる教養などを、寝食を惜しまずに猛勉強した。これも番への盲目的な愛ゆえだろう。周りも獣人の番への執着心故と諦めて何も言わなかったし、むしろ応援した。 

 一年後、ラヴィはかなりいい成績で騎士の入団試験をパスし、無事入団したのだ。

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